愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
「チョッパー、どうだ?」
「……うん。衰弱はしてるけど、命に別状はない。このまま点滴打ってれば大丈夫だ」
サウザンドサニー号、医療室。
部屋の中にはルフィとチョッパーがいた。
その2人が見つめているのは、ベッドの上に横たわる蒼い髪の少女。
年は16か17か、恐らくその辺りくらいだろう。素朴だが、整った顔立ちをしている。
元々着ていた服は海水でずぶ濡れだったため、今はナミの服を着用している。
尤も、胸の大きさが合わないせいで少しダボついていた。
「一体何者なんだろーな、こいつ」
「分からない。けど、多分……悪魔の実の能力者なんじゃないかと思う。海水に濡れた服を着ていた時と今とじゃ、軽く叩いた時の筋肉の反応具合が全然違うんだ」
「ふ~ん……能力者かァ」
ルフィは名も知らない、蒼い髪の少女をじっと見つめる。
すると、彼女が突然ピクッと頭を動かし、口元を小さく動かしながら何かを呟き始めた。
「……う……ら、らぶ……ひーろー……」
少女のうめき声に、ルフィは首を傾げた。
「『
その言葉に、チョッパーは顎の辺りに手を当てながら、眉間にしわを寄せる。
薬やそれを調合するための薬草を置いている棚から何かの薬を取り出しつつ、静かに言った。
「うーん。こんな状態で呟くなんて、相当強い……トラウマに近い記憶があるみたいだな。とりあえず、あとは俺が様子を見とくよ。目が覚めたら伝える」
「ん、わかった。頼んだぞチョッパー」
そう言ってルフィは席を立ち、医療室の扉を開けた。
皆で食事をするダイニングを抜けて、サニー号の草が生い茂る甲板に出る。
「ルフィ~! あのかわい子ちゃんの様子はどうだった?」
「命に別状はねえってチョッパーが言ってた。サンジ、飯!」
「はいよ、いつもの肉な。じゃあ俺は、あの子が目覚めた時のために消化しやすい栄養満点のご飯を作らなくっちゃだからな!」
サンジはルフィに大きな骨付き肉を手渡し、厨房のある部屋に入っていった。
よだれを垂らしながら肉にかぶりついていると、マストの根元に座っているナミが少し浮かない顔をしていたのに気付いた。
「なあナミ、なんでそんな浮かねェ顔してんだ?」
「なんでって……。……このニュース、ちょっと見てくれる?」
ナミがニュース・クーから受け取った新聞を広げる。
そこには、新世界のとある島が爆発により丸ごと吹っ飛んだと書かれいてた。
爆発が起きる前の島の写真。
その下に、赤いバイザーを顔にはめ込んだ、全身白タイツスーツの巨漢の写真が載っていた。
「し……白いおっさん!?」
ルフィが驚きの声を上げる。
その写真の男は、間違いなく彼の知っているラブヒーローであった。
「……まあそっちも大事なんだけど、問題はこっち!」
「ん?」
ナミがラブヒーローが起こした爆発事件のさらに下を指さす。
そこには、爆発事件より小さい文量と写真ではあるが、『街の住民が1人残らず、
その奇妙な方法とは、あまり口にもしたくないぐらい残酷な物だった。
全身がカラカラになって干からびている者もいれば、まるでそこから動けなくなったみたいに餓死した者。
挙句の果てには体の7割が吹っ飛んで死亡している者もいた。
「これ! この滅んだ街のある島って、ここからすぐ近くの所なのよ!」
「ふーん……。でもそれ、俺達に何か関係あんのか?」
「……この奇妙な方法って言うのが引っかかってね。さっき拾った女の子、もしかするとあの子が犯人……って考えちゃったり」
それを聞くと、ルフィは骨付き肉をかみちぎり、もぐもぐと咀嚼する。
しばらく咀嚼しながら物思いにふけり、十数秒経った後に口の中の物を飲み込んだ。
「考えすぎじゃねェか。腹減ってんのか?」
「減っとらんわ!! ……この間の海賊万博がダグラス・バレットの仕組んだ偽イベントだったでしょ? あれのせいで変に過敏になっちゃってるのかもね……悪かったわ」
海賊万博。
それはつい10日ほど前に、ルフィ達が参加した大イベントの事だ。
大雑把に言うと、海賊王の遺した宝を参加した海賊全員で奪い合うという大変物騒なイベントだ。
しかしそれは、ダグラス・バレットとその仲間ブエナ・フェスタの仕組んだ罠だった。
実際は海賊たちを一か所に誘き寄せ、バレットが自らが最強の男と証明とするため集まった海賊全員をなぎ倒す計画……だったのだが。
協力したルフィ含む海賊達により、バレットは無事に打ち倒された。
