「数だけは多いな」
アカムのパイロット技能と相まって無類の強さを誇るルシフルにも弱点はある。それは火力が乏しいこと。
一対一の戦機戦に特化したルシフルでは、多数の機獣を同時に破壊できない。一体ずつ仕留めていくことになる。
「奴め、よくもまぁここまで集めたものだ」
ラヴォラスにとってあくまで機獣は足止めであり、アカムとの決着はグライフォードでつけるつもりだろう。
「ゼシル……」
アカムは早くゼシルの元に駆けつけようと焦る素振りを見せる。
「……いや、君はもうそんなに弱くはない、か」
しかし、修練の日々を思い出し、焦りを捨て、自分の戦いを続けるのだった。
*
私に対して敵意と戦意を剥き出しにしたラヴォラスだったが、だからこそ慎重な戦い方にシフトしてきた。
おそらく、最適なタイミングで手札を切りたいから、無闇に武装を見せびらかさないのだろう。
「ねぇ」
『……ん? おしゃべりでもしたいのかい?』
「少し」
『殺し合いの最中だというのに……面白いね、キミは』
邪悪だけど、この人は自らの理想のために行動している人間だ。参考になるところがあるかもしれない。だから、少し話してみたくなった。
「あなたの夢ってなに?」
『夢? うーん、夢ってほどじゃないけど、気に入らないものを全て殺して滅ぼすことさ。特に女子供は好きじゃないから皆殺しにしたいね』
「……女から生まれて子供だった癖に?」
『だからさ。女子供は繁栄の象徴だろう? ボクはこの世界最後の人間になりたいんだ。ボクが死んでからも世界が人類が続いていくなんて、そんなに嫌なことはない。だから、ボクが終わる時を全ての終わりにしたいのさ』
「……そう」
話してみれば、割と単純だった。
この人は孤独なんだ。自分一人が世界の全てなんだ。だから、力しか信じていない。私もゼラがいなければこんな人間になっていたかもしれないな。
「結局全員殺してたけど、どうやってあんなに仲間を集めたの?」
『暴力で好き勝手する者たちは、それ以上の暴力には素直に従うものだよ』
「……確かにね」
う〜ん、何も参考にならなかったな。仲間の集め方のコツみたいなのを聞きたかったのに。
そして、私の夢のためにこの人には死んでもらわなきゃいけない。
『キミの夢も聞こうか。ボクだけ話すのはフェアじゃないだろう?』
「私は、青空を見たい。この永遠に続く曇り空に、青い空を取り戻したい」
『……ふっ、ボクよりイカれてるね。この空を覆う雲を晴らすには、何をすればいいかわかっているのかい?』
「地球を廻る対空防衛システム衛星を破壊する、でしょ?」
『そんなこと不可能だよ』
「だとしても、私はやるわ」
『そうか。面白いね、キミって。そして成程、世界を滅ぼしたいボクと、世界に光を取り戻したいキミ、戦う運命は必然だったということだ』
「ロマンチストなのね、あんた」
『キミだってそうだろう』
「かもね」
おしゃべりタイムが終わり、戦闘が再開される。
さて、どう攻略しよう。
グライフォードには私の知らない武装が沢山搭載されている。それも当然、仮想敵は私ではなくアカムだ。機体性能と初見殺しに特化させないとあの化け物は倒せないだろうし。
『用心深いね。賢い人間は嫌いじゃないよ、ゼシル』
「気安く名前を呼ばないでくれる?」
『そういう態度も嫌いじゃないさ。その強気な態度が、いつ怯えに変わるか、楽しみになるから……ね!』
グライフォードが前進、腕をソードに変形させて仕掛けてくる。
ライフルで迎撃するが、攻撃位置を読まれ、旋回と回避を繰り返しながら距離を詰められる。
それでいい。
先程の押し合いで、グライフォードにはレイゼオン程のパワーがないことを確認できている。近接戦を仕掛けられたくないように見せかけ、寄って来た相手を仕留める。
『……浅知恵だね』
すると、グライフォードの腰部分が変形し、何かが展開される。
「隠し腕……っ⁉︎」
展開された瞬間に、グライフォードを蹴り飛ばして後退したことにより、隠し腕から展開されたソードによる攻撃を回避できた。
しかし、もう片方の腕に装備された小型のライフルによるビーム射撃は避けることができていない。
