地球上の誰かが ふと思った
「人間の数が半分になったら、いくつの森が焼かれずにすむだろうか……」
地球上の誰かが ふと思った
「人間の数が、100分の1になったら、たれ流される毒も100分の1になるだろうか……」
誰かが ふと思った
「
原作「寄生獣」岩明均より
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「…何?」
夏の暑い夜だった。 エアコンの無いこの部屋からようやく熱気が抜けていった頃。
突如として私の無駄に良い視力は、夜目も利くらしく、真っ暗な部屋の中、視界にヘビのようなものを捉えた。
「…蛇? それにしては形が変ね…」
女性特有の話し方も板に付いたものである。
この身体の記憶との融合も相まって、仕草はもうすっかり女性のものとなっていた。
だが、そんなことはどうでも良い。 今、現在私の興味を強く引くものは別にある。
「えっ!?」
などと、考えるのも束の間、突如として"ソレ"は、先端をドリルのようにして、私に向かって飛んできた。
無駄に良い私の目は、その反応出来ないスピードで飛来してくるソレを、駒送りで捉えていた。
"ソレ"は入り口を探しているように見えた。だが、私の長い髪で覆われた頭を"見"て口元へと、飛来してきたのだ。
恐らくこの生物は、耳から入ろうとしていたのではないだろうか
そんなことを脳裏に浮かべながら、私は飛来してくるソレを見ていた。
……。
「私、ベジタリアンなんだけどなぁ」
私の身体は、貧弱である。 徒競走で走れば常にビリだし。
鉄棒には、ぶら下がるのがやっとである。
こと運動に至っては何をやってもドベなのである。
ただ、そんな私も一つだけ人よりも速い事があった。
食べるスピードである。
普段、野菜や果物しか食べれない私は、異常な程に顎の力が強く発達したようで、他人よりも圧倒的に噛むスピードが早い。 学校や家での食事は常に私が一番で席を立つのであった。
故に私は、身の危険を感じた私は本能的に"ソレ"にかぶり付いた
ガリ!!……ミチ…クチャクチャ……ガリガリ…… ゴクン。
「……。」
不思議と吐き気は襲って来なかった。
「あれ? おかしいなぁ…」
……まぁ、いいか……
私は、自身が食べた生物に何ら疑問も持たず、自身が助かったのだから、まぁ、いいか。 と思い、再び眠りにつくのだった。
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「おはよう」
「おはよう、香織」
「ずいぶん、お寝坊さんね。」
私は、昨夜の出来事を少し思い出し、母へと尋ねた。
「お母さん、お肉ある?」
母は、少し驚いた様子で、私に応えた
「あ、あるわよ。 えっでも? 大丈夫?食べられるの?
別に、無理しないで良いのよ」
「そ、そうだぞ香織!
それに、また吐いたりでもしたら……」
毎度のように、なんと優しい両親だろうか。
「ん。 大丈夫。今日は食べられそうな気がするの」
「そ、そう? じゃあはい。」
そう言って母は、おそらく父のお弁当のおかずだったのであろう。
タコの形をしたウィンナーをフォークに刺してよこした。
私は、おもむろにかじりついた。
ミチャ…ミチャ…ゴクン。
「……」
ガタン、ダダダダダダ…!
「ウゲエェェェェ……」
駄目だったか…。私はひとしきり吐き終わり、ふと、自分の後ろに立っていた、両親二人に気付き、鏡ごしに謝罪を述べた。
「ゴメン。心配かけた。…今日は何だか調子が良くて食べられそうだと思ったんだけど…ゲホッ ゴメン。」
「良いのよ」
「ああ、気にするな」
「ありがとう。」
私がそう簡潔に礼を述べると、両親は心配しながらも、少し気まずそうに、鏡の中から姿を消した。
こういった関係性になってしまったのは、恐らく私という意識がこの子の中で覚醒してからであろう。
それまでは、表情変化に乏くも、多少なりとも時々笑顔を見せていた我が子が、ある日突然、全く笑わず、無表情になってしまったのだから。
「これに関しては、責任を感じざるをえないな…」
私はそう溢しつつ、しかしやはり、…まぁ、いいか。
と考えながら、再び鏡へと目を向けた。
おかしいな…。
いつもは、吐いた後は大抵 顔色も悪いハズなのだが…
鏡に写った自分は何故かいつもより、健康そうに見えた。
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「それじゃあ、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
「気をつけてな」
お決まりの挨拶をし、家を出る。
あぁ、なんだろう…今日は身体がとても軽い…!
どうやら私は、自身の体調の良さに少し喜んでいるらしい。
このままでは、スキップでもしてしまうのではないだろうか? と、自分自身を客観的に捉えていたときだった。
「か、香織!」
突如として、母に呼び止められた。
私が"香織" になってからの生活で初めてのパターンである。私は疑問に思いつつ振り返った
「…何?」
「…ヒッ…」
…
一瞬、母親がビクッとしたのは気のせいだろうか?
「あ、あなた香織よね?」
「?」
「私の娘、井上香織よね!?」
「……っ静香!」
温厚な父には珍しい怒声が響いたその場で
私は相も変わらず無表情でこう応えるのだった。
「ええ、あなたの娘"井上香織"です。」
と。