愛こそが最高の宝と信じるラブヒーローはどこか壊れてる 作:ペン汁
気がついた時、小船に乗っていた。
次に感じたのは、鼻が曲がりそうなほどの悪臭。
ボロボロの手で床を突き、ふらふらと立ち上がる。
船が乗り上げていたのはゴミの陸岸。
生ゴミや粗大ゴミの上に新たなゴミが重なっている。
今はなき、行く場所がない者たちの島。
誰が呼んだか、見た目通りの名前。
その島は、『世界のゴミ捨て場』という名前であった。
小船の中にいたのは、実に汚らしい、8歳くらいの子供。
目の下には涙を大量に流した跡があり、黒髪は長い間海を彷徨っていたのか潮風でパサパサ。衣服は黒い汚れまみれ。
「……」
記憶がなかった。
船に乗る前……どころか、自分が生まれてからこれまでどうやって生きてきたかすら覚えていない。
当然自分の名前も覚えていなかった。
ただ2つ、覚えていたというか、自分の中に残っていた物があった。
1つ目は。
近くにあった、鋭い刃物が折れた物が重なっている危険なゴミ。それに触れた瞬間、一瞬でゴミがコイン程の大きさまで小さくなる。
自分には『触れた物を圧縮させることのできる能力(生物は不可)』があること。
2つ目は。
「愛を……誰かの、世界の、愛を守らないと……」
狂気とも言えるほどの、誰かの幸せな愛を守らなければという強い強い感情であった。
その日から、島の中には不思議な子供が歩くようになった。
世界のゴミ捨て場とも言われる通り、島に住む人間には悪臭を放つゴミのような人間、いや寧ろゴミの方がマシかも知れないような悪どい者もいる。
そういった者が、慎ましくも幸せに暮らしている人間に手を出そうとした瞬間、突然現れた子供がそのゴミをぶちのめして去っていくのだ。
暫くすると、その子供は島の中で一部にはやっかみを持たれ、一部には感謝されるという、何とも不思議な存在になったのだった。
ーーーーーーーーーーーー
「死ね!クソガキ!!」
身長が2mにも及ぶ大男が巨大なサーベルを振り下ろしてきた。
彼我の身長差は1mに近い。とんでもないリーチ差だ。
体を逸らし回避するも、避けきれない。顔に大きく切り傷が入り、鮮血が舞う。
大男が勝ちを確信しニヤリとした瞬間。
子供が自身の顔から溢れ出た血液に触れ、圧縮。それを大男の顔に飛ばし、圧縮を解除した。
パンッ!と血が爆発する。男の目に血が入った。
「ッ!? 血の目潰しーーー」
「
「ぐごッ!?」
男の顎が真上に跳ね上がった。脳みそが揺れる。
足に力を入れて踏ん張ることもできず、意識が落ちていくのを止めることもできず、大男は背中から地面に倒れた。
手に持ったゴム毬をポンポンと跳ねさせ、握り込む子供。
圧縮で小さくなったゴム毬を敵の顎の下で解除し、相手の意識を落とす。彼が能力を用いた攻撃の中で、唯一の非殺傷攻撃であった。
助けた親子の方を振り返る子供。
貧相な格好をした母親と娘だ。この島の住人であることは間違いないが、顔に『慣れ』という物を感じない。
島に来たばかりなのだろうか?
じっと見つめていると、母親の腕の中にいる娘が、震えた声で言った。
「こ、怖いよ……ママ……!」
彼女の視線は、己の顔に向けられていた。
手で顔に触れると、ドクドクと血が流れているのに気づく。まぁ確かに、これでは怖いのも仕方ない。
上半身の服をビリビリに裂き、顔が見えぬようにグルグルと巻き付ける。
「ヒッ……!」
今度は母親の方も怖がり始める。
意味がわからなかった。
……間抜けな子供は、自分では気づかないが。
突然現れ、大男を一撃で倒した血まみれの子供。
そんな奴が突然服を裂き、頭にグルグルと巻き付け始めたら、相手はどう思うだろうか。
まるでこれから殺人を行うため、自分の正体がバレないように顔を隠してるかのように見えてしまうのだ。シリアルキラーとやっている事が大差ないのである。
そんな事は梅雨知らず。
腰を抜かして逃げていく親子を首を傾げて眺めていると、先程倒した大男が目を覚ました。
立てるほど回復はしていないのか、頭だけを起こす。
「お、お前……終わりだぜ……俺に手ェ出してどうなるか分かってんのか?」
「……」
「俺の仲間がお前を殺しに来る……100人はいるぜ。精々苦しんで死ねや……」
100人。
この島に来てもう一年近く経つが、そんなに大きなグループがいただろうか。精々30人が限度だった筈だ。
「一応言っておくが、この島のチンケなチンピラの話じゃねぇぞ。『海賊』だ……!」
「海賊……」
なるほど。
それなら、分からないでもない。
