愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
「クソっ、なんつータフな爺さんだよ……!」
サンジがそう、悪態を漏らした。ゾロもそう考えているのか、息を荒く吐きながら、眉間にしわを寄せる。
彼らに相対するのはゼファー。だがゼファーも新世界を生きるバリバリの海賊を2人同時に相手するのは厳しいのか、時折酸素吸入器を口に当てていた。
両者が再び衝突しようと構えた、その時。
――――ドォォォオオン!!!
エンドポイントが、巨大な火柱を上げて破壊された。
それと同時に、空から無数の人影が降り注ぎ、海岸線のあちこちに落下する。それはエンドポイントの中心を警備していて、ラブヒーローになぎ倒された者達だ。
「……ルフィが負けたのか……!?」
ゾロが火柱の方を見上げながらそう呟く。
その呟きへの答えは、すぐに返って来た。
空からゆっくりと、階段でも降りるみたいに、コツコツと少しずつ海岸線に降りてくる大男。
肩には蒼い髪の少女・アピールを乗せ、左手には血まみれのルフィを掴んでいる。
「ラブ、ヒーロー……!」
誰がそう悪態を吐いたのかは分からない。だが、この場の全員が同じことを思っていただろう。
ラブヒーローは海岸線の中央、ゼファーの近くに着地する。近くに居たゾロにルフィの体を投げつけ、肩の少女を下ろした。
「おい、ルフィ!! 大丈夫か!! チョッパー、こいつを頼む!!」
「ああ分かった! ルフィ、起きろ!」
遠くから鹿の姿で駆けよって来たチョッパー。そして体を小さな姿へ変え、ルフィの頬をぺしぺしと叩きながら傷の具合を急いで確認していく。
「……ゴホッ……」
「よかった、意識を取り戻した! 安心しろ、今から治療するからな!!」
ルフィが口の中に溜まった血を吐く。それを見てチョッパーは嬉しそうな表情を浮かべた。
チョッパーとルフィは、ロビンが生み出した無数の手によって優しく、ラブヒーローから離れた場所へ移動させられる。
この海岸線にいる麦わらの一味、海兵までもが、ラブヒーローへ全身全霊の警戒を向けていた。だがその無数の敵意を向けられても一切動じることなく、巨大な火柱の方を見上げるラブヒーロー。
「エンドポイントは残り一つ、ピリオ島のみ。……私が10日という期限を設けたのは、故郷や大切な人がいる場所が多少遠い者でも、何とか帰り着くことができるようにするためだ。
そしてその中には……お前も含まれていたんだがな、
ラブヒーローはゆっくりと、目の前のゼファーへ視線を移した。
もう何度も、彼の機械の腕を破壊し、倒した。その度に自分から離れていけ、関わるなという風な事を言った。
ゼファーは口を開く。
「お前を止めるためだって何度も言ってるだろうが、ラブヒーロー」
「余計なお世話だ、いい加減にしろ。貴様、自分の孫を二度と拝めなくなるんだぞ」
「その孫と出会えたのはお前がいたからだ」
「…………」
顔を背けるラブヒーロー。
数秒そうしていたのち、彼の方に再び顔を向けた。
「貴様、私の計画が成就した時……どうなるかは知っているな。『
「そもそもだ。その、『海に出れなくなる』ってのがどういう事なのか分からねェ。エンドポイントを破壊しても影響が及ぶのは新世界の海だけだ。……お前、一体何を成し遂げようとしているんだ?」
「……愛をこれ以上失わない世界……と言っても貴様は納得しないのだろうな。……話してやる」
ゼファーが余りにもしつこいからか。
己の計画を話すことで、ゼファーが自身の家族に大人しく帰る事を期待し、ラブヒーローは口を開いた。
「ウロボロスの能力はエネルギーの増幅と変換。生と死のエネルギーを増幅させながら、反対のエネルギーへ変換する。
……この『死のエネルギー』とは、もっと詳しく言い換えれば、『
全員が固唾を飲み、その話に耳を傾ける。
死のエネルギーがエンドポイントと関わっていることは分かった。
ただここで疑問に上がるのが、膨大な死のエネルギーを更に膨大な生のエネルギーに変換し、一体何をするのか? という点だ。
海岸線にいる者に嫌な汗が流れる。
何か、とんでもない事を、ラブヒーローが言おうとしているのが分かってしまったからだ。
「死のエネルギーを生のエネルギーに増幅・変換。この生のエネルギーは生物にだけ作用し、回復を促したり元気を与えたりする。
……だが。
その生のエネルギーを生物に過剰に与えすぎると、水を注ぎすぎたように、器から溢れ出してしまう。ただこのエネルギーは悪い物ではなく、寧ろとても良い物だ。
よって生物はそのエネルギーを限界まで摂取しようと、自らの器を急速に拡大させる。
器とは肉体。
生のエネルギーを過剰摂取した生物は体が
私はこの現象を、世界中の海で行う。
この海に暮らす
――『
それが……私の目的だ」
シン……と静まり返る海岸線。
海に暮らす生物など、到底数えきれない。100億か、1000億か……はたまたそれ以上か。
もしも本当に、その数の海王類が海に蔓延ったなら、どんな船だって海を渡れなくなるだろう。一分も漕げば巨大な口に飲み込まれて終わりだ。
しかし、そんな数の生き物を巨大化させることができるのか? いや、できないのなら、そもそもこんな大それたことはしないだろう。ラブヒーローは間違いなく出来ると確信している。
この場にいる誰もが、思った。
『この男はイカれている』
――ようやく、静寂を破るように口を開いたのは。
考古学者であるロビンだった。
「人間の歴史は、多くの人々が繋がり合ってやっと紡がれる物。島同士を繋ぐ大事な交通手段の海と船が使えなくなると、人類の歴史は止まる。しかも、海王類を大量発生させるなんて……数百年は歴史が止まってしまうわよ」
それを聞いて、ラブヒーローが答えた。
「人の歴史が止まる? 大いに結構、寧ろそれが目的だ。
各々の島を断絶する。私が世界中を巡り、愛を乱す輩を1人ずつ潰していく。
地道だが、今までのように終わりが見えない訳ではない。1つの島から愛を乱す輩を全滅させれば、それ以上、その島で愛が失われることはない。何者も、その島に新しく訪れる者はいないのだから。
それを全ての島で行っていくと――最後には、世界中から愛を失う者はいなくなる。私のように……突然の不幸で家族を失う者はいなくなる!
