愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
「おいおいおいおい、冗談だろ!? どんっだけ、スーパー化け物な身体能力してやがんだ!!」
身を起こしたフランキーが、空を見てそう叫んだ。
ラブヒーローがルフィの拳を殴り返し、上空へ押し返し始めるという、到底人間とは思えない行為を始めたのだ。
流石の麦わらの一味も度肝を抜かれてしまった。だが、何も行動しない訳にはいかないのだ。
全員傷だらけで、あの高さまで飛び上がることは出来そうにない。
ゾロが刀を杖代わりにフラフラと立ち上がり、ラブヒーローに向けて構えた。
「あそこに攻撃が撃てる奴で、攻めるしかねェ……!」
その言葉を聞いて立ち上がったのは、ナミとウソップ。そして元々立っているフランキー。全員遠距離攻撃の手段を持っている者達だ。
それ以外は動けそうになく、役にも立てそうになく、そのまま倒れている。
「みんな……聞いてくれ……!」
ウソップが、パチンコを杖代わりに立っている。
足がガクガクと笑っていて、小突けばすぐにでも倒れ伏しそうだ。
それでも、その目に浮かぶ闘志は全く衰えていない。それどころか今から、一世一代の大博打でもしそうな、覚悟を決めた目をしている。
「俺にはとっておきの秘策がある……! 失敗したらやべェけど……成功すりゃ、絶対に勝てる……!」
「どういう策だ……ウソップ」
「へへ……そいつは見てからのお楽しみだぜ。とにかく、俺の言うとおりに攻撃してほしいんだ……」
ニヤリと、笑みを浮かべるウソップ。
彼以外のゾロ、ナミ、フランキーは顔を見合わせ、コクリと頷いた。
「――クソ!! 速く、速く決めなきゃいけねェのに!!」
ルフィが全力で拳の嵐を降らせながら、そう叫んだ。
彼のギア4には制限時間がある。そしてその制限時間が訪れた時……体から力が抜け、10分間覇気が使えなくなる。
10分も覇気が使えない。
それは1秒の隙が命取りになるラブヒーロー相手では、論外と言ってもいい時間だ。
制限時間が来た瞬間、ルフィの敗北は確定する。
「クソォッ! あともう少しなのにッ!」
ラブヒーローは全力で見聞色と武装色の覇気を使い、ルフィの拳を殴り続ける。
少しずつ、少しずつではあるが、ラブヒーローが押し勝ち始めていた。強者がなりふり構わずに絞り出す底力という奴は、たとえどんな物であっても恐ろしいのだ。
「千八十
「フランキー・ラディカルビームッ!!」
「必殺緑星
地上にいる3人が、ルフィの拳を殴り続けるラブヒーローの背中に向け、一撃を放った。
渦巻くゾロの斬撃がフランキーのビームとウソップの緑星を巻き込み、葉っぱとビームがらせん状に重なった斬撃がラブヒーローに飛んでいく。
その高威力の斬撃は、ラブヒーローの背中に向かって一直線に飛んでいき、直撃すると思われた瞬間。
ラブヒーローが左手を後ろに向け、太陽を放ちその斬撃を防いだ。
「クソ、アレでも駄目なのかよ……!」
フランキーがそう漏らす中、ウソップだけはニヤリと笑っている。
だが……。
「甘いッ!」
ラブヒーローが一瞬で上半身を捻り、自身の右側から飛来していた何かを掴み取った。
白い武装色で覆われた指に摘ままれたそれは……ウソップの緑星だった。
「……ッ!」
瞬間、ウソップの顔から笑みが消える。
ナミも顔を青ざめて口元を抑え、目を見張り、驚愕の表情を浮かべた。
「貴様のだまし討ちには一度やられたからな……絶対にやって来ると思っていたよ。気流の操作で全く別の方向から弾を飛ばす、中々いい案だったが……」
「フッフッフッ……どうやら、上手く行きすぎて驚いていたのを、見破られてショックを受けていると勘違いさせてしまったみたいだね」
「何だと?」
ウソップが帽子のつばを親指で上げ、ラブヒーローに好戦的な笑みを見せた。
「俺はめちゃんこ弱いけど、嘘だけは一味で最強なんだぜ!
