観戦席で見ていた2人だ。頬が赤い男とキラキラした雰囲気を醸し出す金髪の男。あそこの柱で解散したタイミングを伺っていたか。
「こちらとしてはすぐに帰りたいのだが」
「大丈夫だよ。すぐに終わるし」
金髪がそう言うのだが、本当にそうだろうか。何も知らない状態でこの誘いに乗るのは危険だ。企んでいてもおかしくはない。だから断るというわけにもいかない。奴らの要望に応えるしかなさそうだ。
「心配するな。危害を与えるつもりはねえよ」
トゲトゲ頭の男がぐいっと酒を飲んだ。近づかないで欲しい。酒臭い。
「お嬢さん。すまないけど、トレーニングルームは空いてるかな?」
金髪の男が勝手に行動し始める。トレーニングルームで何をするつもりだ。
「はい。空いています。こちらへどうぞ」
受付の女があっさり受諾。拒否して欲しかった。だが嘘を付くわけにもいかないのは分かっている。攻めてはいけない。
「付いてきて。45番」
仕方がないと思い、金髪の男に付いて行く。警戒を怠らないようにしよう。
「感知系の魔法、使わなくてもいいよ」
バレていた。金髪の男、相当魔力感知に優れている。
「流石は弓兵最強の男だな」
酒臭い男が言うには金髪の男は弓を扱うのか。手にタコがあるようには見えないが、シャレで隠している。
「君に褒められるとは光栄だ」
「個人のとこに来いよ。いい勝負出来るぜ」
金髪の男は団体部門に出場していることが分かった。とはいえ、酒臭い男から個人部門の誘いがある辺り、何でも出来そうな感じがある。
「移動はしないかな。今のチーム居心地がいいし、そもそも弓兵が接近戦メインのとこに行くのは変じゃない?」
「へーきだろ。神話時代からあるっていう格闘技を習得してるから十分通用するぜ」
「それが1番の問題だと思うけどね!? あれはね。破壊技のデパートなんだよ!? あと本来なら対人戦じゃなくて魔獣に特化したものだし!」
遥か昔からある格闘技、破壊に特化したもの。聞き覚えがある。名前までは知らないが存在は知っている。だから金髪の男が大声で言うのも分からなくもないと思ってしまう。魔法総合格闘技は禁止されている部分がある。破壊力のありすぎる魔法の類はそれに該当する。そして格闘技の一部もだ。
「正直君の場合、可愛いファンには見せられないが1番の理由じゃない? じゃない?」
何かが近づいてくる気配がすると思っていたら、俺の左横にやって来た。ゴーグルをかけている三白眼で猫耳としっぽを有する小柄な男。黒い衣装で忍び込みやすい感じの格好だ。
「否定はしないかな」
そして金髪の男は猫男の言うことに否定しなかった。
「だって僕は可愛い女の子にモテたい。そのための努力は出来る限りする主義さ。ところでケットシー、チーム練習は今日じゃなかったはずだけど?」
猫男はケットシーと言うらしい。魔法総合格闘技は本名を使わないケースが多いため、不自然だとは思わない。ただ見たまんまではという突っ込みはあるが。ケットシーは金髪の男と同じところに所属しているようだ。
「ちょっと体を動かそうと思ってね。ねえ。君。君は一体誰? 初めて見るね」
ケットシーが上目遣いで見てくる。こういうものをあざといと言うのだろうか。この辺りはどうでもいい。どう返答していくべきかを考える必要がある。ここは魔法総合格闘技の競技場だ。本名ではないものを名乗る。それにデビューするまでに考えろと案内の男が言っていた。いずれこういう機会があった。それが早くなってしまっただけだ。かつて呼ばれていた名を使おう。この時代だとこう発言するのが良いだろう。
「グリムリーパー」
空気が凍ったように感じる。死神という意味を持つ言葉を出してみたが、この様子だと選択を間違ったのかもしれない。
