愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
……大男をぶちのめした日から数日経過した。
海賊が来るとすればもうすぐだとは思うが……。
コアが俺の寝ぐらの近くでバタバタ動いているのを横目に、頭に巻いた包帯を外す。血は完全に止まっていた。
「おっ! 相変わらず回復早いね〜。普通そういう傷って一晩で治んないんだけどなぁ」
「いつものことだ……ところで、さっきから俺の寝ぐらの近くで何してる?」
「いやー、うちの犬が粗相しちゃって……」
「……」
へっへっと舌を垂らしながら近寄ってくる犬の額を、軽くデコピンで弾いた。キャイン!と鳴いてから辺りをバタバタ走り回り、俺の寝ぐらを更に荒らす。
この犬……。
「あっ! あーあー、もー。プー太は弱虫なんだからそんな事しちゃダメだよ」
「前々から思っていたが、そのプー太とかいう名前は何とかならないのか」
「よくない? プー太」
犬の名前にしては少しダサい気もする。
まぁ、いいか。アホ面犬にはそれぐらいがちょうど……俺の顔を舐めるな!
ーーーーーーーーーーーーー
時を同じくして、ゴミの陸岸。
一隻の大きな海賊船が泊まり、ゾロゾロと海賊達が島へと上陸し始めていた。
「くっせえ……ここで生活してる奴らの鼻はどうなってんだ?」
「臭さを感じる程の脳もねえんだろ。何せここは、何もかも終わった奴が行き着く場所だからな」
「大量殺人に国家転覆を狙ったテロリスト、その他諸々……はっ、自由にやってる海賊よりよっぽどタチが悪い」
「違えねえ。殺しても何にも心が痛まねえって訳だ」
彼らは下っ端といえど、新世界を生きる海賊。
一般人が敵うような者ではない。
「ったく、臭くてかなわねぇな……」
一番最後に降りてきた赤ローブの男。
この船の船長であるジョッキーだ。
鼻を手で掴み、顔を大きく歪めている。
「お前ら、例のガキを探してここに連れて来い! 一時間以内に捕まえられなかったら……この島に
「え……!?」
ざわざわと部下の海賊達がざわめく。
その中の1人が、汗をダラダラと流し焦った様子で進言した。
「船長、あんなの撃ったらこの島もろとも俺達も死んじまいます!」
「……ふーむ? 確かにそうかもな?」
ジョッキーはわざとらしく首を傾げ……一瞬で、進言した部下の顔を掴み上げた。腕をガスにして伸ばしたのである。
部下の体を近くに引き寄せ、怒り狂った様子で、口から唾を飛ばすほど大きく声を荒げた。
「なんで俺がお前らの命にまで気をかけなきゃいけねェんだ!!
……もういいや、お前。死んどけ?」
「ム”ーー! ム”ーーーー!!」
ジョッキーの手から、部下の口の中に怪しげな色をしたガスが入り込んでいく。
10秒ほどで部下の全身に赤いイボのような物が大量に発生し、そこから赤黒い色の液体がドロドロと流れ始めた。
やがてイボは周囲の肉と共に溶け始め、部下の体は胴の辺りから、腐ったゴムの様にブチブチと千切れ落ちた。誰がどう見ても即死である。
「アレが
「あんな死に方したくねぇよ……」
周囲のゴミに負けず劣らずの血の匂い。
ジョッキーは死んだ部下の亡骸を放り捨て、自身のポケットに入っていたハンカチで手を拭う。
「お前らもこうなりたくなかったら……分かってるよな?」
「は、はい!! ジョッキー船長!!」
部下の海賊達は駆けていく。
一時間以内に例のガキを船に連れて行かなければ、死ぬのは自分達だ。恐ろしいジョッキー船長は絶対に躊躇わない。
総勢100名を超える海賊達が、世界のゴミ捨て場を駆けずり始めた。
ーーーーーーーーーーーーー
「! ……来たか」
コアと共にいた子供は、島が妙な雰囲気で覆われ始めたのに気が付いた。きっと海賊達が来たのだろう。
「何が来たの?」
「海賊だ。100人はいるらしいが……とにかく、事が終わるまで隠れていろ」
子供が立ち上がり、辺りを見回してから、一番近い海賊の元へ向かおうとした。
そんな彼の手を、コアが掴む。
「待ってよ」
「……離せ」
手を振り払う。
が、すぐに掴み直される。
「待ちなさい!」
「断る」
「……こ、この辺りの海賊って言ったら、高額の賞金首だってこともありえるの! そんなのが100人もいるなんて、し、死んじゃうよ……!」
震えた声でそう言ったコア。
彼女の言葉を聞き終わってから、一度目を閉じ、もう片方の手で彼女の手を優しく解いた。
それから、両手でギュッと彼女の手を握る。
「俺は死なない。この島の愛を守る為なら……何があっても立ち上がってやる」
「あ……」
彼女とは反対の方向に踵を返し、ズンズンと進んでいく。
「ダメだって……死んじゃったら、何にもないんだよ……」
そんな彼の様子を、コアはへたり込んで、ただ後ろから見ていた。
ーーーーーーーーーーーーー
「! おいアレ……!」
「ああ、間違いねえ! いたぞ!!
