愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる   作:ペン汁

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ラブヒーローはかくも愛のために生き続けた

 

 

 

 

 

「まさか、ラブヒーロー……! そんなに、傷を付けられるなんて……!?」

 

 少し離れた所で戦いを見ているアピールは、焦った風にそう呟いた。

 個々の実力は隔絶と言ってもいいほどかけ離れている。だが麦わらの一味は全員で協力する事で、ラブヒーローにジリジリとダメージを与えていた。

 

 

「……おっ、まだやってたか」

「ッ!?」

「おーっと、そんなに警戒しなすんなって。俺ァ、この戦いの行方を見に来ただけだからよ」

 

 アピールのすぐそばに現れたのは、元海軍大将の青雉。

 深緑のコートの裾をパタパタとはためかせながら、ラブヒーロー達の方を見ていた。そして、顎をさすりつつ、感嘆の声を漏らす。

 

「何発か良いの貰っちゃってんじゃないの。誰かと協力する事を知ったか……それでもあそこ迄やれるんだから、流石麦わらの一味だ。こりゃあもしかすっと、どんでん返しが起きるかもな」

「……ラブヒーローとは約束があります。だから……いくら傷つけられても、負けるなんて、そんな」

「へェ~。何の約束?」

「……『殺してほしい』、と」

 

 青雉はアピールの方に顔を向けない。

 ラブヒーローの方に視線を固定したまま、少し低い声色で言葉を返した。

 

「殺してほしい、か。酷なことを頼むね嬢ちゃん。けどその約束は果たされねェかもよ」

 

 少しだけ目を逸らすアピール。

 嫌なことを頼んでいるのは彼女も分かっていた。しかしすぐに視線を彼に向け、言葉を発する。

 

「……本当に負けるかもってことですか? ラブヒーローが」

「ま、そういう事。

 誰にも理解されない孤独な強者である男を、格下でも唯一倒せる方法……それが、絆の深い者同士で協力する事。愛を守る男の弱点が愛を持つ者なんて、皮肉なもんだ」

 

 アピールを殺せるのは、きっとラブヒーローだけ。

 世界を探せば彼以外に少女を殺せる者などいくらでもいるが……そんな奴らはきっと、少女の能力を利用するために無理やり生かすだろう。だからアピールは、自分を殺してくれると約束したラブヒーローに拘る。

 

「加勢は……」

「嬢ちゃんじゃあ無理だな。知ってるぜ、能力が暴走すんだろ? まーそれでもキツイだろうよ。

 そうだ。『()()()()()』だなんて言わず、『()()()』って言ってみたらどうだい? 言葉ってのは、意外にバカにできねェもんだからな。ラブヒーローも頑張れるかもよ」

「――……えっ。ちょ、ちょっと! 私は別にラブヒーローが好きなわけじゃ……!!」

「言葉のあやさ、嬢ちゃん。別にその通りに言えって訳じゃねえよ」

 

 顔を赤らめたアピールは、ニヤニヤと笑う青雉を睨みつけた。

 何を馬鹿な事を。あんな筋肉男の不審者に好意を抱くなんて馬鹿げてるにもほどがある。それに、この計画が成功したら少女は死ぬのだから。

 これ以上人を殺さないために殺されることが、私の幸せだから。そう心に言い聞かせ、戦いへ目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………!」

 

 ラブヒーローが麦わらの一味の主力、ルフィとゾロとサンジを同時に相手取る。

 お互いかなり消耗している状態だ。ルフィ達の方は傷が多い。ラブヒーローは傷こそ彼らより少ないものの、能力の連続行使で体力が大きく削られている。

 

「フランキー・ラディカルビーム!!」

 

 瞬時に頭を下げ、眩い光の粒子で形作られたビームを回避。

 主力の3人が鬱陶しい上、他の面々も横やりを刺してくる。1人ずつ潰そうとしても、誰かが誰かのフォローをして中々上手くいかない。

 

(いい絆だ。本当に……)

 

 感心さえ覚えるほどの連携。麦わらの一味の猛攻を回避しながらそう思う。

 全員が相応の実力を持ち、かつ信頼し合っているからこその行動。孤独に戦い続けてきたラブヒーローには到底辿り着けない境地。

 

 