「く……っ」
シールドの耐久値が少しずつ減っていく。
単純な話、相手の腕は四本で自分は二本。そんなグライフォードの手数に、対応しきれない。
「……くそ」
でも、最悪私はラヴォラスに勝てなくて良い。
時間をかければ、いずれアカムが機獣を殲滅して来てくれる。
その後に、二人でラヴォラスを倒せばいいんだ。
『アカム君が来るまで待てば安心、とか思ってる?』
「……っ!」
『ははっ、図星っぽいね。なんだ、面白いと思ったけど、その程度なんだね、キミ』
ラヴォラスからの攻撃の苛烈さが増す。防御と回避が精一杯で、反撃の糸口を掴めない。
それどころか、被弾がどんどん増えて、機体へのダメージが増えていく。
「……くっ」
気が抜けた。
意識して抜いたわけじゃないけど、アカムが来るまで耐えれば勝てる。そんな思いが、動きに緩みを生んでしまったんだ。
シールドの耐久値がどんどん下がっていく。このままだと機体の動きが止まる。
そうなれば……
『さて、遊ぶのも飽きたし、そろそろ死んでもらおうかな』
……死ぬ……?
私は……ここで……?
「……嫌だ」
私はまだ……
『さようなら』
何も成し遂げていない‼︎
「っ、あああああ!」
死に物狂いで機体を動かし、グライフォードを突き飛ばす。
苦しまみれの反撃だから、敵機にダメージを与えることはできていないし、むしろ相手の武器に接触してこちらのダメージになってしまった。
『むっ』
しかし、その時、何かが引き金になったのか、レイゼオンの機体のモニターの光り方が変わる。
「え?」
『仕留め損なったか。だが……』
もう一度グライフォードが詰めてくる。
しかし、何かがおかしい。
「……え?」
グライフォードの動きが分析された情報が、レイゼオンのモニターに映るのではなく、頭に直接情報が流れ込んでくる。
「これ……は……?」
脳に負荷がかかったような感覚、いや実際にかかっている。
送り込まれた相手の機体の動きの情報に対し、直接頭の中に最適解が提示される。
「頭……痛……」
頭に響く指示に従うように、機体を動かす。
すると、敵機の攻撃の全てを最低限の動きで回避と防御できる。
「え……?」
『……何?』
メインアームでの攻撃を避けられると、追撃のために繰り出されるサブアームが展開する瞬間を狙い、ビームで撃ち抜く。
『なっ……!』
「はぁ……はぁ……うぐっ……ふぅ……!」
頭痛い。目眩がする。吐き気がする。てか鼻血も出てる。
それなのに、腕と足は問題なく動いて、機体を操作する。
何者かに頭の中に入られて、操られているかのような感覚。
よく分からないが、レイゼオン何か変なシステムを起動してしまったようだ。そうとしか考えられない。
「……いや、無理でしょ……!」
おそらく、このシステムは戦闘において、無類の強さを発揮できる。けど、こんなものを長時間運用していたら、常人なら廃人になる。人より頑丈なことに取り柄のある私ですら、既に限界が近い。
「もう……うるさい……!」
頭に入り込んでくる情報を無視しながら、詠唱パネルのOFFボタンを殴打する。
すると、コックピット内の無駄な発光が止まり、頭に流れ込んでくる情報も遮断される。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
けど、戦況は変わった。
不明だったグライフォードの武装構成が、さっきのシステムの影響もあって、頭に入ってきた。サブアームも破壊したし、相当戦いやすくなった。
「これなら勝てる……いや、勝つ!」
『隠し球があったのか……だが、これでボクを倒し切れると思わないことだ!』
私の動きの変化を不審に思ったのか、距離を取っていたグライフォードが、再び迫り来る。
でも、もう大体わかった。そして、わかってしまえば対処は容易い。何故なら────
「私が誰と……ずっと訓練してたと思ってんのよ!」
ラヴォラスとグライフォードよりもよっぽど底知れない化け物を、ずっと相手取って来たのだから。
アカムなんて待つ必要ない。ここで私がラヴォラスを倒す!