一度騙されたお前なら、用心して……一番信頼できる、
「ッ!!」
冥王レイリーすら認める、世界最硬の武装色の覇気を纏うラブヒーロー。
そしてラブヒーローもまた、自身の武装色が世界最硬である事を自覚している。
強力な攻撃、見慣れない攻撃。だがそれがどうした?
ロジャーすら貫けなかった白い武装色を貫ける攻撃など存在しない。そう信じているからこそ、無意識に、ウソップの弾を覇気を纏った手で掴んだ。
しかし。
ラブヒーローはその時、忘れていた事を思い出した。
いくら最硬の覇気を持っていようと、それ以前に。
自分は――――母なる海に嫌われた『悪魔の実の能力者』なのだと。
「ちぃッ!!」
ラブヒーローが騙されたのを確信し、一瞬でその弾を指から離す。
だが一度自分で掴み、体の近くまで持っていってしまっているのだ。回避するには、もう遅すぎた。
「必殺緑星、サルガッソ!
弾から、海水を滴らせるほどに含んだ海藻が大量に飛び出した。
ウソップはこの島に降り立つ前、サニー号の船尾にて、この弾を海の中に漬けていたのだ。
そうすると、海藻は海水をたっぷりと含むようになる。次第に乾燥していく故、長持ちはしないため、数時間以内が使用限度ではあるが……その分能力者相手への効果は抜群だ。
「クソッ――!!」
ラブヒーローは一瞬でその海藻を弾き飛ばすが、飛び散った海水が全身に降りかかる。
海楼石を当たられたかのような脱力感が全身に走り、足元に展開した空気の壁に膝を突く。
「ルフィ、ちょっとビリビリ来るかもだけど我慢してね! ゼウスブリーズ・テンポッ!」
ナミがゼウスを呼び出し、雷雲を食べさせ巨大化させる。
そして空に浮かぶルフィごと、巨大な雷撃でラブヒーローを貫いた。
「――――ッ!」
強大なダメージがラブヒーローの体を貫き通した。バリリッと、体の表面に雷が走る。
海水を浴びても能力は解除されない。ただ脱力感が全身に広がるだけだ。
だが今のこの状況で、体から力が抜けるというのは―――それすなわち、『
「行ッけェェえええ!! ルフィ、そのまま決めちまェェーーーーッッ!!!」
興奮した様子で、パチンコを持ったウソップがそう叫んだ。
その叫びに呼応したように、ルフィが拳の速度を、限界を超えた速さまで加速させる。
「ぐっ、ぐァッ……!」
ラブヒーローは覇気を纏い、ルフィの拳を殴り続けるが、海水のせいで力が出ない。
次第に腕は弾かれ、ガードすらままならず、全身を殴られ続けるようになった。
ノーガードで全身を殴られるせいで、体は傷だらけになり、至る所から血が噴き出し始める。
「―――落ちろォォおおおおッッ!! ラブヒィィィロォォォォオ!!!」
ルフィが雄たけびを上げながら、重力に従って落下しながら、ラブヒーローを殴り続ける。
そして、黒く巨大な流星の嵐は地面へと衝突した。
地面を叩き割り、岩が空に飛び散り、細かな砂が周囲に散らばる。
パラパラと小石が転がる音だけが広がる中、ルフィが勢いよく空気を吐き始めた。ギア4のタイムリミットだ。
そしてバタリと、その場に倒れ込む。
「っ、へへ……勝ったぞ、ラブヒーロー……」
ギア4の代償で体が全く動かせないルフィのすぐ側には。
顔の赤いバイザーにひびが入り、全身傷だらけで血を流し、仰向けに倒れるラブヒーローが居た。
ルフィはもう動けないが、麦わらの一味はまだ動ける。
対して、ラブヒーローは全身傷だらけで、しばらくは動けそうにない。
―――世界の命運を懸けた勝負は。
まさかの大番狂わせ。
…………『麦わらの一味の勝利』に終わった。
ルフィの連撃により、地面には3mほどの深さのクレーターが出来ていた。
2人はそのクレーターの中心で、仰向けになって倒れている。
「……ゴフッ」
割れた赤いバイザーの隙間から、血を吐くラブヒーロー。