ずっと前にこの島に流れ着いてから、名前も記憶もないまま生きてきた。何もない人生だが、それでも、海に出ようとは思わなかった。
海に出るための小船は半分以上壊れていたため乗れないし、この島では新しい船も手に入らない。
何より、今はこの島での生活にある程度満足している。無理に外へ出る必要はないのだ。
「
「ぐはっ」
顎を打ち抜き意識を奪う。
海賊が来るならやってやろう。100人は少し多いが、倒せないこともない。
男の体が道の通行の邪魔なので、近くのゴミ山まで蹴り飛ばした。結構遠くまで、山なりの軌道で飛んでいく。いい調子だ。
……さて、帰るとしよう。
この狭いゴミの島にも一応のルールはある。
人を無闇に殺さないとか、放火をしないとか……まぁ、著しく島の治安に影響を及ばすような事は大抵NGだ。
なので道を歩いていても、屈強な男が殴り合いの喧嘩しているのを何度か見るだけである。ちなみにああいうのには介入しない、どっちも酒に酔ってやっている遊びのような物だ。勝手にやっていろ。
暫く歩いて、帰路の途中、アホ面をした犬が絡んでくる。
へっへっと舌を垂らし、尻尾を振りながら俺の足の隙間を8の字にグルグルグルグル回る。
邪魔なことこの上ないが、少しだけ我慢する。いつもの事だからだ。
数分じっと立っていると、向こうからバタバタと女性が走ってきた。赤い髪の女だ。
「ごめーん!! 大丈夫だった? ……え、本当に大丈夫? 頭に布巻いて、上半身裸で……なんか布に血も染みてるし」
「これぐらいの怪我は偶にする。今まで死んだ事はない」
「今回は死ぬかもしんないでしょ。ちゃんと手当てしなさい」
女が頭に巻いた布を外す。
彼女の名は『
今も足元にいる犬の飼い主で、この島の医者的な存在で、昔助けたことのある人物だ。
何故か顔の傷を拭いた後、上半身にまで手を伸ばそうとするので、彼女の手を払い除ける。
「コア。もう……もういい!」
「え〜、いいじゃないの。もうちょっと、もうちょっと……」
彼女は元々どこかの島の病院で医者をやっていたらしいが、入院していた子供に少しやらかしてしまったそうだ。本人曰く首を舐めただけだとか。
で、それが問題になって、医者をクビになり。
流れに流れ着いて、この島に来たらしい。
……まだ上半身に手を伸ばしてくるこの女を、俺は一回叩きのめしてやる必要があるのかもしれない。
コアに頭へ包帯をグルグルと巻かれ、先ほどとあまり大差ない状態になる。
「あんまり変わってないぞ、コレ」
「それが一番適切な処置ってこと。それとも糸で縫われたい? 麻酔はないわよ?」
「……いい」
痛いのは好きじゃない。
アホ面の犬とコアと名前のない俺の3人で、帰路への道を歩く。
何もないし、誰かの愛を守ることばかり考えてる俺だが。
こうやって3人で歩くのだけは、まあ。
あまり悪くない気分、だと思った。
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「世界のゴミ捨て場に派遣した奴が、ガキにやられたってェ!?」
とある海賊船の中で、赤いローブを被った男が机を叩いた。
背後には黒い文字で『毒』と書かれている。
明らかに部下と思わしき腰の低さの男が、震えた声で報告する。
「は、はい。なんでも、悪魔の実の能力者って話で……」
「新世界に入ってる海賊が、能力者だとかなんとかでガキに負けていい道理はねえんだよ!!」
「す、すみませんジョッキー船長! だから、ガスだけは……げぽッ」
船長と呼ばれた男の体からシューッ……と、何かのガスが漏れ出る音がした。
部下の男は途端に喉を押さえ、苦しんだ表情で泡を吹き、その場に倒れる。その顔に既に生気は感じられない。
彼は部屋の扉を勢いよく蹴り開けた。
眼下の甲板には、この海賊船に乗る荒くれどもが勢揃いしている。だが、その全員が、船長に怯えた目を向けていた。
そんな彼らに向け、ジョッキー船長は吠える。
「お前らァ! 俺らは今から『世界のゴミ捨て場』に向けて出港する! 海賊を舐め腐るとどうなるか見せてやんぞ!!」
「お、おぉおおおおおおおお!!!」
部下の海賊たちは明らかに怯えた様子でそう叫ぶ。
それを満足げに眺める船長の後ろの壁には、彼の顔が映った手配書が貼られていた。
『ジョッキアーノ・プレガディオ
懸賞金 3億8000万ベリー』
轟く異名は『
シーザーはこの時4歳。
ならガスガスの実もまだ食べてないだろうし前任者を出してもOKだな!(浅慮)
にしてもオリキャラ出しすぎだろ……。
※これから先の過去編は少し展開が重くなります。
苦手な方は注意してお読み下さい。