『ふむ、ところで香織……』
「何だ?」
『100パーセント寄生生物を取り込んで、君の体調に何か変化はなかったのか?』
泉新一の右手は、相変わらずの不気味な愛らしさを振り撒き、私にそう質問した。
「あるな……以前の私は病弱だった。 しかし、取り込んでからの私はとても健康になった。」
私が、そう簡潔に話すと泉新一とミギーは無言になった。
「健康か……」
『健康すぎるがな』
何故か、寄生生物に突っ込まれた。
「ええい、うるさい! それで?だからどうしたと言うんだ、ミギー!!」
私は珍しく感情的になり、そう聞き返した。
『……今日、近くに仲間がいる気配がした時だ。 わたしから、それを聞いた新一は300メートル程離れた浜辺に、オリンピック選手並の速さで駆け、3メートル程の高さの塀をジャンプして乗り越えた、まぁ本人に自覚は無かったらしいが……』
「成る程な……」
『ああ、30パーセントで其れなのだ。 だから聞く井上香織、君は一体どれ程の力をもて余している?』
私は、暫し黙考した後、こう答えた。
「さぁな、私にもわからん。…………それに、そんな事はどうだって良いことだろう? 私が、速く走れようが、高く跳べようが……。
私は私の平穏を守りたいだけだ。」
『そうか……』
「さ、さっきの感情がどうのってのは……?」
今度は、泉新一が聞いてきた。
私は、飲みかけの水分を喉に流しこんで、彼に答える。
「……親や君と仲の良い村野里美から何か言われた事はないか?」
「……あっ!」
泉新一は、何かに思い当たったようで、ちょうど私の手にある飲み物も空になった。
私は、立ち上がりこう告げる。
「まぁ、そういうことだ。 あまり気にしない方がいいぞ……」
「井上……」
「おやすみ、泉新一。 それに、ミギー」
そうして、その場を去った私は、部屋に戻りながらこう呟くのだった。
「どうせ、すぐにそんな事も気にしなくなる」
横にあった振り子のついた掛け時計には、2時半を指しており、窓から吹き込む風は冷たく、外からは夏の夜を感じさせる鈴虫の鳴き声が聴こえてきた……。
__
それから、さらに数日後の事である。
相変わらず父親の病院の前で、監視を続ける彼の姿にどこか面白さを感じながらも、暇をもて余した私は、どうせなら観光でもと思い、となり町まで足を伸ばした時だった。
「何だ、あれは?」
ふと、私の良すぎる目に遠くにいる人物を見れば、私の鋭すぎる五感には、それはとても異質で、異様なもののように捉えた。
「……まさか、あれが?」
私は、以前対峙した田宮良子の姿を思いだし、すぐに理解した。
それは"寄生生物"だと。
瞬時に私の中に殺意が芽生える。
しかし、彼と約束した事も思い出した私は、近づけば厄介な事になると判断しその場を急いで離れる事にした。
どうやら、この身体は寄生生物と似た何かを発しているらしく、この距離では、まだ気づかれていないようで安心していた。
「気づかれれば何するか分からんからな……私が。」
__
ピ、ポ、パ…… トゥルルル……
私は、近くにあった電話ボックスから、宿泊先の旅館へと電話をかけた。
「頼むから、宿に戻っていてくれ……泉。」
前世、友達もいなく付き合いは会社の同僚だけで、たまに掛かってくる通知といえば仕事の内容だけだった私は、なんど投げ捨てようとしたか分からないソレが、今は途轍もなく欲しくてたまらなかった。
「失って初めて分かる利便性とはこのことか……」
ガチャ
『はい、もしもし◯◯旅館です。』
「あ、すみません。そちらに宿泊中の泉新一さんはいらっしゃいますか? 私、同じく宿泊中の井上と申すものですが……」
「あ、いらっしゃいますか! 良かった、少し替わって頂けますか?」
「ええ、ええ、はい。 -だから、彼女じゃないですってば!!」
どうやら、宿泊先の方では、訳ありの高校生カップルと認識されているらしく、宿泊中ずっとその勘違いは続いていた_。
『はい、もしもし井上か?』
「……泉か……?」
私は、怒気をこめて電話先の泉へそう言った。
『ど、どうした何か怒ってないか?』
「黙れ。 ……良いか、良く聴け貴様の敵が現れたぞ。」
『え』
「正確ではないが、恐らく間違い無いだろう。 年の頃は30後半といった所で、長い髪を後ろでひとくくりにしている女だ。」
そう説明すると
『母さ……い、いや、わかったすぐ行く! 場所は? 今何処にいるんだ? 井上は無事なのか?』
随分と焦りながら、私に聴いてきた。
「場所は、今私は隣町にいる……いや、まて近づいてきたぞ。どうやら私に気づいたようだ。……仲間だと思ったのか? いや、違うな興味本位といった所か……」
『な!? だったら逃げろ井上!』
フッ
「フフフフ……」
『井上?』
私は、気づけば今世初めて笑っていた。
「……誰の心配をしている泉新一。私が寄生生物共になんて呼ばれているか知っているか?」
『……』
「"化物"だ。」
__
「良いか、泉? 私がこのまま、そっちの町との境にある岬へとヤツを誘導しよう。……なに、今のお前の足でなら直ぐにこれるだろう?」
『いや、でも……』
「なぁに、安心しろ。もしもの場合は見せつけてやる。
……本当の化物というヤツをな?」
そう言って私は、電話を切りゆっくりと、追い付いてこれるようにゆっくりと走り出した。