ここまでやられては……流石に認めざるを得ない。麦わらの一味は確かに、32億2000万の賞金首であるラブヒーローに勝利した。
倒れ伏し、体が動かせないラブヒーローとルフィ。
そんな状況下でありながら、なぜか、ルフィがニシシシと欠けた歯を覗かせて笑い始めた。
「何を……笑っている?」
「いや、なんかおかしくて笑っちまったんだ。フーシャ村を出てすぐに出会ったおっさんが、まさかこんなに強ェなんて」
「……もっと以前にシャンクスに会っている癖に、よく言う」
命を懸けて戦ったというのに……なぜか、険悪な雰囲気は流れていなかった。
太陽でぶち抜いた雲の隙間から、綺麗な星々が見える。ルフィとラブヒーローはその星を眺めながら、静かに会話し始めた。
「ラブヒーロー……いや、白いおっさん」
ルフィは『ラブヒーロー』と言う呼び方から、わざと白いおっさんという愛称へ変える。それは、もう彼に対して敵意がないという事の表れ。
それに気づいたラブヒーローは、なんとも言えない表情で、顔を少し逸らした。
「おっさんは、覇気の練度がすげェんだろ? 最後の連撃……白い武装色を使うのをやめて、全身を黒い武装色で覆えば、耐えれてたんじゃねェのか?」
もしかすると、手を抜かれたのかもしれないと思うルフィ。
それに対し、ラブヒーローは、ゆっくりと答えた。
「黒は……悪の色だ。海賊旗も黒が多い。だが逆に……白は、正しいとか、正義の色だ。
愛を守るラブヒーローが、悪の黒色で全身を染めるなんて……なんだかカッコ悪いだろう? だから私は、白い武装色しか使わないんだ」
「……ブフッ。なんだよそれ、あっひゃっひゃっひゃ!!」
「……笑うな」
そこまで話し合った所で。
息絶え絶えの麦わらの一味と、焦った様子のアピールが、2人の倒れている場所まで到着した。
クリマ・タクトを杖代わりに歩くナミが、真っ先に声を上げる。
「ルフィ! 大丈夫ッ――……そうね。まったく」
「ナミ! サンジ! オレ、腹減った!」
「馬鹿かお前! 飯ねだってる場合かッ!! 船戻ったら作るから我慢しろッ!!」
「えーッ!!」
麦わらの一味のやり取りを、顔だけを動かして眺めているラブヒーロー。
そんな彼の頬に手が触れる。
クレーターの中に降り、ラブヒーローの顔の横に座り込んだアピールの手だ。
「ラブヒーロー……」
「すまない、アピール。……負けてしまった」
「しょうがないよ。強かったから、あの人達……」
「……ああ、そうだな。本当に強い」
割れた赤いバイザーの隙間から、ラブヒーローの目が覗き見える。
彼の目は今まで世界の命運を懸けて戦っていたと思えないほど、穏やかな物だった。
「おっさん」
クレーターの中に降りて来た麦わらの一味によって、上半身を起こされるルフィ。
その目は、ラブヒーローと同様に、穏やかな物だった。
「最後に1つ、聞いてもいいか?」
「なんだ」
「おっさんは……なんで世界中に、この計画を宣言したんだ? 本当に成功させたいなら、ひっそりとやりゃあいいじゃねェか」
その質問を聞いて、ラブヒーローは天を仰いだ。
至極もっともな質問だ。本当に成し遂げたい計画があるのなら、世界に宣言せずにやった方がいいに決まっている。
世界中に超大型の海洋生物を発生させる。民衆の被害を避けるため、避難期間の10日を宣言するというのは、まだ理解できるが……。
エンドポイントの場所をわざわざ公表するのだけは、どうにも理解できなかった。
警戒する麦わらの一味に、顔を向け、静かに言い放つ。
「そうだな。何度か……私は言ったな。
私の計画を止める権利を与えるためだとか、子供じみた誤魔化しの言葉を。
―――でも、本当は……この計画を実行することに対し、『
裂けた雲の隙間から、宇宙で瞬く星々が見える。
