「いやー、悪かったね。 ゴメンゴメン」
「いえ、お気に為さらず……」
ズズ-ッ……
私達は何故か、現在とある喫茶店へと来ていた。
「てか、アンタ。 随分、前と雰囲気変わったよな?」
そう話す彼女の手元には、アイスコーヒーがあり、今世も前世も大の甘党である私は、ミルクセーキをすすっていた。
「そうですか?」
「ああ、前のアンタとだったら、こうしてここに居ないよ。」
そう言って、快活に答える彼女は、どこか祖母を思い出させる。
「と、そういやアンタ、名前なんてーんだい?」
「井上香織です。」
私は、深々と頭を下げてそう返した。
「ちょっ! やめなよ恥ずかしい!! ……あー、アタシは加奈ってーんだ、宜しくな。」
前世の影響からか、初対面の相手に名前を名乗る時に出る癖は、どうやら彼女には合わなかったようだ。
「宜しくお願いします。」
しかし、そう言ってまたも頭を下げる私を見て彼女は、少し恥ずかしそうに困ったように笑うのだった。
__
「泉新一くんですか?」
「そ! ソイツとアンタを間違えたってこと!」
どうやら、彼女は泉新一と私を間違えて声を掛けてしまったようで、今はそれの言い訳とやらを聴いていた。
……しかし
「どうしてです?」
「ん?」
「どうして、私と彼を間違えたんです? 彼は男性で、私は女性。
見た目も性別も何もかも違いますが?」
私は、不思議に思い尋ねた。
「いや、それはなんて-か、その…………!? アンタ、知ってんのかい? ソイツの事!?」
「クラスメイトです…………一応。」
私は、何だか素直に応えるのが嫌になり、そう返した。
「はー……成る程ねぇ。アンタみたいな別嬪さんとねぇ……こりゃ、ウカウカしてらんないな……」
そう、最後の方は私に聴こえないように言ったであろう言葉を、私の耳はしっかりと捉え、こう思うのだった……
(-趣味悪ッ)
__と。
……
「テレパシー? ……ですか?」
「ちょっ、何だい!? その可哀想な者を見る目は!?」
どうやら、話を聞けば彼女は特別に泉新一を見分ける能力があるらしく、彼が近付くと何かテレパシーのようなものを感じるらしい。
「危ないですね……」
「私かい!? 私の事言ってんのかい!?」
私は、そんな彼女に少し笑ってしまい、こう言う。
「フフッ、…違いますよ、加奈さん。 私が言ってるのは、そういう意味ではなくて、問題なのは彼と私に似た何か……テレパシー?ですか? それを感じて間違えた事を言ってるのです。」
「また、馬鹿にして……。 にしてもアンタ、やっぱり変わったね」
「そうでしょうか?」
「ああ、全然違うよ、前のアンタとは。 そりゃあ、やっぱ危ない雰囲気……近寄ったらマズイみたいなオーラは変わらないけどさ……」
「……今度は、オーラですか」
「~もう、いいよ! …んで? それの何が問題なんだい?」
少し、からかいが過ぎたのか、彼女は外方を向いて聞いてきた。
「……私だけですか?」
「ん?」
「私だけですか? 彼と間違え声をかけたのは? 私だけですか、彼と似た何かを感じ取れたのは?」
「いや、それは……」
恐らく心当たりが有るのだろう彼女に、私は雰囲気を少し変えて、それこそ彼女が言う以前の私のように、そう尋ねた……。
__
「気をつけて下さいね、加奈さん。 今日、こうやって少し話しただけですが……嫌なんですよ、私はもう……周りから人が居なくなるのが……」
そう、私はもう嫌なのだ……。
自分の周囲から、知り合いが居なくなるのが……。
自分の周囲から、誰かが居なくなるのが……。
それは、もしかしたら、少し会話をしただけの人間も当てはまるかも知れない。
もしかしたら、同じ学び舎に通っているだけの人間にも当てはまるかも知れない。
それは、もしかしたら通行人にさえも当てはまるかも知れない。
一度、自ら死んだ人間が何を言う? と思うかも知れないが、だからこそ嫌なのだ。
今にして思う。
ー私が死んでも誰も悲しんでくれる人はいないー
そんな事を考えてた自分を、今だからこそ恥じる。 そんな愚かで卑屈で手に届かない夢物語を追い続けた私を恥じる。
それでも、親は私を愛していたのだろう……と。 自分で責任をとれと、私が何を言ってもそう返した親は、歯痒かったのだろうと、本当なら、抱きしめて甘やかしたかったのだろうと。
これは、4人の両親がいたから解るのである。
もう存在しない、私が私の手でなくしてしまった4人の両親がいたから気付いたことである。
だから、私は思うのだ。
もう、誰にもそんな思いはさせたくないと……そんな思いはしたくないと。
__
「……アンタ、名前なんだっけ?」
「井上香織ですよ? もう忘れたんですか?」
私は、わざとふざけるように言う。
「~また!…………井上? 井上香織? ……そうか、あの事件の…」
どうやら、私に起こった事件はそこそこ有名らしく、普段ニュースや新聞を目にしなさそうな彼女も知っているらしかった。
そして、彼女はゆっくりと言う
「アンタ……危ないね……」
「あら、仕返しですか?」
私は、ふざけてそう返す
「ーだから、そうやってー、まぁ、いいや私は加奈、君嶋加奈だ。
なぁ、井上……いや、香織。 アンタ、私のダチになってよ?」
「え? 嫌です」
「いいから!!!」
突然、叫んだ彼女が手を差し出してきた。
それは、恐らく握手の意味で、私はため息をつきその手を握る
ハァ……
「わかりました、加奈さん。 ……ですが、一つだけ約束をして下さい。」
「ん? なんだい?」
「絶対に私の前で死なないで下さいね?」
「プッ。 なんだいそりゃ……いいよ! その代わりアンタも死ぬんじゃないよ!」
__この日、私に友人が出来た。
原作にはない、加奈の名字入れさせて頂きました。