青空戦記   作:烊々

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決戦前夜

 

 

『恋人同士ではないのか、君たちは?』

 

 そんなアカムの言葉のせいで、最近レイと顔を合わせづらくなっていたのだが、レイ・キリシマという女がそれに気付かぬ筈はなく、またそれを快く思うはずもない。

 そういうわけで、今私はレイに詰め寄られているのだ。

 

「ゼシル、どうして私に目を合わせてくれない?」

「それは気のせ」

「私の気のせいではないのはわかっているぞ。何故ならずっと君を見ていたからな」

「うぐ……」

 

 レイは私より頭がいいから、しょうもない嘘や誤魔化しは看破される。ならいっそ全てを離してしまえばいい。

 

「アカムが……私とレイが恋人同士なのか、とか言うから……ちょっと気まずくなっちゃって……」

「恋人?」

 

 ありのままを伝えると、レイは深く溜息をついた。

 否定されるわけでもなければ、肯定されるわけでもない。思っていたものと違う反応だった。

 

「……そんな程度の関係じゃないだろう、私たちは」

「え?」

「私たちは一心同体だ。君の夢は私の夢、そう言ったじゃないか。私は君に、私の夢を託した時にそう決めたんだ」

「……」

「それなのに、まさかそんなくだらない理由だとは……君はやっぱり馬鹿なんだなばーか」

「馬鹿馬鹿言わないでくれる? これでも士官学校では座学も首席だったんだから。それに、少し顔赤いよ?」

「……うるさいばぁか」

「また馬鹿って言った」

「私も悩んでいたのがアホらしくなったよ」

「悩んでたの?」

「さび……いや、暇だったんだよ。君にはアカム氏がいたけど、私にはいないからね。村の人たちと少し話す程度さ。しかし、あまりにも価値観が違いすぎて話が合わないんだよ。旧文明のことなんてほとんど知らないし」

「ふーん、寂しかったんだ」

「……っ、あーそうだとも! 君が私を放ってアカム氏のところにばかり行くから。正直言うと、不安だったんだよ。アカム氏のような熟練のパイロットと意気投合し、君にとって私が用済みとなってしまうのが」

 

 それは、私と同じ悩みだった。

 私は心の片隅で、もしレイが私より戦機の操縦が上手いアカムを選んだら……と不安になっていた。

 だから、少しでも強くなって、その不安を振り払いなかったんだ。けど結局、それでレイを不安にさせてしまっては元も子もない。

 

「……ごめんね、レイ」

「素直に謝るなよ。調子が狂う」

「でも、私は強くなりたい。私の夢のためにも。だから……」

「構わないさ。君の心がわかったし、私の想いが君に伝わった。だからもう、君がそばに居なくても寂しくはない」

「レイ……」

「強くなれ。そして倒せよ、ラヴォラスとやらをね」

「……うん、わかってる」

 

 故郷では、ここまで心を曝け出せる相手などいなかった。同期にも、友人のような人にも、そして唯一の肉親にも。

 一心同体、か。少し照れくさいけれど、私にとって既にレイは大切な人だし、レイにとってもそうだったんだ。

 少しレイと話しただけなのに、もう誰にも負ける気がしない。そう思ってアカムに挑んだら普通に負けた。

 

 

 

 

 その日の夕暮れ。

 

「発見があった。コンテナまで来てくれないか? できればレイも一緒で頼む」

 

 急にアカムに呼び出された。

 アカムの方から私たちを呼ぶのは珍しい。加えて、レイも同伴で頼むというのは更に珍しい。

 

「発見ってなに?」

 

 コンテナに入ると、アカムがルシフルをコックピット全開で起動させていた。

 

「何してんの……?」

「ルシフルの……いや、君たちはレイゼオンのでもいいかもしれないが、レーダーから奴の……ラヴォラスの機体の痕跡が確認できたんだ」

 

 あぁ成程。機体のレーダーを確認するために、起動させていたわけか。

 

「機体の痕跡って?」

「戦機のエネルギーの残滓、とでも言えばいいのかな? 戦機には、我々には想像もつかない特殊技術が使われていてね。一部の機体は、通ったところにエネルギーが残ってしまうものなんだよ」

「奴がそんなヘマをするとは思えないが……もしかすると、あのグライフォードという機体のエネルギー周波数が特殊すぎて、隠しきれないのかもしれない」

「成程ね。じゃ、この特定のエネルギー反応が出てた地点から、奴の根城を特定できるんじゃない?」

「そう思って、レイも呼んだんだ。こういうのは彼女の方が向いているだろう?」

「確かに」

「ふむ、どれどれ……む?」

 