海賊達が一斉に、小高いゴミの山の上へと視線を向けた。
その上に立つは、この街の愛を守る名前のない子供。
「この場にいるだけで、65人……後で集まってくるか」
まぁいい。
山から飛び降り、海賊達の前に降り立った。
「俺は、お前らのような愛を乱して止まない存在を消す者だ」
「何を抜かしてんだ糞ガキーーっ!?」
飛び込んできた海賊の一撃を避け、顎に
予期せぬ一撃に顎を跳ねられ、脳を揺らした海賊は、後ろにのけぞりながらそのまま倒れていった。
「こいつ、やっぱり悪魔の実の能力者だ……!」
海賊たちに動揺が広がる。
悪魔の実の能力者、というのはよく分からないが、彼らが俺に向けている警戒のレベルが一段階引き上がったのは確かだ。
ーーー戦いが始まる。
手当たり次第に海賊を倒していく。
途中何度か攻撃を貰いはしたものの、命に全く別状がない程度だ。
追加でやってきた海賊。
確かにこの島のチンピラよりも強いが、毛が生えた程度だ。
サーベルの攻撃を避け、腹に拳を入れる。蹲った男の顎を横に蹴り飛ばし、そのまま昏倒させた。
「これで112人目.......。流石にもう打ち止めか?」
「うっ......うぅ......」
「ん」
全身の所々から血を流す子供。
倒した海賊の1人が意識を取り戻したのに気が付き、ズンズンと近づいていった。
動けそうにない海賊の胸倉を掴み、そのまま持ち上げる。
「どいつもこいつも似たり寄ったりな強さ。......船長は何処だ?」
今まで倒した海賊全てが凡庸な強さ。
この中にキャプテンが含まれているのなら、これほど楽な話はないが......そう言った希望的観測は持つべきではないだろう。
「う......早く、船に連れて行かないと......
「!? 死王毒とは何だ?! おい......クソ!」
意識を失う海賊。その辺に体を放り投げる。
死王毒......明らかにヤバそうな名前だ。一体何の名前だ? 少なくともロクな物ではないだろう。
「船、とにかく船だ......!」
何か分からないが、とてもヤバい予感がする。
それもとびっきりに悪い方の予感だ。
岸の方へ向けて、全速力で走り始めた。
海の方へ行くと、見慣れない海賊船を直ぐに見つけることができた。
その船の上で、鼻栓とアイマスクをして大きなハンモックの上に寝っ転がる赤いローブの男。
先程の海賊達とは態度の大きさも感じる圧も桁違いだ。あれが船長で間違い無いだろう。
一撃必殺。全力で行く。
懐から黒い塊を取り出し、両手の親指と人差し指の間に挟む。
ゴミの影から一気に飛び出し、黒い塊を力強く弾いた。
「ーーーーー
「ん......?」
船長らしき男に当たる直前、巨大化する黒い球。
あの球の正体は、鋭い瓦礫をいくつか纏めて圧縮した物だ。直撃すれば無事では済まない。
そんな物が直撃した、筈なのに。
「ガ〜スススス......中々面白い攻撃をするじゃねえか。悪魔の実の能力者か。ま、俺の敵じゃねえけどよォ〜」
「馬鹿な.....!?」
膨張した瓦礫群は、白いガスの様な物に覆われ、受け止められていた。
ガスの発生源はあの船長らしき男。右手が白いガスとなり、瓦礫を空中に持ち上げている。
「しかし、チッ。あの馬鹿共、こんなガキにやられちまったのか? 使えねー部下を持つと苦労するもんだ......なッ!!」
「!!」
奴が右腕を振りかぶり、瓦礫をこちらに投げ付けてくる。俺が弾くより速い!!
ーーーーーーズドンッ!!