しかし、最強を自ら名乗るだけあってバレットの強さは相当なものだった。
下手をすれば四皇の首にすら刃が届きかねないほどに。
実際に戦ったルフィは、『強かったな~』ぐらいの感覚で済んでいる。
しかし、ナミのような戦闘が苦手な者にとっては、しばらくトラウマになるほどのショックを与えたようだ。
「そういえば、能力者かもしれないってチョッパーが言ってたな」
「能力者……。はー、何か嫌な予感するわ……」
ナミがそうぼやいた瞬間。
――白い光が、船の中心に降り立った。
吹き荒れる風。
船の帆が破れそうなくらいに暴れ回り、甲板に生える芝生は一斉に横に倒れる。
サニー号が大きく揺れ、船の上に立っていた全員が体勢をふらつかせながらも、船に降り立った光の方を見た。
それを見て、ルフィが叫ぶ。
「……白いおっさん!?」
身長3m。筋肉モリモリ。
白タイツスーツで頭の先から靴先まで覆い、顔には表情が見えないほど濃い赤のバイザーをはめ込んでいる不審者。
異様な雰囲気を纏うラブヒーローが、そこに立っていた。
医療室の中にも、先ほどの揺れが伝わる。
チョッパーが患者の少女がベッドから落ちないように抑える。
「ん……! んぐ……うぅ……」
少女が揺れに反応したのか、はたまたチョッパーが突然覆いかぶさったことに反応したのか、呻き始める。
右腕に青いうろこのようなものが現れ始め、爪が鋭く尖った。
そして突然、チョッパーの体から光のオーブのようなものが漏れ始めた。
1つ2つと、次第に漏れるオーブの量が増えていき、その全てが少女の体に吸い込まれる。
「な、何だ? 力が抜ける……」
オーブが抜ける度にチョッパーの体から力が抜けていく。
チョッパーは咄嗟に少女から離れた。だがオーブが漏れ出るのは止まらない。
少女がその光のオーブを10個は吸い取った所で。
ドクン!と彼女の体が跳ね、一瞬で全身が青いうろこで覆われた。
黄色い目を全力で見開き、およそ人間とは思えないほど鋭く尖った牙を覗かせる。
「―――アアアァァァアアアアアアアアア!!!!」
「な、何だ!? 体がでっかく――」
少女の体は青い龍へと姿を変え、一瞬で医療室を埋め尽くすほど巨大化する。
壁に体をめり込ませても巨大化は止まらない。
木製の壁を破壊し、なおも止まらず大きくなっていく。
場所を変え、サニー号の甲板。
ラブヒーローは船の中から何もかもを破壊しながら巨大化する、青い龍の方を見た。
「……ここにいたか。『
姿を現したその青い龍は、自らの尾を飲み込んでいた。
頭と尾を繋げた龍の姿はまるで輪のようである。
「!? チョッパー! ゴムゴムの
巨大化したウロボロスに弾かれたのであろう、チョッパーが海に向かって吹っ飛ばされていく。
ルフィがすぐさまに腕を伸ばし、彼の身体を掴んで船上に引き寄せた。
そんな2人を無視するように、ウロボロスは不思議な揚力で空に浮き上がっていく。
サニー号の真上で停止したウロボロスは、ぐるぐるとその体を回し始めた。
「白いおっさん! アレは何なんだ!?」
「元LEVEL6の囚人『
……その能力は大雑把に言えば、『生と死のエネルギーの変換・増幅器』だ。生のエネルギーを死のエネルギーに、死のエネルギーを生のエネルギーへ増幅させながら変換する」
ポッ、ポッとサニー号のあちこちから光のオーブが出現し始めた。
甲板の芝生、ナミのミカンの木、そして麦わらの一味の体から。
無論ラブヒーローの体からも出ているが、本人はそれを気にする様子はない。
「……何かよくわからねェが、とりあえず……斬る!」
光のオーブが体から出て、力が次第に抜け始めているのに気付くゾロ。
このままだと不味いと刀を峰の向きに変え、ウロボロスに向けて素早く飛び上がった。
「三刀流! 鬼斬―――」
「――ギャアォオオオオオオオオオ!!!」
ゾロが刀を振り切るよりも早く、ウロボロスが吠える。
その瞬間、突如出現した黒い光がゾロの体を貫いた。
むき出しの内臓をそのまま殴られたような衝撃。
空中から甲板に勢いよく叩き落され、ゾロが思わず口から刀を離した。
「……がッ……!」
「ゾロ!! 大丈夫か!!」
ウロボロスが大きく吠え、先ほどの黒い光を辺りへ大量に放出し始めた。
海の中の生物は体が半分抉られた状態で海に浮かび上がり、サニー号のマストが中ほどから叩き折られる。
麦わらの一味はその光をあたふたと慌てながらも回避していた。
そんな中、一筋の黒い光がラブヒーローの頭上へと降り注いだ。
右手を上に向け、光を受け止める。
――バン!
