愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる   作:ペン汁

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ラブヒーローはいつかの過去を思い出す

 

 

 シャボンディ諸島。

 ラブヒーローは麦わらの一味を助けにきた筈だったのに。

 

「ラブヒーロー! 大人しく捕まりやがれェ!」

 

 どこぞの元海軍大将が全力で邪魔をして来る。

 鬱陶しいことこの上なかった。

 

「白いおっさん!」

「この男はお前達では相手できん……! 早く行け!」

 

 ルフィに大声でそう返すラブヒーロー。

 何処からともなくパシフィスタがもう一体現れ、麦わらの一味が追われているが、向こうは自分達で何とかしてもらう他はない。

 パシフィスタや変な赤い前掛けの男より、ゼファーの方がよっぽど危険だ。こいつを通せば麦わらの一味なんてチリの様に吹っ飛ばされる。

 

 ゼファーと何度かぶつかり合った後、お互いに覇気を纏った腕を鍔迫り合わせながら話し合う。

 

「ほう……海賊相手に随分と優しくなったじゃないか、ええ?」

「あの海賊には恩があってな。そっちこそ、そろそろ引退したらどうなんだ?」

「ほざけ!!」

 

 ゼファーがバトルスマッシャーを爆発させ、お互いに距離を取る。

 そしてすぐに、ギャルルルと嫌な音を立てるバトルスマッシャー。彼と何度も対峙した事のあるラブヒーローは、目の前に両手を突き出した。

 

空気の壁(エアウォール)

 

 瞬間。放たれる弾丸の嵐。マシンガンだ。

 しかし撃ち放たれた弾は全て、ラブヒーローの前で見えない何かに弾かれるようにギャギャギャ!とどこかへ飛んでいった。

 

 マシンガンを止め、ゼファーが口惜しげな顔をする。

 

「むぅ......相変わらず、実の能力の練度は凄まじいな。海兵になっていれば、最年少で大将の座も狙えただろう......」

「海兵になる気はない」

「......天竜人さえ殺していなければ、俺はお前を七武海に推薦していた」

「私は厳密には海賊でもない。たられば話はやめろ」

 

 ゼファーの言葉に、若干ラブヒーローが苛ついたように返した。

 本来、ゼファーは優しい男だ。海賊が必死で命乞いすれば、その場で逃してしまうほどに。甘いとも言える。

 だがそんな彼でも七武海制度には反対だった。

 海軍の名を借りて海賊が好き勝手にやるのは、人々の平和を著しく乱していると考えていたからだ。

 

 そんな彼が、ラブヒーローだけは七武海に誘いたかったという。

 これはどういう事か。

 

「俺はあの時......10歳のお前を止めなかったことを今でも後悔している。だから......お前だけは、せめて俺の手で捕まえてやらなくちゃならん。それが俺の責任だ」

「......」

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 ラブヒーローが10歳の頃。

 ゼファーにしてみれば、忘れもしない、34年前のことだ。

 

 当時、海軍大将だったゼファー。

 彼の元に、伝電虫による電話がかかってきた。

 

 通話の先にいたのは......愛する妻だった。

 

「どうした?」

『あ......あ......い、今、家の中に海賊が入ってきて、子供が......』

「何ッ!?」

 

 不明瞭な妻の話。

 だがかろうじて耳に入ってきた『海賊』と『子供』という言葉から、自分の息子に何かがあったのではないかと思う。

 海軍の中で一番速い船を手配し、自分の家族がいる島に向かう。

 一時間ぐらいで島が見え始めた。だが居ても立っても居られなくなったゼファーは、月歩を使って島へ飛んで行った。

 

 

「大丈夫か!!」

 

 ゼファーは自分の家に飛び込む。

 入ってすぐのリビングにへたり込んでいた妻。そしてその腕の中にいるまだ小さな息子。

 彼は顔を安堵で弛緩させながら、2人を抱きしめた。

 

「ああ、無事で本当によかった......。海賊は何処に?」

「こ、子供が......」

「子供?」

 

 まだ落ち着いていない様子の妻をなだめ、一体何があったのか話を聞く。

 

「海賊が家に入ってきたと思ったら、布を顔に巻いた10歳くらいの子供が突然現れて、その海賊を倒したの......」

「!?」

 

 ゼファーは戦慄した。

 この島は新世界に近い場所にある。よって、付近の海賊の強さも並大抵ではない。

 それを10歳くらいの小さな子供が倒した? 悪魔の実の能力? それとも顔を隠している魚人?

