寄生獣~S~   作:証明

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第1章
第1話


望んだことはないだろうか?

人生をやり直したいと。

願ったことはないだろうか?

別人になって、美男 美女になって生きたいと

 

自分に絶望したことはないか?

朝、目覚めずに死んでしまえたらどんなに楽だろうと泣いたことは?

 

 

人生は辛すぎる。

 

 

私は、生きるのに疲れ果てていた。 齢40歳だった。

朝起きて、会社に行き上司に怒られ  家に帰り、会社の愚痴を言えば、あんたが悪いと理不尽に両親にせめられる。

そんな毎日を、思えば社会に出てからずっとしていたのかもしれない。

 

言っておくが私は別に、取り立てて他者と比べて自分が不幸だとはおもっていない。

自分よりも、酷い人生を歩む人がいるのも理解している。

異性も知らず、結婚もせずに生きてきたが嘆いてはいない。

そーゆー人生なのだと大分昔に諦めてしまったからだ。

そりゃあ、どうして自分ばっかりこんな人生なのだと泣いたこともある。

しかし、自分より辛い人がいることも理解しているつもりだ。

分かってる。 

理解してる。

みんな、それぞれ辛いんだ……。

だから、自分も何を言われても我慢して、前向きに……そうだ

…あぁ、そうだ……

 

……

 

ああ、疲れた

もう、お腹いっぱいだ。 私にはもう人生を歩く力は無い。  自分より長く生きて、苦しみ、それでも生きている

人はいるのだろうが、私にはここら辺が容量の限界だ

 

「もし、次なる生があるなら感情なんていらない」

 

感情なんてものがあるから、望むのだ 願うのだ 苦しむのだ 

 

202X年、私は私に絶望しこの世を去った。

一人の、世界の中で、とるに足らないつまらない男の生をこの手で終わらせた。

 

 

________

 

 

 

「ここは?」

夏の暑い日だった。 隣には、エアコンが無い部屋で扇風機がうるさく回っていた

私は、じっとりと汗ばむ身体をゆっくりと動かし、日常的な動作で自分の頭付近に有るであろうスマートフォンを探った。

 

「おかしいな」

自身にとって命よりも大事だろうであったものが一向に手に当たらないことに違和感を覚える

 

「おかしいな?」

私は次に自分の発した声に違和感を覚え、自身の身体を見回した

「痩せたとかいうレベルではないな」

私は、太ってはいないものの中々の筋肉質であったのだが…

手足には、凡そ筋肉というものは見当たらず、全身がハッキリ言って女性のように細くなってしまっていた。

「女性のように…」

私は、ある種確信を持ちながら、身体をおこし目に映った全身を写す鏡の前へと異動した。

「そもそも、私はこんな鏡などもっていなかったのだが…

まぁいい。  …しかしやはりか……」

 

そう、鏡には中年の少しくたびれた男は写っておらず、華奢でハッキリ言ってしまえば痩せすぎな少女が写っていた。

 

「中学生か……?」

ふと、横を見れば綺麗にハンガーにかけられた制服が目に写り、机の上には西○中学と書かれたカバンがあった。

 

「なるほど…」

自分でも、驚くほど落ち着いていた。おかしい、私はもっと感情に起伏があったハズではなかっただろうか。

鏡の中の少女をみれば、表情はほぼ変わらず悠然とこちらを見つめていた。

顔の造りは整っている。少々痩せすぎではあるが…

髪は長く、黒く艶やかな髪が腰まである。 服装はあまりこだわる方ではないようで、無地の白Tシャツに短パンという非常に、ラフな格好だった

それでも、美少女といえる容姿であろう。

 

 

「まぁ、女性らしさは皆無らしいが」

ふと、胸元を覗けばそのような感想を抱かずにはいられなかった。

 

__

 

 

開けっ放しの窓から、陽射しとともに蟬の鳴き声が入ってくる。 何故、携帯がないのか  何故、自分が少女の容姿をしているのだろうか

 

 

「転生、タイムリープ、TS…」

鏡に写ったカレンダーに気付き見れば、198X年8月となっていた。

落ち着いていた。 喜びもせず、男性から女性になったことへの抵抗も驚くほどない。

なるほど、あぁそうかと…

「…なるほど、私は一度死に、この子になったわけか」

そう納得した瞬間、私のなかにこの子のこれまでの人生が流れ込んできた。 

私という存在がこの子になったのか、元々この子が私だったのかはわからないが……

 

「まぁ、そんなことはどうでもいい。

名前は、井上 香織か。

…かおり……私は井上 香織……」

不思議と前世の名前は思い出せなかった

 

 

「香織ー、ごはんよー。 今日から2学期でしょ  早く支度しなさーい」

 

階下から母親の優しい声が聞こえてきた。

 

「はい」

私は、そう返事をし両親が待っているであろう、一階へと降りていった。

 

 

 

「おはよう」

下へ降りれば、父親がテーブルにいて、新聞ごしに自分へと挨拶をしてきた。

 

「おはよう」

なので、自分もそう返事を返し自身の席へと着いた。

 

「今日から学校か?」 

「そうらしいね」

「らしい? 変な返しだな」

「…訂正、今日から学校だね。」

「っ……そうか、まあ頑張りなさい」

「はい」

 

父親である人物の顔が一瞬ひきつった気がしたが、そう返事を返した。

年は、確か来年40だったか、自分が死んだ年齢より年下らしい  皮肉にもそれに関しても、あぁそうか、と思うだけだった。

 

「香織ったら、まだ寝ぼけてるの? はい、朝御飯。

早く食べて支度しなさい。 あと、たまにはお肉も食べなきゃ駄目よ」

そう声をかけてきた母は、30代半ばである

両親ともに容姿の整った人達だ

今世の自分は、ベジタリアンらしく、肉を一切受け付けない身体のようで、あの痩せ細った身体と自身の女性の象徴を思い出し、一人納得してしまった。

 

「駄目、無理なものは無理」

「…そう」

記憶によれば、一度無理して食べてその場で吐いて倒れ、3日ほど寝込んでしまったようだ。 その件もあり、母も娘の痩せた身体を心配するものの無理強いはせず、軽く促す程度にしているようだ。

一見、酷いようにも聞こえるが、それも娘を思ってのことであろう。

 

前世では、考えもしなかった親の優しさに気付きながらも、何故か今世の私は、それに対して感謝する訳でもなく

ただひたすら あぁ、そうかと納得しながら自身に出された野菜スープを飲み終え、登校の準備を始めるのだった。

 

 

 

「それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。 暑いから気をつけるのよ」 

なんとも、いちいち優しい母である。

「父さんが、車で途中まで送って行こうか?」

父親も、中々甘いなぁ…

「大丈夫。ありがとう。父さん母さん

行ってきます」

私は、華奢な腕をふりそう答え、玄関を出た。

 

 

__

 

 

「あ、ああ…」

「い、行ってらっしゃーい」

 

「それじゃあ、俺も会社に行ってくるな」

「えぇ…ねぇあなた」

「なんだ?」

「気づいてるかしら?」

「…あぁ」

「…あの子、以前から表情の乏しい子だったけれど…今日、一度も笑ってないのよ…」

「……。」

 

 

「まるで、鉄で出来てるみたい……!!」

 

 

 

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