第11話
月日は流れ、私の高校生活も2年目となり、季節はまた夏を向かえようとしていた。
ーこの所、世界中に発生していた「ひき肉(ミンチ)殺人事件」
の件数が、急速に減ってきていた。泉新一の相棒であるミギーによれば『ヤツらも学習したのだろう』らしいのだが、それとは逆に目立たぬ数字が増え続けているのに、私は気づいていた。
失踪、行方不明者の数である。 毎日のように父親が読んでいる新聞に写るそれは
「成る程、学習か……。」
と、普段自分から声を発さない私を呟かせる程だった。
「ん? 何か言ったか?」
「いいえ、何も」
私は、何事も無かったように父親にそう返した。
「今日も、暑くなるみたいだから香織も気をつけるのよ」
あの日から、私に話しかける母親の顔には貼り付いた笑顔が見られ、これはもう修復不可能かも知れないなと、他人事のように思っていた。
「はい。お母さん」
私はそれだけ言い、相も変わらず学校へと向かうのだった。
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キーンコーンカーンコーン
「あー、終わったー」
「帰ろーぜー、どこか飯食いに行く?」
土曜日という事もあり、いつもより早めに帰宅する事になった生徒達はどこか浮足だって、話していた。
私はというと、当然の事ながら友人を作る気は無い為、一人家路へと向かおうとしていた。
「い、井上。 か、帰りに飯でも食ってかないか?」
そんな私の元へ、今年も同じクラスとなった泉新一が声をかけてきた。
どうやら、相棒であるミギーから、あの屋上での会話以後、私とは仲良くするように言われているらしい。
残念ながら、彼と仲睦まじい村野里美とは別のクラスになってしまったようだが、私としてはかえって静かにすごせる為、清々とした日々を過ごしていた。
「あら、泉くん。 デートの誘いですか? 村野さんに怒られますよ。」
「違うっつーの! それに、里美とはまだ……っ。」
これである。少しつついただけで慌てふためく姿には、彼の相棒であるミギーも呆れたようで
『すまんな、香織。わたしが誘えと言ったのだ。』
と、私だけが聞き取れる程の音量でフォローされる始末である。
「……わかってますよ。 でもご免なさい今日は早く帰りたい気分なの。」
そう彼らに言い残し、私は別に帰りたい気分など一ミリも無い家へと向かった。
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今日は、土曜日という事もあり父親も珍しく休みのようで、家に着いた私は、五感も鋭くなってしまった為によりいっそう酷さを増した乗り物酔いのせいで、今世まだ一度しか乗っていない車をみて、ため息をはいた。
ガチャッ
「ただいま帰りました。」
どうやら、母親はどこか買い物に出掛けているらしく、玄関には父親の靴だけがあった。
クチャ……クチャ……ガリ……
それは、咀嚼する音だった。
「……お父さん、居ないんですか?」
ガリガリ……ゴクン。
それは、何かを飲み込む音だった。
「お父さん?」
……ゴロリッ ガツン
「痛っ……!」
何かが足に当たった。
先程見た玄関には父の靴しかなく、何かに当たることは無かったハズだった。
それは、今世見慣れた顔だった。
「お…父……さん?」
前を見れば、見慣れたスーツを着た男が三分の一程になって、化物に食べられていた。
私は一言
「……何が学習だ」
そう呟いて、化物を見据えるのだった。