「…私からも、質問しても良いですか?」
私は、泉新一の方を見てそう尋ねた。
「な、なんだよ……」
「Aを、あそこまで追い込んだのは、あなた達ですか?」
『そうなるな……』
成る程……と私は頷いてから人差し指を上げて、さらに質問を重ねる。
「ではもう一つ。……あの蛇、アレを食べてから_少し表現が悪いですね。 取りこんでから私は今の私へと変化したのですが……いえ、両親や友人だったものからの視点でいえば、正確にはさらに変化したと言うべきですか。 …アレは何ですか?」
『仲間だろう。 わたしの……』
予想外にも、答えを返したのはミギーの方だった。
「仲間……ですか?」
『そうだろう? 新一?』
泉新一はどこか言いづらそうに返答した
「ああ、そーだよ。 …俺もコイツに頭を乗っ取られる寸前だった。
あの日、井上に言わせりゃ 急にヘビ見たいなのが俺の腕に侵入してきて、咄嗟に腕を縛って防いだんだ」
『失敗した。』
成る程、そういう事かと私は頷いた
「失敗ですか……それではあの田宮良子や、Aといったものが成功例となる訳ですね?」
『そうなるな、故にわたしは不完全である訳だ……しかし井上香織、貴様は何だ? どうして、寄生生物を丸々とりこんで平気でいられる? どうして、人間でいられる!?』
「寄生生物ですか……成る程、そう呼ぶのですね。 でも私の答えは"さあ?"です。」
「な、何だよ"さあ"って!!」
端から見れば実に、不思議な光景だろう。人間二人しかいない現場でのこの会話は、もし他者が目にしたならば、普段ほぼ喋らない私がさぞや口数多く映るに違いない。
そんな事を考えつつ、私はこう述べた
「わからないものは、わからないんですよ泉くん。 それにミギーさん。 現に私は今こうして、自我を保っているし、人間を食べたいとも思わない。それで良いじゃないですか? ……あなたの仲間達がおこしてるんでしょう? ミギーさん。 一連のひき肉(ミンチ)殺人事件は?」
『……驚いたな。 大した推理力じゃないか』
「お互い様ですよ。 先程、私に向かって問いかけた泉くんの言葉から、あなたの仲間達が食人行為に及ぶ事が伺えましたし、それと最近話題の事件を連ねる事はしごく容易い事では? ……それに"失敗した"とも仰いましたね? 恐らく寄生生物と呼べば良いのでしょうか? これはあくまで予想ですが彼らは脳を奪い取り自身が宿主へと成り代わり生活している…そういう事でしょうミギーさん?」
…ああ、今日の私はよく喋る
『素晴らしい…! 新一にもそれぐらいの頭が欲しいものだ。』
「んなっ! ミギーてめえ!」
すると、二人は目の前で漫才のようなやり取りを繰り広げ始めたので。
「仲良いですね。」
と、ストレートに投げかけるのだった。
__
『……もう行こう、新一』
しばらくの静寂の後、彼の右手はそう囁いた。
「いや……でもミギー……」
しかし、本体である泉新一は未だ納得出来ていないようで、挙動不審といった様子で私とミギーを交互に見比べていた。
『良いんだ。もうお互いに聞きたい事は聞けた。 ……それで良いだろう井上香織?』
「ええ、勿論。 "それ"で良いですよ、ミギーさん。」
そう、そんな事はどうだって良いのだ、 最近の疑問も晴れたし、
互いに敵ではないと解った。
私が何であろうと、そんな事はどうでも良い事なのだ。
「~っわかったよ! ……じゃあな、井上……その……疑って悪かったよ」
そう言って、頭を下げた泉新一を見て
「いいえ、問題無いですよ。 泉くん、それにミギーさんも貴重なお話ありがとうございました。」
私も、二人に向かって頭を下げるのだった。
__
『新一、ヤツは敵に回すな。絶対にだ! ああして、会話してみて改めて解った。』
「な、なんだよ急に…井上は人間は襲わないって言ってたじゃねーか?」
『襲わないんじゃない、襲う気が起きないだけだ。』
「何?」
『アレは、我々も含めて他人を人として見ていない……』
「ど、どーゆー事だよ!」
『……』
「おい、ミギー? おい!」
(……化物め…… 我々、寄生生物の方がまだ…………)
井上香織と別れ、教室へとカバンを取りに戻る途中の会話で、ミギーは彼女に対してそんな感想を浮かべるのだった。
__
事件から約1カ月経ったある日の事。
田宮良子の妊娠が学校側にばれ、その上、相手側の存在もわからないらしく問題になっていた。
それを丁度職員室の前を通った時に聞いてしまった私は、関わるのも面倒だと思い、その場を足早に移動していった。
それから、30分位すぎた頃だろうか?
丁度、お昼休みだった私は、窓の外をぼんやりと眺めつつ、前の席にどこからか戻ってきた泉新一が何故か、青ざめてるのを見て心配そうに声をかけている村野里美とのやり取りを横目で観ていた時だった。
「井上さん、ちょっと良いかしら」
件の人物である、田宮良子が教室のドアを開け私に声をかけてきた。
「はい。良いですよ。」
心配そうに見つめる村野里美と泉新一を横目に、私は席を立ち歩きだした。
しかし、彼の右手をふとみれば、目だけが私を覗き込むようにうごいていた。
__
「で、何でしょう? 話とは。」
現在、私達は裏庭に来ていた。 やはり、あの件がバレて職員室にはもう彼女の居場所は無いようであった。
「先程、泉新一とも、ここで話した」
「泉くんとですか?」
「ああ、私はこの学校を去る」
「へえ、またどうしてです?」
「フッ、白々しいな。 まあ、良い……ところで、私のお腹には現在、赤ん坊がいる。」
「それはそれは、おめでとうございます。」
私は、丁寧過ぎる程の所作で頭をさげた。
「フフッ、まあいい。 それで質問だ? 私のお腹に居るのは何だ?」
「?人間でしょう普通の。」
……
「ハハハハハハッ! それだよ!まるで同種のような物言い!
貴様は、人間だよ紛れもなくな! しかし、圧倒的なまでに我々と近い存在、同種であると言える!」
目の前で突如笑いだした田宮良子であったが、突如雰囲気を変えて私にこう言った。
「いや、上位種か」
と。
__
「すまなかったな、井上香織。」
「何がです? 先日のことならもう忘れましたが?」
「フッ、取るに足らない事か……まぁ、良い。 ……そうだ、一つ私からも貴様に"お願い"をしても良いか?」
「聞ける範囲でなら良いですよ」
若干の静寂の後、田宮良子が私にそう尋ねてきた。
「泉新一には手を出すな」
少し威圧感を漂わせながら、彼女は私にそう忠告してきた。
「出しませんよ。 …約束しましょう。 ……ただそうですね、それは私の"平穏"を邪魔しなければですが。」
……
「……わかった。 それは身に染みて知っているからな。 だが恐らく心配要らないだろう。」
「そうでしょうか?」
「……ああ」
(あの、臆病な人間が動くとは到底思えん。 …今はだが…)
「わかりました。」
もうすぐ、昼休みが終わるであろう頃、私は田宮良子とそう約束をした。
__
ーそして
去り際に、田宮良子は私にこう告げるのだった
「それじゃあ、井上さん。 短い間だったけど楽しかったわ、色々ごめんなさい。 それと、約束してくれてありがとう。」
そう言い残し、にこやかに去っていく田宮良子を視ながら私は
(…なんだ、私よりよっぽど人間らしいではないか……)
そう思うのだった。
-第2章「平穏」完-