 ギギッと、全身の筋肉が軋む音を立てる。

 それと同時に、体の芯から茹で上がるような熱が発生する。

 ……『()()()()()()』の合図だ。

 

 

 

 

 本当に、麦わらの一味は素晴らしい。そんな素晴らしい絆を持った彼らだからこそ。

 ()()()()()()()()()()()()のは……本当に、惜しい事だと思う。

 

「ゴムゴムの―――!」

「遅い」

 

 ギア4・バウンドマンのルフィの鳩尾を殴り抜く。

 この形態のルフィの攻撃は威力はあり、ラブヒーローもモロに食らえばタダでは済まない。だが遅すぎて当たらないのだ。

 

「そろそろ私の体力も限界だ、決めさせてもらう。……宇宙の藻屑になれ、モンキー・D・ルフィ」

「何―――ぐぁッ!?」

 

 ラブヒーローが、ルフィの顎を蹴り上げた。

 他の面々、特にゾロとサンジがラブヒーローの行動を止めようと駆けていく。

 

空気の壁(エア・ウォール)、全方位展開」

 

 ルフィの首を掴んだまま、自身の周囲へ球状に空気の壁を展開。

 圧縮を解除し、辺りの土ごと近寄って来た2人を吹き飛ばした。2、3秒しか稼げない小細工じみた技だが、今この状況での数秒は余りに大きすぎる。

 

大気崩壊(エア・ブレイク)

 

 首を掴む腕を天に掲げ、手のひらに圧縮した空気で空へ吹き飛ばす。

 ラブヒーローも足元に空気の壁を展開し、吹っ飛んだルフィを追いかけた。

 

「マリモ!! なんかやべェぞ!!」

「分かってる、俺を飛ばせコック!!」

 

 サンジの右足にゾロが両足を乗せ、天に飛んでいくラブヒーローとルフィを追いかける。

 何をするか分からないが、全身の細胞が危険信号を発しているのが分かった。刀を歯で噛み、両手に持った2本の刀を前方に突き出してグルグルと回し始める。

 

「九山八海 一世界 千集まって小千世界 三乗結んで 斬れぬ物なしッ!!」

 

 サイファーポールが使う月歩の如く、空気を蹴って更に加速するゾロ。

 だが……あとコンマ数秒、間に合わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――時間がかかりすぎる技だ」

 

 

 

 

 

「他の太陽とは違い、全身に少しずつ、熱を溜めていく必要がある。

 撃つ時には両手を使い、その上更に数秒かかる。弱点が多すぎる技だ」

 

 

 

 

 

「―――だがその威力は、地を焼き、天を穿ち、宇宙まで飛んでいくほどに強力」

 

 

 

 

 

 ラブヒーローは、空に両手を掲げた。

 その手の先には未だに吹っ飛び続けているルフィの姿。

 

 周囲の気温が下がる。

 今戦っているこの場所が火口の上だというのを忘れてしまいそうなくらいに。

 

 キラキラと空気が光り始める。

 空気中の水分が凍り始め、結晶となりて、この戦場を彩っていた。

 

 

 ラブヒーローの前に、超高温の熱の塊……太陽が発生する。

 極微小に圧縮された熱がその太陽へ集約していき、質量が加速度的に上昇する。

 数秒も経てばそれは、今までラブヒーローが放っていた太陽が児戯に見えるほど……強く、大きく、そして美しい太陽に成った。

 

 

 

 

 

 

ウルティマ・コア(圧倒的な太陽)

 

 

 

 

 

 

 空気を焼き飛ばしながら進む、()()()()()()()()()

 この島に居る誰もが肌が焦げ付くような熱気を感じ、太陽を仰ぎ見る。目を見張り、口を開け、彼我の実力差を感じた。

 

 

 

「―――!」

 

 

 声すら出せず、太陽に巻き込まれ、そのまま空高くへ飛んでいくルフィ。

 その速度は銃弾よりもよっぽど早く、数分もすれば宇宙空間へ到達するだろう。

 

 

「一大・三千・大千・世界ッッ!!」

 

 

 ラブヒーローの背中に向かって放たれた、ゾロの必殺の一撃。

 3本の刀による高威力の斬撃。だがラブヒーローは振り返りもせず、2本の刀を武装色の覇気で防ぎ、1本は甘んじて受け入れた。

 