大切な者を失わない世界が、もう、すぐそこにあるんだ!!」
首に血管を浮かべる、興奮した様子のラブヒーロー。
右手を振るい、この海岸線にいる者達に大きく呼びかける。
「だから……帰れ!! 今すぐ、自分の故郷や大切な者のいる場所に帰れ!!
これ以上私を止めようとするな!! 自分の幸せを、愛を優先しろ!!」
きっと本心なのだろう。
紛れもない、ラブヒーローの心からの言葉。しかし、海軍の雑兵相手ならば胸に響いたかもしれないが、この場にいる海軍中将やゼファー、麦わらの一味は更に彼への警戒を強めた。
何事も、間違った方向に進む正義が厄介だと言う。正しいと思うからこそ、何の躊躇いもなく進み続ける事ができるから。
ラブヒーローは正に、人々からは理解されない、間違った正義そのものだった。
「……私は、私を止めに来る者を拒まない。だが、最後のエンドポイントには、誰も来ない事を願う」
そう言って。
ラブヒーローは横にいたアピールを肩に乗せ、空に飛び、夜の闇へ消えて行った。
誰も追う事など出来ない速度。
ゼファーが数秒、彼の消えた先を眺めていた後、戦闘態勢を解く。そして海岸線にいる全海兵に大声で呼び掛けた。
「全員、戦闘は終わりだ!! 今すぐこの島の住民達を逃す手配をしろ!! 溶岩が街を飲み込む前にだ!!」
「ぜ……ゼファー教官! 麦わらの一味はどう致しますか!」
「放っておけ、今は住民の命が最優先だ」
状況が状況だ。
過激派の赤犬なら分からないが、今目の前で街が溶岩に呑まれかかっているのに、海賊をいちいち相手にしている場合ではないのだ。
ドタドタと走り回って、住民を助ける手配を始めた海兵達。
海軍中将を指揮として動き始める彼らを見ながら、麦わらの一味もこの島から離脱する準備を始める。
そんな時。
ザッザッと大股で、ゼファーが麦わらの一味に向かってきた。構えるゾロとサンジを無視し、航海士であるナミに一枚の紙を握らせる。
「2日後、印の島に来い」
その紙は、この島の周辺の海図だった。
最後のエンドポイントであるピリオ島に向かう道、そこから少しだけ逸れた所にある島に赤い丸がされていた。
「ラブヒーローについて話してやる。別に来なくてもいいがな……」
それだけ言って、ゼファーは去っていった。
麦わらの一味はこれ以上ここにいる意味もなく、すぐにサニー号へと退避する。
セカン島の住民は全て救助されたものの、溢れ出す溶岩に建物は呑まれ、美しい温泉街は跡形もなくなった。
世界中に、2つ目のエンドポイント破壊のニュースが轟いた。
その結果。
フランキーが言っていた通り、人々は例の宣言が真実ではないかと気づき、大混乱を始める。
海軍もこの事態を非常に重く見て、最後のエンドポイントであるピリオ島に戦力を集中……七武海を招集する事を決定した。
ただ、この大事件を見て、動くのは海軍だけではない。
新世界の海賊達も、大海賊時代を終わらせる事を許容できずラブヒーローを止めるためだったり、あるいは破滅的な願望を持ち、彼の野望を手伝おうと海軍に敵対するためだったり。
様々な思惑が交錯し、多くの強者達が、期限の最後である5日後にピリオ島へ集結しようとしていた。
かなり大それた設定でそろそろ批判が来そう
こわひ
でもここまで来たら突っ切ります