愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる   作:ペン汁

39 / 41
蛇足です。










 √分岐点
 ・ラブヒーローの名前をロジャーから受け取る前に、海軍に入る









蛇足
海兵と成りし貴方はそれでも生きていく


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――コツ、コツと。

 

 硬い地面を足先で叩き、ゆったりとした速度で歩く大男がいた。

 右手には全身が火傷だらけで気を失っている海賊の髪を掴んでいる。懸賞金が億越えの、グランドラインに住む海賊だ。

 

 大男の行く先に、幾人もの海兵が立っている。

 海兵達は男の姿を見るなり冷や汗を流し、一寸の乱れもない敬礼をして、ハキハキとした声で言い放った。

 

 

「お疲れ様です、『()()』殿!!」

 

 

 敬礼する海兵たちのアーチを当然と言った様子で歩む男。

 その体躯は3mにも及び、見る物に威圧を与える強靭な筋肉で覆われている。

 睨まれた瞬間、思わず縮みあがってしまうような鋭い目つき。そんな彼の顔には、左目から首に掛けて黒く痛々しい傷跡が残っていた。

 

 

 

 『英雄の再来』『ゼファーの懐刀』『異常者』という、物騒な二つ名を持つ大男。

 ある者は彼を畏怖し、ある者は彼を信頼し、ある者は彼に嫌悪を抱いている。

 

 しかし誰が何と言おうと、彼の功績はまさに御伽噺で語られるような、目覚ましい物であった。

 

 

 幼少期、当時海軍大将であったゼファーの紹介で海軍に入軍。

 そのままゼファーに師事し数年の修行を経て、その目覚ましい才能を開花させる。

 

 18歳の時、億越えの海賊を3人討伐、佐官に昇進。

 21歳の時、4つの海賊団が集まって出来た総額15億の海賊連合を単独で壊滅させる。

 

 それを皮切りに、次々と目覚ましい功績を積み立て、24歳で海軍少将に至る。

 

 

 そして現在、26歳になった海軍少将の大男。

 今まさに新世界の海賊を半殺しにし、本部へと帰って来た男。

 

 彼の名は―――『ラノア』と言った。

 

 

 

 

 敬礼を解いた海兵が、ラノアに恭しい声色で問いかける。

 

「少将殿。今日は新世界の方にいらっしゃると聞いたのですが……どうして本部へ?」

「ああ。七武海の定例会議だ。お鶴さんの代わりに出席するようにと通達が来た」

 

 本来参加予定であった海軍中将のお鶴さんが、新世界で突如乗っていた軍艦の船底に穴が開き、航行不可能なため本部へ戻ってこれないとのこと。

 その代わりとして一番フットワークが軽く、新進気鋭の海兵として頭角を現すラノアが呼び出されたのだった。

 

 

 

 

 勝手知った本部の廊下を進み、会議室の大扉の前へ辿り着いた。

 見事なレリーフが彫り込まれたその扉に、何度も見慣れているからか特に感動することもなく、片手で押し開ける。

 

「申し訳ありません。遅れました、センゴク元帥」

「いい。今日も億相当の海賊を捕まえてきたことは知っている。……座れ」

 

 ラノアは円形のテーブルに並んだ椅子……その中の一番下座に座る。

 七武海に選ばれるような大海賊は、面子という奴を気にする。よってこういった会議で集まる時、下座は常に空きがちだ。

 そういった格式を気にしないラノアは扉に近いからとお構いなしに座るが。

 

 机に脚を乗せていた七武海『ドフラミンゴ』が「フッフッフッ」と歯を覗かせて笑う。

 

「お~お~。新進気鋭の海軍少将様は相変わらずえれェ目つきをしてやがるぜ。……なぁ、鷹の目?」

「…………フン」

 

 

 この場に集まる七武海は4人。

 

 天夜叉『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』

 鷹の目『ジュラキュール・ミホーク』

 スリラーバーグ海賊団船長『ゲッコー・モリア』

 砂漠の支配者『サー・クロコダイル』

 

 全員が押しも押されぬ大海賊。不参加の者もいるが……現七武海の主力はこの4人。

 残り3人は例えいようがいまいがどうにかなるレベルだ。

 

 それに、今日の会議の議題は。

 『七武海の主力が1人増える』事についてである。

 

 

 

 

 

