愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
「
島を覆い尽くすほどの毒ガスが、ジョッキーの身体から溢れ出す。
毒ガスの色は、名状しがたい色。黒と紫を混ぜ合わせ、ずっと行ったり来たりしているような色だ。
「あ……」
奴の体から出ている毒ガスは、当然、奴の体に触れているコアとプー太にも影響を及ぼす。
彼らは死王毒を吸い込み、全身の肌に赤黒い泡のようなものが発生し……やがて、体の中央から、ぼろりと崩れてしまった。
肉片が地面に転がる。
黒い血がスーッと広がるのを見て……コアとプー太が、死んだことを理解してしまった。
「…………」
立ち上がる気力がない。
五指で地面を擦るぐらいしかできない。心が折れそうだ。
そんな俺を見て、ジョッキーは心底楽しそうな笑みを浮かべる。
「死王毒はこの島一帯を覆い尽くす。だが、この辺りはわざと晴らしてやってんだ。なんでか分かるか?」
「…………」
口が動かない。
「お前みたいな生意気なガキの、絶望する様を近くで拝んでやりたいからだよ。ん? ほら、今なら実体化をしてるから殴れるぞ?」
「……っ、くそ野郎!!」
「遅いなぁ」
これ見よがしに頬を人差し指で叩くジョッキー。
咄嗟に立ち上がって殴り掛かるが、鈍い拳は簡単に避けられ、腹に膝蹴りを叩き込まれる。
倒れ込みそうになるが、髪を掴まれ、頭を無理やり引き上げられた。
「最後にも一つ、良いこと教えてやるよ。
あの『諦めの医師』コア……伝染病の子供に毒を仕込んで殺したって言ったよな? その伝染病の症状は、体に赤黒い発疹が出来て、どんどん壊死していくっつーモンだ。
……なぁ、何かに似てると思わないか?」
赤黒い発疹。その後に、体が壊死していく。
なんだそれ。まるで……さっきこいつが出した……。
「俺の死王毒の影響なんだ、その伝染病は。
威力を上げるために実験してたら、偶然、痛みと苦しみだけが長く続く毒ガスが出来ちまってな。それが誤って、無垢な子供達に広まっちまったってわけだ。
可哀そうに、毎晩痛い痛いって泣き声が聞こえてたよ……プッ」
ジョッキーの告白。
全ての元凶は、この島に俺が呼び寄せてしまった、この海賊だった。
「……どいつもこいつも、馬鹿で哀れな頭をしてるよな?
不用心に毒ガスを吸っちまった子供も、その苦しみから助けるために殺しちまった医者も、その医者を迫害した人間共も。
……強くもねえのに、海賊を舐め腐って、この島を終わらせちまった
…………。
俺がこの島を、終わらせたんだ。
コアも、プー太も、俺が今まで助けて来た人達も。
贖罪なんてできる訳がない。俺の罪はそれほどまでに大きい。
でも……せめて、ほんの少しだけでも、償いができるとしたら――――。
「さ、死王毒も大体回った頃だ。お前もそろそろ死ぬか」
ジョッキーが掴んでいた髪を離し、地面に這いつくばるガキに右手を向ける。
子供は悔しそうに地面の砂を固く握り、ダン!と地を叩いた。
「海賊というのが、お前のような奴ばかりなら」
「あ?」
「俺はきっと……海賊ってのを、一生憎み続ける」
「……何言ってんだ、お前」
不可解そうな顔をしたジョッキーが、右手を毒ガスに変化させた瞬間。
子供がバッ!とジョッキーに右手を向けた。
その時――。
バンッ!!
「!? な……なんだ、今のは?!」
何かの炸裂音と共に、ジョッキーの体が大きく後方に吹っ飛ばされた。
ロギアの悪魔の実を食べた物には、物理攻撃は効かない。覇気という例外もあるが、それはこのガキには使えないはずだ。使えたらとっくに使ってる。
右手を地面に突き、ゆっくりと立ち上がる子供。
まさか、このガキ……。
「覚悟しろよクソ野郎。
愛を乱してしょうがない、お前みたいなゴミクズは……俺が、この世から消してやる」
ジョッキーの顔が真っ赤に染まる。
「舐めるなァ!! この小汚いガキが!!
