愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる   作:ペン汁

22 / 41
愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる

 

 天竜人の館。

 CP0含む護衛はみな気絶している。

 レッドラインの下にある海軍本部から全速力で海兵が向かってきたとしても、あと10分はかかるだろう。

 

 今ここには、天竜人と、天竜人に母親を殺された(ラブヒーロー)しかいない。

 

 

 

「お前、私を覚えているか」

 

 顔の布を外し、ゴルモンドに素顔を見せるラブヒーロー……もとい、ラノア。

 左目の下から首に掛けて赤黒い傷跡が残った、厳つい顔つきの男。過酷な人生を生きて来たからか、眉間の間と目の下にしわが出来ている。

 

 ただ、幼少期の優し気な顔つきはほのかに残っていた。

 彼の過去の顔を知っているならば、ラブヒーローがラノアであると記憶で結びつけることができるだろう。

 

「お前の事なんか知る訳ないえ!!」

 

 ゴルモンドが銃を抜き、ラノアに発砲した。

 空気の壁で弾を防ぐ。拳銃如きでは貫けない。

 

 銃を握る右手ごと蹴り飛ばし、ゴルモンドの首を掴む。

 

「そうか……。……そうか……!」

 

 首を握る手に力が籠る。

 ついつい首の骨をへし折りそうになるのを必死に我慢するため、ゴルモンドの首を離した。

 

「私の母を殺しておいて覚えていない、か。

 いや……天竜人というのはそういうものだったな!」

「ぐぼっ!! こ、このわちきに……げぼぇっ!!」

 

 ゴルモンドの顔を蹴り飛ばした。

 そして再度、何か言おうとした顔を蹴り飛ばす。

 

 ろくに体を鍛えることもせず、歩くことすら怠ける天竜人の顔は酷くもろい。

 口内は切れ、歯は折れ、たぱぱっと彼の口から血が噴き出す。

 

「殺しはしないさ……」

 

 ラノアは静かにそう言った。

 

 

 『()()()()

 

 これは、ずいぶん昔にガス人間のジョッキーを殺した時から密かに決めていたことだ。

 

 どれだけ反吐の出るようなの屑であろうと。

 愛を守る正義を名目に殺し続けていれば、自分もいずれ取り返しがつかない()()になるのが薄々分かっていた。

 

 故に不殺。

 その自分ルールは、殺しても殺したりないほどに憎い親の仇相手でも同様であった。

 

 

 しかし、殺しこそしないが、復讐を果たす方法はいくらでもある。

 

 

「だがな。両腕か両足、どちらかが消し飛ぶくらいは覚悟してもらおう」

「や、やめろえ……!!」

 

 足に白い武装色の覇気を纏い、ゴルモンドの腕に狙いを付けた瞬間。

 先ほど彼が縋りついていた部屋の奥の扉が、ドン!と大きな音を立てて開いた。

 

 

「父上ぇ~~~~!!」

 

 

 ドタドタとのろい動きで走り寄り、ゴルモンドに縋りつく金髪の子供。

 

「お前、父上に何をしてるんだえ!!」

 

 その子供は銃を抜き、性懲りもなくラノアに発砲した。

 ゴルモンドの持つ銃より小ぶりなそれは空気の壁を貫くことができない。ラノアの体に当たる前に何処かへ弾かれる。

 

「子供……?」

 

 先ほど開いた扉の方を見る。

 そこには、妙齢の天竜人の恰好をした茶髪の女性が立っていた。

 

 焦った顔で銃を抜きつつ、こちらに発砲することはせず、同じくゴルモンドに縋りつく。

 彼女は銃をこちらに向けたまま、大声で叫んだ。

 

「誰か、誰かおらぬのかえ! 奴隷でも誰でもよい!!」

 

 誰も来るわけがない。

 奴隷はとうの昔に逃げていることだろう。この騒ぎに乗じて首輪の鍵を手に入れるぐらいはするはずだ。

 言うまでもなく、護衛もとうの前に全員沈めた。

 

 今、この空間には俺達しかいない。

 

 

 

 ラノアはじっと、目の前の三人を見ていた。

 

「家族……」

 

 歪んだ天竜人の『()()』。

 ……それは、ラブヒーローが守るべき『()』に他ならなかった。

 

 ――しかし。

 いくら愛を持った家族といえど……そこにいる、ゴルモンドだけは許せない。

 そいつは他人の愛を乱してしょうがない存在だ。

 その上、愛を乱すことに何の躊躇いも持たない。 

 

 そんなド屑に何もせずに帰るでは、誰かの愛を守る存在など必要ない。

 

