第18話
__私には友達がいない。
いきなり何を?と思うだろうが、私には前世、今世通して友達と呼べるものがいないのである。
前世の私は、ブラックな会社勤めを繰り返し続け、心を病み、疑心暗鬼に陥り、自ら友人と呼べるものを絶った。
今世の私は、私が私に成る前の私には友人がいたが、私が私になってしまった為に、私は私の友人であったものを失くした。 何だか、私がゲシュタルト崩壊しそうだが、勘弁してほしい。
故に、私には友達がいない。
それは、そんなある日のことだった……。
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あの、旅行先の出来事から数日が経った。
戻ってきた日の祖母は、もう大変で、私の怪我を見るや否や「うちの孫を傷物にしおって、必ず責任は取って貰うからね!」と騒ぎ、宥めるのにそれはそれは、苦労をした。
暫しの間、あまりにも祖母が心配する為に学校には怪我を理由に休学届けを出した私は、泉新一よりも遅く復学する運びとなった。
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「よお。 久しぶりだな井上」
聞き覚えのある声が、聞き覚えの無い口調で、復学した私に声をかけてきた。
「あら、久しぶりですね。泉くん? 随分変わりましたね?」
目の前には、髪型を後ろに立たせるようにセットした、泉新一がいた。
「そうか?」
「ええ、雰囲気も何だか強そうに見えますよ。」
それは、朝の登校中の出来事だった。
隣には、村野里美がおり、どうやら相変わらず仲良くやっているようであったが、そんな彼女は泉新一に対してどこか遠慮がちというか、距離を取ってるように見えた。
「あ、そうだ! 香織も一緒に行こうよ!」
何か思い付いたように、相変わらずの馴れ馴れしさで私の手をとった。
私は、ここで断るのも変だなと思い
「ええ、良いですよ」
と返したのであった。
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私は、成るべく壁際の花を心がけながら、彼らと共に登校していた。
そんな時であった村野里美の隣を歩く泉新一が、急に歩幅を緩め私達から距離をとり始めたのは。
「泉くん? 今度はなぁによー、もう遅れちゃうからぁー」
「ごめん、先に行っててよ。」
村野里美の呼び掛けに、そう応じた彼の、行った方角を見れば、先程から聞こえる小さな生物の終わりを知らせる鼓動があった……
「一緒に行きましょう、村野さん。」
そう言って、私は先程とは逆に彼女の手をとり、泉新一が向かった先へと歩き出すのだった。
……
ドクン……ドクン……ドクン……
今にも、消えそうな音を辿れば、ベンチに座り血まみれの今にも死にそうな子犬を抱えた泉新一がいた。
そんな、泉新一の側に村野里美が、何故かどこか安心した表情で近づいていった
「泉くん。あたし、何だか恐かった。旅行から帰ってきてからの泉くんて何処か、冷たい感じがしたから……でもちがったんだね? こんなに優しいんだもん。」
泉新一の隣で彼女がそう話すのを、私は彼等から少し距離をとって、隣のベンチに腰掛けその会話をただ眺めていた。
__
ドッ……ドッ…………__
「死んだ」
そう言った、泉新一の手にいた子犬から鼓動が止まる。
そして、彼らが再び学校へと向かおうとした時私は……
(ああ、やはりそうか泉。 君はもう……しかし……)
彼の行動を見てそう思った
ガコン
「い、泉くん。 何してるの?」
「?死んだ犬は犬じゃない、イヌの形をした唯の肉だ。」
先程まで、生きていた犬をゴミ箱に捨てて、平然と泉新一はそう答える
「何て事するのよ! ゴミ箱に捨てるなんて!!……やっぱり違うよ、前の泉くんとは……!!」
そう泣き叫んで村野里美はその場を走り去って行く。
そんな彼らを私は、ただただ眺めていた__。
「……村野」
そして村野里美が去った後に、再び座ったベンチで悩む彼を見て私は__
バシッ
彼の後頭部を叩いた。
「ッ痛!」
「馬鹿者が。 感情だけじゃなく、常識も失ったのか? ……あれではまるで……そうだろう?寄生生物?」
私は、彼の右手にわざとそう呼び掛けた。
『確かにな……イヌの形をした肉なんてセリフ。まるで、わたしが使いそうな表現だ』
何かに、気付いたのか、届いたのか解らないが……
「ああ……そうか…わかったよ。 ……ありがとうミギー、井上。」
そう答える彼は、やはり以前のような表情豊かな喜怒哀楽に満ちた彼ではなくて、私は少し悔しそうに、こう答えるのだった。
「フンッ。 少しはしっかりしろ馬鹿者が! 私でさえ理性と常識は、持ち合わせてたぞ?」
__と。
そう言って、去った私の後ろではゴミ箱から再び子犬を救いだした彼がいたが、その後どうしたかまでは、私の知る範疇ではない。
だが、きっと届いてくれてる事を望んで私は歩き出す。
「まだ、人間を捨てるには早いぞ……泉。」
そう、呟いて……。
__
それから、更に数日後のことである。
私は、久しぶりに街に買い物に出かけていた時だった。
理由は簡単で、祖母から「年頃の娘がスカート一着しか持ってないってのはどーゆーことだい? 良いから、これで買い物でもしてきな!」と、言われてこの時代では、高額な一万円札を握りしめらされ出掛けた時だった。
「ッオース!」
バシッ
曲がり門から急に現れた女性に肩を叩かれたのは
「あれ……違った? ……ん?あんた……?」
そこには、半袖のスカジャンを来た、何処かで見た事のある少女が立っていた。
__私には、友達がいない。