「彼らが帰ってこないことからすると、アカム君に殺されたようだね。全く、こちらの貴重な人材を害虫駆除のように減らされては困る」
「……過去の地球には百億に届くほどの人間がいたと言う。そんなに人間がいたら、煩わしくてありゃしない。思い通りにならない人やモノが多いことほど不愉快なことはない。それに比べて今は良い時代だよ。文明は崩壊し、技術は退廃した。だからこそ、煩わしいものが少なく、支配するのは容易い」
「けど、いくらボクの思い通りにならないとはいえ、アカム君のような優秀な人間は、ボクが支配する世界に存在する価値がある。彼ほどの人間が、あんなちっぽけな村のために生きるなんて勿体ないさ」
「さて、機体の調整は済んだ。今度こそ、不必要なものを全て排除する」
*
「……っ! この……っ! うわっ!」
『俺の勝ちだ』
「くぅ〜……!」
『まだまだだな』
シュミレーションモードでは対人戦をすることも可能なので、ここ数日はひたすらアカムに特訓させてもらっている。
結果は散々ではあるものの、操縦における理解度が深まっている気がする……多分。
「もう一回!」
『良いだろう』
基本起きている時は、アカムと模擬戦をしているか、村で農作業を手伝うかをしている。
居心地の良いこの村に定住するのも悪くはないが、私には青空を取り戻すという夢がある。いつまでも停滞しているわけにはいかない。
とはいえ、何をどうやって夢を叶えるかのビジョンが曖昧なため、無駄に動き回ることもしていないのだ。
「……そういえば、ゼシルに話しておくべきことがあったな」
「何?」
「君たちが賊と呼んでいる連中がいただろう?」
「アカムが瞬殺した奴ら? そういえば最近襲ってこないわね」
「あの三色戦機乗りたちは、あれでも奴らの中では上澄みの戦機乗りなんだ。それを失った奴らは、表立って行動するのを控えているんだろう」
「あれで上澄みかぁ……」
いくらレイゼオンの性能が高いとはいえ、アカムとの特訓前の私にすら勝てない連中が上澄みとなると、賊たちの人材難を疑うものだ。
「とはいえ、奴らのボスはその比ではない」
「ボス……?」
「あぁ、名を『ラヴォラス・ヴァンガロード』、という」
「名前まで知ってるんだ。会ったことあるの?」
「一度な。仲間になれ、と勧誘された。勿論断ったがな」
「断ったんだ」
「それで得をするのは俺一人だ。村の人たちの安全まで保障できない、そう思ったんだ。それから、話が決裂して交戦したんだが、取り逃してしまいそれきりだ。しかも、その時を境にこの村への攻撃回数も増してしまった。俺は奴の根城を探すためにも、散策を繰り返していたのだが……未だに尻尾を掴めず今に至る」
この前、用心棒のくせに不在だったのはそういうことだったのか。
「奴は危険な男だ。物腰は柔らかいが、その裏にある狂気は計り知れない。奴がいる限り、この地域の安寧は無い。君も戦機乗りならば、奴と合間見る機会があるかもしれない。警戒しておけ」
「部下の雑魚を減らして戦力を削っていけば、そのうち本人が出てくるんじゃない? それを私とアカムで叩けばいいじゃん」
「そう簡単にいけばいいがな」
アカムとの話がそれなりに盛り上がると、わレイがコンテナに入ってくる。わざとらしく音を立てて。
「二人とも、いつまで模擬戦しているんだい? ご飯の時間だ。食べないなら食べないで良いけどね」
「なんで不機嫌なの?」
「気のせいさ」
私とアカムが話していると、レイが不機嫌になる気がする。
もしかして……レイはアカムに気があるのでは……⁉︎
「アカム氏、ゼシルは頭はいいが馬鹿だ。そこんとこをよろしく頼む」
「ん……? あ、あぁ……了解した」
一旦アカムと別れ、レイと共に部屋で食事を摂る。
「当面の目標は、そのラヴォラスって人を倒すことにしようと思う」
「そうだね。ここに滞在するにせよ、旅に出るにせよ、その人物は脅威となるだろう」
「とりあえず、ひたすらアカムと修行かな。なんだかんだ、少しずつ差は縮まってると思うんだよねぇ〜」
「……ずっと、彼の話だね」
「え?」
「なんでもない。私はルシフルの電子マニュアルを熟読するとしよう。レイゼオンに応用できることがあるかもしれない。君はアカム氏のところに行けばいいさ」
「あ、うん。そうする」
レイに追い払われるように、部屋を出る私。
最近やけに不機嫌になることが多い気がするんだよね、レイ。どうしてだろう?
やはり……アカムに気が……⁉︎
「……アカムばかりじゃなくて私にも構ってくれたまえよ、ゼシル。意外と寂しがり屋なんだぞ、私は」
扉の向こうでレイが何か呟いていた気がしたが、気のせいかもしれないし、言われた通りアカムを倒しに行こうっと。
*
翌日。今日も今日とて、変わらずアカムに挑み続け……
「中々仕上がってきたんじゃないか?」
「……まだまだだよ。一回もアカムに勝ててないし」
「それは難しいな。俺は誰にも負けるつもりはない」
「絶対勝ってやる」
……負け続けている。
差が縮まったかと思えば、アカムは戦い方を少し変え、私はそれに対応できずにボロ負けしてしまう。
「それよりも、俺のところにばかりいてもいいのか?」
「村の手伝いはしてるよ。農作って大変だけどやり甲斐あるよね。月じゃこんなことできなかったからさ」
「いや、俺が言っているのは、レイのことだ」
「レイ……? なんで?」
「あまり俺ばかりに構っていると良い気はされない、と思ったからな」
「どういう意味?」
「恋人同士ではないのか、君たちは?」
「……え?」
アカムの口から放たれた衝撃的な言葉に、一瞬固まる私。
「え、あっ、は、はぁ⁉︎ な、ななな何言ってんのアカムったら!」
「む、すまない。違ったのか。てっきりそういう間柄だと……」
「そんなわけないじゃんっ‼︎ 変なこと言わないでよ‼︎」
「痛っっ⁉︎ 急に叩くな……!」
確かにレイは憎たらしいところもあるけど、頼りになるし、よく見たら可愛いし、柔らかくて良い匂いがするし……
「ゼシル!」
「ひゃあっ! レイ⁉︎」
そんなことを思っていたら、突然本人が目の前に現れた
「……どうしたんだいそんなに驚いて? それよりも緊急事態だ。村の高台から、戦機の接近を確認できた。出撃の準備をしていて欲しい。アカム氏も」
「了解」
「……わ、わかった!」
今はレイと顔を合わせたくないから、私はそそくさとコックピットに乗り込み、レイゼオンを起動させる。
「見事な手際の出撃準備だな……俺ですらあんなに早くはできないぞ……」