その無数の星々と同じように、この世界にも、無数の人々がいるのだ。
「海を人が渡れないようにすることで、『
だが、この計画を実行すると―――愛は失われないが、『
愛とは、人と人同士が関わり合って生まれ、育まれ、紡がれる物。
……今ある愛を守るのが大切なのか、それとも新しく生まれる愛を大切にするべきなのか―――それが、私にはわからなかった。
だから、世界中に宣言したんだ。
私を止めに来る……新しい愛を求める者がこの世界にいるのかどうかを、確かめるために」
割れたバイザーの隙間から、ラブヒーローがニコリと笑うのが見える。
屈託のない笑顔だった。
その表情を見て、警戒していた麦わらの一味は毒気が抜けたように構えを解く。
「大海賊時代に生まれ、たった2年と少しでここまでの絆……親愛を築き上げた者達が、私に打ち勝った。
……新しく生まれた愛が、私に打ち勝ったんだ。
こんなに嬉しいことはない。
今ある愛も大切だが……この混沌とした時代に生まれる新しい愛も大切なんだと、心の底から気づかされた」
「じゃあ、海を渡れなくするって計画は、もう」
「……ああ。
ここまでボコボコにされた上に、心がもう認めてしまったんだ。戦う理由もない。……計画は全て廃止だ」
それは事実上、ラブヒーローの口から放たれた、敗北宣言。
麦わらの一味はその言葉を聞いてホッと安堵したり、武器を鞘に戻したり、興奮のあまり近くの者とハイタッチする者までいた。
32億2000万の賞金首と、後戻りの効かない勝負。
そんな勝負に勝利したのだ、喜ばない方がおかしいという物だろう。
「ラブヒーロー。……計画がなくなっちゃったのなら……私、これからどうすればいいかな」
アピールが、小さな声でそう言った。
計画が成就し、死ぬ気でいた彼女にはこれからの予定が一切ない。目標もないのだ。
先行きが全く見えない所へ放り出されるというのは、強い恐怖を感じるものである。
「計画はなくなったけど、これからも人を殺し続けるくらいなら、いっそ、死んだ方が―――」
「――……ん? 一応言っておくが、これからやる事は山のようにあるぞ」
「え?」
困惑するアピール。
そんな彼女に、ラブヒーローはさも当然だと言う風に明るい口調で言葉を続けた。
「まず住む所を探さなきゃならないし、服とかも……ああそうか、その前に食料だ。修行の方法も考えないと」
「……えっ?」
「何が『えっ?』なんだ。自分から『幸せにして』と頼んできたんだろう?」
「いや、それは……言い間違いと言うか……」
小首をかしげるラブヒーロー。
どうやらお互いの間で、何か考え方の行き違いがあるようだ。
頬に添えられたままのアピールの手を掴み、力強い言葉を発する。
「死ぬとか殺すとか、そういうのはしない。
確かにお前は、能力を暴走させて多くの人を殺した。街を壊した。罪悪感を感じて死にたくなるのも分かる。
……だけど、死んで償って、それで終わりは駄目だ。
インペルダウンに入って償うのが一番いいんだが……脱獄事件が起きて、こんな風になってしまったからな。
だから今度は、実の能力の制御方法を学んで、覇気を習得して。
その罪を償い切れるまで、世界中を巡って人を助け続けるんだ。
だから、心配するな。
お前が罪を償い切って、『
その言葉を聞いて。
アピールは一度顔を伏せ、唇を糸のように細く結び。
ラブヒーローの首の、喉仏の辺りをバチン!と強く叩いた。
「痛ッ」
「……私の罪って、償い切れるのかな……?」
「……ありきたりな言葉だが、この世に償えない罪はないそうだ。手探りでもいい、少しずつでもいいから、誰かを助けることから始めてみよう。そうすればいつかきっと、償えるさ」
「そうなのかな。……でもきっと、ただ逃げて死ぬより、そっちの方がずっといいよね……」
麦わらの一味の歓声の中に小さく混じる、嗚咽の声。