両手から吹き出す、人を殺して余りある殺人兵器。
それは、子供の眼前まで一秒と掛からず飛来し――余すことなく、飲み込んだ。
「……ガ、ガススス……。馬鹿が、俺に立てつくからだ。
俺は懸賞金3億8000万ベリーの大海賊、毒息独王の――」
生きれるわけがない。絶対に死んだ。
なのに。
「一体どこに向かって名乗ってる?」
「あ”!?」
ジョッキーは上を見上げた。
空高く、天高く、地上から20mは離れたところで――さっきのガキが仁王立ちしていた。
「お前、まさか……!」
悪魔の実の能力には、更に一段階、上のステージが存在する。
どうやって上のステージに上がるか、詳しくは分からない。
だが基本的には、長い長い能力の習熟の果てに辿り着くものだ。
そうした、上のステージに登ることを……強者たちは『
「覚醒だと……!? 俺だって出来てねえものを、お前みたいなガキが出来る訳ねえだろうが!!」
「……覚醒……?」
俺は、自分の両手を見つめた。
なんだか、頭の中が広がったような感覚がする。
今までは、体に触れた物だけを圧縮させることができた。
だが今は……体に触れていない物や、
「
ジョッキーが体を膨らまし、巨大化する。
全長が約15m近くの大きさになり、体を構成する毒ガスは殺人兵器の死王毒。
「ガススス……! だがな、ガキが覚醒した程度で俺に勝てると思うなよ!!」
「やってみればわかる……」
空に毒ガスが蔓延する。
周囲を飛ぶ鳥は体を崩壊させ、海岸の近くに住む水生生物が命を落としてぷかぷかと水面に浮き上がり始めた。
「ガスタネット!!」
ジョッキーが指を鳴らす。
瞬間、周囲に爆発性のガスが蔓延し、起爆。常人なら骨も残らない。
「
しかし、子供は避けていた。
周囲の空気を人が乗れるほどにまで圧縮。そして圧縮を一気に解除する。
すると、その上に乗っている人間程度なら、簡単に吹っ飛ばされるのだ。それも物凄い速度で。
自分の行く先に空気の壁を作り、圧縮を解除。そして吹っ飛ばされる。
それを何度も何度も繰り返すことで、ジョッキーの周囲を目にも止まらぬ速度で移動していく。
「ぐッ……! 舐めるな!!
ガス操作の要領で、周囲から酸素を奪う。
覚醒してまだ間もない奴は、能力の使用にかなりの負担を強いられるはずだ。
ずっとその速度で移動してみろ、すぐにバテて酸欠で死ぬ。
が、子供は止まる気配がない。
「な、何故――がッフ!!!」
一瞬のスキを突かれ、背後から攻撃を貰う。
ロギアの彼が攻撃を喰らうなど、本来ありえないことだが……。それは、子供の攻撃の方法に理由があった。
彼は周囲の空気を圧縮し、その圧縮を解除、空気を一気に膨張させることで、相手に衝撃を与える。
ジョッキーの体もガス、いわば空気。空気ごと伝わる強い衝撃はもろに受けてしまうのだ。ガスガスの実の唯一の弱点である。
「そ、それにしても、なぜ息が切れな――はッ!!」
子供の口元から、鋭く息が漏れるような音が聞こえた。
そう、あらかじめ酸素が奪われることを見越して――酸素をいくつも圧縮し、その塊たちを口の中に含んでいたのだ。
塊を息が苦しくなるたびに解除すれば、酸欠を起こすこともない。
「こんっ……のクソガキ、俺のことを舐め腐りやがってェ~~!!」
激高するジョッキー。
それを冷静に見つめる子供。
一見ジョッキーのことを翻弄している彼だが、一つ、どうしても埋まらない差があった。
(決め手がない……)
空気でダメージを与えられはするものの、奴を倒すほどの威力はない。
せいぜい勢いよく吹っ飛ばすだけだ。これは、覚醒したばかりで実の技量が十分でないためである。
だが、奴も俺と同じく悪魔の実を食べている。
そして、コアに昔、こんな話を聞いたことがあった。
『いい? 絶対に海に入っちゃダメだからね!! 悪魔の実を食べた者は海に嫌われて、永遠に泳げなくなっちゃうって話なんだから!!』
『……どれくらい泳げないんだ?』
『……誰かの助けを借りないと本当に危険なぐらい、なのかな? ……とにかく、一人ではそもそも海に近づかない事!!』
『わかった』
……これしかない。
あの男、ジョッキーを海に叩き落す。それしか勝ち筋はない。
だが奴も海には最大限の警戒を払っているはず。
ならばこちらも、覚悟を決めなければならない。奴が冷静さを失うほどの覚悟を、見せないといけない。
飛び回っていた体を止め、空中に立つ。
そして、わざとらしくジョッキーの方に振り向き、左手の中指と人差し指をくいくいと動かした。
「動きが遅すぎて話にならないな。止まっていてやるから、全力で当ててみろ」
分かりやすすぎる挑発。
だが。
「――ふざけるなァ!!! グズグズの肉片になってから後悔するなよォ~~~!!!!」
単純な男。ジョッキーはすぐに挑発に乗っかかった。
奴は地面から細かな石を浮かび上がらせ、両腕を前に突き出す。
両腕の周りをどす黒いガスが回り始める。一秒経過するごとにその回転は速度を増していく。
そしてその回転が最高点に達した瞬間、浮かび上がらせていた石をそのガスの中に混ぜ込んだ。
「
どす黒い毒ガスに、高速回転する石が混じった、一直線の攻撃。
石が相手の皮膚を切り裂き、傷口から毒ガスが侵入し、相手の体を崩壊させる非常に強力で残忍な技。
そんな技を相手に。
「
足元の空気を膨張させ、真正面から毒ガスの砲撃に突っ込む。
口の中に酸素は入っている。呼吸で毒を吸う心配はない。
「―――ッ!」
まだ覚醒したばかりで、技量の足りていない空気の壁。
時折石によって空気が切り裂かれ、皮膚を傷つける。そこから毒ガスが侵入し、体にボコボコと赤黒い発疹が発生する。転げ回りたくなるほど痛い。
だが、止まらない。止まれない。
この男だけは、絶対にここで始末する。始末しないといけないんだ。
「うぉぉおああああああああああああ!!!」
初めて、心の底から闘志を振り絞るために雄たけびを上げる。
周囲の空気の壁が完全に崩壊する直前、ついにジョッキーの懐へと入り込むことが出来た。
驚愕の表情をするジョッキー。
「馬鹿な!! 俺の最強の技を――」
空気の壁じゃあ駄目だ。奴の巨体を吹き飛ばすには力が足りない。だが今の俺ではこれ以上威力を上げることもできない。
だったら、数で押すしかないだろ!!