 

 足に覇気を纏ったまま、子供と母らしき女性をどかそうとした瞬間――。

 

 のっそりとした動きでゴルモンドが体を起こした。

 

 女性と、子供を抱きかかえた後、背後に移動させる。

 そして両手をバッと広げ、ラノアに大声で言い放った。

 

「わ、わちきの家族に手は……出させんえ~~!!」

 

 

 

「……は?」

 

 恐ろしい怒気の籠った声が漏れる。

 今、こいつが言い放った言葉の意味が上手く理解できなかった。

 

 天竜人はどうしようもない屑で、世界中から嫌われる存在というのが共通認識。

 俺の認識もそうだ。

 

 血筋が続いている以上、家族というのが存在するのも理解できる。

 ただ。

 

 人を人と思わず『愛』を壊せるような輩が、自分の家族を守る『()』を見せつけて来た事を、ラノアの脳が理解することを拒んだのだった。

 

 

「――ふざけるな!!」

 

 

 両手を広げるゴルモンドの首を力強く掴みあげ、背後にある机の上に叩きつけた。

 ラノアの腕力は机を粉砕し、床にクレーターを作る。

 無論その手の中にいるゴルモンドは、意識を失うほどの衝撃と共に床に叩き込まれた。

 

 両手でゴルモンドの胸倉をつかみ、高く持ち上げるラノア。

 顔を近づけ、こめかみにはち切れんほどに血管を浮かばせつつ吠える。

 

「お前……お前がその言葉を言うのだけは、絶対に許さない!!

 家族を守る愛をお前が持つのだけは……持つのだけは…………ッッ!!」

 

 いっそのこと、ジョッキーぐらいに振り切った悪ならよかった。

 それなら俺も、何のためらいもなく行動できただろう。

 

 なのに。

 

 

「……どうして……」

 

 

「どうしてッ、自分の家族を思う愛を……誰かに向けてやれないんだ……!!

 

 

「そこまで愛を理解できていて、俺に啖呵を切るぐらい行動できるのに、どうしてッ!! 答えろ、ゴルモンド!!!」

 

 

 ラノアとして、ラブヒーローとして。

 心の底からあふれ出した、彼の純粋な本音であった。

 

 ただ、そんな本音をぶつけてどうにかなるようなら、世界中の誰も苦労しない。

 天竜人のゴルモンドは、口の端から血を垂らしながら答える。

 

「下々民とわちきでは、身分が違う……! お前ら下々民はわちきらの奴隷、そこに愛など向ける訳がないえ!

 『()()()()()()()()()()』ごときが、わちきに触れ続けること自体が既に死罪! 海軍の総力を挙げてお前を殺してやるえ!!」

 

「汚らわしい女泥棒のガキ……?」

 

 ラノアは胸倉をつかんだまま、そう言う。

 彼の息遣いは次第に荒くなり、目には怒気を超える……どす黒い()()が灯り始めていた。

 

 天竜人はにやりと欠けた歯を覗かせるように笑う。

 

「今思い出した……お前、昔ヒューマンショップを巡りをした時にわちきの服へ血を付けたガキだえ?

 あの時の()()は面白かったえ~! あれから何度も何度も同じことを繰り返したが、全員面白い反応をしてくれたえ」

 

 あの時の『催し』。

 それは恐らく……『ラノアが母を刺せば助かる、刺さなければラノアが死ぬ』という悪趣味な選択の事だろう。

 

「分かったらとっととその手を放すえ!! 今なら海軍大将に頼んで、楽に殺してやらんこともないえ?」

「あんな事を、他の、誰かにも……?」

 

 背中に何らかの衝撃。

 振り向くと、母親らしき女性がラノアの背中に向かって斧を振り下ろしていた。

 だが、彼女の力ではラノアの体に傷をつけることはできない。

 

 子供も銃を撃つ。

 空気の壁に弾かれるも、撃ち続ける。

 

 どちらも、ドス黒い悪を纏った醜悪な笑みを浮かべていた。

 

 隙だらけの背中からなら、ラノアを殺してやれると言わんばかりに。

 

 

「……ッ」

 

 

 殺しては駄目だ。

 こいつらは、守るべき愛を持った家族……。

 俺が殺すわけにはいかない。

 

 殺しては駄目なんだ。

 全員気絶させて、多少殴るぐらいで済ませないといけない。

 我慢しないと。

 

 我慢。

 

 我慢……。

 

 

 ふと、胸倉をつかむゴルモンドの顔を見る。

 

