私は、ゆっくりと歩くように走る、ゆっくりとゆっくりと……
__
「香織、お母さんね あなたの事、例えあなたが何者だろうと愛する事にきめたわ」
「お前の好きに生きなさい。 俺も静香も例え何があろうと……お前の味方なんだから」
__
私は、今世の親を思いだす。
バカな程、甘く優しい親を思い出す。 始めて触れた親からの愛を思い出す。
私を肯定し、何があっても離れなかったあの人達を思い出す。
目の前で守れなかった。
目の前で殺された。
目の前で離れていってしまった。
「何が……化物だ……。」
こんな力が何の役に立つという? いざという時に発揮出来なかった、こんな力が。
寄生生物を取り込んだ事によって、私は確かに力を得た。
一時でも、願いは叶った。
しかし、そんな両親を悲しませていたと気付いた今、私には後悔しかない。
それでも……それでも生きていく。
それが、私が今世の両親にできるただ一つの親孝行だろう。
例えこの先、泥にまみれようが、血にまみれようが……
"それでも生きていく"
これが私の新しい矜持だ。"平穏"と共に守らなければならない私の矜持だ。
だからかもしれない、彼の旅についてきたのは。
あの日、血まみれで起き上がった彼を見て、危うさを感じた。
敵を取ろうと決意した彼を見て、危うさを感じた。
自ら、死へと飛び込みそうな姿を見て、危うさを感じた。
「泉新一……道は違えてくれるなよ。」
__
ようやく岬へと着いた私の前に、化物が映る。
かつて、彼の母親だっただろう存在が映る。
「貴様……何者だ……? 仲間のようでまるで違う……危険だな非常に危険だ……」
「誰が、仲間になどなりたいものか……危険? それをその姿で言うのか……寄生生物?」
ハァ……ハァ……ハァ……
「井上!!」
声のした方を見れば、泉新一が汗だくになりながら立っている。
どうやら、追い付いたようだ。
歩く程、ゆっくり走ったお陰だろう。
「泉か、ようやく来たか。 ……どうした? その手は?」
見れば、その手は不気味な刀の形をしていた。
「ミギーは、今は眠って………………母さん?」
__
「何故だ!? あの時、殺したハズなのに!? 心臓に狙いを定めて殺したハズだ!? ついでに首も切り落としておくべきだったか!?」
ギシリ
私の握り締めた拳が音を鳴らす。
「貴様……母親の姿で、それを言うのか……?」
ジャリッ
私が砂を踏み込む音が鳴る。
「井上!!」
突如として、泉新一に呼び止められる。
「約束しただろう井上。 手は出さないって」
そして、泉新一は目の前の寄生生物に宣言する。
「一秒でもはやく……てめえを殺す」
__
ガンガン!! ギギン!! ガガガン!!!
「……成る程、30パーセントか。」
目の前で、常人なら既に死亡しているだろう攻防を、私は近くの岩場に座り観ていた。
泉新一の相方ミギーは、以前話には聞いていたが、どうやら1日に4時間程眠ってしまうらしい。そんなミギーの存在を差し引いて見ても、寄生生物を圧倒していた。
「あれで、30なら確かにヤツらが私を化物と呼ぶのも納得できるな……」
皮肉にもそんな感想を抱いていた時だった。
寄生生物を後一歩まで追い詰めた泉新一がトドメを刺そうとして、手が止まった。
「何だ? 何をしている? ……おい!」
泉新一の手がゆっくりと下がる。
倒されていた、寄生生物が酷くゆっくりと起き上がる。
私なら、今の私なら瞬時に解決できるだろう。
今の私なら、寄生生物を殺すのなんて赤子の手を捻るより遥かに簡単だろう。
今の私なら__
ザシュ
ポタポタポタ……
「井上!??」
……気付けば、私は彼を庇って斬られていた。
気付けば、私は背中に大きな切り傷が出来ていた……
「な……んで」
ああ、また傷が増えるなぁと、この身体の元の持ち主に申し訳ない気持ちになりながら私は言う。
「いいから、ヤツを殺せ……泉! 約束しただろう!! お前の敵なんだろう? アレは母親ではないぞ……母親を殺した敵なんだろう? お前が自分の手でケリをつけないでどうする!!!!」
「う、うあああああああ____!!」
ザンッ!
ドボォ---ン!!
そうして、泉新一に斬られた寄生生物は崖下にある海へと落ちていった……。
__
-数日後-
あれから、私はというと、そのまま彼の父親が入院する病院で手当てをして貰い、跡は残るかも知れないが、そこまで深い傷では無いらしく。医者からの説明中、隣で心配そうな顔をしていた泉新一はホッとしていた。
そして、どうやら退院した父親と一緒に帰ることになった私達は、この前とは別の……恐らく母親が殺されたであろう崖へと来ていた。
「新一……上手く話せないが、ただ……ただこれだけは信じて欲しい。 母さんは、最後まで……いや、今もお前を愛している。そして、俺もお前と、母さんを__」
そう、彼の父親が口を開くと……
「父さん、一つだけ……父さんが見た夢の中で、母さんは苦しい思いとかしたのかな……?」
どうやら、彼の父親は雑誌記者上がりのフリーライターだったらしく、今回の件を世に出そうとしたが、認められず泣く泣く夢という形で息子に納得して貰うようだった。
「いや……全てが一瞬の事だったからな」
「……そう」
ボスッ
「新一……!」
「ちょっと……!?」
そう返事をした泉新一は、相当疲れが溜まっていたのだろう。
一応、怪我人でもある私に、こともあろうか、身体を預けて寝てしまった。
「ったく、こいつは……。 すまなかったね井上香織さん。 ……色々と」
「あら、やっぱり気付かれてたんですね?」
「ああ、あの後思い出したよ。 君があの残酷な事件の被害者であり、唯一の生き残りだったってことに……」
「別に、忘れたままでも良かったんですよ……?」
私は、少し笑ってそう答えた。
「新一とは、同じクラスで?」
私は、未だ自分の肩に寄りかかり、寝息をたてる少年を見て返事をした。
「ええ」
すると、父親は少し考えこんだ後に
「……そうか、やはり……うん。」
バッ
「今後とも息子の事、宜しく頼む。」
そう言って私に頭を下げてきた。
「…………だ、」
「え?」
「だから、違うっつーーーーーーの!!!!!」
そう言った、私の今世初めての絶叫は崖の先へと、夕陽が半分溶け込んだ水平線へと一緒に沈んでいった……。
ー第3章「親愛」完ー