辛うじて瓦礫を避けた。飛び散った石が皮膚を裂き、血が流れ出る。
「ーーしゃーねェ。使えそうなら、お前を小間使いとして連れていくか」
「ッ!?」
いつのまにか右隣にいた船長。
そして頬に走る衝撃。今までに体験したことがない様な強さで殴られ、首からミシッと嫌な音がする。
歯を食いしばって耐え、足で奴の体を蹴る。が、まるで空を切る様に、奴の体を足がすり抜けていった。
「ロギアに物理攻撃が効くわけねえだろ!」
腹に強烈な蹴りが打ち込まれる。
体が後方に吹っ飛ぶ。が、白いガスが胴に巻き付き、ガクン!と体が滅茶苦茶な方向に引っ張られ始めた。
ゴミの山、崩れた建物、積み重なった瓦礫。
その全てに様々な方向から何度も何度も叩きつけられ、白いガスが体から離れた時には、全身が血まみれになっていた。
「ごプッ......!」
口から血が溢れる。
強すぎる。
とてもではないが勝てそうな相手ではない。
ゆったりとした足音が近づいてくる。
「そういや、俺の名前をまだ言ってなかったな? 毒息独王のジョッキーって名で通ってる者だ。よろしく、なッ!」
顔が踏みつけられる。
鼻血まで出てきた。息が満足に出来ない。
「おいおい靴裏に血の糸が引いてるじゃねえか。汚ねえな。
......こんな強さの奴を連れて行っても、あの馬鹿共の二の舞になるか。ま、大人しく死ねよ」
動けない。
ジョッキーと名乗る男が、足を上げる。
まずい。あれを食らったら死ぬ。
......まあいいか。
もう、
もう......。
「ーーーーバウバウバウッ!!」
何処からか犬の吠える声が聞こえた。
あのアホ面の犬、プー太の姿が見える。ものすごい勢いでこちらの走ってきて、ジャッキーの足に噛みつく。
「あ?」
ロギアに物理攻撃は通じない。
それは犬の噛みつきでも例外ではない。ガチガチガチ!と歯の重なる音を響かせながら、何度も何度も足を噛み続ける。
「何だこの犬......」
「プー太!!」
聞き覚えのある声。
視界の端に入ったのは、赤い髪を振り乱しながら走ってくるコアだった。
「......な"、な"んで来たん"だ......!」
俺でも敵わないのに、コアが勝てるわけが無い。
ジョッキーが足に噛みつく犬の首にガスを巻きつけ、地面に押さえつける。
「へぇ〜? こりゃあ珍しい人間だ。『諦めの医師』様とこんな所で会えるとはなぁ」
「!? どうしてその名前を......!」
「有名な通り名だぜ? なあガキ、聞きたいか? この女の悪行をよ?」
「......やめて、その子だけには......!」
もう声も出ない。
必死に体の回復に努めている以上、耳を防ぐこともできない。
「この女はな、伝染病の子供の点滴に毒を仕込んで、100人以上もぶっ殺しちまったんだ!
子供の完治を待つ家族もいたってのになぁ、可哀想になぁ! 医者が医療を諦めるなんて笑い話にもなりゃしねえ!!」
「......!」
子供を殺した、家族が待つ子供を......コアが......?
俺の身近にいる人間が、誰かの愛を壊した人間だったのか......?
「違うの、違う......!」
「何が違うってんだ? クズ医者がよ!!」
「ぐッ!!」
ジョッキーが腕をガスにし、コアの首を掴む。
そうして、奴は、悪どくにやけた顔を俺に向けた。
「なあガキ。この女を殺せば、お前を助けてやる。
この世からどうしようもないクズ医者を消して、命も助かる。悪い話じゃねえだろ?」
「コアを、殺す......」
赤髪の、医者のコア。
チンピラに虐められていた野良の子犬を抱え、代わりに殴られていた女。
助けた時からずっとくっついて来て、一緒にいるのがいつしか楽しくなっていた彼女。
けど、コアは愛を壊したんだ。
壊した......許せない。許せない......!
ゆらりと、立ち上がる。
懐から黒い弾を取り出し、コアの腹に押し当てる。
圧縮を解除すれば、彼女の体では絶対に耐えられない。即死だ。
即死、即死、即死。
苦しまず死ぬ。やるんだ、やる、今......!
「......いいよ」
コアが言う。
許可も出た。殺したら俺に得ばかりじゃないか。
彼女の命を犠牲にすれば、これからも誰かの愛を守り続けられる......。
「......」
「どうした? やれよ」
「......できない。できま、せん......!」
「はあ? あーあ、お前」
ジョッキーに蹴り飛ばされる。
後方に吹っ飛び、2mほど離れた所で地面に倒れた。
「俺には、誰かを犠牲にして誰かの愛を守るなんてできない......! コアがそんなことする訳ないんだ、きっと別の理由がーー」
「そういう話をしてんじゃねェんだ」
冷たい声。
コアが苦しそうな顔をする。
「やめろ、やめてくれ! もう手は出さない! 絶対にだ! だから、コアとプー太を」
みっともなく懇願する。
情けないことこの上ない。だが、俺ではこの男に勝てない。
だから、こうやって自分の無様を晒しながら許しを乞うことしかできない。
すると、ジョッキーが。
「お前さァ。良い奴と悪い奴の共通点って知ってるか?」
「え......?」
ニヤッと笑って。
「『
ーーーーーー
......死の毒ガスが、島を覆い始めた。
滅茶苦茶伸びてる……。
あまりに伸びすぎて怖いので、この辺で鬱展開を入れます(悪魔)。
次は鬱じゃないから安心!
書きたいところだけ書いてるので、何か話のテンポとか繋ぎがおかしくなってますが、ご容赦下さい。