「知っている者もいるだろうが……今日の議題は、新しく加入する七武海についてだ」

「キ~ッシッシッシ! 情けねぇ、たった一人の海賊に全員ぶっ殺されたんだって? 仲間なんて作るからだ……」

 

 ――ゲッコー・モリアは既に情報を掴んでいたようだ。

 

 彼の言う通り、新世界に鎮座していた七武海率いる海賊団が、たった1人の海賊に皆殺しにされた。その現場を実際に見に行ったが、正に悲惨。暴虐の限りを尽くしたと表現するのが正しい。

 

「それにしても、だ。殺された奴はコソコソ身を隠すのが得意だったはずだが……」

 

 クロコダイルがそう進言する。

 今回殺された七武海は悪魔の実を食べていた。自然(ロギア)系・キリキリの実を食べた全身霧人間で、船ごと霧に包み、身を隠すのが得意だった。

 奇襲や闇討ちが非常に達者で、正体が分からないまま敵に回せば厄介だが……種が分かればそう強くもない。

 

「ああ。だが実際、殺されたことは事実なのだ。そうだろう、ラノア少将」

「はい、私がこの目で確認しました。……なんなら、今ここで死体もお出ししますが」

 

 ラノアは悪魔の実の1つ、ギチギチの実を食べた全身圧縮人間。

 生き物は小さく圧縮することができないが、ただの物となった死体なら圧縮することができる。

 

「いらん! ……全く、昔はそんな事をする奴では……」

「……死んだ者の話を長々と聞く気はない。さっさとその新しい七武海とやらを紹介してもらおう」

 

 黒刀『夜』を背中に携えたミホークが、腕を組みながら言った。

 それに賛同するように、ドフラミンゴがフッフッフッと笑う。全員、死者を雅に弔う気持ちなどないということだ。

 

 元帥が視線をこちらに向ける。

 新しい七武海を部屋に入れろという事らしい。ゆっくりと椅子を引いて立ち上がり、会議室の大扉を開いた。

 

 

 ヌゥッと部屋に入ってきたのは、身長が7mに及ぶほどの大男。

 感情を感じさせない無機質な顔つきは、ただそこにあるだけで只人を威圧する迫力がある。

 

 扉を開けて数歩入った所で、部屋の中を見回す。

 そして低く静かな声で、名を名乗った。

 

「――――……『バーソロミュー・くま』だ」

 

 この場にいる全員が確信する。

 生半可な実力を持った、見掛け倒しの海賊ではない。

 

 真の実力を持った、強者であると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこからの会議はつつがなく進んだ。

 

 今回の会議のポイントは、新しい七武海が現七武海の面々に認められるかどうか。

 

 その点、バーソロ―ミュー・くまはしっかりとした実力を持っていた。

 生半可な実力なら、ドフラミンゴ辺りが突っかかっていただろう。

 

 会議を終えた瞬間に七武海達が立ち上がり、ぞろぞろと部屋の外から出ていく。

 今回新たに加わったバーソロミュー・くまも彼らに着いて行くように歩み始めるが。

 

「…………」

 

 ラノアの方を誰にもバレないように、ほんの一瞬だけ、一瞥する。

 それに何を言うまでもなく、ラノアは目を伏せた。

 

 センゴク元帥が部屋から出たのち、ラノアも同じように部屋から出る。

 会議室には、静寂が再び訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜も更け切った頃。

 正義のローブをはためかせた、身長3mの男が空を飛んでいた。

 いや、空を飛ぶというのは厳密には違う。圧縮した空気に足を乗せ、空気を一気に解放、体を前方に吹っ飛ばすという事を何度も繰り返しているだけだ。

 

「…………」

 

 今宵は新月。

 星の光すら呑み込む海の闇の中に、ポツンと、森に覆われた島があった。

 

 ラノアはその島にめがけて飛び降り、浜辺に着地する。

 舞い上がる砂煙を剛腕で一気に払いのけた。

 

 そうするとすぐに、彼の前に、7mほどの身長を持った男が闇の中から現れる。

 

「尾行は、されていないな」

「ああ。大丈夫だ」

 

 懐から小石を出し、その辺に放り投げる。

 瞬間、その小石が膨張し、人が腰かけるのにちょうどよい大きさの岩になった。

 

 ラノアはその岩に腰掛ける。

 

