わたくしの名前は『ラティナ・ハーヴェイン』。この街『ノウェン』の領主を務めさせていただいております。
かつて世界にはこの街よりも大きな都市や街が沢山広がっていたと言われております。
しかし、世界が滅びるほどの大戦争が起こり、沢山の人が死に、沢山の都市や街が崩壊し、今やこの街以外に人が住んでいるかもわかりません。また、旧都市部と呼ばれる場所には人を殺すために造られた機械がたくさんがいます。怖いですわね。
そんな怖い機械がいない地域のこの街に生まれ育ったことに感謝しながら、この街の中で幸せを見つけて生きていき、この街を守っていくのが領主たるわたくしの使命……
「……そんなわけありませんわッ!」
どうしてこんなに地球は広いのに、こんな狭い街の中で一生を終えなければなりませんの?
どうして人間が機械に怯えながら生きなければなりませんの?
「こんな小さな街では足りませんわッ! 全然ッ!」
わたくしの目標は、この大地を人の手に取り戻すことです!
そして、広い世界全てを見てまわりたいですわ!
*
ふと気付いた。
「私って……あんまり強くなくない?」
アカムにも結局模擬戦で一度も勝ててないし、ラヴォラス相手も変なシステムが起動しなければ負けていた。
「強くない? 君が? そんなゴリラみたいなパワーを持ちながら……?」
「誰がゴリラよ」
いや素手なら強いけどさ、アカムとラヴォラスが同時にかかってきてもボコボコにできる自信あるけど、戦機の操縦だと彼らには敵わない。
「そもそも、私はレイゼオンのことを全然知らないわ。まだ……機体を動かすというより、機体に使われてる感覚ね」
「君の言っていたシステムといい、この機体は単純な解析だけでは探りきれないブラックボックスが数多存在している。気に入らないがね」
「変なシステムがまだなんかあるかもしれないってこと?」
「可能性はある」
レイの解析や、アカムと模擬戦をいくらやっても、レイゼオンの隠された機能を探れなかった以上、場数を積みながら機体の真価を引き出していくしかない。
「……む? 見ろゼシル。右下の方」
「え?」
レイがモニターの端を指さすと、その方向には街が広がっていた。
アカムたちのいた村という規模ではなく、戦機以上の高さがある建物が並んでいる。
「あんなに綺麗に街が残ってるものなんだ……」
「おかしくはない。機獣の活動エリアや大都市から離れているし、終末戦争における激戦区からも外れている。しかし……実際に見てみると驚いたよ」
レイは落ち着いた口調であるものの、内心は興奮しているのがなんとなくわかった。
「着陸する?」
「直接はやめておいた方がいい。あそこまでの規模の街なら、警備もそれなりだろう。下手に近づくと戦いになるかもしれない」
「それもそうね。けど、一つ問題があるとしたら……」
その時、街の方から青い影が二つ飛び出てきた。
「……あちらにも既に捕捉されてて、迎撃のための戦機が出てきたことかな」
「近づきすぎたかな?」
「まぁ、こんなのが飛んでれば気付く人は気づくよ」
目視とレーダーを交互に見て敵機を確認する。
あの機体は見覚えがある。確かラヴォラスの手下が使ってたやつだ。色は違うけど。なんたらハウンドってやつ。
「変形する。レイ、どっか捕まってて」
「ほい」
戦闘機能がない飛行機モードから、通常モードに変形。
敵対の意思はないから銃は向けない。けれど、自衛の為にソードは手にしておく。
「えっと、通信通信。あーあー、我々に敵対の意思は無い。応答願う」
『……人?』
まるで通信されることすら頭になかったような反応が返ってきた。
なるほど、戦機同士の戦いが盛んだったアカムの村と違って、ここら辺で確認される未確認の機体は全て巡回ルートから外れた機獣ばかりなのだろう。
『……どうする? 人の場合は想定されてないぞ?』
『私に聞かないでよ。ていうかどうしよう? 実戦なんて私たち経験ないし……』
一機が男、もう一機が女。歳は私より少し上か下かぐらいかな。
実戦の経験がないのは本当だろう。通信先を限定せず、私にも筒抜けで会話しているのだから。
もし戦いになっても普通に勝てそうだな。アカムやラヴォラスからは感じられたようなプレッシャーみたいなのを、彼らの機体からは一切感じられないし。
『敵対の意思は無いって言ってるし……なんかいい感じに言いくるめれば戦わずに済むんじゃないか?』
『じゃああんたラティナ様に報告してよ』
『えー……あの人無駄にテンション高いから苦手なんだよ。尊敬はしてるけど』
『まぁなんとかなるでしょ多分』
『だな』
おいおいそれでいいのか衛兵諸君。元軍人としては、彼らの適当具合に異議を申してやりたいところだ。
それより『ラティナ様』という気になる言葉だ。彼らのボスだろうか?
