愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる   作:ペン汁

13 / 41
ラブヒーローは本気で戦う

 

 

 

「――最近、よく苛立つ」

 

 ラブヒーローが手で顔を覆った。

 

「思い返すと、その大体の原因は……私の過去を探り回る貴様らだ。

 ……私の過去を漁って何になる? 果てしなく無意味だ。言っておいてやるが、私の身内はもういない。本当に価値がないんだ」

 

 ビキッと、顔を覆う手に血管が浮かぶ。

 低い、低い、怒気の籠った声。

 

「特に貴様だ、ゼファー。

 私はシャボンディ諸島で海軍を引退しろと言い、その御大層な機械の腕(バトルスマッシャー)まで壊したよな? それが何をどう転んだら、もう一度腕を付けて挑んでくることになるんだ?」

「…………」

「それに、どうして青雉が私の『()()』を知っている。調べたのか?」

 

 何も答えないゼファー。

 青雉もゆっくりと立ち上がり、元海軍大将と現海軍大将がラブヒーローの方を向く。

 

 背後から、白ひげのグラグラの実が発動する音が響いて来た。

 恐らくエースを追った赤犬と交戦しているのだろう。モンキー・D・ルフィ達の救援に行く必要はない。

 

 つまり、ラブヒーローが彼らを助けに行くということはなく。

 この戦場でトップ10に食い込む強者たちが衝突するのはもはや避けられなかった。

 ゼファーが、バトルスマッシャーを構えながら言う。

 

「ラブヒーロー、悪いことは言わん。……もう大人しくしろ」

 

「……悪いこと? 大人しくしろ?

 私に向かってもう関わるなと言ったはずだ、この時代遅れの老兵がッ!! いちいち口を挟むなッッ!!」

 

 怒りが頂点に達したのは、顔から手を外して声を荒げるラブヒーロー。

 濃い赤のバイザーで表情は見えないが、きっと怒りに満ちた恐ろしい形相をしていることだろう。

 

 ギチギチ……!と、周囲の空気から異音が鳴り始める。

 

 

「―――貴様らの()()を消し飛ばそう。一生車椅子と仲良しこよしにしてやる。そうすればもう私の前に姿を現すこともない」

 

 

 

 

 向かい合う青雉が、恩師であるゼファーの前に手を出す。

 

「ゼファーさん、下がっててくれませんか。ここは俺が……」

「馬鹿野郎。クザン、お前ひとりで抑えられる相手か」

 

 ゼファーは青雉の腕をどかした。

 懸賞金32億2000万というのは運で付けられるような金額ではない。天竜人を殺したという大犯罪を加味しても、そんな金額が付くことはそうそうない。つまり、大犯罪という土台の上に圧倒的かつ純粋な強さが乗っかっているのだ。

 大将でさえ鎮圧できるかは分からないレベルである。相性差では負けるなんてことも十分にありえる。

 

 それゆえに、青雉は困った様子で頬を指でかいた。

 

「そりゃァ~……まぁ~……」

「安心しろ、足手纏いにはならん」

「そういう話じゃ……まぁ、しゃーねェか」

 

 青雉は諦めた。

 ゼファーが一度決めたことを曲げるなんてことはないからだ。ましてラブヒーロー関連に関しては絶対に折れない。

 白い愛の化け物を捉えるため、2人は構えた。

 

 

 

 

ミニッツ・コア(小さな太陽)

 

 

 一瞬で右の手のひらを向け、直径3mの熱の塊を生み出す。

 それをゼファーと青雉の2人に向かって撃ち放った。

 

「舐めた太陽を撃ってんじゃねェ!!」

 

 ゼファーがバトルスマッシャーを振りかぶり、迫る太陽に勢いよくぶつけた。

 頭が割れるほどに大きな衝突音と、肌を焦がす熱気。

 だが太陽を完全に受け止め、バトルスマッシャーを最大出力で爆発させた。 

 

 完全に消え去る太陽。

 ラブヒーローの放つコアは、余りに大きな衝撃を与えられると熱が霧散してしまうのだ。これは圧縮した空気にも共通する弱点である。

 

「アイス塊・パルチザン!」

 

 空に飛び上がった青雉。

 10本ほど生み出された氷の矛は、1本だけでも簡単に人に致命傷を与えられる。

 

「小賢しい」

 

 しかし、その矛は一本残らず、白い武装色で覆われた右腕で薙ぎ払われた。

 

「まァ防ぐわな。アイスソード!!」

 

 何処からともなく、何かの金属片を取り出す青雉。恐らく割れたサーベルの破片だろう。

 それを軸に長さ2mほどの頑丈な氷の剣を作り出し、ラブヒーローに斬りかかった。

 

 青雉は剣の軌道が遅い。扱いに慣れていないからだ。

 見聞色で楽に軌道を見切ると、覇気を纏った手で剣の刃をガシッ!と受け止めた。

 

「そのまま止めてろクザン!!」

 

 剃で素早く近づくゼファー。

 バトルスマッシャーで殴り掛かるも、白い武装色を纏った左手で受け止められる。

 

 

「――鬱陶しい!!」

 

 ラブヒーローが2人を勢いよく弾き飛ばした。

 背後に飛び下がる青雉とゼファー。だが2人とも着地した瞬間に剃を使い、ラブヒーローに連続攻撃を仕掛ける。

 

 

 ――ガァン!! ギィン!!

