愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
√分岐点
・ロジャーの誘いを受ける
「ラブヒーロー。最後の島……俺達と一緒に来ねえか?」
「!」
あくる日。
オーロジャクソン号の船上にて、ロジャーからそう勧誘を受けた青年……ラブヒーロー。
「お前とはもう長い付き合いだ。海賊と襲撃者なんて珍妙な関係だが……面白れェ関係だった。
だから……最後の旅だけ、仲間として俺に付き合ってくれやしねえか」
青年は目を閉じ、軽く息を吸って。
「断る」
……と短く言い放った。
ロジャーはその答えに少し残念そうで、しかし予想もしていたような、そんな表情を浮かべる。
「おう、そ―――」
「―――……『
青年が人差し指を立てて、少し気恥ずかしそうに言う。
「海賊の誘いに乗るわけにはいかない。だがもし、今ここで戦って負け、『着いてこい』と命令されたのなら……私は従う他ないだろう。命は惜しいからな」
「……フッ」
とどのつまり。
ラブヒーローとしての体裁からかプライドからか、簡単に海賊の誘いに乗るわけにはいかない。
だがそれはそれとして、ロジャーの最後の旅に誘われたのは嬉しく……着いて行けるのならば着いて行きたい。
その気持ちがせめぎ合った結果。
『決闘で負けたなら着いて行っても仕方ない』という結論に行きついたのだった。
拳を武装色で黒く染めたロジャーが、指の骨をポキポキと鳴らす。
「へっ、体だけ一丁前にデカくなったガキンチョが。行きたいなら行きてェって素直に言いやがれ!」
「……今まで何度も戦い、全て負けているが、今回も負けるという確証はないぞ」
ロジャーの拳とは対照的に、青年が自身の両拳を白く染めた。
彼特有の武装色――『白い覇気』によるものだ。
全くの同時。
勢いよく振りかぶった右拳が、互いの顔面にぶつかりそうになり――――。
――数時間後。
全身を真っ赤に腫れあがらせたラブヒーローと、一発だけ顔に良いのを貰ってしまったロジャーが、息切れしながらその場に座っていた。
「クク……やるようになったじゃねえか」
「……どうも……」
ロジャー海賊団の面々は、ラブヒーローを手厚く歓迎した。
その際、彼は見慣れない男が海賊団に混じって騒ぎ散らかしているのに気付く。
じっと奇抜な髪をしたその男を見ていると、彼が、ズンズンと大股で近づいて来た。
そして、ラブヒーローの右手を掴んで無理やり握手し、上下に勢いよく振る。
「お前がラブヒーローかぁ~! この船に乗ってる奴から話は聞いてる!」
「お、おお……誰だ? 見慣れない顔だが……」
「ああ! 俺の名前は『
―――それが、ラブヒーローの人生を左右する出会いであった事に、その時はまだ気付かなかった。
ロジャー海賊団と寝食を共にし、一ヵ月。
目的地が目前に迫った所で、バギーが高熱を出してぶっ倒れた。
「た”のむゥ”~~! ラブヒーロー、今すぐ治してぐれ”ぇ~~!!」
「無理。」
「はえ”ェよ!」
仕方なくバギーを近くの島の宿に泊め、看病役としてシャンクスも置いて行く。
一番年の近い2人を置き、最後の占めへと向かった。
――そして、最後の島に到着する。
長く空を飛び回っていた私でさえ、一度も見たことのない島だった。
船を降り、しばらく歩き回って。
私たちは確かに……最後の島に残された大秘宝『
ジョイボーイなる男が一体どんな人物だったのか分からないが、ただ一つ確信できた事がある。
あんなおかしな宝を残すような、とんでもない奴だって事だ。
この世界の歴史における最大の謎、空白の100年。
その答えを知ったからと言って、何がどう変わる訳でもない。
私は過去の記憶を失ったラブヒーローのままだし、これから先、思い出す気配もなかった。
病に体を侵されたロジャーの言で、ロジャー海賊団は解散。
船長もいなくなり、他の仲間たちもそれぞれの故郷や大切な人がいる場所に帰ることになった。
私もすぐに船を去っても良かったが……小さい頃から色々な意味で、この海賊団の皆には世話になった。
その礼として、全員が無事に目的地へ辿り着くまで戦力の1人として残る事にしたのだ。
……月光が海に反射するのを眺めつつ、ボーッと偵察を行っている時。
背後からカランカランと下駄の音を響かせながら、1人の男が近づいて来た。
「ラブヒーロー、ちょっといいか?」
「どうした」
背後に居たのはおでんだった。
彼が持っていたワイン入りのジョッキを受け取り、互いに軽く飲んでから、話し始める。
「俺はこの後、ワノ国に帰って開国の準備をしようと思ってるんだ」
「そうか」
「そこでなんだが……どうだ、一緒にワノ国に来てみねェか?」
……ワノ国。
侍という強力な人物たちが守る鎖国国家。
内部の情報は全く漏れず、私も訪れた事がない。
「その国には俺の子がいる。船に一緒に乗っていたのは少しの間だが……お前はいい奴だ。それに俺以上に色々な場所の話を知っている。
そんな世界中の話を、どうか、俺の子に話してやってくれねェか?」
「ふむ…………」
確かに。
ロジャー海賊団の船はここ暫く、グランドラインの中を彷徨っていた。それに乗っていたおでんは当然、グランドライン内にある島しか知らない。