薄く空気の壁を張り、この声が他の者の耳に届かないようにした。こんな声を聴かれるのは少し恥ずかしいだろう。
ラブヒーローは胸に暖かい涙が落ちるのも厭わず、アピールの手を優しく握り続けた。
「おい、エースの弟!! 無事かよい!!」
バサバサと青い炎の翼をはためかせながら舞い降りてきたのは、白ひげ海賊団の一番隊隊長であるマルコ。
クレーターの中に居る麦わらの一味と、その横に倒れているラブヒーローの姿を見て、ぎょっと目を見張る。
「……本当にラブヒーローを倒しちまったのか。全く、末恐ろしい奴だよい……!」
ニヤリと笑ったマルコだが、すぐに顔を横に振ってその笑みを消し、再度ルフィに向けて言葉を放つ。
「海から飛び出してきたカイドウの攻撃で、防衛線に隙が出来ちまった! そこから海軍がここに向けて大量に進んできてる!! お前たちの船はもう島の裏側に移動させた、すぐに逃げるんだよい!!」
その言葉を聞いて麦わらの一味は戦慄し、特にウソップやナミやチョッパーは顔を青ざめた。
今のこの状態で海軍とぶつかれば、全滅は免れない。
それにこのボロボロの状態で、果たして島の裏側にある船まで逃げることができるのか?
かなり厳しいだろう。追いつかれる確率の方が圧倒的に高い。
「………全員、さっさと逃げろ」
バン!と地面に手を突き、ゆっくりと体を起こすラブヒーロー。
何か嫌な物を感じたのか。ルフィがゾロの背中に担がれながら、大声を出した。
「待てよおっさん! おっさんもボロボロなんだろ!? 俺達の船で一緒に逃げよう!!」
「……モンキー・D・ルフィ。私には責任があるんだ。ここまでの事をしでかしてしまった、責任がな」
「でも!!」
ラブヒーローは、アピールが手首を掴んでいるのに気付いた。
バイザーの奥でニコリと優し気な笑みを浮かべ、瞬時に彼女の額をデコピンで弾く。
頭蓋骨の中の脳が振動により一瞬でシェイクされ、軽い脳震盪のような物を起こし、アピールは気絶した。
「私からの頼みを、聞いてくれるか。……アピールを、『世界のゴミ捨て場』という名前のあった島まで連れて行ってやってほしい」
「嫌だ!! 自分でやれよ!!」
「……頼む。アピールには、『絶対に行くから、その島で待っていてくれ』と伝えてほしい」
「…………でもよォ!!」
駄々をこね続けるルフィ。いくらラブヒーローでも今の状態で海兵と戦えば無事では済まないのは、この場の全員が分かっていた。
ルフィの脇腹を肘で強く叩くゾロ。そして声を荒げる。
「いい加減にしろ!! お前は船長だ、駄々をこねて仲間の命を危険に晒すのが役目じゃねェ!!」
「…………」
「……それに! こういう頼みは……黙って引き受けるのが、漢ってもんだ」
ゾロがそう言うと、ルフィは何も言い返せずに口をつぐんだ。
倒れないように腕で支えていたアピールの体を、そっと持ち上げるチョッパー。医者である彼ならば、大切な人物である彼女を預けるにふさわしいだろう。
「ありがとう。じゃあな」
クレーターから飛び出すラブヒーロー。見聞色で海軍が大量に向かってきている方向を察知し、睨む。
そんな彼の背中を見届けながら、逃げていく麦わらの一味。
ゾロに背負われていたルフィは必死に口を閉ざしていた。
だが次第に我慢できなくなり、しかし駄々はこねず、ラブヒーローに激励の言葉を贈った。
「――おっさん!! 絶対死ぬなよッ!! また、またいつかどっかで会おうな”ッ!!」
ルフィの言葉に、ラブヒーローは振り返らない。
ただ静かに、サムズアップした右手を彼に見せた。……それだけで十分だった。
「来たか……」
ラブヒーローがそう呟く。
彼の前には、ザッザッと足音を揃えて歩いてくる海兵たちの姿があった。
海軍大将の姿は見えない。恐らく海岸線で戦っているのだろうか?