 

 ――ドゴッ!! バキッ!!

 

 

 青雉が荒々しく斬りかかり、ラブヒーローが防いだ隙にゼファーが殴り掛かる。

 両者からの攻撃を見聞色の覇気を使いながら、後退しつつ防ぐラブヒーロー。

 

 しかしこうも近づかれると、高威力の太陽を放つことができない。

 アレは高威力の代わりに手のひらで熱を圧縮しなければならないという弱点がある。それ以外にも、弱点はあるが。

 

「チッ――空気の壁(エアウォール)!!」

 

 ラブヒーローはノーモーションで放てる空気の壁を選択した。

 青雉の攻撃を防ぎ、彼を吹き飛ばす。

 

 だが青雉は吹き飛びざまに、手に持っていたアイスソードをラブヒーローに向かって放り投げた。

 当然、覇気の籠った手で弾く。

 

 ――だが、その瞬間。

 

 

「!!」

 

 ゼファーの黒腕が、ラブヒーローの右手を掴んだ。

 左手もバトルスマッシャーに拘束されてしまう。海楼石で出来たバトルスマッシャーは悪魔の実の能力を封じる。

 

「見聞色の覇気を一方向に向けすぎだァ!!」

 

 怒号と共に眼前に迫るゼファーの額。

 武装色を纏ったゼファーの頭突きが炸裂し、ラブヒーローの頭が真後ろに弾かれた。

 

「クザン! 俺ごとやれ!!」

「恨まんでくださいよ、ゼファーさん!! アイスタイム!!」

 

 戻ってきた青雉は両手を突き出し、ラブヒーローの体に当てた。

 瞬間、彼の手から放たれる圧倒的な冷気。

 それは人2人を凍らせるには十分すぎる物だった。

 

「…………」

「…………」

 

 ゼファーとラブヒーローが凍っていく。

 お互いに睨み合ったまま氷の彫像と化していく2人。

 

 完全に氷に包まれた2人。

 それでも油断しない青雉。手を向け、ラブヒーローがもう動けないよう、周囲を更に氷で覆っていく。

 ひとしきり周囲を凍らせた所で、青雉は手を下げた。

 

「割るのはやべェな、ゼファーさんも丸ごと割れちまう。

 ……インペルダウンでゆっくり溶かすとしますかね……」

 

 結果だけ見れば、無傷で勝てた勝負だ。

 だが一歩転べばどうなっていたかは分からない。お互い強力な攻撃手段を持つ強者同士の場合、死ぬか無傷かのどちらかで終わることは稀にある。

 

 とりあえず、氷が割れないようどこか別の場所へ移動させようと近づいたところで。

 

 

 

 ――ピシッ

 

 

 

 氷に亀裂が入った。

 

「……は? おいおい、まだ動くのかよ!!」

 

 青雉が瞬時に追加の氷を被せるも、少し遅かった。

 内部にいるラブヒーローは、ゼファーのバトルスマッシャーから左手を外す。

 海楼石から解放され、能力が使えるようになった彼は、小さくこう唱えた。

 

 

圧縮弾(ラブル・ショット)

 

 

 すさまじい衝撃音。

 一瞬で、氷の山が瓦礫の山へと変貌する。

 周囲にキラキラと輝く氷が降り注ぎ、なんとも幻想的な光景が広がった。しかし状況は全く幻想的ではない。

 

「なるほど。私は少し冷静さを失いすぎていたらしい。まさか頭突きを喰らい、凍らされてしまうとは」

 

 同じく氷から解放されたゼファー。

 咄嗟に殴り掛かるも、ラブヒーローがそれよりも早く、みぞおちを打ち抜いた。

 武装色でガードするが、彼の白い武装色はそれを貫通する。ゼファーは顔を苦し気に歪め、背後に後ずさった。

 

「だが今の氷で私の頭も冷えた。次は冷静にやろう」

 

 首筋に血管の筋がいくつも浮かんでいる。

 どうみたって冷静ではない、完璧に頭に来ている。

 

 

空気の壁(エアウォール)

 