だが私はグランドラインの中も外も飛び回っているおかげか、訪れた島の数なら確実におでん以上だ。
その旅の話を、『国に置いて来た子供』に話して欲しいと……。
……国に、置いて来た……。
「……聞くが、その子供たちは……今何歳だ?」
「ん? 兄のモモの助は3歳、妹の日和は1歳だ」
「ハハハ、そうかそうか。まだまだ可愛い盛りで親に甘えたがりな年齢だな! ハハハハハ」
ラブヒーローが瞬時に、右拳を白い覇気で固める。
「旅に出ずしっかり側にいてやれッッ!!!」
「うごァぁ!?」
おでんの右頬を、白い拳で容赦なく殴り抜いた。
月日が経ち、ラブヒーローはおでんと共にワノ国の浜へと降り立った。
だが、おでんから伝え聞いていたワノ国の美しい光景とやらは、何処にも見当たらなかった。
「……」
民はオロチという男の圧政で苦しみ、マトモな食糧にありつけず、餓死している者もいた。
武器工場から流れ出る排水で土壌が汚染され、美しい景色を彩る花々は枯れ果てていた。
おでんの妻はオロチに手を貸す百獣海賊団という奴らの刺客に、足を負傷させられていた。傷口は塞がっているが、後遺症のせいで足は綺麗に動かせない。
普通であれば、悪政を敷くオロチに民が従う訳がない。
だがバックにいるカイドウ率いる百獣海賊団の暴力が、オロチへの反逆を不可能なものにしていた。
ワノ国の現状を聞いて、肩を震わせるほどの怒りを沸かせるおでん。
だが、その側で話を聞いていて、ラブヒーローがおでんと同じ程にブチギレていた。
「行くなら手伝う。多少……色々と吹き飛ぶがな」
「ああ……」
おでんの家臣達が静止するのも聞かず、2人は敵のいる城へ駆け出した。
曲がりなりにもロジャー海賊団の一員だった2人だ。雑兵など相手にならない。
2本の刀から飛び出す覇気の斬撃と、熱を圧縮させた太陽が飛び交う。
怒りに身を任せながらもその動きは完璧で、殆ど無傷のまま、オロチのいる城の大広間へと辿り着いた。
「おでん!! なっ、なんだその横にいる男は!」
「俺の……友達だ!!」
素早く斬りかかるも、おでんの刀は不可視の障壁に弾かれた。
オロチの背後にいた老人が語り始める。悪魔の実の一つ、『バリバリの実』の能力で、絶対に破れないバリアを作れるとの事だそうだ。
「クソ! 出てこいオロチ!!」
「キョキョキョ……無駄無駄。悪魔の実の能力は絶対! お前も海賊やってたんなら分かるだろ、おでん!!」
オロチの家臣の片割れが憎たらしげな顔でそう言うのを傍目に。
ラブヒーローが、トン、と静かにバリアに触れた。
「悪魔の実の能力は絶対。破れないというのなら破れない。ならば破らなければいい。
…………
バリアの中の空気が圧縮される。
ラブヒーローの能力は圧縮。
体の近くにあるものを小さく縮め、一気に解き放つ能力。
全力で攻撃したって、この透明なバリアは破れないが。
バリアの中の空気を圧縮し、能力者本人を攻撃する事など造作もないのだ。
バリバリの実能力者である老人を気絶させ、もう1人の家臣の首を掴んで地面に押さえ込む。
おでんの目の前には、何の防御も味方もいない、哀れな圧政者が1人いた。
「あ……あぁ……」
「……オロチッ!!」
彼が振り下ろす2対の刃は確かに、オロチの体を捉える。
ワノ国を苦しめていた圧政者は今、討伐された……。
「ん……」
ムクリと、身を起こす。
しばしの昼寝のお陰か、懐かしい夢を見ていたようだ。
あの後、百獣海賊団はワノ国からは搾り取れないと見て、すぐに撤退した。
戦わずに済んでよかったのか、しっかりと叩き潰すべきだったのかは、今も分からない。
オロチの討伐がなされてから25年。
衰えたワノ国の復興を手伝うという名目で滞在を続け、いつの間にか。
「お父様、おはようございます」
……娘ができていた。
復興途中で知り合った女性と何やかんやあって結婚し、何やかんやあって娘ができた。
何故こうなったのだろう。
誰かに裏で糸を引かれていると思ってしまうぐらいスムーズに結婚まで進んだ気がするが、後の祭りだ。
今はワノ国の片隅で武術道場を開くしがない一家である。
「ああ、おはよう……」
「お父様、今日はおでん様のお城へ行かれる予定では……?」
「……そうだった。ありがとう」
娘の頭を撫でながら、立ち上がる。
すぐに支度を済ませて空に飛び上がった。
復興が完全に終わったワノ国の上空で、青い水平線を眺めながら、少し、ひとりごこちる。
結局の所……私の記憶は戻らなかった。
『世界のゴミ捨て場』と呼ばれたあの島にたどり着く以前の事は全く思い出せない。
自分の親や生まれ故郷の事とか、どうやって能力を手に入れたとか、何故ここまで愛にこだわるのだとか。
しかし……。
思い出せないのなら、思い出せないままで、いいのではないかと今は思う。
全てを知った所で必ずいい結果になるとは限らない。
私は凡人。ラブヒーローという大層な名だが、今は、家族を守るのが精一杯だ。
記憶喪失という、胸にぽっかりと空いた穴を抱えてはいるものの。
今が幸せなら……それでいい。
ゆっくりと、過去の自分に踵を返し。
再び空を飛び始め、おでんの元へと向かうのだった。
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『――起きて!!』