手のひらに圧縮した空気を何層にも重ね、ジョッキーの顔面に押し当てた。
「
「ぐがッ!?」
ジョッキーの顔が歪む。今俺が出せる最高出力の一撃だ。
奴は物凄い勢いで後方に吹っ飛ばされていき、俺も少しだけ背後に吹っ飛ばされる。途轍もない衝撃だ。
しかし、すぐに足元に空気の壁を作り、ジョッキーを追いかけた。
吹っ飛ばされているうちに、周囲に纏っていた死王毒がはがれていき、通常のサイズに戻っていくジョッキー。
「――こいつ、海に俺を落とす気か!! させるかよ、そんなこと!!」
吹っ飛ばされている途中で、ジョッキーが何とか体勢を立て直す。
だが体勢を立て直したのは海面スレスレ。危なかった。
追いついて来たガキが見える。
両手を広げ、ぶわっと白い煙を発生させた。そして大声で叫ぶ。
「はッ、馬鹿が! ここから俺を倒せると思ってんのか!?」
発生させた白い煙の正体は、水蒸気。
海面から蒸発する水蒸気を巻き上げ、操作し、周囲の温度を強制的に上昇させる。
さっき攻撃を当てられたのは、渾身の一撃を破られた油断から来るものだ。次は喰らわねえ!
周囲の温度はぐんぐん上昇していく。もう100度に近い。
近づける物なら近づいてみろ、一瞬で重症の火傷を負うのが落ちだ。そこから死王毒を入れて今度こそ殺してやる。
近づいてこないなら来ないで、ここら一帯全てを汚染するほどの量の死王毒を放つ準備ができる。そうすりゃいくら何でも耐えられねえだろう。
どっちに転んだってお前の負けだ、クソガキ!!
「……愛の表現には、しばしば光、というものが用いられる」
ガキの言葉が聞こえる。意味の分からない妄言だ。
無視しようとして――瞬間。ジョッキーは異変に気付く。せっかく上げた周囲の温度が急激に下がり始めていた。
「光の中で完全な一番、象徴とも言える物は――
「な、何だ!? 何が起きてる?!」
ジョッキーが温度を上げようとするよりも早く、温度は下がっていく。
やがて水蒸気が晴れ、ジョッキーが目にしたものは。
「超圧縮した熱の塊――。俺はこの技を、『
「な、あ……!?」
あんなものを喰らったら、いくらロギアでも死んじまう。
すぐにその場から逃げようとしたが、ガキが左手をこちらに向けた瞬間、体が動かなくなる。
「周囲の空気を圧縮して壁を作った。お前ならすぐに壊せるだろうが……一秒も止まれば十分だ」
「や、やめろ……! す、すまなかった! もうお前に手は出さない! だから許して――」
――右手に浮かばせた太陽を、大きく振りかぶり。
「死ね、クソ野郎!!」
思いきり、ジョッキーに投げつけた。
「う、ぐ、ぐわぁああああああああ!!!!」
太陽と称されるほどの熱の塊は、ロギアの体でも透過できなかった。
情けない叫び声と共に、ジョッキーは海の底へと沈んでいく。
海水で力が抜ける上、熱の塊である太陽に触れ続けるのだ。絶対に生き残れはしない。
......この時世界の何処かに生まれたガスガスの実を、またロクでもない奴が口にするのだが、それはまた別の話である。
「……ふー……」
口から息が漏れた。
足元の空気の壁にへたり込むように座り、ゆっくりと空に視線を向ける。
そこには、自身が作った太陽とは比べ物にならないほど高く、強大で……世界中の愛を作る、本物の太陽が浮かんでいた。
それを見て、少しだけ目を細めた悲しそうな表情を浮かべる。
「……勝てたぞ、コア。
…………俺、誰かの愛を守れたかな……」
その独り言は、誰にも聞こえることはなかった。
オリ技多すぎだろ!
厨二臭いとかは言わないでください作者が必死に考えたんです
そして申し訳ありませんが、明日の更新はお休みさせていただきます