「ラブヒーロー……」
列挙する海兵たちの一番先頭に立ち、ラブヒーローの事を強く睨んできている男。
男の名はゼファー。
右腕に機械の腕を装着し、高級そうな葉巻を咥えている。
「その傷は……まさか。お前、負けたのか」
「ああ。麦わらの一味に……な」
ドヨヨッと海兵たちに動揺が広がる。
30億越えの懸賞金首が負けた。しかも、五人目の皇帝と呼ばれる新進気鋭のルフィが率いる海賊団にだ。
今後海軍の中で、ルフィに対する警戒度は更に上昇するだろう。
懸賞金も上がるかもしれない。
だがゼファーにとって、今、そんな事はどうでも良かった。
「……なんだか変わったな、お前。いや……違う。
「戻る? 昔に? …………ふむ」
ラブヒーローは顎を抑え、小首をかしげる。
数秒後、ニヤリとあくどい笑みを浮かべ、ゼファーに対して挑発的に指をくいくいと動かして見せた。
「昔となると、確か、一人称は私ではなく『俺』だったか? ゼファー」
「!! ……フッ、ハッハッハ! とんだクソガキに戻りやがったな、貴様!」
天竜人を殺した時から、おかしくなっていたラブヒーローなら絶対に言わないような、小気味のいい冗談。
それを聞いて、ゼファーは彼が完全に昔へ戻ったのだと確信した。
自分では彼の辛さや悩みを解消することは出来なかった。
しかし麦わらの一味がラブヒーローを倒すことで、おそらく彼の苦悩を何処かへ吹っ飛ばしたのだろう。
あのルーキー海賊のガキ共がよく勝てたもんだと心の中で感心しながら、ラブヒーローの方を見た。
お互いに目を合わせて睨み合い、好戦的な笑みを浮かべる。
ラブヒーローが構えた瞬間、海兵たちがそれに反応するように武器を構えた。
「孫へのプレゼント代として俺の首を持っていったらどうだ? ゼファー」
「抜かせ。海兵は賞金首を倒しても、懸賞金は支払われねェよ」
「そうだったのか。クソだな」
「ああ。確かにクソだが……退職金は増えるかもしれんな」
その言葉を聞いて鼻で笑う、傷だらけのラブヒーロー。一生海兵を辞める気などないくせに、退職金の事を考えるか、と。
この数の海兵、そしてゼファーに、姿は見えないものの海軍大将まで控えている。
正直、勝ち目はかなり薄い。
それでも、なお。
ラブヒーローは背後にいる麦わらの一味を逃がすため、ここを退く気は一切なかった。
「――――ラブヒーローはここで終わりだ。だがな……。
貴様らには、
海軍とラブヒーローの衝突が始まる。
やがてその戦いには海軍大将も参加し、戦闘は更に苛烈を極めた。
――――そしてラブヒーローが起こした事件の、翌日。
ニュース・クーがばらまく、世界経済新聞の号外にて。
『
次回、最終回
「ラブヒーローのいなくなった世界で」
2022/8/8 20:00投稿