「母さん、ごめんよ。 母さん」
「そんな事もわからないのか! 君は?」
「○○、また会社辞めたの? いい加減しっかりしてよ……」
「あの人、病んでるよね~」
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走りながら、私は前世の自分を思いだしていた。 不思議な事に記憶というものは嫌な記憶が優先的に呼び起こされるようだ……。
「なんとも、可哀想な人間だな……」
真面目に頑張って、バカを見て、どうして自分だけと常に思っていた。 周りを見れば結婚して子供を成したり、真面目に頑張らずとも何故か評価される人間や、遊びに明け暮れていても上手くいってる人間が大勢いた。
だから、彼は願ったのだろう。 感情があるから、考えてしまうから、願ったのだろう。
そんなこと無いと、自分はそれでも恵まれてる方だと思いながら、必死に、心を身体を壊しながら、いつか自分にも平和で平穏な日常が訪れるハズと思い、生きて……生きて……生きて……そして壊れてしまったのだろう……。
「…………だから、邪魔してくれるな……」
そう、呟いて私は先程から走る程に濃くなっていった匂いの場所へとたどり着いた。
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そこには、自身の学校の教員であろう人間が寝そべっていた。
背中には大きな切り口がはいり、身体は少し触れば二つに別れてしまうだろうものが一名。もう一方は、殴打によるものだろうか? 外傷は先程の人間に比べて比較的綺麗な状態で無造作に横たわっていた。
前世でも見なかった死体を目にしても私の心は何も感じることはなく……
「死んでるな……しかし随分と汚してくれたようですね、私の平穏を… …ねえ、田宮先生?」
そうして私は顔を上げた先にいた田宮良子へと声をかけた。
「井上香織か…」
「ええ、そうです井上香織ですよ先生。 先日、あなたに忠告したばかりの井上香織です」
「……」
「どうしたんです? 何か言うべき言葉があるのではないですか?」
「私ではない」
そう、田宮良子は私に言った。
別にどちらでも良いのである。 殺ったのが彼女だろうが、汚したのが別の誰かだろうが…
「でも、無関係では無いでしょう?」
「……ああ」
「なら、貴女にも罪はある」
ギュン!!
瞬間、私は田宮良子へと一足で彼女の目の前に立った
「くぅ……っ」
しかし、彼女もやはり人外であり、自身の顔を崩し私へと切りかかってきた。 恐らく常人ならば、ほんの一瞬で死んでしまうだろうそれは
(遅い、やはり遅いなぁ……)
私の目には、静止画のように写っていた。
バチンッ!
音速で何かを打ちつけたような音がその場に響いた。
「痛いなぁ、もう」
私の良すぎる耳も影響を受けた為、私は耳を塞ぎながら、彼女へとこう伝えた。
「連帯責任ですよ。 田宮先生?」
私の目は、ゆっくりと崩れ落ちる田宮良子を写し、手の平にはほんの少しの痺れを残すのだった。
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はぁ…… はぁ……
その頃、泉新一とその相方ミギーにより瀕死の重症を負わされた一つの生物がいた。
『田宮良子……ヤツと同居すれば、どうにか……』
腹には、恐らく刺されたのであろう鉄パイプが深々とあり、その穴からは、止めどなく血が流れ続けていた。
自身と同じ生物の身体に移動し、生存を保つために"必死に"歩いていた……。
『あと、20メートル……あと5メートル…………ここか!?』
そこに居たのは、田宮良子ではなかった。
そこに居たのは、自身のような人外の生物ではなかった。
そこに居たのは、人間だった。
しかし、それは自身より圧倒的な上位種だった。
「はぁい。 諸悪の根源さん。」
__
私は、もしかしたらその彼女の仲間とやらは彼女に会いにくるのではないか? と一つの仮説を立てていた。
あの、慌ただしく教室を出ていった彼女の様子を見る限り、何か信号のような物を感じとり、自分の仲間が学校に侵入したと気付き、彼女、田宮良子は出ていったのではないか?
ならば、その信号とやらで仲間も、彼女に何らかの手助けや話をしに来るのではないかと……。
まぁ、あくまで仮説なので信頼性は薄いのであるが。
故に、私はあれ以降目を覚まさずにいる田宮良子を担ぎ、彼女が設置したのであろうそこへと、ガスの匂いがする方へと足を進めた。
そこは、調理実習室であり、部屋中のガスコンロは全て開いていた。
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そして、現在その仮説は実証されたのだった。
「はぁい。諸悪の根源さん。 よくも、荒らしてくれましたね私の平穏を……」
『貴…様……何者だ?』
「別にどうだって良いじゃ無いですか? 私が何者だろうと、あなたが何だろうと……」
私は、ゆっくりと親指と人差し指を近づけていく
「ただし、私の平穏の邪魔だけはするな。」
ドォン!!!!!!
「うわっ、な、何だ?」
「落ち着け、新一! とにかくこの場を離れるんだ!」
__
……
教員や生徒達の喧騒の中、私は校庭の隅に降り立ちゆっくりとその場に田宮良子を下ろした。
「それだけなんですよ? 私はそれさえ守って下されば良いんです……そう言ったじゃないですか、田宮先生。」
そう言って私は人混みに紛れ込むのだった。