 彼は、笑っていた。

 自分は今から助かって当然と言った風に。

 目の前のラノアが命乞いをするのが当然と言った風に。

 

 今までの行いは全て正しいと言った風に、悪びれず、堂々とした様子で。

 

 

 ジョッキーのように、何もかもが振り切った悪と言う訳でもない。

 

 人間臭く。

 自分に都合のいい風に考えることもある。

 それでいて取り返しのつかないほど、極限まで欲にまみれた『()()』だ。

 

 救えない。

 殺意が、湧いて止まらない。

 

「お前の母親も、奴隷にしてやればよかったえ」

 

 ゴルモンドの吐き捨てるような言葉。

 

 

 その瞬間。

 

 照明がパッと消えるように、視界が暗くなった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――――あ」

 

 

 視界が元に戻る。

 空気の中に血の匂いが濃く混じっている。

 

 手のひらどころか、全身が真っ赤に染まっている。

 足元には、原形が残っていない肉の塊。血と臓物がそこらに飛び散っていた。

 

 壁には、もたれかかるように項垂れる、意識のない女性と子供。

 どちらも血まみれだ。致命傷と思しき傷もある。

 

「俺が、やったのか」

 

 記憶がない。

 だが今この場で、人間を肉塊に出来るような腕力を持った者など、1人しかいない。

 

「あ、あぁぁぁああぁ……」

 

 その場に膝から崩れ落ちる。

 守るべき愛を持った家族を……俺が壊した?

 

 殺さないと誓った決まりを破って、この一家を殺した?

 

 嘘だ……。

 

 そんなの、母が求めた、()()()()()()のする事じゃない。

 

 俺じゃない。

 これは……こんな事するのは、ラブヒーローだ。

 

 ラノアが悪いわけじゃない。

 俺が悪いわけじゃないんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ギチギチと、崩れかけていた心の破片がいびつな形に集まっていく音が聞こえる。

 

 

「こちら海軍!! こちら海軍!! そこにいるのは分かっているんだ、出てこい!!」

 

 

 邸宅の外から、そんな大声が聞こえた。

 

「ハハハ……。海軍か、随分と遅かったな」

 

 地面に手を突き、ゆっくりと立ち上がる。

 机の上に会った純白、と言っても所々血で染まっているため完全な白色ではないテーブルクロスを身に纏う。

 

 元々会食用の長机に敷いていたテーブルクロスだ、身長3mの巨体である彼の身体も覆う事が出来た。

 

()は正義の色。ああ、愛を守るヒーローにこれほど相応しい色もないな」

 

 全身を白い布で覆いながら、邸宅の玄関扉を開ける。

 広場には大量の海兵がいた。

 

 中には見知った顔もいる。

 

 

 元海軍大将で訓練教官の『()()()()』。

 

 海軍大将に就任したばかりの『()()』。

 

 海軍中将にして海軍の英雄と呼ばれる『()()()()()D()()()()()』。

 

 

 その3人が一番前に立つようにして、100人は楽に超える数の海兵が並んでいた。

 

 

「ッ……!」

 

 海兵たちの間に震撼が走る。

 前回のマリージョア襲撃から一ヵ月で再び襲撃、そして襲撃者が天竜人の邸宅に入ったというのだ。

 

 そして襲撃者が今、天竜人の邸宅から妙な姿で現れた。

 

 

 3mの巨体に、全身を覆う白い布。

 そして布の上からでも分かるほどに隆起した筋肉。

 顔面には肉片と赤黒い血がべっとりと、表情が分からないほど大量に付着している。

 

 

 大半の海兵は襲撃者の顔に大量の血が付着しているからか、正体が分からなかった。

 ただそれでも、その巨体と盛り上がる筋肉から、前列にいる古参にして強者の3人は襲撃者が誰か分かったようだ。

 

 真っ先に声を上げたのはゼファーだ。

 

「ラブヒーロー!! お前……天竜人を殺したのか!!」

 

 

 誰が見ても分かるほどに、致死量の血を彼はおっかぶっているのだ。

 ましてあのラブヒーロー。今まで二億の懸賞金で収まっていたのが不思議なほどに強い男だ。

 CP0の2人を含む護衛を制圧するくらいで血を流しはしないだろう。

 

 つまり、あの血は全て誰かの血ということになる。

 駆けつける道中で倒れていた護衛は多少吐血はしていても、全て気絶程度で済まされていた。

 

 ということは、あの大量の血を流した主は。

 天竜人以外ありえない、そういう結論に行きついたという訳だ。

 

 

「ああ。殺した」

 