 いや、それでも厳しいはずだ。

 

「それで、その子供は何処に?」

「その海賊を引きずって、海賊船を潰しに行くって......」

 

 ……まずい。

 海賊を運良く一人倒せたかもしれないが、多くの海賊が乗っている海賊船となると話は別。数の力は運では倒せない。

 見聞色の覇気で海賊船の方向をおおよそで探り、妻に海兵がすぐ来ることを伝えてから、剃と月歩で子供を追いかけた。

 

 

「......嘘だろ......」

 

 急いで海賊船の場所に駆けつけたゼファーが見たものは。

 巨大な海賊船に無数の丸い穴が空いており、水飛沫を上げて今まさに沈んでいく姿であった。

 そしてそれを陸から眺める、布を頭に巻いた子供。右手には、ボロ雑巾のようになった海賊船の船長らしき男が掴まれている。

 

「君は.....」

 

 子供が振り返る。

 海兵の着る白い正義のローブを見た彼は、右手に持った海賊をゼファーに投げつけた。

 

 受け止めた海賊はゼファーも僅かながらに見覚えのある顔。恐らくゼファーに恨みを持ったこの海賊が、彼の家族を襲うという凶行におよんだのだろう。

 そしてそれを、目の前の子供が阻止した。

 

「家族を助けてくれたのは、君か?」

「......俺は、壊れようとした愛を守っただけだ」

 

 子供が足に力を込める。

 何処かに去ろうとしているのだろう。

 ゼファーは子供を引き止めるか、引き止めないか、悩んだ挙句に声を張り上げた。

 

「あ、ありがとう!」

「......」

「君がいなければ、俺の家族はどうなっていたことか......本当にありがとう!」

 

 海軍大将のゼファーとしては、海賊団を一人で潰せる危険な子供を捕まえるべきなのかも知れない。その実力も十分にある。

 

 だが、自分の家族を救ってくれたヒーローを、ここで捕まえようとはどうしても思えなかった。

 

 子供は無反応で、振り返りもせず、何処かへ行ってしまった。

 名も名乗らずに。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「……あの時、俺はお前を止めておくべきだった……。あそこでお前を海兵にしてやっていたら、いや、保護するだけでも、お前は今とは違う人生を……」

「おい」

 

 ラブヒーローは低く重い声を放った。

 

「ーーー貴様、家族は息災か」

「……ああ。数年前に孫もできた」

「ならそれだけを気にしておけ。私の人生は私が選んだものだ、誰の責任も介在しない」

 

 ゼファーは目を細める。

 あまり納得がいっていない様子だ。

 それを見て、ラブヒーローは自身の右手を硬く握り締めた。

 

「そうか。そこまで気にするなら……そろそろ海軍を引退できるよう、本気でぶちのめしてやる」

 

 ラブヒーローは右の拳を前に突き出した。

 ゼファーとラブヒーローは互いに新世界で争っていた身。どちらも覇気を扱うことができる。

 

 ゼファーの異名は『黒腕のゼファー』。

 武装色•硬化を行った際、鎧のように纏った覇気は黒くなり、纏った部位は刀を弾くほど硬くなる。そして何より、悪魔の実の能力者の実体を捉え、能力に関係なくダメージを与えることができる。

 取り分けゼファーの武装色は練度が高いので、とてつもなく硬い。よって黒腕とまで名前がつくほどになったのだ。

 

 

 だが、しかし。

 覇気を纏ったゼファーの腕が黒いのに対し。

 ラブヒーローが覇気を纏った右拳は、まるで太陽のように()()()()()()()()()

 

 

「数多存在する悪魔の実の能力者……。

 だがそんな能力者達の中でも、覇気そのものを強化しようと考えたのはお前だけだろう」

 

 ラブヒーローの左拳も白い武装色で覆われる。

 武装色の覇気を扱う者にとって、白はいわばありえない色。異端の色なのだ。

 

 奇しくもその異端な色は、世界中からのラブヒーローへの評価と一致していた。

 

超人(パラミシア)系•()()()()()()を食べた、全身圧縮人間……」

「私が食べた実を知っている者は、もう少ないがな」

 

 そして、両者が激突する。

 

 

 

 ーーーー十数分が経った頃、その場所には。

 

 グチャグチャに引き裂かれたゼファーのバトルスマッシャーだけが転がっていた。

 

 

 

 




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