愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
マリンフォード頂上戦争から、2年と少し。
モンキー・D・ルフィ率いる『麦わら海賊団』はシャボンディ諸島へと集結し、新世界への航海を開始した。
世界中に名を轟かせる麦わらの一味と海賊たちは、元ロジャー海賊団であり鬼の跡目と呼ばれた『ダグラス•バレット』を撃破する。
バレットを撃破し無事に海軍から逃げ切った祝いとして、宴をしている麦わらの一味。
ふと、ワインを片手に船の手すりに近づいたロビンが、海に何かが漂っているのに気づいた。
「ねえ、アレ」
「ん? ……おいおい、ありゃ人じゃねえか!」
ウソップがそう叫ぶ。
麦わらの一味が一斉に船の手すりに近づき、海に漂う何者かの姿を見た。
それは、樽か何かの木片に上半身を乗せ、ぐったりとしながら漂っている蒼色の髪の少女だった。
――――――――――――――――――――
「襲撃、襲撃だァ~~~!!」
1人の海兵がそう叫んだ瞬間、真っ白な拳に顔面を殴られ気を失った。
ここは古代兵器に匹敵すると言われる爆発を起こすダイナ岩が保管されていて、かつ、エンドポイントの一つであるファウス島だ。
ダイナ岩の保管庫。
その場所に歩いていくその大男は、道中現れる海軍を紙屑のように殴り飛ばしていた。
身長3m。筋肉モリモリ。
白タイツスーツで頭の先から靴先まで覆い、顔には表情が見えないほど濃い赤のバイザーをはめ込んでいる不審者。
ラブヒーローだ。
海兵たちは腰が引けながらもラブヒーローに襲い掛かり、殴り飛ばされる。
ここの警備隊で一番強い海軍中将は四肢の骨を叩き折られるという特に無残な仕打ちを受けていた。
「……」
保管庫の分厚い扉の前に辿り着くラブヒーロー。
タッチパネルと大きな鍵穴がある扉。電子パスワードと鍵の二重ロックを解除して開ける仕組みのようだ。
だがラブヒーローはどちらも持っていないし在処も知らない。
故に、扉の中心を手で掴み、壁から無理やり引っ張り剥がした。
楽にトンは超えそうな扉をそのあたりに捨て、蜂の巣状に保管されているダイナ岩を一つ引っ張り出す。
紫色の液体にぷかぷか浮かんでいる大きな卵のような石。
ダイナ岩だ。
全てのダイナ岩を指先サイズまで圧縮し、保管施設の外に出ると、そこには海兵が列挙していた。遠くの方に海軍の船も見えることから、増援でここに来たのだろうことがわかる。
そして列挙する海兵の先頭にいるのは大将黄猿。
ラブヒーローは高台から彼らを傲岸不遜に見下ろしていた。
「ん~……わからないねェ~。あのラブヒーローが、どうしてダイナ岩なんかに興味を示すのかねェ~?」
黄猿がそう静かに呟く。
ダイナ岩は超威力の爆発を起こす危険物。地下でダイナマイト代わりに使えば、地面どころかその島が丸ごと吹っ飛ぶ代物だ。
ただただ危険な岩。
決して愛だとか平和だとかの為に使える物ではないのだ。
ラブヒーローは懐にしまっていたダイナ岩を一つ取り出し、圧縮を解除する。
それをわざとらしく海兵たちに見せつけながら、この場に居る全員に聞こえるような声量で言った。
「これより、私の『
……手始めに、エンドポイントであるこのファウス島を吹っ飛ばそう。逃げたければ逃げるがいい」
海兵たちに衝撃が走る。
エンドポイント。
それは三つの火山がある島を破壊すれば新世界の海が滅ぶという、伝説に近い話。
無論海兵たちもそんな与太話を信じていない。
だが。
ラブヒーローのような、懸賞金30億の大犯罪者が真面目な声で言っているのなら、もしかしたらあの伝説は本当……と考えてしまったのだ。
海兵たちに混乱が広がっていく。
エンドポイントの話はともかく、ダイナ岩の威力は本物だ。
それの爆破に巻き込まれたら常人など骨すら残らない。
海兵の1人が先頭に立つ黄猿に慌てた様子で問うた。
「き、黄猿大将! 我々はどうするべきですか!?」
「ん~……まァ、ラブヒーロー相手に戦えると思う者だけ残って、それ以外は船に戻っていいかもねェ〜。あの男相手に頭数揃えても、犠牲者が増えるだけ……」
黄猿はちらりと横を見た。
そこには、四肢を叩き折られ悶え苦しんでいる海軍中将が一人。
それを見た一般海兵達は震え上がり、中将を担架に乗せ、急いで軍艦へと引き返していった。
ファウス島に残ったのは、黄猿とラブヒーローの2人のみ。