 彼の背中を斬り裂き、鮮血が舞う。皮膚一枚ではない、確かにしっかりと斬った。

 しかし怯む様子はない。ゾロを地面へと叩き落し、ラブヒーロー自身はゆっくりと、地面へ着地する。

 

 

「……麦わらの一味。私は、お前たちに敬意を払う。素晴らしい絆を見せてもらった……この先の世界で、人々が目指すべき絆だ」

 

 胸に手を当て、腹が立つくらいに綺麗な動作でお辞儀するラブヒーロー。

 それに真っ先に食いついたのは、サンジ。

 

「ふざけんな! てめェ、全部終わったみたいな話し方してんじゃねェよ!!」

「何故お前たちが何度も立ち上がるのか当初は分からなかった……だが今は分かる。モンキー・D・ルフィは素晴らしい男だ。

 故に、麦わらの一味の精神的支柱となっていた。何度も立ち上がる活力の源になっていた。

 

 ……だから、真っ先に潰したんだ。もう戻ってこれない」

 

 そう言って、空を見上げるラブヒーロー。

 宇宙に登り続ける太陽が、爛々と輝いているのが見えた。ラブヒーローが出せる、正真正銘最強の技。

 

 

 麦わらの一味の顔が青ざめる。

 いくらルフィが強いと言えど……流石に、あの技は今までの物と桁が違う威力なのは分かっていた。

 そんな時、ナミがハッと顔を上げ、ウソップに何かを投げる。

 

「ッ! ウソップ! これ、ルフィに!!」

「な!? ……ああ、分かった!!」

 

 受け取った物を袋に包み、一瞬で空に撃つウソップ。

 銃弾よりもよっぽど速く撃たれたそれは、もしかすると太陽の裏に居るルフィに届くかもしれないが、望みは薄い。

 

 ラブヒーローは放たれた袋を見ていたが……顔を麦わらの一味の方に向けた。

 あんな小包一つで、愛の象徴たる太陽が破壊できるわけがないと思ったからだ。故に撃ち落とすこともしなかった。

 

「……楽な死に方がしたいのなら、希望は聞こう。私に出来るお前たちへの手向けはそれくらいだ」

 

 構えるラブヒーロー。

 麦わらの一味も呼応するように構える。

 

 

「る、ルフィは……か、帰ってこれるよな!?」

「…………」

「かなり……厳しいですね」

 

 チョッパーの問いに、ロビンは答えられず、ブルックは「無理です」という言葉を飲み込んで答えを濁した。

 

 おろおろと不安がる船医の頭を誰かがポンと叩く。

 

 それは黒い手拭いを頭に巻き、血まみれで火傷だらけ、倒れないのがおかしいくらいにボロボロなゾロだった。

 ゾロはチョッパーに対し、力強い声で言う。

 

「大丈夫だ。必ず帰って来る」

「ほ、本当だよな……?」

「当たり前だ。海賊王になる男が……こんな所で死ぬわけがねェだろ」

 

 キッ!と強く睨むゾロ。視線の先に居るのは、首をコキコキと鳴らすラブヒーロー。

 

 大丈夫だ。必ず帰って来る。

 ここでくたばるような奴が船長なら、俺達はもっと前に死んでいた。

 

「早く戻ってこい、ルフィ」

 

 強い信頼を感じさせる声でそう呟いたゾロ。

 刀を口に咥え、ラブヒーローに素早く斬りかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ここは空。

 既に雲を超え、大気の明るさ宇宙の暗闇が混じり合う高さに到達していた。

 そこに木霊する、1人の男の叫び声。

 

 

「――――ッッづァァァぁああああああ!!!!!」

 

 

 ルフィは叫んでいた。

 全身が焼けこげるどころの話ではない。覇気を緩めれば、一瞬で体が蒸発しそうな熱だ。

 

 痛みから来る悲鳴と、気合の雄たけびが混じった叫びをあげながら、太陽を殴り続けている。

 直径30mのマキシマム・コアとは大きさも威力も硬さも比べ物にならないほど高い。

 

「俺は死なねェ!! 絶対に、海賊王にッ――――ッギャアアアアアアアア!!」

 

 太陽を殴り続けるも、次第に押し戻され、再び全身を焼き焦がされる。

 さっきからこんな事を何度も繰り返している。しかし一向に太陽を破壊できる気配はない。

 

(クソ!! 壊せねェ!! 俺じゃ……ラブヒーローには敵わねェのか!?)

