青空戦記   作:烊々

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 よろしくお願いします


流星の少女

 

 

 

 ムーンノイド計画。

 それは、およそ百年前に立案された「月に居住可能なコロニーを建造し移住する」人口増加問題を解決する夢と希望に溢れた計画"だった“。

 数百万人の移住者は『ムーンノイド』と呼ばれ、宇宙を超えた新天地を開拓する希望の象徴として扱われていた。

 表向きには。

 実際のところ、計画は所謂棄民政策のようなもので、月コロニーの完成と移住から数年、前触れもなく地球連邦からの補給は絶たれた。

 補給がない状況で、全てのムーンノイドが生き抜くことは不可能。数億といた人口は0.2%程度にまで減少した。

 そうして生き残ったムーンノイドたちは、地球連邦政府に対して強い憎悪を持つことになる。言い換えれば、地球への憎悪から来る一体感が生き残ったムーンノイドたちをまとめ上げたのだ。

 

 そして、計画からおよそ百年が経った今。遂に、ムーンノイドたちは『地球帰還作戦』を実行に移した。

 

 

 

 

『〜〜以上が、今作戦の概要だ。総員、健闘を祈る』

 

 部隊長の無駄に長い話を適当に聞き流し、機体の操縦管を強く握り直す。

 

「……さて、と」

 

 地球帰還作戦、フェーズワン。

 私が所属する宇宙戦闘機斥候部隊がまず地球へ降り、月の本国へ情報を伝える。

 私たちが伝達した情報によって今後の作戦内容が決まる、つまり今作戦の要といっても過言ではない。

 この作戦を遂行する斥候部隊とは、宇宙戦闘機のパイロットで、士官学校の上位卒業者のみが志願できる、自分で言うのもなんだけどエリート部隊だ。

 何しろ百年ぶりの地球帰還、危険な作戦だ。何が起こるかわからないし、殉死者が出てもおかしくないから、志願するのはよっほどの愛国者か、地球への憎悪を積もらせているか、その二つだろう。

 私自身は、本国への忠誠心とか、地球への憎悪とか、そんなものは微塵もない。

 

 私はただ"青空"というものが見たいだけだ。

 

 それをモチベーションに士官学校の首席になり、この斥候部隊のパイロットにまで上り詰めた私も私でイかれているのかもしれないけれど。

 

『……聞こえてる? ゼシル』

「ん? どうしたの? ルーシー』

 

 隣を飛ぶパイロットの『ルーシー』から通信が入った。

 ルーシーは、士官学校を私と同期に卒業し、歳が近いこともありそこそこ話す間柄。愛想が良くて誰からも好かれるタイプだ。

 

『いや、少し緊張してきたから誰かと話したいな、って』

「そう」

『ゼシルは緊張とかしないの?』

「全然しないわ」

『わぁ、流石首席』

「別に、士官学校の成績なんて実戦で役に立つかわかんないでしょ」

『その言葉の時点で流石だよねゼシルは……』

 

 その瞬間、閃光が煌めいた。

 

『……えっ』

 

 そして、隣の機体にビーム砲が直撃し、機体が爆発四散した。

 さっきまで話していたルーシーが、突然死んだ。

 

『なっ……!』

 

 驚き狼狽える部隊長の通信音声を聞き流し、再び操縦管を握り直してレーダーを確認。

 どうやら今のは、地球を廻る人工衛星から放たれた攻撃のようだ。

 

『あれが対宇宙防衛システムというものか……! 地球人め……我々を拒むか……っ! 総員、突入‼︎』

 

 部隊長の声を皮切りに、私たちは散開し、大気圏に突入しようとする。

 少しずつ大気圏に近づくにつれ、防衛システムの攻撃は激しさを増す。

 まるでシューティングゲームのような弾幕。まさか現実で見ることになるとは思わなんだ。

 次々と味方機は撃ち落とされ、時には断末魔が通信から聴こえてくる。

 

『うわぁぁぁぁっ!』

『ぁああっ!』

 

 仲間の死に動揺している暇はない。気を取られれば、次は自分が死ぬ。

 一機、また一機と味方が減っていき、更に攻撃は激しさを増す。

 

『…………』

 

 少し経つと部隊長の声も聞こえなくなったから、おそらく撃ち落とされたのだろう。

 気がつけばレーダーから味方機の反応が全て失われていた。

 

「殉死するかもしれないとは言われたけど、いきなりみんな死ぬなんてね……!」

 