口元を尖らせつつ、面倒くさそうに話し始める黄猿。
「相変わらず、やってる事が悪なのか正義なのか分からん男だねェ~。殺すと宣言した割には、相手が逃げるまで待つ……そのままダイナ岩もハッタリで、大人しく置いて帰ってくれるとこっちもありがたいんだけどねェ~?」
「悪いが、ダイナ岩でこの島を吹っ飛ばすのは本当だ。そして邪魔する者を殺す……それも本当だ!!」
黄猿とラブヒーローの姿が消えた瞬間。
互いに50~60mはあった距離を一瞬で詰め、己の覇気を込めた脚と拳を衝突させた。
「おお~、相変わらず馬鹿みたいに硬い覇気……ビリビリくるねェ~」
「海軍最高戦力の大将にそう言って貰えるとは光栄だな」
「あんたも懸賞金30億越えの大犯罪者でしょう、がッ!」
ラブヒーローの拳を払った瞬間、放たれる黄猿のレーザー。
だがラブヒーローは必殺のレーザーいとも簡単に弾き飛ばし、黄猿の首を掴んで手刀を腹に突き刺そうとする。
腹に手刀が当たる直前、黄猿は瞬時に体を光化しラブヒーローの手から逃れた。
そして右拳を左の手のひらに当て、ズズズ……と光り輝く剣を取り出す。
「
再び、剣と拳をぶつけ合う両者。
ギチギチと鍔迫り合う最中、黄猿が問いかける。
「エンドポイントを三つ破壊すれば火山が噴火、新世界の海は滅ぶ。そんな事をすれば、民間人に多大な被害が出るのはあんたならわかってる筈だけどねェ〜」
黄猿はそこが上手く納得出来なかった。
ラブヒーローという男の行動は意味不明で素っ頓狂な物が多いが、その行動理念は理解できなくもない。
『
そんな事を公言し実行している男が、火山が噴火した際に民間人に及ぶ危険性を分かっていない筈がないのだ。
その問いに、ラブヒーローは規格外の腕力で黄猿の剣を押し返しながら、静かに答えた。
「エンドポイントを三つ破壊すること。これは計画に含まれている。
だが……私の計画では、
「何……?」
ラブヒーローの意味深な言葉に一瞬気を緩めた黄猿。
その隙を懸賞金30億越えの強者が見逃すはずもない。
瞬時に光の剣を右手で握りつぶし、左手で黄猿の腕をガッシリと掴んだ。
「――さて、無事に脱出できるか賭けをするとしよう」
ラブヒーローの右手に現れた2つのダイナ岩。
その2つを、己と黄猿の間で一気に握りつぶした。
「おぉ~~!?」
体を光の粒子に変え離脱しようとする黄猿。
しかしラブヒーローは、その粒子を覇気を纏った手でつかみ、自分の体に引き寄せた。
「まだ逃げるんじゃない。ギリギリのギリギリまで待とうじゃないか」
「!――」
逃げ場をなくした光の粒子は、冷や汗を流して焦る黄猿へ変貌する。
その瞬間――。
――――古代兵器に匹敵する威力のダイナ岩が、新世界中に見えるほど巨大な火柱を上げた。
「……ふぅ~……。困ったねェ~……」
ピカピカと光る粒子。
それが小高い岩の上に集まり、1人の男の体を形作った。
その男は黄猿。
ダイナ岩の爆発から何とか脱出し、火柱と自身の乗って来た軍艦が見える位置へと着地したのだった。
「まさかあそこまでぶっ飛んだ真似をされるなんて、こりゃあ想定外だったねェ~」
黄猿は己の右腕を見た。
黄色いストライプのスーツは焼け焦げ、皮膚はブスブスと音を立てるほど真っ黒に燃え、鮮血がぽたぽたと滴っている。
誰が見ても分かるほど、重度の火傷を負っていた。
ここまでの怪我を負わされるのはかなり久しぶりだ。
だが、ラブヒーローも自分と同じく、爆発の直前までダイナ岩のすぐそばにいたはず。
奴もかなりの怪我、もしかすると死んでいるかもしれな――……。
そこまで考えた所で、黄猿は首を横に振った。
「いや、あの男は異常にタフだからねェ~。怪我をしていればいい方、死ぬなんてもっての他……お~、いちち」
右腕を痛そうに抑える黄猿。
とりあえず一旦帰還し、怪我の治療を優先するとしよう。
『エンドポイントを3つ破壊する』。
この情報さえあれば、奴の行先は明白だ。
『民間人に危害は殆ど及ばない』。
『海に航海さえしなければ』。
……という2つの言葉についてはよく分からないが。
まぁよしとしよう。
黄猿は体を光の粒子へと変化させ、軍艦へと戻ったのだった。
黄猿の強者感を残したいけど、ラブヒーローの30億越えという懸賞金に重みを持たせるため、海軍大将に手傷ぐらいは負わせたい
その欲望がせめぎ合った結果、ダイナ岩で黄猿が怪我をするというオチに至りました
何でだよ!