 空中に飛び上がるラブヒーロー。

 そのスピードは剃や月歩よりも圧倒的に早い。

 

 数十メートルは上昇したところで、動きを止める。

 圧縮した空気の上で仁王立ちし、右の手のひらを空に掲げた。

 

 

「――マキシマム・コア(強大な太陽)

 

 

 周囲の気温が下がる。

 彼の手の上に生み出されたのは、直径30mの熱の塊。

 

 先ほどゼファーが防いだ直径3mの太陽とは比べ物にならないほど大きい。

 それだけの大きさの太陽だ。戦場中にいる誰もがその明るさに目を細め、その下にいる男に目を向ける。

 

 

 

「――!? 白いおっさん?! 何やってんだアレ!」

 

 逃げる途中のルフィも、その光景を目撃していた。

 遠く離れている彼にさえ届くような熱気。

 ルフィの横にいるエースも背後を振り返り、驚愕の目でそれを見ていた。

 

「な、なんだアレ……!? 俺の大炎戒・炎帝とそっくりだが……中身はまるで別物だ……!」

 

 

 

 そんな言葉を、ラブヒーローが聞いているわけもなく。

 眼下にいる青雉とゼファーを怒りの形相で睨みつけていた。

 

「全力で避けるか、全力で防ぐか。好きな方をお勧めする」

 

 そう言って、勢いよく太陽を撃った。

 物凄いスピードで地上に迫る太陽。さながらその様子は、神話のワンシーンでも切り取ったかのようだった。

 狙われた2人は、流石に回避を選択する――ことはなかった。

 

「クザン、逃げてろ」

 

 ゼファーがバトルスマッシャーを振りかぶる。

 

「!? 流石にそれは――」

「逃げろッ!! 大将のお前がここで消えてどうする……!! ……それに奴との因縁は、俺が引っ張ってきちまったもんだ」

「――――死なんでくださいよッ」

 

 青雉は離脱した。

 太陽の下には、ゼファーだけが残る。

 

「……ラブヒーロー、お前には本当に感謝してる。まさか、俺が孫息子を拝める日が来るなんて思わなかった。

 ――だからこそ、俺は、恩人のお前がこれ以上苦しむのは見てられん!! 正義の名に掛けて、ここでお前を救ってやる!!!」

 

 

 ゼファーの脳裏に浮かぶのは、あの日の記憶。

 ラブヒーローが天竜人・ゴルモンド聖を殺した日。

 脳裏にべっとりとこびり付いて離れない、絶望と狂気が混じった表情をした彼の姿。

 

()の名前は……ラブヒーロー。世界の愛を守る存在だ。なあ、そうだろう……?』

 

 血走った目を限界まで見開いた顔が忘れられない。

 今、お前の濃い赤のバイザーの下の表情がどうなっているかは分からない。

 だがきっと、あの日のままなんだろう。

 

 

「――――ぉぉォォオオオオ”オ”!!!」

 

 

 迫る太陽を、バトルスマッシャーで受け止めた。

 とんでもない熱気と質量。ミシミシと全身の筋肉と骨が軋む。

 

 受け止めたバトルスマッシャーの機能を滅茶苦茶に発動させる。

 

 爆発。

 爆発。

 ビーム。

 ガトリング。

 ビーム。

 爆発。

 爆発。

 

 

「ッ”グッ―――!」

 

 

 滅茶苦茶にやったおかげで、太陽の勢いは少し弱まる。

 それでも圧倒的な威力を持っていることは変わりない。

 

 ゼファーは武装色の覇気・硬化を纏った左腕を太陽に押し当てた。

 ジュッと皮膚の焼ける音が鳴る。

 バトルスマッシャーは熱に耐えきれなくなったのか、先の方から少しずつ溶け始めている。

 

 

「――――ラブヒィィィイイイロォォォォオオオオ”オ”オ”!!!」

 

 

 心から雄たけびを上げ、彼は全身に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元海軍大将とはいえ、ゼファーは既に70歳を超えている。

 

 老いには勝てない。

 これはどんな大海賊、海兵にも通じる法則だ。

 

 

 そう。

 

 老いてしまったゼファーと、ラブヒーローでは。

 

 もう、実力に()()()()()があった。

 

 

 

「――…………」

 

 

 直径30mのクレーターを作る地面。

 その中心に寝転ぶゼファー。

 

 太陽を受け止めたバトルスマッシャーは根本まで溶け、左腕には酷い重傷を負っている。

 だが胸が僅かに上下していることから、まだ命があることだけは分かった。

 

「私にはもう構うな。それがお互いにとって、一番の幸せなんだ」

 

 空中から彼を見るラブヒーローは、静かに呟く。

 

 

 雌雄は、決した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。