 

 そんな弱音が彼の中に浮かび始めた。

 宇宙空間に到達すれば、いくら覇気で体を守っても、息が出来ずに死んでしまう。

 

 辛い、痛い、熱い。

(助けてくれ……違う、こんな弱音は……弱音は……)

 

 

 

 

『その考え方じゃあ、ラブヒーローには勝てねえよ』

 

 

 

 

「ッ!!」

 

 思い出したのは、いつかの青雉の言葉。

 そんな考え方とは。ルフィは1人で突っ走り、強者と一対一で戦う癖がある。そして負けてしまうこともある。

 

 だが違う。

 どんな強者にだって勝てない訳はない。

 大切な仲間と協力すれば……この先の海に、勝てない敵はいない!

 

 

(ハハ……馬鹿だな、俺。一度理解したつもりだったのに……まだちゃんとわかってなかったみてェだ)

 

 

 スゥと、大きく息を吸い込むルフィ。

 再び拳に力を込め、太陽を殴り始めた。そして大声で叫ぶ。

 

「俺は、弱えんだ!!

 痛ェのは嫌いだし、腹が減るのも嫌だし、寂しいのも嫌だ!!暑いのは苦手だし、寒いのも嫌だ!!

 嫌いなものだらけで、苦手なもんだらけで、1人じゃ生きていけねえ自信がある!!

 

 ――だから、みんなと協力してるだろうが!!

 1人じゃ何にもできねェから……だから、仲間と冒険して、海賊王になるんじゃねェか!!!

 

 

 ―――オレの、馬鹿野郎ォ!!!

 

 

 

 この太陽だって、1人の力じゃ壊せない。

 他のみんなも分かってるはずだ。だからきっと、絶対に、何かの援護をしてくれるはずだ。

 

 

 そう確信したからこそ。

 ルフィは見流さなかったのだろう。

 

 太陽の光に紛れて、小さな袋が火を上げながら飛んできたのに気が付いた。

 目を見開き、それに一瞬で手を伸ばす。掴んだ瞬間に袋は完全に燃え去り、中の物体が姿を現した。

 

「! これは――ラブヒーローが使ってた冷気!!」

 

 小さく白く輝き、冷気を放つ物体。

 それは小宇宙の中でラブヒーローが体温を冷やすために使っていた物。

 

 太陽のすぐ近くでありながらも、冷気を十全に放ち続けている。

 

「これを盗ったのはナミで……この袋はウソップか! ――シシッ、ありがとうな!!」

 

 その冷気の塊を太陽に投げつけ、それごと太陽を殴りつける。

 パキン!と、心地よい音が空に鳴り響いた。

 

「うおッ!?」

 

 瞬間、辺りに広がる圧倒的な冷気。

 ルフィの体の表面に一秒と経たず霜が発生し、カタカタと歯が音を立てる。

 

 だがその冷気によって、太陽は明らかに威力を落とした。

 全てを焼き焦がす熱気は少しだけ収まり、速度は著しく下がっている。大きさはそのままであるが。

 

 

「ここまで威力が弱まったなら……!!」

 

 

 しかし、威力が弱まったとはいえ、曲がりなりにもラブヒーローの最強技だ。

 ルフィの放てる技は複数ある。だがその技のどれも、太陽を破壊するには威力が足りない。

 

 彼のすぐ背後には宇宙が広がっている。

 時間的にも、放てる技は1つだけ。チャンスは一度だけだ。

 

 

「考えろ、考えろ!! 思いつくんだ!! 何か、良い技は―――」

 

 刹那。あふれ出す、いつかの記憶。

 

 

『逃げられないほど広範囲で、威力が高く、防ぎきれないほど素早い連打攻撃はモロに食らってしまうのだ』

 

『……今まで格上の強敵と何度も戦ってきた君なら、それに似た技をもう使えるのではないかね?』

 

 それはレイリーの言葉だった。

 ラブヒーローの覇気の弱点を聞いた時に、言われた言葉だ。

 その時には、何も思いつかなかったが……極限状態で頭がフル回転している今なら、もしかしたら。

 