 あっけからんと答える。

 そんな様子に、海兵たちは困惑の声を上げた。

 

「天竜人を殺す……!? 死刑なんてもんじゃ済まない……!」

「バスターコール、いやもっと上……想像がつかないくらいの罪になる」

 

 

 ゼファーは続けて叫ぶ。

 

「一体何故殺したんだ! お前はどんな奴でも、生きたまま海軍に渡していただろう! どうしてそんな……」

「ふむ。じゃあ聞くが、天竜人を殺すのは悪い事か?」

「何……?」

 

 普段とずいぶん様子が違う。

 その違和感から、彼と交戦経験のある3人は悪寒のようなものを感じた。

 

 彼は、バッと両手を広げ、芝居がかった様子で話し始める。

 

「悪いことであるはずがない。世界中から嫌われている天竜人を殺した。しかし、一体それを咎める権利が誰にある?

 『()』は間違っていない。ヒーローは何も間違えない。

 愛はこの世の宝。世界最高の宝。それを守る私が間違えるはずがない」

 

 血走った目。

 荒い息遣い。

 血に染まった顔は、背筋が凍り付くような狂気に染まっていた。

 

 

「私の名前は……『()()()()()()』。世界の愛を守る存在だ。なあ、そうだろう……?」

 

 

 ラブヒーローは、自分の事をラブヒーローと名乗った。

 ただそれだけの事なのに。

 

 彼の雰囲気は、以前よりもまがまがしい物を放っていた。

 

 

 ガープが武装色の覇気を拳に纏う。

 そして、横にいる二人に言った。

 

「クザン、ゼファー。気を抜くんじゃないぞ」

「分かってますよ、ガープさん」

「ラブヒーロー、なぜ……。いや、何でもない。大丈夫だガープ」

 

 

 そうして、完全なるラブヒーローと成った男と、海軍の衝突が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――かくして始まった、ラブヒーローによる襲撃事件。

 

 第1回目の襲撃は、海軍の主戦力3人を中心とした海兵達とラブヒーローの衝突。

 ある程度暴れた所でラブヒーローは逃走。

 その逃走速度に、誰も追跡を行うことはできず、みすみす彼を逃がしてしまう。

 

 主戦力3人は天竜人を殺した犯人を取り逃がした罰で死罪になりかけるが、元帥と五老星が全力で動いたことで何とか取り止めになる。

 

 ラブヒーローの懸賞金は20億にまで跳ね上がった。

 

 

 しかし。

 それからも、ラブヒーローの襲撃は続く。

 

 凡そ月に一度のペースでマリージョアに訪れ、ひとしきり暴れた後、誰も追いつけないスピードで逃走する。

 

 唯一黄猿だけが彼に追いつけたものの、黄猿1人ではラブヒーローを捕らえることは出来なかった。

 

 

 そんな事をずっと繰り返し続ければ、当然世界政府と海軍が自身たちの幾度にも及ぶ敗北を隠そうとしても噂は広まる。

 だがラブヒーローは奴隷解放の為にマリージョアを襲っているわけではない。

 

「私は間違っていない」

 

 そのような言葉を言いながら、まるで駄々をごねる子供のように暴れ回るだけだ。

 あるいは自分に言い聞かせていたのかもしれない。

 

 奴隷解放の為にマリージョアを襲っていないため、毎回奴隷が逃げられるわけでもない。

 運よく檻と首輪の鍵が手に入った者が逃げているだけだ。

 

 なので、かのフィッシャー・タイガーのように奴隷を全て解放した崇高な人物として語られることはなかった。

 

 

 

 そして、初めての襲撃から3年後。

 フィッシャー・タイガーが死亡したとのニュースが世界を回った。

 

 そのニュースが回った翌日、ラブヒーローはマリージョアを襲撃する。

 ただ、彼の恰好は今までの顔に布を纏った者とは全く違うものだった。 

 

 

 身長3m。筋肉モリモリ。

 白タイツスーツで頭の先から靴先まで覆い、顔には表情が見えないほど濃い赤のバイザーをはめ込んでいる不審者。

 

 

 新しい衣装を披露するように、マリージョアを今までより念入りに破壊する。

 そして。

 

 それを最後に、ラブヒーローの襲撃はピタリと止まったのだった。

 

 

 

『WANTED

 LOVE・HERO

 

 DEAD OR ALIVE

 $3,220,000,000』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




設定が、ガバった……! まま、オチが少し変わるだけやしまあええか。
(伏線が張れてねえのに)良い訳ねェだろ!!


遅れてすみません
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。