「すげえな。やべえ名前を使う奴、初めて見たぜ。気に入った! 知ってるだろうが、名乗らせてもらうぜ。俺はスピリタス。プラチナ級の選手だ」
酒臭い男が豪快に笑いながら、名を教えてくれた。スピリタスと言うらしい。
「彼も名乗ったことだし、僕もやっておこうかな。ウルだよ。よろしく。グリムリーパー」
「こちらこそよろしく頼む」
特に悪意の類を感じない。警戒していた自分が馬鹿だ。ここでウルの足が止まった。他の奴らも同様だ。
「ここがトレーニングルームだよ。ちょっとした肩慣らしをするために使ってる人が多いかな。ちょっと。スピリタス。勝手に弄るのもどうかと思うよ!?」
スピリタスが壁にある装置を弄り始めた。感じ方が変わる。魔力のコントロールが効かない。いや違う。遮断が正確か。
「スピリタス、君、何を企んでるわけ?」
ウルの疑問に賛同するみたいに、ケットシーがぶんぶんと頭を上下に動かしている。この様子だと、どちらもスピリタスの言動を予想しきれていないみたいだ。
「分からねえか? 腕試しだよ。腕試し」
スピリタスのその答えで、ウルは装置の方に向かう。無言で操作している。ケットシーはしっぽをくねくねと動いて眺めているだけだ。
「寄り道ぐらい良いじゃねえか」
スピリタスはやや不満気である。ウルがすぐ言い返す。
「良くないから」
真ん中に黒い球体が現れた。腕試しが寄り道だとすると、本命はあの球体であることが分かる。知らない間にいつも通り魔法が使えるようになっている。
「魔法をぶつけてみてよ」
当てるための練習台のようなもののようだ。ウルがそう言うのなら、魔法を使おう。問題はどれを使うか。ルールブックとやらに載っていた基準から察するに、自分の使っていた魔法の大部分は使用禁止に分類される。数少ない使えるものを選択する。
「デバイス無しで行くのかい?」
ウルが言うデバイスは補助してくれる道具のことか。
「必要ない」
この魔法は外すことがなく、固い物体を傷付ける程度の雷だ。周囲まで影響を及ぼす事はない……と思いたい。目覚めてからは攻撃をする類の魔法はほとんど使っていなかった。保障すらないのが辛い。
指先に魔力を集中させる。どんどん指先が暖かくなっている。このような感覚は久しぶりだ。そろそろ撃っても良いだろう。黒い雷の一閃。それが球体を貫通どころではなかった。跡形もなく壊してしまった。トレーニングルームに貼られていた結界がボロボロになり、廊下まで攻撃が届いてしまっている。威力をどれだけ加減出来るのかが今後の課題であると、本番前に分かって良かったと思っている。
「まじか。ウル、オフィウクスがぶっ壊してから、色々と強化したって話じゃなかったか?」
「うん。実際2年は何もなかったらしいから間違いないよ。文字魔法であれだけの火力だし、ひょっとしたらと思ったら……記録更新しちゃったか」
スピリタスとウルの会話から、以前はオフィウクスが壊したということが分かる。過去にあったケースを踏まえて誘ったということか。
「とりあえずスタッフ呼ぶね?」
ケットシーが姿を消した。スタッフを連れてきた後から大変だった。書類と検査とその他諸々をやらされた。1時間経過し、どうにか終わった。正直魔獣と戦うよりも疲れた。
「お疲れさん。こりゃお前も最初からプラチナ級だな」
帰る前に言われたスピリタスの言葉通り、後日の書類にプラチナ級と記載されていた。てっきりアーリーは盛大に茶を吹き出すと思っていたが、いつもと変わらない表情だった。何故と聞いてみたら、
「オフィウクスもプラチナ級からスタートだったわけだしな」
と答えていた。映像でしか見たことのない女王オフィウクスのことが気になって来た。