 レイは、地図の上でペンでぐるぐる回していると、ふと何かに気づいたように声を上げた。

 

「ここは……成程、地形が変わりすぎていて気付くのに遅れてしまったよ」

「どういうこと?」

「旧連邦軍地下基地、『ベース373』。ほら、私の持ってる旧文明の世界地図に書いてあるだろう? 根城にするのはうってつけの場所だ。近場の『ベース372』と『ベース374』は……レーダーの方に表示されている地形からするにもう存在していない可能性が高い」

 

 旧文明の地図だと、その場所には山があったのだが、レーダーに表示されている簡易地図だと存在しない。おそらくは、終末戦争の影響で地形が変わってしまったのだろう。

 その中で奇跡的に現存しているのがその『ベース373』というわけらしい。

 

「へぇ〜。そんなことまで知っているなんて、流石旧文明オタク」

「まさか、そんなものが残されていたとは……」

「アカム氏を欺き続けられていたのならば、基地の機能は今でも生きていて、ステルスでも使っていたのかもしれないね」

「しかし、奴のグライフォードのせいで痕跡ができてしまった……というわけか。ゼシル、提案がある」

「良いよ。場所がわかったなら、こっちから攻め込もうってんでしょ?」

「ああ。待つ必要はない。こちらから仕掛けるぞ。決行は明日の朝だ。それで奴との決着をつける」

 

 そのために今日はゆっくり休むべきだと、模擬戦はしないことにした。

 翌朝にラヴォラス討伐に行くと村長に話したら、夕飯は少し豪華なものになった。生まれて初めて食べた牛肉の味は、筆舌に尽くし難い美味しさだった。

 そして、その日の夜も更けてきた頃──

 

「ん……?」

 

 なんとなく眠る気分になれなかったから、熟睡しているレイを起こさないようにこっそりと部屋を抜け出し、村の高台にやってくると、そこには先客がいた。

 

「あれ、アカム?」

「ゼシルか。何故ここに?」

「なんか、眠れなくて」

「俺もそうだ」

 

 話すこともないため、ただ黙って夜の闇を見続けていたら、アカムが口を開いた。

 

「なぁ、ゼシル」

「ん?」

「俺はこの戦いが終わったら、自分の出自を村の人たちに明かそうと思う。本当はもっと早くいうべきだったことかもしれないが」

「言うんだ」

「あぁ。たとえ、それで村の人たちに拒絶されることになるとしても、俺も前に進むべきだと思ったんだ。そして、そう思われてくれたのは、君のおかげさ」

「私?」

「俺は恐れていたんだ。自分の出自と、村の人たちに心を開くことに。でも、ただひたすら進み続ける君の姿を見ていたら、俺ももう恐れずに変わろうと思ったんだ」

「……そっか」

「さて、俺はもう寝る。寝不足が原因で負けるなんてことにはなりたくないからな。君も早く寝ろ」

「わかってるよ。おやすみ」

「あぁ、おやすみ」

 

 アカムは高台から去った。

 寝ろと言われたものの、それでもまだ寝る気分になれなかった私は、先程のアカムの言葉を反芻しながら考える。

 

「進み続ける、か……でも、今私はどこに進めばいいかわからなくなってるんだよね。ラヴォラスを倒すとこまでは良いんだけど。その先を決めていないっていうか……」

 

 誰が聞いているわけでもない独り言を呟きながら、自分の目標を見つめ直す。

 

「私の夢……青空……」

 

 そのためには、対空防衛システムを破壊しなければならない。

 でもどうやって? そのためには何をすればいい? どうしたらいい?

 そんな疑問が、ずっと頭の中をぐるぐるする。

 それに、今まで私は、夢を持っていてそれを叶えようとしている人間を見たことがないから、想像が出来ないのだ。

 月でも地球でも、今日を生きることに精一杯な人ばかりで、誰も夢など見ていなかった。

 いや、この前一人だけ会ったな。

 

『ボクはね、自分が気に入ったものだけの世界を作りたいんだ』

 

 でも、こいつのは参考にならな……いや……

 

「……そっか。それをすればいいんだ」

 

 うん、見つけた。次に私がやりたいこと、やるべきことを。

 

「よし! もう寝よ」

 

 そしてそのために、今やるべきことをやろう。

 

 

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