黒雷の戦士ショールが歩く道   作:いちのさつき

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第9話 戦うための準備期間

 プラチナ級のデビュー戦まで2週間。戦うための準備期間だ。選手として参加するなら、ルールを頭に叩き込んだり、試合前に送るべき書類を送ったりする必要がある。ルールを確認しながら、書類を記入していく。

 

 俺が参加する個人部門は文字通り1対1の試合だ。各級によって制限が異なる。最下級のブロンド級は魔法禁止、更に武器の持ち込みも禁止だ。シルバー級になると武器の持ち込みは許されるが、魔法は使えない。ゴールド級でようやく魔法使用の許可が出て来る。そしてプラチナ級になると何でもありになる。何故だろうと疑問に思っていたが、ルール制限で使える戦法が異なるためだとサイトに書かれていた。本当かどうかは知らないが。

 

「デバイスいらないってマジ?」

「ああ。必要ない」

 

 プラチナ級は魔武器と呼ばれる魔法の力を有する武器などの持ち込みが許可される。デビュー戦までに送る書類に書き込めば、シーズンが終わるまで使える。個人的には要らない。補助がなくとも、どうとでもなるからだ。遊びに来ているマイケルが驚いている辺り、基本補助道具を使っている選手が大多数なのだろう。

 

「いやいや。念のため書いとけよ。もしもの時があるかもしれねえし」

 

 アーリーがそう言ってはいるが、あの頃はデバイスという補助道具がなかった。どういったものがあるのかなんて知らない。

 

「ま。汎用性のあるデバイスで当分問題ねえはずだ。色々種類あるけど、どれにするんだ。使用用途によって変わるしよ」

 

 アーリーは通販サイトとやらを見せてくれた。使用短縮、コントロール重視、複数詠唱、負担軽減など。この中で選ぶとすると、これしかなかった。

 

「火力を抑える。お前……何かしたか」

 

 アーリーの考えは正しい。事実を言うしかない。

 

「察しが良いな。確かに俺は手続きをした後、トレーニングルームの壁を破壊してしまった。念のため言うが、意図的ではない。魔法の加減が出来なかっただけだ」

 

「マジか」

 

「大マジだ」

 

 アーリーは信じられないという顔をしているが、本当にやってしまったことだ。賠償金とやらが出て来ないだけマシだ。

 

「破壊とは……やるねえ。ショール」

 

「サムズアップしてる場合じゃねえからな!? マイケル!」

 

 アーリーの言う通り、サムズアップをして良い場合ではない。加減をしないと、魔法が使えないようなものだ。

 

「あのオフィウクスだって苦労したとこだぜ? で。どうすんだよ」

 

 女王オフィウクスも加減の部分で苦労していたらしい。ますます気になってくる。運が良く、対戦することになっている。早めに試合をやりたいが、スケジュールを見ている限り、最終日に近かった。楽しみがお預けというのは地味に辛い。

 

今はそれどころではない。どう課題をクリアするのかが大事だろう。ルールの確認をした時は戦闘時に使っていた魔法を控えればいいと考えていた。それが甘かった。実際トレーニングルームでそこまで火力のないはずだと思っていたもので壊してしまった。あの黒い球体はプロテクトオーブと呼ばれる付与魔法が施されているらしく、それを一度で破壊してしまった。ルールブックではプロテクトオーブを1撃で破壊し、そのまま致命傷を与えてしまう魔法は禁止されている。かつて頻繁に使っていた攻撃系の魔法の大部分はアウトだ。そうなると。

 

「コントロールの練習をするつもりだ。他にも得点となる場外へ飛ばしたり、拘束したりする魔法を使おうと思う」

 

 個人戦は5点を取ったら勝ちだ。プロテクトオーブの破壊は3点。場外へ飛ばすか、30秒拘束するか、どちらかをやると1点。仮に魔力のコントロールが上手く効かなかった場合、面倒になるが5回点数を取ればいいだけのことだ。

 

「意外に冷静だな。やっぱあれか。経験積んでるからか」

 

 アーリーの言う通り、確かに戦いの経験を積んでいる。だがあの頃の戦いは力と力のぶつけ合いで、緻密なものはそこまで求められていなかった。殺し合いだからだろう。本気でやらないとこちら側が死ぬ故、加減なんて出来なかった。

 

「否定しない部分はあるが、加減というものはやってこなかったところだ。どれだけできるかという保証が一切ない。だがこれが魔法総合格闘技というものだ。全力で対応してみせる」

 

 競い合うというルールに戦士である自分は相当不利だ。それでもいい。平和になった時代に殺し合えという枷はいらない。仲間であり、対戦相手でもある奴らと共にやり合おう。

 

 そう思ってから2日後。魔界で加減の練習を始めた。流石に競技場のトレーニングルームでやると、再び壊す羽目になるため、運営側からの手配で誰も住んでいない荒野に。助言をくれる者がいればと言ったら、魔法大学とやらの研究者が付いてきた。額に宝石がある耳先が尖っている優男という印象で、何故か興奮気味だった。

 