「あの!」
『ひゃあっ! な、何⁉︎』
「先程敵対の意思は無いと言ったんだけど、どうやらあなたたちもそうみたいだから、その『ラティナ様』とやらのところまで案内してくれる?」
『な、なぜ貴様がラティナ様のことを知っている⁉︎』
「あなたたちの通信がダダ漏れだったからよ……報告が面倒なら連れて行ってさえくれれば後は私が話すからさ、ね?」
こいつらダメダメだしめんどくさいから、もう直接私が乗り込んで話そうと思う。
『その必要はございませんわーッ!』
……と思ったら、そんな爆音の通信と共に、街の方から更なる戦機が飛び出してきた。
『その声……そしてあの機体は……』
『ラティナ様!』
『そう! わたくしこそ、このノウェンの領主こと! ラティナ・ハーヴェインですわーッ!』
敵のボスらしき人物ラティナは、けたたましく名乗りを上げる。
「……ゼシル」
「どうしたのレイ?」
「多分だけどあのラティナという人物は私の苦手なタイプだ。私は黙っているから対応頼む」
「しょうがないわね……」
そしてラティナの駆る戦機は、甲冑のような装甲、マントのような背部羽、槍のようなソードと、まるで絵本の中の騎士のような機体だ。
ルシフルやグライフォードといったゲテモノを見てきた身としては、所謂正統派っぽい見た目が逆に新鮮だ。
『お二人とも、よく今まで戦いましたわね。しかし、もう安心なさい! 今からわたくしが戦いますッ!』
『いや、その、ありがたいんですが……実は────』
衛兵の一人がラティナに話をつけ、続いて私も事情を話す。
「────って感じで、私たちに敵意はないんだけど」
『これはこれは失礼いたしました! ごめんあそばせ!』
「いや、どっちが悪いとかじゃないよ。無駄に戦うことにならなくてよかった」
『それもそうですわね! ありがとうございますわ!』
こ、声がでかいこのお嬢様……
けど、それ以外はまともな人っぽいな。ラヴォラスみたいなやばい奴を見てからだと本当にそう思う。
そのまま私はラティナに旅の目的と経緯を話す。
『……ふむ。青空、ですか!』
「うん、青空を見るのが私の夢」
『わたくしの夢は、この大地を人の手に取り戻すことですわ! つまり、天と地と目指すところは違えど、わたくしたちの目的は一致していることになりますわね!』
「なら、協力してくれる?」
『勿論! ……と言いたいところですけど!』
「……?」
『ゼシルさん! わたくしは夢物語に手を貸すつもりはありませんの!』
……まぁ、そうくるよね。いくら目的が同じとはいえ、この街ほどの規模の勢力から無条件で手を借りるなんて上手い話はない。
『わたくしは、領主としてこの土地に生きる皆の命を預かる身。闇雲に戦いに出たり、配下の皆を死地に送り込むわけには参りません! あなたが何も背負っていないとは言いませんがはっきりと申し上げます! あなたの一歩とわたくしの一歩は重みが違いますわ!』
「それは……そうだね」
反論の余地はない。テンションの高い変人かと思っていたけど、しっかりした人だ。
でも、だからこそこの人の手は借りたい。けれどもうしたものか……
「……しょうがない。ゼシル、私が話そう」
「え?」
言葉に詰まった私にレイが助け舟を出してくれた。
「さて、私は同乗者のレイ・キリシマという者だ。よろしく。私の方からもいいだろうか?」
『あら、もう一人乗っていらしたのね! よろしくお願いしますね! どうぞ!』
「確かに私たちはあなたたちほど命を背負ってはいない。けれど、出せるものはある」
『あら? 出せるもの、ですか?』
「旧文明の情報や機獣徘徊ルートの分布かな。私たちは機獣の存在しないポイントをある程度割り出して旅をしているんだ。あなたたちが勢力を広げるつもりなら有益な情報を提供できると思う」
『提供する代わりに協力しろということかしら?』
「いや? この情報は無条件で渡そう。その上で、あなたに何か条件を出して欲しい。チャンスをくれということさ」
