それは、季節が夏から秋へと代わり
制服も冬服へとかわり始めた頃……
『事件があったのは神奈川県xx市の住宅街で、殺されたのは主婦 藤井とし江さん39歳、長女の昌子さん14歳、長男の実くん10歳と見られておりますが …いずれの死体も損壊が激しい為に、殺害方法や凶器などについては一切わかっておらず__…』
__
「嫌だわぁ、怖いわねぇ …早く犯人捕まってくれないかしら……」
「また、
私は、ブラウン管から流れるニュースに対し、どこか他人事のように会話をする両親を眺めながら朝食をとっていた。
「香織も気をつけなさいよ」
「そうだぞ、ただでさえお前は病弱なんだから」
「……はい。」
そう語りかけてくる両親は、やはりどこかよそよそしく、しかし以前よりはやや柔らかい口調であった。
あの朝の一幕以降、始めの方は遠慮がちに他人に接するように話しかけてきていた両親であったが、おそらく話し合いでもしたのだろう。
私に対して以前の、私が私になる前と同じように、精一杯努めて話しかけてくるようになっていた。
今にして思えば、[私が前の私]であったならば、少なからず感謝をきっとしていたのではないだろうか…。
「…病弱ですか?」
「そうよ だってあなた、自転車も乗れないし、階段登るのもいつも辛そうにしてるじゃない」
「乗り物酔いも酷いしな」
「乗り物酔いは、まぁ…そうですが」
…
「~…香織!」
「? なんでしょう?」
母親である人物が突如として、声をはりあげた。
「いい加減、その他人行儀な口調をやめなさい!」
どうしたことだろう? 普段温厚な人物だったハズであるが。
「そりゃあ、私達も悪かったわよ。 実の娘にあんなこと聞いて… 本当に悪かったと思っているわ! たから、お願い、前みたいに会話をしてちょうだい…!」
…どうやら泣いているようだ。 …あぁ、そうか。
どうやら、泣かせているのは自分のようだ。
あぁ、そうか私はもう…
__
願いというのは、叶わないから願うのである。
望みというのは、届かないから望むのである。
苦しみというのは、理想の自分になりたいから苦しむのである。
それら、全ては、感情があるから存在するのである。
__
私は、なってしまっていたようだ。
前世の自分の願い通りの存在へと…。
原因は"アレ"だろうということだけは、わかっている。 あの夜"アレ"を食べてしまった時からだということだけは…
あの日から、私は少しずつ変わっていった。 目に見える変化としては、五感が鋭くなり
こと運動能力に至っては、説明出来ない程になった。
別にそんなことはどうでもよかったのだ。
早く走れようがどうでも良かった。
物が止まって見えようがどうでも良かった。
ただ、今世の病弱とまで言われる身体が、思うように動くようになったこと以外は、どうでも良かったのだ。
私はそんなこと望んではいなかったのだから。
だから、気づかなかったのだろう。
自身の感情まで変化していたことに…。
__
感情がなくなるとは、こういうことかと思った。
理性はある。常識はある。思考もする。
しかし、圧倒的なまでに興味が沸かない。 他人に対して泣いていようが、苦しんでいようが。 それが自身の親だったとしても…
私は、母親が泣いていても罪悪感を覚えず
父親が、隣で苦しそうに母親を抱き締める姿を見ても何も感じることは出来なかった。
しかし、今世の両親に対して言葉だけでも、謝罪を述べよう。
私は感情を失ってしまったが常識はある。
前世の記憶から勉学に勤しんだおかげだろうそれは、ギリギリの所で
私を人間でいさせるのだった。
「ごめんなさい。お母さん。」
「香織…」
「行ってきます」
私は、そう言葉を残し席を立つ。
しかし、私の鋭く成りすぎた五感は、後ろのテーブルで呆然としている両親を鮮明に捉えていた…
それに対しても私の心は何も感じることは無かったのである。
__
「返してよ! 私の香織を…返してよ!」
「よさないか、静香…」
私はそんな両親を背に、学校へと歩を進めるのだった。
第1章 「感情のない怪物」 完
ようやくスタートラインに立てました。
ここまで、もってくるのに苦労しました泣 さて、井上香織という怪物は寄生生物たちにどう映るのか…
彼女はどうするのか…
稚説ではありますが、もし誰か一人でも読んでくださる方がいるならば
エタることなく書き続けたいと思います。