「無事に七武海になることができたな」

「ああ……。海賊としてもう少し名を上げて成るつもりだったが、確かに、七武海を殺した方が確実で手っ取り早い」

 

 キリキリの実、全身霧人間。

 正体を隠すのが非常に得意な男。この広い海で彼の居所を掴むのは殆ど不可能と言ってもいい。

 

 ……何の関係も情報も持っていない、部外者の話ならだが。

 

 

「七武海の居場所の情報提供、感謝する」

「ああ」

 

 新進気鋭の海兵。

 最年少で海軍少将まで成りあがったゼファーの教え子、ラノア。

 

 海軍でそれなりの地位に居る彼は、七武海の居場所も全て把握している。

 七武海の中で最も弱い者の居場所を、革命軍であるバーソロミュー・くまに横流ししたのだ。

 

 

 ……それはつまり。

 

 

 彼の正体が―――打倒世界政府をもくろむ革命軍へ情報を流す、『()()()』であることを示していた。

 

 

「革命軍の様子はどうだ?」

「順調だ。俺が七武海となった事で、更に計画は進む」

「そうか……こちらも良い報告がある。

 ――――海軍中将への昇進の誘いが来た」

 

 その言葉に、くまは小さく目を見張った。

 ラノアはまだ26歳。海軍少将ですらまだ早すぎるレベルなのに、もう中将へ昇進するのかと。

 

「海軍中将ともなれば、今よりもっと海軍の機密に触れる事ができるし……なにより、あの天竜人に接触する機会も増えるはずだ」

 

 足元に落ちていた石を拾い上げ、手の中で弄ぶ。

 

 彼は天竜人に母親を殺されるという凄惨な過去を持っていた。

 しかし、天竜人……世界貴族という存在を世界が許す限り、何処にでもありふれているような、そんな過去。

 

 幼年期の自身には受け止めきれず、記憶喪失という形で忘れてしまっていた過去。

 

 

 ――……それを、17歳の頃。

 ゼファーに付き添って行ったシャボンディ諸島にて。

 

 自身の母を殺した『ゴルモンド聖』が、再び女性を撃ち殺すところを見て、その記憶を取り戻してしまったのだ。

 

 もはや怒り心頭という言葉では言い表せない。

 『愛を守る』という信念すらかなぐり捨て、思わずその辺り一帯を吹き飛ばしそうになったほどだ。

 その時はゼファーに止められ実行はしなかったが、怒りは消えない。

 

 

 天竜人を殺す。

 だがこの世界の最高権力者と戦うのには、民衆――誰かの『愛』が失われるのは避けられない。

 

 極限の選択。

 その2択でラノアは、何を犠牲にしても、誰かの愛を失うとしても、天竜人をぶち殺すことを選択する。

 

 

 その時から、愛を守るために戦う温和な海兵は――――憎き天竜人を皆殺しにするため、革命軍と手を組んだのだった。

 

 

 ラノアは手の中の石を握り潰し、顔を俯けたまま、くまに話しかける。

 

「海軍中将の次は海軍大将を目指す。……だがその為には、次期海軍大将と言われる3人の誰かを殺さなければいけない」

 

 ボルサリーノ、サカズキ、クザン。

 3人とも次期大将確実と言われるだけの実力を持っている。今真正面からやり合っても、勝てる可能性は非常に低い。

 だがこのうちの1人を、それも海軍にバレないように殺さなければならない。

 

 難しいが……絶対にやり遂げてみせる。

 

 

 

 

 ふと、水平線の向こうから太陽が顔を覗かせているのに気が付いた。

 いつの間にか随分と時間が立っていたようだ。ラノアは立ち上がり、朝日の方に体を向ける。

 

 

 暖かな朝日に全身が包まれるのを感じながら、正義のローブをはためかせる。

 そのままポツリと、そよ風に掻き消えるような声量で呟いた。

 

「……母さん。俺は、優しいラノアにはなれなかったよ」

 

 

 ……それでも……。

 

 この世界を滅茶苦茶に滅ぼしてでも、母さんの仇だけは打ってみせるから。

 

 

 朝日を見つめるその瞳には、常人には理解できないほどの――憎悪の炎が灯っていた。

 

 

 

 

 

 革命の日は近い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

――――――――

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

『――――て! ――起き――てば!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。