[口だけ頭]
最近、そういったニュースが巷で話題になっていた。
それは、現時点の世間の見方としては[人面犬]や[口裂け女]等といった、都市伝説の類いだろう……という見解であり、雑誌やニュース等で取り沙汰されたりはするものの、それほど大きな話題にはなっておらず、何処か面白がって近所の子供たちが真似をしたりするような感覚であった。
もし、仮にこの時代にスマートフォンやSNSが多く普及していたのであれば、直ぐ様かの動画投稿サイトや呟き等を通して世間はもっと早く気付いたのかも知れない。
もっと早く、被害を抑えられたのかも知れない……。
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「何故だ?」
私は今、泉新一と共に件の屋上へと来ていた。
もちろん、話はあの寄生生物についてである。
あの後、君嶋加奈と別れた私は、自身が通う学び舎に寄生生物がいるということが、どうしても耐えられず、そういえばアレは泉新一達が現在揉めている人物では? と思い至ったのだ。
あの時は巻き込みたくない思いもあったからか見逃した私は、直ぐ様葬りたい衝動を抑え、一度話を聞こうと彼らを呼び出していた。
だが、返ってきたのはそれを否定する言葉だった。
「何故って言われてもなぁ……なぁミギー」
『……すまないが香織、ヤツには手を出さないでもらいたい』
「だから、何故だ?」
『君が、我々寄生生物に対して、抱く感情は理解しているつもりだ』
「……ほう? 寄生生物ごときが私を理解できると?」
ミシリ……
「おい、井上っ」
『……まずは、その怒りを抑えてくれると、此方としても話がしやすい』
そう言われて見れば、私の握っていた鉄柵は、グニャグニャに変形していた。
「……チッ」
私は、何だか目の前の寄生生物に命令されたようで、癪ではあったがソレから手を離した。
『……君も随分、表現豊かになったな香織。 始めて君を見た時とは大違いだ……だから、余計危険なんだが……』
「話をはぐらかすなミギー。 私の事はどうだっていい、私が言ってるのは、何故、ヤツを殺してはならない? 何故、ヤツを野放しにしている? ……泉、貴様なら余裕で撃退出来るハズだ? そうだろう?」
私は、仕方なく先程離した鉄柵に背を預ける格好で、そう問いただした。
『……先日、新一の家に警察が来た』
「それが? だからどうした? 私は泉に質問したつもりだぞミギー」
『まあ、話を聞け。 警察が帰った後の事だ……父親が新一にこの間の母親の件の真相を語った。それは、勿論我々の存在も認めた内容だった。 母親が寄生生物に殺された事、警察にはまだ、世間に公表出来ないと言われた事…そういった話を父親は新一に語った』
「何故、公表出来ない?」
『下手に広めればパニックになり、民衆の抑えが効かなくなるからだろう』
「警察も、事実は認めてると?」
『ああ……だから、君に動かれるとわたしが困る』
「貴様がどうなろうと知った事ではない。」
『……仮に、君がヤツを殺すとしよう。以前なら警察も気付いておらず、遺された死体と君を見て、君自身が罪を被るだけでよかった。』
「……覚悟の上だ。私の周りに被害が及ぶようなら、私は喜んで罪を被る。」
私は、さらに腕を前に組み直して話す。
「井上……お前……」
『その心がけは立派だよ香織。 しかし、話は変わってしまったんだ。 容易にヤツを殺せば、その死体を見て警察やマスコミが騒ぎ出すぞ。 ……今度こそな』
「どういう意味だ……」
『君は、あの残忍な事件の被害者だろう?』
「……ああ」
私の組んでいた手に少し力が入る……
『あの事件……ただの連続殺人事件として警察が捉えているとでも?』
「何?」
『……これは、あくまでわたしの推測だが、君は何らかの方法で寄生生物を撃退したハズだ。 しかし、その時はまだ警察も恐らくこの事実にそこまで気付いてはいなく、ただの殺人事件として取り扱った。 君も可愛そうな被害者として扱われた……今までは。』
「……よく喋る寄生生物だ。 ……それで? 別に良いではないか?
もし、仮に私がヤツを殺しても"可愛そうな被害者"が"加害者"に変わるだけだ。 それの何が問題だ!」
私は、少し睨み付けて話を促す。
『君が捕まれば、恐らく警察に実験材料にされるぞ? 君の力は警察が見過ごせるほど弱くない……』
「構わない」
『それに君嶋加奈……恐らく、彼女も実験材料になるだろう』
ガッシャン!!!!!!
「貴様、何故それを……」
『君と彼女が仲の良い友人であることは観てれば分かるさ……。
それに、新一や君に反応して近寄ってきている事は新一も知っている事だ』
私が殴った鉄柵は、大きく輪を描いて変形していた。
「あ、ああ、加奈ちゃんと井上の関係は、以前島田が加奈ちゃんを連れて行こうとした時、君が助けてる場面を見て知った……。」
「……覗き見か? 良い趣味だな泉。」
「悪い。 本当は俺が助けようとしたんだが……」
『そんな、我々を見分けられる存在を警察が見過ごすとでも? 恐らく、君との関わりから、いずれはたどり着くと思うぞ?』
ハァ……
私は溜め息を吐く。
「……成る程な、事態は私が考えているより深刻という訳だ。……だから、島田?の件も私には秘密にしていたという訳だな?」
私は、再び折れ曲がってない柵に身を預け、空を見ながら話す。
こうして見上げる空はいったい何度目だろう……
「そして、私が捕まれば、お前達にも監視の目が必然的に向く訳か……。」
『恐らくそうだろう。……ああして、父親の元に警察が事件の真相の話に来たのだ。 ならば、既に知られてるだろう母親の死の行方にも探りを入れてるハズだ、その寄生生物を殺したのは誰か?とな……。疑われるのはあの日、共に旅行した君であり、我々という事だ。』
「ミギー!」
泉新一が話を遮ろうと声をあげた。
「井上は……俺を思って着いてきてくれただけだ」
『スマンな新一。 わたしは、わたしの身が一番かわいい』
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……
「話は分かった。泉新一、ミギー。 だがな、もしヤツが、島田が私の周囲を傷つけるようなら、その時は私は動くぞ?」
私は、柵から身を起こし、彼らに目を向けて話す。
「なぁに、心配するな。 その時は上手くやるさ……勿論、徹底的にだがな。」
そして、私はあの日の窓に写ったような獰猛な笑みを残し、その場を去るのだった