『ふふ、その心意気……気に入りましたわ! 良いでしょう!』
流石はレイ、とりあえず条件を取り付けてくれた。私は困難を力でこじ開けてきた人間だから交渉とか苦手なんだよね。
『条件、というのは単純! わたくしとわたくしの配下の皆が命を預けるに相応しいお方か、見定めさせてもらいます! そう、決闘ですわッ!』
決闘か、分かりやすくていい。
まどろっこしいことが苦手なのもあるが、戦いの中でレイゼオンのことをもっと知れるかもしれないからだ。
「うん、わかった。ありがとう」
『礼には及びませんわ! その前に、長旅でお疲れでしょう? 心身ともにゆっくりと休むと良いですわ! あなたたち! この方々を案内してくださいましッ‼︎』
『『はい! ラティナ様!』』
それに、私はこのラティナという人間のことが割と好きかもしれない。
声がデカすぎるのは気になるけど、人柄が良く裏表がない。衛兵の二人をはじめ、きっとこの街の人たちみんなに慕われているんだろう。
街に入り、一息ついたら、早速ラティナに情報提供する。
「あなた可愛いですわね! 可愛い上に頭も良い……わたくしの側近になりませんこと⁉︎」
「ぜ、ゼシル助けてぇ……」
この街『ノウェン』は、レイの推測通り終末戦争の戦火をあまり受けていない街だった。受けていないといっても、旧世代のテクノロジーを維持できる資源も扱える人材も既に無いため、街としての機構を維持するのが精一杯とのこと。
「建物や設備は壊れてしまえば二度と直せないので、慎重に使わなければいけませんの」
「旧文明の建設には自動修復機能があるからこそ、約七十年も維持できるわけだ。しかし、それほど長く動いているなら、どこかシステムにガタがきているかもしれない。私が見よう」
「いいんですの⁉︎」
「私としても、旧文明の建物が現存しているのが興味深い。是非協力させてくれ」
「ありがとうございますわ! もうレイさんったら素敵!」
「やめろ抱きつくな助けてゼシル」
「はいはい」
ラティナからレイを抱き寄せて引き剥がす。レイの可愛さを知るのは私だけで良い。
「ラティナ、決闘って実戦? シュミレーションモード?」
「その中間、ですわ! ビーム出力を一割、コックピットへの攻撃を禁止した決闘用のモードをあなたの戦機にも導入してもらうことになります! よろしくて⁉︎」
「構わないよ。すぐに始める?」
「あなたもお疲れでしょうし、今日明日はゆっくりお休みになられては⁉︎ 明後日にいたしましょう!」
「わかった。ありがとう」
こうして、一旦ラティナの元から離れ休息をとった私たちは、翌日にレイによる建物のシステムのメンテナンスを兼ねて街の観光をすることにした。
「あはははっ! 見ろゼシル! ナノマシンだ! これが建物の老朽化を防いでいるというわけだよ! 正に旧文明の遺産だ!」
「ほんとだ……なんか小さいのがあるね」
「見ろって言った私が言うのもなんだけど、なんでナノマシンを肉眼で目視できるんだ君? 普通整備用のゴーグルで拡大しなきゃ見えないんだが……まぁいい」
ちなみにこのナノマシンは、似たようなものが戦機にも使われていて、装甲の摩耗や小さい傷程度なら自動で直してしまうんだとか。
レイが好奇心の赴くままにあらゆるシステムをメンテナンスしたことは、街の人々には大助かりだったようで、たくさんの人がレイに感謝したが、人から褒められ慣れていないレイは私の後ろに隠れていた。こういうとこを直した方がいいと思うけど、それもまたレイの可愛さであることも否定しない。
・キャラクター紹介
ラティナ・ハーヴェイン
性別 : 女
年齢 : 22歳
身長 : 163㎝
好きなもの : 紅茶、宴
嫌いなもの : 窮屈、おとなしくしていること
北欧の街『ノウェン』の若領主。声が大きく、落ち着きがないが、現実的な視野で行動し、領主として統治の手腕は優秀かつ気品もあるため街の人々に慕われている。
いずれ世界を機獣から取り戻す、という夢があり、部下たちもそんな彼女の夢を応援している。