『……ちぃ、調子を取り戻したか』
単純な押し合いなら、レイゼオンのパワーが有利。それを覆せるサブアームは既に潰した。変なシステムの助けがあったとはいえ、この優位を逃しはしない。
片腕のソードで敵を抑えながら、もう片腕で敵の装甲を引き千切る。あらゆる機体を継ぎ接ぎにして作られている仕様上、接合部が若干脆い。
『バカな……』
不安が声に漏れてるよ、あんた。さっきまでの私と同じだね。
『ボクが……負ける……っ⁉︎』
形勢は逆転した、このまま仕留める……!
『……っ、このぉっ!』
グライフォードの肩から右腕を引き裂くが、ラヴォラスの意地がこもった反撃をまともに喰らい、シールドの耐久値が両者ともに削り取られ、機体本体へのダメージでレイゼオンもグライフォードも動きが止まる。
流石は賊の首魁、タダではやられてくれない。
「よくもボクのグライフォードを……」
ラヴォラスが動かなくなったグライフォードのコックピットを開け、脱出する。
「まぁ良い。生きているうちは負けじゃないさ。また会おう、ゼシル君」
「逃がすかっ!」
私もレイゼオンのコックピットを開けて脱出し、逃亡したラヴォラスを追う。
「……おいおい、まさか身一つで追ってくるなんて、お転婆過ぎないかい?」
ラヴォラスの足が止まる。
おそらく、身一つで逃亡するより、追ってくるアカム対策に私を人質にした方がいいと思ったのだろう。
「ていうか、女の分際でボクを捕まえられるとでも? ボクはこの一体を暴力で支配していたんだよ。素手での殴り合いでも、ボクは誰にも負けたことが無──」
そして、私を押さえつけようと近づいてきたラヴォラスの顔面を、思い切り殴り飛ばす。
「──ぐおぁっ⁉︎」
女だから簡単に征服できると思ったのだろうが、私は士官学校時代、対人格闘でもトップの成績を持っていたのだ。
懐かしいな、士官学校時代を思い出す。身長200㎝超えの巨漢のウィリアム君(対人格闘成績二位)も、私には手も足も出なかったな。元気してるだろうか、彼。
まぁつまるところ、私は戦機での戦いより対人格闘の方が得意なのだ。
「この……っ!」
ラヴォラスが伸ばしてきた拳を額で受け、勢いを殺したところを掴んで瞬時にへし折る。
「……っ⁉︎」
そして、脇腹に蹴りを叩きつけ、顎を殴り飛ばしてノックダウンさせる。
なるほど、重力が強いからか、地球の方が月よりも打撃の威力を乗せやすい。
「げふっ……」
そして、ダウンしたラヴォラスに馬乗りになり、顔面に数回拳を叩きつけ、意識を奪った。
「……確かに、そこそこ強かったわね、あんた。パンチを受けたおでこがジンジンするもの。まぁ、それでも私の敵じゃなかったけど」
倒れ込んだラヴォラスを、拘束と休息を兼ねて椅子代わりにして座り、アカムを待つ。
『ゼシル! どこだ! 無事か⁉︎』
「あ、アカム。ここにいるよ」
『ゼシ……な、何がどうなってそうなっている……?』
ラヴォ椅子に座っていた私を見て困惑するアカムをスルーして、話を続ける。
「こいつどうする? 生かすか殺すか。あなたとか村の人に委ねようかなって」
『戦機戦で撃墜して殺すならまだしも、生身の人間を殺すのはな……俺はあまり気が向かないな……』
「じゃ、拘束して牢にでもぶち込んどけば?」
『まぁ、そこはおいおい考えるとする。それにしても、良くラヴォラスを撃破できたな』
「特訓の成果ってやつね」
『こんな無茶をしなくても、俺が来るまで耐えていればよかったのではないか?』
「そういう慢心って動きに出るからさ、倒す気でやんないと死んでたと思う」
『そうか……とにかくよくやった。君のおかげで、しばらくは平和に過ごせるだろう』
「えへへ、ありがと」
疲れたし、お腹がすいた。
早く帰ってご飯食べたい。
……って、これだと私が食いしん坊キャラみたいじゃん!
話自体はできてたのになんとなく投稿せずにいたら数ヶ月経ってました。すいません。