「今まで使ってきた技の中で、広範囲で、威力が高くて、素早い連打攻撃―――」

 

 

 1秒で、グランドラインで戦ってきた強者達との記憶を全て呼び起こす。

 そしてルフィは、とある1つの技を思い出した。いつしか使わなくなっていた、その技を。

 

 

 ――彼の後方の宇宙には、キラキラと、流星が()のように降っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「言い残すことは?」

「……ッ!!」

 

 這いつくばるゾロの前に、ラブヒーローは立っていた。

 

 船長である精神的支柱であるルフィを失った麦わらの一味は、少しずつではあるが連携に綻びが生じ、その綻びをラブヒーローに突かれてしまう。

 綻びを突かれ、乱れてしまった連携でラブヒーローに敵う訳もなく。

 

 麦わらの一味は全員、地面に倒れ伏し、瀕死の状態へと変わり果てていた。

 

 

「……太陽は宇宙に辿り着いた頃だろう。あの男もすぐに………ッ?」

 

 そう言いながらラブヒーローは天を見上げ、首を傾げた。

 ()()()()()()()()のだ。

 物体は遠くへ行けば行くほど小さく見える。もう宇宙に入り豆粒くらいの大きさに見えてもいい頃なのに、太陽はいまだ雲を超えてすぐの所でその巨大さを主張していた。

 

 不可思議そうにそれを見ていたラブヒーロー。

 瞬間、気づく。太陽がじりじりと、地面に向けて下降を始めていることに。

 

 

「――ッ!? まさか、そんな……馬鹿なッ!?」

「へッ……どうやら予想が外れたみてェだな、ラブヒーローさんよ? うちの船長は―――」

 

 

 太陽が形を変え始める。

 完全な球形から、まるで裏側から強い力で押されたゴム毬のようにぐにゅっと潰れた。その状態が数秒続いた、その時。

 

 

「―――モンキー・D・ルフィは、あれぐらいで死ぬ男じゃねェ!!」

 

 

 ゾロの力強い、笑みの混じった声が響き。

 直径100mの太陽は弾け飛ぶように破壊され、島全体を覆うほどの熱気が拡散された。

 

 そしてその熱気によって発生した蒸気を掻き分けるように現れる、男が1人。

 

 

 

 

 

「ラブヒィィィィロォォォォオオ~~~~ッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 その男を見て、ラブヒーローは驚愕の声を上げた。

 

()()()()()D()()()()()……! まさか、どうやって……そんな馬鹿な! あり得ないッッ!!!」

 

 激しく動揺するラブヒーロー。

 自身の最強技であり、愛の象徴として称える太陽が破壊されてしまったのだから、それも仕方がないだろう。

 

 

 足元に空気の壁を展開し、空から降って来るルフィに向かって素早く飛び上がる。

 両手を左右にバッと突き出し、手のひらに熱を圧縮し始めた。

 

 

ダブル・マキシマム・コア(2つの強大な太陽)ッッ!!」

 

 

 両手に生み出されるは、直径30mの太陽。

 その2つを同時に、ルフィに向かって投げつけた。

 

 

「もう効かねェよ……! 俺は、俺達は、お前を倒してこの先の海へ行くッ!!」

 

 

 ルフィが深く息を吸い、腹を大きく膨らませた。

 足を内側に引っ込め、体を捩じり、腹に溜めた空気を一気に口から吹き出した。

 

 空気を吐き、加速する。

 足を素早く撃ちだして空気を蹴ることで、更に加速する。

 重力に従うことで、更に加速していく。

 

 ギチギチッ!と巨大化させた両腕。拳をその腕の中に引っ込める。

 迫る2つの太陽に向けて、セットした両腕を構えた。

 

 そして、ルフィは叫ぶ。

 昔使っていた技―――『ゴムゴムの暴風雨(ストーム)』を、ギア4でも使えるようにアレンジした、新しい技の名前を。

 

 

 

 

「ゴムゴムの―――大猿王(キングコング)!! 流星嵐(メテオストーム)ッ!!!」

 

 

 

 

