『やはり……何もないように見えるが……』
翌朝、ラヴォラス討伐のために出発した私たちは、レイが特定した『ベース373』のエリアまで来たのだが、そこには基地どころな建物ひとつなく、湿地が広がっているだけだった。
『……ん?』
「やっぱりアカムも気づいた?」
『あぁ、グライフォードの痕跡だ』
しかし、ラヴォラスの戦機、グライフォードの痕跡は残っており、それが湿地のあるポイントで途絶えていた。
逆に考えれば、基地の入り口がそこにある可能性が高い。
『ステルス機能、とやらか』
「レイゼオンのライフルで撃ってみる?」
『そうしてみてくれ』
出力を上げたビームライフルで撃ち抜くと、何かが破壊されたような音がなり、周辺の湿地が歪み、いきなり謎のコンテナが出現した。
「わっ! なんか出てきた!」
『レイの言うとおり、やはりステルス機能だったか。おそらくあのコンテナが地下基地へのゲートなのだろう』
「よし! じゃあ侵入ね!」
コンテナのゲートに再度射撃し、入口を破壊して侵入する。
『しかし妙だな……』
「何が?」
『あまりにも静かすぎる。俺たちの接近はエネルギー探知で気づかれるはずだ。そしてさっきのゲートの破壊。そんなことまでしているのに、なぜ奴らは警備で一機も出してこない?』
「単純に戦力が足りてないんじゃないの? アカムが相当減らしたんでしょ?」
『まぁ、それはそうだが……』
しかし、違和感は確かにある。アカムの言う通り、施設の中には人の気配がない。人や戦機が通った痕跡はあるのに。
「それにしても、何であんな奴に味方がいたんだろうね。危険だから消そうとかならないのかな」
『自らの悪意を肯定してくれる存在に惹かれるのかもしれない。そういった連中にとって、ラヴォラスという存在はありがたいのだろうな」
そんな雑談をしながら、警戒しつつ基地の奥に進んでいく。
しかし、人の気配も戦機の反応もない。
『いや、奥にいるな』
レーダーの範囲外の敵を、アカムは察知する。さりげなく人間業じゃない。戦闘勘、というやつだろうか。
距離を詰めていくと、戦機のレーダーにも敵機の反応が表示された。
『この歪なエネルギー周波数……グライフォードか』
「動いてないならラッキーじゃない? 今のうちに破壊しちゃえば』
『いや、起動はしている。流石に、俺たちの侵入には気づかれたようだ』
グライフォードらしき反応の方向へ向かうと、地下とは思えない広い空間に出た。
『広いな……』
「レイが言ってたけど、大規模な地下基地には戦機の模擬戦場ってのがあるんだってさ」
『凄まじい設備だな』
「……っ、アカム! 後ろのゲート!」
私たちが広間を進むと、私たちが入ってきた方向とは真逆のゲートが開き、中からグライフォードが現れた。
『やぁアカム君。ようこそ、ボクの根城へ』
『追い詰めたぞ、ラヴォラス』
『追い詰めた……? 面白いことを言うね。痕跡を残す、そんな迂闊なことをボクがすると思うかい? 今までキミにボクの根城を発見されなかったボクが』
『……誘い込んだとでも言いたいのか?』
『言いたいんじゃない。実際に誘い込まれんだんだよ、キミたちは』
直後、レーダーに無数の反応が現れ、アラートがけたたましく音を立てる。
「これは……機獣の反応……⁉︎」
およそ三十の機獣が、地下基地に雪崩れ込んで来る。明らかに私たちの戦機のエネルギーに釣られてやってきた数じゃない。
それにしても、あまりにもタイミングが良すぎる。ここは機獣の巡回エリアではなかった筈だし、そもそも機獣の巡回エリアに根城を構えるなんて普通ありえない。
『この前のやつ、ボクも偶然だと思っていたんだけどね。どうやら、グライフォードの一部にはそういう機能があったみたいなんだ』
『そういう機能……だと? まさか……』
『……そう、機獣の使役さ』
グライフォードが手を翳すと、現れた機獣たちは動きを止める。
『まぁでも、実際機獣は昔戦争の道具だったみたいだし、そういう機能を持ってる戦機がいてもおかしくないよね』
「なら……あんたの部下みたいな奴らがいなかったのって……!」
『ん? あぁ、みんな処分したよ。機獣を操れるならもう必要ないからね。そもそもボクは人間が嫌いだからさ』
「……っ!」
『ゼシル。機獣の処理は君に任せる。俺は奴を……』
『そう上手くいかせると思うかい?』
ルシフルの方に機獣たちが雪崩れ込み、グライフォードは私の方に迫る。
『っ、ゼシル!』
「平気」
アカムより先に私を潰しに来る、相当舐められているようだ。
上等……!
『本当なアカム君との戦いを初陣にしたかったんだけどさ、なんか目障りなんだよね、キミ。だから先に殺す』
「光栄ね。けど、やられるのはあんたよ!」
迫りくるグライフォードに対し、レイゼオンのソード抜いて応戦する。
対するグライフォードは、武器を手にするでなく、腕そのものがソードに変形する。
「……っ!」
ソード同士の鍔迫り合いが起こる。
そこらの戦機を上回るパワーを持つレイゼオンでさえ、グライフォードに対して押し切ることができない。
『へぇ、良いね、その機体。良いパーツが取れそうだ』
「生憎、私たちのレイゼオンを誰にも渡すつもりはないわ……!」
一旦、ソードを引いて後退。
ビーム砲を撃ちながら旋回、ビームの光で目眩しをしつつ、敵の背後を取る。
「これで……っ!」
しかし、グライフォードを振り向くこともしない。
『ふっ、死角など……』
その時、グライフォードの背部ウイングが展開、変形し……
『このグライフォードには存在しない』
……ビーム砲を射出した。
「ちぃ……っ」
変形した銃口が向けられた瞬間、回避行動をとっていた私が被弾することはなかったが、攻撃のチャンスを失い、戦況は膠着状態となった。
『ふ〜ん……今の避けられるんだ』
自分の次の手を考えつつ、相手の次の手を予測する。しかし、グライフォードという機体の特性上何が出てくるかわからない。だからこそ、慎重にやらなければ即死する。
『キミ、名前は?』
気を張り詰めている中、急に話しかけられた。
「……」
無視するか悩んだけど、なんとなく応えることにした。
「……ゼシル。ゼシル・ゼオンよ」
『ゼシル君、ね。アカム君以来かな、ボクが名前を覚えておこうと思った戦機乗りは。この機体の真価を初めて見せる相手は、アカム君にしようと思ってたんだけどね』
ラヴォラスは通信越しでもわかるぐらい飄々とした態度で話す。
けれど……
『……キミも、それに相応しい相手だ』
……その裏にある殺気を、私は確かに感じ取った。