愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる   作:ペン汁

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ラブヒーローは島の浜辺で立っている

 

 

 

 

 ゴールドロジャーが死に際に発した一言から始まった大海賊時代。

 数多の海賊たちは、グランドラインの最終地点にあるワンピースを求めて航海を始めた。

 

 そして、そんな大海賊時代に産声をあげ、今まさに海に出た者が1人。

 青年の名は『モンキー・D・ルフィ』。ゴムゴムの実を食べてゴム人間になった、麦わら帽子を被る男である。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「.......し、しぬー、はらへったー」

 

 ルフィは危機的な状況にあった。

 フーシャ村を出たはいいものの、彼には航海術がない。

 持ってきた海図の読み方すらわからず、今自分がどこを彷徨っているかもろくに検討がつかないまま食糧が底をつき、3日も遭難している始末であった。

 

 船の縁に背中を預けて座り込むと、グデーっと体から力を抜ける。

 飢えからか? 脱水症からか? 段々と意識が朦朧とし始め、こっくりこっくりと船を漕ぐように頭を揺らし......。

 

 ついには意識が途絶えてしまった。

 

 

 

「.......い」

 

「.......おい」

 

「おい」

 

 誰かの呼び声で目を覚ますルフィ。

 気を失っている間に、何処かの島へ漂着したようだ。砂浜に船が中程あたりまで打ち上がっている。

 

「寝ぼけるのはいいが、何か食わないと死ぬぞ」

 

 ぼんやりと薄れる視界の中、ハッキリと鼻腔を貫く匂い。

 腹の虫が暴れ狂う音と共に、口から滝の如く涎を垂らす。間違いない、これは......。

 

「肉ーーーッ!!」

 

 その場から飛び上がり、砂浜にあるテーブルの上にドン!と置かれた骨付き肉に飛び付いた。

 三口で自分の顔よりも大きな肉を平らげ、ジョッキ一杯の水を一気に飲み干す。

 飢えと渇きを満たすために暴飲暴食を続け、10分ほど経ったところでようやく「ぷふーっ」と心地よさげな満腹の息を吐いた。

 

「助かった! ありがとな、誰か知らねーけど」

 

 ルフィはお礼を言うために、先程男の声がした方角に目を向けた。

 そこには。

 

 頭から靴先までピチピチの白タイツスーツを纏い、顔には表情が見えないほど濃い赤のバイザーを嵌め込んだ、身長3mで筋肉モリモリの変質者が立っていた。

 

 数拍、時を置いてから、ルフィが一言。

 

「おめー、変な格好してんな」

 

 失礼極まりない一言であった。

 

 

 変な格好、変質者と称された男は腕を組み、海の水平線の方に体を向ける。

 ルフィはその場に胡座をかいたまま、男に話しかけた。

 

「おっさん、こんな所で海見て何やってんだ?」

「......伝説を、待っている」

「? 何の?」

「この島に伝わる『人魚姫』という愛の伝説だ。

 海の怪物が消え去った時、怪物に捕らえられていた魚が美しい姫となりて、浜に現れた愛する人と結ばれる......という話らしい」

 

 ルフィは首を傾げた。

 

「その愛の伝説......ってのは、つまり......おっさんが美しい姫ってのと結婚できるって事か?」

「違うな。私はただそれを見たいだけだ。愛の伝説とまで噂される、2人の愛をな」

「ふーん......」

 

 恋愛に一ミリも興味がないルフィには、到底理解できない話であった。

 興味がなさげなのは男も気付いたのだろう。

 組んでいた腕をほどき、自身の背後を指差した。

 

「この方角をまっすぐ行くと村がある。そこで色々と揃えるといい。酒場もある。代金は私の名前でツケておけ」

「ホントか!? やさしーなーおっさん!! なぁ、名前はなんて言うんだ?」

 

「......私の名前は『()()()()()()』だ」

 

「ラブヒーロー......? おっさん、名前まで変わってんな。まあいいや、ありがとう白いおっさん!」

 

 ルフィは彼に手を振りながら、島にあると言う村まで走っていく。

 『ラブヒーロー』と名乗った男は振り返ることもなく、右手を挙げることで返事を返した。

 