勢いよく、腕ごと後方に弾かれる右手。
その手のひらには血がポタポタと滴っていた。
「相変わらず、強力な能力だ。だが強力すぎる故に制御が出来ていない。だから人を殺しすぎてLEVEL6なんかに入るんだ、お前は」
空気の壁が彼の足元に展開される。
先ほどゾロが飛び上がったよりも数倍早く空中に飛び上がり、ウロボロスの頭の上に姿を現した。
右の手のひらを龍の頭に向ける。
「
それは空気の壁の上位互換のような技。
空気の壁を手の上で限界まで薄く重ね、一気に相手にぶつける。その威力は空気の壁が解放された時のおよそ十数倍だろう。
「――ギャウッ!!?」
すさまじい轟音と共に龍が叩き落される。
余りの一撃に意識を失ったのか、シュルシュルと体を絞めていき、甲板の上に着地する頃には元の少女の姿へと戻っていた。
「おっさん!!」
ラブヒーローも甲板に着地し、ルフィが彼に駆け寄る。
「モンキー・D・ルフィ。この女は貰っていくぞ」
「あ、ああ……。……いや、色々と聞きてェことがあんだ!! さっきの龍の事とか、新聞に載ってた島の爆破事件とか……」
そんな言葉を無視するように、ラブヒーローは少女・アピールの体を肩に乗せる。
彼女は全く目を覚ます様子がない。それどころか、先ほどの衝撃で顔に酷いあざが出来てしまっている。
「……?」
ラブヒーローは歩き出そうとして、ふと、足元に何かの重みを感じた。
ゆっくりと顔を動かし、自身の足元を見下げる。
彼の右足を掴んでいたのは、チョッパーだった。
「ま、待ってくれ……。俺は医者なんだ、一度見た患者は最後まで面倒を見る責務がある……!」
「必要ない。放っていればすぐに治る、動物系の能力者だからな」
「能力者だとかそんなのは関係ねェ! 無事に立って歩く所まで見ないと、俺が納得できないんだ!!」
それは、チョッパーの医者としての誇り。
医者の師であるDr.くれはが『患者が目の前から消えるのは、治るか死ぬか、そのどちらかだ』と言っていた事もあるのだろう。
患者が万全な状態でないのに目の前から消えるのは我慢できない。
そんなプライドが、圧倒的強者であるラブヒーローに噛みつくだけの勇気をチョッパーに与えた。
ラブヒーローは静かに、重い声で話す。
「どうしても、私を止めるのか?」
「……ああ……!!」
「そうか」
チョッパーの掴んでいる右足を、真上に振り上げるラブヒーロー。
突然の動きに手を放してしまい、ポーンと上空に放り投げられたチョッパー。
くるくると回りながら彼の前に落ちていく。
そんなチョッパーに向けて、ラブヒーローは右足を自身の胴に引き寄せた。
「――
足裏に圧縮された無数の空気。
蹴りの威力と空気の威力が乗算された一撃が、チョッパーの顔面に突き刺さった。
――――ドォオオオン!!!
声を上げる暇すらなく、船内の壁を突き破りながら吹っ飛んでいくチョッパー。
何とか海に飛び出る前に止まったようだが、木片の中でピクリとも動かなくなってしまった。
「……――ッ! 何やってんだ、おっさん!!」
ルフィはラブヒーローの事を、善人かどうかは分からないが、少なくとも悪人ではないと思っていた。
だがたった今、大切な仲間であるチョッパーが攻撃された。
以前にもこんな事があったが、あの時の彼はすぐに謝罪をしてきた。そして勘違いだったとも言っていた。
しかし今のラブヒーローには謝罪どころか悪びれる様子すらない。
「何をやっている、だと? お前の仲間を一人蹴り飛ばしたんだ、モンキー・D・ルフィ。それ以外の何物でもない」
「――ふざけんじゃねェ!! ゴムゴムの
ダグラス・バレットを打ち倒した男の攻撃。
そこら辺に居る普通の海賊にとっては耐えられるはずもない攻撃だ。
しかし、ラブヒーローは仮にも30億越えの賞金首。
腹に打ち込まれたその拳を、防御もせず、覇気すら纏わずに受け止めた。
拳に伝わる、まるで地面でも殴ったかのような硬さ。
ルフィが思わず困惑した瞬間、眼前にあったのは、白い拳だった。
「ぐぁッ!!」
ラブヒーローの、白い覇気を纏った拳で顔面を撃ち抜かれる。
恐ろしい硬さの覇気だ。規格外の腕力も相まって、ただの殴打ですら必殺の一撃になりうる。
吹っ飛ばされたルフィを、背後に居たフランキーが受け止める。
口端から血を垂らす彼や他の麦わらの一味に向かって、ラブヒーローは挑発するように言った。
「仲間を害されて、気に食わない者がいるなら掛かってこい。私と戦う覚悟があるならな」
その言葉に、他の一味たちは一斉に武器を構えた。
チョッパーを傷つけられた上、そこまで煽られて黙っていられる者はこの船に乗っていない。怖がりのナミですらそうだ。
そうして、サニー号の甲板上で、ラブヒーローと麦わらの一味の衝突が始まった。
文量書いた割には中身が少な……何でもないです