 生存者は、私一人。

 対空防衛システムは、最後に残った私を仕留めようと、全ての攻撃を集中させる。

 

「……っ!」

 

 機体を蛇行させるように動かし、ビーム砲の弾幕をスレスレで回避しながら進む。

 時にはビーム機銃を使い、対空システムのビーム砲台を攻撃し、狙いを逸させる。

 

「……アレは破壊できそうにない、か」

 

 人工衛星の対空システムは、私の戦闘機のビーム機銃程度では傷一つ付くことはない。

 

「破壊は不可能。なら、突破するしかないよね」

 

 その直後。

 

「……っ! うわぁっ!」

 

 ガツン、と私の機体を衝撃が襲った。

 ビームが直撃した片方のウイングが破損し、バランスが崩れ、機体が大きく傾く。

 

「……っ、上等‼︎」

 

 私は宇宙戦闘機のシュミレーションで最高難易度を難なくクリアした女だ。

 この程度の弾幕、乗り越えるのなんて朝飯前。

 

「片翼の破損でバランスが崩れるなら、それに合わせてやりゃあいいんでしょ!」

 

 反撃は殆ど意味がないので、回避優先。

 機体のメインカメラ、サブカメラ、目視と切り替えながらビームの雨を避けていく。

 

「こんなとこで、死ぬつもりなんてないのよねぇっ‼︎」

 

 自らを奮い立たせようと、似合いもしない荒い言葉遣いが出る。

 大気圏が近づいてきたため、大気圏突入モードに移行しながらも防衛システムからの攻撃に備える。

 

「……っ……ん?」

 

 すると、少しずつ攻撃が散発的になってきた。

 おそらく、対空防衛システムの攻撃範囲から離れてきたのだろう。

 これで一先ずは死地を乗り越えることができた。

 しかし、別の問題もある。

 

「保つかな……」

 

 一つは、損傷の激しいこの機体が大気圏突入に耐えられるか。

 もう一つは、降りた先で私が生きていけるか。

 地球帰還作戦フェーズワンはもう失敗と言ってもいいだろう。生存者が私一人しかいないし、何故かは知らないが大気圏に入ってからレーダーが機能していない。そのため、おそらく本国への通信も行えない。

 フェーズワンにて生存者が確認できなかった場合、地球帰還作戦はおそらく頓挫する。そして私は死者として扱われるだろう。

 

「……ま、願ったり叶ったりかな」

 

 正直、私は月が好きじゃなかった。

 人間の生存を拒む宇宙に囲まれていた閉塞感も、そこに生きる人々の地球への憎悪という歪な一体感も。

 とにかく、あんなところで一生を終えたくはなかったんだ。

 だから、私はこの作戦に志願した。幼い頃絵本で読んだ地球の青空というものが見たかったから。

 

「ぁ……重」

 

 地球の重力が強くなっていくのを感じた。

 月の何倍もある地球の重力というものは、士官学校で何度も訓練したから慣れている。

 だが、いざ本物を感じてみると、訓練とは少し違うように感じられた。

 まるで、命を抱きしめて繋ぎ止めるような暖かさを。

 

「……やっと、来れたんだ」

 

 どうやら私が降りたポイントは夜だから、空が見えないのが少し残念だ。

 暗いながらも地面が見えてきた。

 なんとか着陸……いや、最早墜落だが、とにかく、これで地球の大地に降り立つことができる。

 

「疲れた……」

 

 しかし、防衛システムからの攻撃や墜落の衝撃の影響で、私の体力も限界だった。

 

「地球に足をつけるのは、とりあえず寝て起きたら……かな……」

 

 体力を振り絞って、機体のコックピットを操縦モードから休眠モードに変えておく。

 そして、私の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おやおや、見えるはずもない流れ星が見えたと思ったら、まさか落ちてくるなんてね」

 

 

 





・キャラクター紹介

 ゼシル・ゼオン
 性別:女
 年齢:19
 身長:164㎝
 好きなもの:青空、開放感
 嫌いなもの:抑圧

 主人公。金髪碧眼で見た目だけは美少女だが、愛想のかけらもなく、能力が高いこともあって他人に避けられがちな性格。
 士官学校を首席で卒業。女性ながら対人格闘でもトップの成績を取っていたため、あの細身のどこにそんな筋力があるのか、不思議がられていた。
 妹がいたが、軍人となって夢を叶えるために袂を分かった。


 先に書いておきますが、ロボものです。
 しかし、主人公機が出るのは二、三話後ぐらいになりそうです。
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