 

 

 

 

「へー......フーシャ村と似たよーな感じだな」

 

 ルフィは村の中をテクテクと歩いていた。

 村の人々は他所者のルフィを邪険にこそしないが、少しだけ奇異の視線を向けていた。他所者自体が珍しいのだから、仕方ないのかもしれない。

 主に食糧、その他諸々、調達しなければいけないものは多いが、とりあえずは。

 

「ちょっと走ったら腹減ってきちまったな。まずは何か食ってからにすっか!」

 

 そう言いながら、ルフィは村唯一の酒場の中に入った。

 

 酒場の中にはまだ日が高いというのに、すでに飲んだくれている者もいた。

 こういう狭い村だと、その日の仕事が終われば時間関係なく飲んだくれるのは割と当たり前なのかもしれない。

 

 他所者のルフィに気を取られる者もいたが、大抵は酔っ払っているので気にすることもない。

 カウンター席にどかっと座り、酒場のマスターに山盛りの食事と水を注文した。

 

 ガツガツガツと料理を胃袋にかっこんで行く。

 そしてチャーハンを口の中に入れたまま、マスターに尋ねた。

 

「なー、ちょっと聞きたいんだけどさ」

「どうしたお客様」

「浜辺で立ってる『()()()()()()』っておっさんの事だけど」

 

 その瞬間。

 酒場の中の雰囲気が一気に静まり返り、シンとした静寂が広がった。

 頭に「?」を浮かべたルフィは、酒場の中をぐるっと見回す。誰も誰もが辛そうに、申し訳なさそうに顔を顰めているのが見てとれた。

 

 そして1分もしない内に、酒場から全ての客が出ていってしまう。

 マスターは背後の棚にある酒瓶を出し、ルフィの前でグラスに注ぐ。そしてそれを一気に飲み干した。

 

「誰もいなくなっちまったな......今日はもう店じまいだ。それ食ったら帰んな」

「......なんかあんのか? あのおっさんに」

「......」

 

 マスターは何も言わない。

 その様子にルフィは口の中のチャーハンを飲み込み、持っていたスプーンを置く。

 

「もしかしてあのおっさん、悪いやつなのか」

「......違う。悪いのは......俺たちの方なんだ」

「え?」

「......これ以上は言いたくねえ。もう俺は引っ込む。食器はそこに置いときな」

 

 そう言って、本当に、マスターは店の奥へと引っ込んでいった。

 

 ルフィには事の経緯が読めなかった。

 言われた通りに食器を置いたまま店を出て、もやもやとした気持ちで村を歩く。

 

 食糧を調達するために向かった店でも、『ラブヒーロー』の名前を出した途端。

 

「......悪いのは私達の方なの。一方的に利用して、怯えてる私達の......」

 

 店主のおばさんがそう言葉を漏らし、申し訳なさそうな表情で顔を歪めた。

 ますます事の経緯がわからなくなってきたルフィ。

 

 その後も道ゆく人に何度か聞いたが、皆が皆辛そうな顔をしていた。

 小さなやんちゃくれの坊主でさえ、悲しそうな顔はしたりしないが、悪口を言うこともなかった。ルフィでさえ「変な格好」だと言ったのだ、小さなやんちゃ坊主ですら一言も悪態を吐かないというのはなんとも違和感のある光景だった。

 

 そうして何度も何度も聞き回っていた頃、とある老人がルフィの前に現れた。

 右足を怪我しているのだろうか。杖をつきながらのろのろと歩き、ルフィと一緒に近くにあったベンチへと座り込む。

 

「君が......浜にいる『ラブヒーロー』さんについて聞き回っている子かね」

「ああ。じっちゃんは誰なんだ?」

「この村の村長じゃよ。そして......私たちが背負った罪について話に来たのじゃ」

「罪?」

「うむ。気になるんじゃろう? 君も」

「ああ。気になる」

 

 ルフィの強い意志がこもった返答。

 杖の持ち手で指を何度も組み直す村長。

 やがて意を結したように、この村の背負った罪についてとやらを話し始めた。

 

「......十数年前、村の付近の海に突然、化け物達が現れたのじゃ。海王類、と呼ばれるものでな。ワシたちはその化け物にずっと苦しめられてきた」

 