てっきり見るだけなのかと思ったら、変なものを全身に付ける必要があった。邪魔だと感じてしまう。だが具体的な数値で教えてくれる故、どこまでやればいいのかという調整がしやすくなった。1人だけならこうはいかなかったかもしれない。

 

「最初の時より、良い感じに出来てますよ。目標まではまだ遠いですが」

 

 グラフとやらを見せてくれた。線が徐々に下がってはいるものの、目標まで遠いことが分かる。ただ初日で加減が少しずつ出来ている。期限に間に合うだろう。

 

「試合までに間に合うだろう。お前がいるからやりやすい。助かる」

 

 研究者が照れている節を見せる。頬が赤くなっている。

 

「いえいえ。僕の方からお礼を言いたいぐらいでして。貴重な機会ですからね。膨大な魔力量を持つ人のデータを集めるなんてそうそうありませんし。ところでそろそろ休憩しませんか? 結構やってましたよね」

 

 1時間以上やっていたことを思い出す。そろそろ休まないと魔力が無くなりそうだ。研究者の提案を受け入れよう。

 

「そうだな。少し休むとしよう」

 

 ペタペタ張り付いていたものを外され、解放された感じになる。研究者は手早く道具をまとめ、鞄から紙袋を取り出した。金属の筒と青色の布のシートも取り出している。

 

「小腹空くかもしれないと思って、甘い物を持ってきたんですが……食べますか?」

 

 魔界にある甘い物。興味があるに決まっている。

 

「食べる」

 

 研究者は紙袋から何かを出した。鮮やかなピンク色のドーナツのようなもの。それには黄色や青色などド派手な粒のトッピングがあった。それを受け取って、口に入れる。ピンク色のドロドロとした液体でドーナツをコーティングしていたみたいだ。とても甘い。それだけなら1口で十分になってしまうが、生地や粒で中和しているおかげで食べられる。

 

「魔界で話題になってるデビルドーナツです。何ヶ所もお店があって助かりましたよ」

 

 話題になるのも分かる気がした。見た目と味が良い。研究者の話から察するに、人気がありすぎて、売り切れてしまうのだろう。

 

「客は女性ばかりだったので、ちょっと恥ずかしかったですが」

 

 研究者は恥ずかしそうに言った。そこまで恥ずかしがる必要はないと思うのだが。浮いてしまうとかそういう理由から来ているのだろうか。

 

「美味しいものは美味しいのでついつい買ってしまうんですよね」

 

 その辺りは同意する。

 

「機会があれば、外界にあるお菓子も食べたいなと思ってるんですが、何か知ってたりしませんか」

 

 外界というのは普段俺達が住んでいるところの名称だ。正確に言うと、魔界の住人の言い方だが。返答はどうするか。色々と気になってはいるが、勉学や家事で行けていない。

 

「いくつかは気になっているものはあるが……あいにく時間がなくて行けてないのが現状だ」

 

「そうなんですね。最近の流行りは確か」

 

 しばらくは流行りの菓子について語り合った。楽しいものだった。居候先の主であるアーリーはその手に詳しいわけではなく、会話に菓子が出て来ることがなかったからだ。本当はずっと話したいところだが、本来の目的は魔法総合格闘技の練習だ。そろそろ立ち上がって、練習に戻ろう。

 

「再開するんですね。分かりました。ちょっとお待ちください」

 

 研究者はさっさと片付けをして、練習で使う機器を準備する。その間、自分に出来ることは何もない。だだっ広い荒野を眺める程度だ。

 

こうしていると、昔のことを思い出す。魔界でも戦が行われていた。ほんの少しの滞在だった。戦士として、敵と見なす者を倒しまくっていた。未来に光があることを信じて。話によれば、勝敗はあやふやになったらしいが、それで構わないと思っている。結局は領土争いのようなものだ。互いの存亡をかけた戦いで、どちらが正しいか……なんてものを判断するのはよくないと今はそう考えている。

 

「準備出来ましたよ!」

 

 研究者の声が聞こえる。つい昔のことを考えてしまった。

 

「ああ。よろしく頼む」

切り替えていこう。初めての対戦日までに間に合うようにしておきたい。

 

「貼り付け終わりましたよ! どうぞ!」

 

「分かった」

 

何度も魔法を撃って、研究者の道具が出した結果を基づいて、調整をして繰り返した。毎日練習というわけにはいかなかったが、時間があれば出来るだけやれるようにした。本番前の3日前だったか。

 

「これでどうだ」

 

 その日の練習時間の終わり間際にやっと、感覚を掴めた気がした。研究者は笑顔で親指を立てていた。

 

「ええ! ばっちしですよ! あとはどれだけ安定して出来るかが鍵ですね!」

 

 そして加減をした魔法をどれだけ維持して出せるのかをひたすらやった。実戦でも問題がないレベルまで出来たと思っている。ここまでやれるようになったのは研究者のお陰だ。だから最後に礼を言った。

 

「この恩は試合で示す」

 

 試合を全て勝つ。それが俺にとっての恩返しだ。

 

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