 巨大な拳が2つ、嵐の雨のように太陽に降り注いだ。

 いや、その拳の大きさから嵐の雨と呼ぶのはいささか似合わない。まさに、流星が降り注いでいる……そう言った方が適切だろう。

 

 秒間十数発はくだらない速度で、太陽を殴り続けるルフィ。

 そして、あれだけ壊すのに苦戦していたマキシマム・コアを―――いとも簡単に、破壊した。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――な」

 

 

 太陽を破壊した流星の嵐が、ラブヒーローに降り注ぐ。

 

 いくら覇気が硬くても、覆う面積が狭すぎる彼では、この拳の連打を受け止めることは出来ない。

 回避しようにも、余りに拳が大きすぎて、もう避け切れない。

 

 

「私が、負ける――……」

 

 

 そう呟き。ラブヒーローは何か諦めたように、目を閉じる。

 

 誰にも理解されないほど、愛を求め続けた。

 だが世界は辛辣で、余りに残酷で、愛を守ることは出来なかった。 

 

 ラブヒーロー……愛を守るヒーローとして相応しくなかった自分には、こんな惨めな最期がお似合いだろう。

 糞みたいな人生で、何にも成し遂げられなかった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――ラブヒーロー!!」

 

 

 甲高い、少女の声が響き渡る。

 ラブヒーローは閉じていた目を開き、その声のした方向に顔を向けた。

 

 

「負けないでよ!! 勝って!! 私との約束があるんでしょ!?

 

 お願いだから―――ラブヒーロー!!

 

 

 勝って……私を幸せにしてよ!!」

 

 

 

 少女。アピールは、涙混じりの声でそう叫んだ。

 腕を組んで佇んでいた青雉は、その言葉を聞いて……汚い声を出した。

 

「え”え”ッ!? ちょ、おまッ!!」

「何!?」

「『幸せにして』って嬢ちゃん……そりゃ、プロポーズの常套句みたいなもんだぜ!? 今告るかよフツー!?」

「え……あっ。……いや、ちがッ、違うの!! 違うったら違うから!!」

 

 

 

 

 

 

 青雉と何を話しているかは聞こえないが、顔を赤らめながら慌てふためくアピールを見て。

 ラブヒーローはフッと、紅いバイザーの中で笑みを浮かべた。

 

 

 勝って、なんて応援されたのは初めてかもしれない。

 幸せにして……というのは、少し意味が分からないが。まあ、暖かい料理と、清潔な服と、綺麗な寝具さえあれば幸せは感じられるだろう。

 

 ラブヒーローとは、愛を守るヒーロー。

 幸せにしてと頼まれたのなら……請け負うほかないだろう。

 

 この計画が成功すれば、アピールは死んでしまうとか、そういったことは……後に置いておこう。勝って、幸せにして……。

 

 

「勝って、幸せにして……か。そうだな、とりあえず、勝ってから全て考えよう。

 フフッ……悪いな、モンキー・D・ルフィ。どうやら、本当の限界まで……全力を振り絞る理由ができたようだ」

 

 

 空中に空気の壁を瞬時に展開。それをしっかりと踏みしめる。

 両拳に白い武装色の覇気を纏い、見聞色の覇気を全力全開で使用し1秒先の未来を見る。

 

 

 そして、降り注ぐルフィの拳をしっかりと見据え。

  

 

「―――ハァァァアアアアアアアア!!!!」

 

 

 

 ―――ドガガッガガガガッガガガガガガガッ!!!

 

 

 

 

 彼の黒い拳に向かって、己の白い拳をぶつけ合う。

 ぶつけて、ぶつけて、ぶつけて。

 

 筋肉が張り裂けそうなほどのスピードで腕を動かし、ルフィの拳を殴り返し続けることで。

 

 

 なんと。

 ルフィの体を……()()()()()()()()()()()()()()のだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ワンピースフィルムRED面白かったです。
本作も中々ぶっ飛んだ設定をしてますが、まさか公式に設定のぶっ飛び具合で超えられるとは思いませんでした。流石だァ……。

そしてラブヒーローと麦わらの一味の戦闘が長すぎて申し訳ありません。
後1話で戦闘の占めをして、その次の話でエピローグ、最終回です。

……ん? 前回も残り2話だって言ってたのに、今回も残り2話だって言ってる気が……

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