 ルフィは過去、シャンクスの腕を奪った近海の主のことを思い出した。

 恐らくあれに近いものだろう。そう納得し話の続きに耳を傾けた。

 

「村の人間が何十人も食われた。ワシの息子もな。何度も倒そうとしたが、一匹も仕留められなかった。

 そして......2年前。化け物を倒そうとしたが、負けかけていたワシ達の所に、『ラブヒーロー』と名乗る彼が現れたのじゃ」

 

 当時を思い出したのか、ごくりと生唾を飲む村長。

 

「もの凄い強さじゃった。とつぜん空から現れ、あれだけ苦しめられた化け物を一撃で、跡形もなく消しとばした。

 ワシら村の人間は大いに喜んだ。じゃが化け物はまだまだ残っている。そしてワシらは......一つの『()』を吐いた。」

「嘘?」

 

 ルフィが聞き返す。

 

「彼は『愛』に固執していた。だから......それに関係する嘘を吐いたのじゃ。

 ラブヒーローさんは、この島に伝わる愛の伝説の話をしておらんかったかの」

「ああ、してた。......まさか」

「そのまさかじゃ。彼の言っていた伝説はワシ達が作った『嘘の伝説』。村の周りの化け物が消えれば、美しい姫が現れ、結ばれるなどという陳腐なものじゃが......。

 じゃが彼はそれを信じ、1日で村の周りの化け物を一匹残らず消し去った。ワシらは喜んだよ。

 しかし、彼はそれから2年間ずっと、あの砂浜で伝説通りの姫を待ち続けた。そんなものありはしないというのに。村の恩人に向かって、ワシ達は、とんでもない嘘を吐いてしまった。

 それがこの村の『()』なのじゃ」

 

 村長は最後まで話した後、顔を伏せた。

 少しの間黙っていたルフィは、村長に言う。

 

「そんなの、嘘って言えばいいんじゃねえか?」

「......彼はもの凄い強さじゃった。この島なんか簡単に吹き飛ばせるぐらいにのう。

 もし彼が嘘だと知り、怒ればどうなる? 最悪、この村ごと島を滅ぼすじゃろう。村長として、村の皆を守る義務があるワシには、そんなことはできんのじゃ......」

 

 そんな風に言った後。

 血が出そうなほどぎゅうっと杖を握りしめ、村長はボロボロと涙を流し始めた。

 

「違う......違う。本当は、彼の強さが心の底から怖いだけなんじゃ。

 恩人に対して恐怖し、嘘を吐いたことが怖くて言い出せないなど......そしてその恐怖を隠すために今、嘘を吐いてしまうなど......

 弱い自分が情けない......情けのうて仕方がない......!」

 

 村長の流した涙が足下に水溜りを作るのを見て、ルフィは優しい声で返した。

 

「違えよ、村長のじっちゃん」

「え......?」

「じっちゃんがおっさんの事を怖がってるのは本当だ。けど、村のみんなの事をも考えてるのも本当だろ。

 どっちも本当なんだ」

 

 麦わら帽子を外し、ニコリと笑うルフィ。

 

「だからよ。その嘘の伝説って奴も、『()()』にしちまえばいいんだ」

「......どういう、ことじゃ?」

「村全員で、その嘘の伝説を再現をするんだ。そしたら、あのおっさんもきっと騙されたなんて気づきやしないさ。

 嘘を重ねるんじゃない、全て本当にしちまうんだ。これなら大丈夫だろ?」

 

 ルフィが出した案に、村長は感動する。

 

「そりゃ、ええのう......ええ案じゃ......!」

 

 村長は立ち上がった。

 

「すぐに村全員で準備に取り掛かる。申し訳ないが、協力してくれるかの?」

「ああ、もちろんだ。ニシシ、おんもしれ〜ことになりそーだな!」

「......ふふ。君は、名前はなんて言うんじゃ?」

「俺か? 俺は、モンキー・D・ルフィだ!」

 

 ......かくして。

 村を興した、一世一代の、『()()()()()()()』ための準備が始まった。

 

 

 

 




習作
フィルムRED楽しみにしてます
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