__202X年 XX県○○市
その日はいつも通りの朝だった。
いつものように朝の5時30分に起きて、会社に出勤しようと私は、準備を始めた。
朝食を食べて、歯をみがいて、トイレに寄ってある程度身嗜みを整える。
別段、意識する異性がいるわけでもなく、意識される訳でも無いが、それが、世の中のマナーだからという理由だけで整える。
…ブルルル
自宅から、約10キロ程の距離にある職場に向かうため、私は車のエンジンをかけた。
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魔が差すとはこの事だろうか、自宅から5キロ程進んだ所で私は急ハンドルをきり、会社とは別のルートを選択した。
キキキキキッ
……気付けば私は、林の中へ車ごと突っ込んでいた。
「ぅう……。」
何分ぐらい経っただろうか……かけていたメガネのレンズは割れており、ボヤける視界に飛び込んで来たのは、一本の大木だった。
フロントガラスは、バラバラに砕け、車のエンジン部分からは煙が立ち上がっている。
下を向けば、腹部には大木から伸びたであろう枝が何本も刺さっており
「ああ……私も、ようやく楽になれるのか……」
と、激しい痛みの中、意味不明な事を言っていた。
赤かった視界は黒く染まって行き、私は自身の死を実感している時だった。
「あなた、死ぬの?」
突如、誰もいない筈の助手席から10代半ばと思われる少女の声が聴こえてきた。
「いいえ、死にたかったのね……死にたくて死にたくて生きるのが辛くて……気付いたら死ぬのね。」
「じゃあ、私が助けてあげる。 時間はかかるかも知れないけど貴方の願いも叶えてあげる。 たから、お願い、生きて__」
__そして、この種を護って。
………………………………………………………………。
「…ここは? 私は、確か林に…いや、学校にいて………!?」
そうか、思い出した。寄生生物と対峙した私は、ヤツを相討ちのような形で倒したあとそのまま意識を失ったのだ。
「病院か………」
横を見れば点滴がぶら下がっており、それは私の腕へと通じていた。
「あれは、前世の私と今世の私の夢か………成る程な、確かに願いは叶ったよ………一時だけだったが………。」
もはや、意識は混ざってどちらが今の私かわからないな………なんて自嘲していた時だった。
ジャッ
「井上さーん、お友達よ。彼氏さんかしら……あら、目が覚めたのね……先生に伝えて来なきゃ!あなたは、ここで待ってて。」
そう言い残し、去った看護婦の後ろには、泉新一が立っていた。
「よお、久しぶりだな井上。 やっと目が覚めたか。」
そう言って……。
__
その後の医師の話では、私には目立った外傷は無く、あるのは腹部の刺し傷のみで、それすらも既に塞がりかけているようで、目を覚まさなかったのは精神的ショックを受けたからでは……と説明を受けた。
私と一緒に、医師の話を聞きに駆けつけた祖母は、病室のベッドの隣に座っていた泉新一を見て深い深い笑みを浮かべた。
医師の話で安心したらしい祖母は、一度帰って家の事を片付けてくると言い去り際に
「上手くやるんだよ。 香織。」
と、私ではなく何故か泉新一の方を見ながらそう言葉を残し、去っていったのだった。
身体の方は何の問題も無く、傷も塞がりかけている私は、出歩いても良いらしく泉新一と病院の屋上へと向かった。
「井上……。」
「五月蝿い」
「ま、まだ何も喋って無いんだが……」
「黙れ。金輪際その口を私の前で開くな。そして死ね。」
『……凄まじいな』
これまた久しぶりな、ミギーがそう言った。
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ハァッ…
「で? 何だ話とは? 何を聞きたい?」
『君のその身体の謎とヤツについてだ香織』
私達は現在、屋上の備え付けのベンチに腰を下ろしていた。
「ああ、この身体か………スマンな、詳しくは話せん。だが、そうだな、寄生生物をどうして取り込めたかは思い出す事ができた。だが、それも話す事は出来ない。 悪いな………」
『いや、いいさ。 其れよりもやはり君は、寄生生物を100%取り込んでいたのか?』
「そのようだな、現に奴から受けた傷は、腹以外治っている。まったく、どちらが化物なんだかな………」
私は、またも自嘲するように話す。
『………ヤツを倒したのは君かい? 香織』
フッ………ククク
「………私しかいないだろう? 他に誰がいる。誰があの場にいた。 泉、ミギー貴様ら何処で何をしていた!?」
そう言って、私は目の前の二人を睨んだ。
「スマン………。」
『香織、新一は村野里美を助けにいったんだ』
「成る程、ならあの現場は? あそこを通らなければ3組にはいけないだろう? 見たのか? あの現場を………大勢の死体を。
あれを見て何も思わなかったのか? 何も感じなかったのか? 何故、ヤツを野放しにした!」
「それは………その…」
『新一は、何も感じなかった訳ではない』
「黙れミギー! 私は泉に聞いている!!」
私がそう怒鳴った直後、静寂がその場を支配した。
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「………すまなかった。」
最初に口火を切ったのは私だった。
「泉が、今どういう状況にいるかは理解してるつもりだった。 だがあの日、私はお前達に少し期待してしまっていたんだ。 だから、余計許せなかった。………もっと、多くの人を護れたんじゃないかと思ってな………。」
「………井上は悪くない。」
私は、気まずい空気を振り払うように声を出した。
「そうだ。私にも命令が来てたぞ」
「え?」
『何だと………?』
私は、立ち上がり泉とミギーに伝える。
「__【この種を護り抜け】それが、私に来ていた命令だ。」
私は、静かな所が好きだ。平穏が好きだ。毎日が平和に過ぎればいいと思っている。
だから、私は護る。
泥にまみれようが、血にまみれようが、皆を護ってそれでも生きていく__。
ー第4章「覚醒」完ー
当初、前話が完章の予定でしたが、書いていたらこっちの方がしっくり来たので、こちらで完章とさせていただきます。