青空戦記   作:烊々

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集結

 

 

「────というわけなんだが、協力願えないだろうか?」

 

 翌日、早速ファン爺の元に協力を要請しに来た私たちだったが……

 

「……ファン爺は良いと言うと思う。けれど、僕は嫌だよ」

「……」

「だって、死んじゃうじゃないかそんなの……!」

 

 シンの反対に合い、話を進められずにいた。家族が死地に向かうのを反対する、当然のことだ。だから、私たちは何も言うことができない。

 

「……シン」

 

 すると、ファン爺が口を開く。

 

「ワシはやるぞ」

「でも、ファン爺!」

「死など今更恐れはせん。病いで死んだお前の親に代わり、ワシはお前を育ててきたな。けれど、ワシももう歳だ。もうすぐ死ぬ。後一年もせずにぽっくり逝くだろうな」

 

 ボケている筈のファン爺だったが、はっきりと目を見開き、語る。

 

「なら、その時に安らかに死ねばいいんだ! 戦って死ぬ必要なんて……」

「ワシが恐れているのは、何も為せずに死ぬことだ。かつて意味のない戦いを続け、無様に生き延びた。その過程で守ってきたものはあったが……それでも、後悔の中で生き続けてきた」

 

 初めは反論しようとしていたシンだが、ファン爺の言葉を黙って聞いていた。

 ファン爺は自らの人生の後悔を、初めてシンに語ったからだろう。

 

「今こそ意義のある戦いができる。七十年の後悔を、ようやく精算できるのだ。だから、行かせてくれ」

「……僕にはわからないよ。死んでまでやりたいことなんて」

「だろうな。お前は……お前たちこれからを生きる者はそれでいい。歳を取ればわかるさ」

「わかりたくないよ……そんなの」

 

 膝をつき涙を流すシンの頭を、ファン爺は優しく撫でる。

 

「シン少年、ファン老師が良いと言っても、君の思いを踏み躙るつもりはない。君がファン老師に戦わせたくないと言うのなら、私たちはここを去ろう」

 

 そんなシンを気遣い、レイが言葉をかけた。

 

「……いいや、わかってるんだ。僕のワガママで、ファン爺に後悔させたまま死なせるわけにはいかないって」

「そうか。ありがとう。私たちは再び仲間たちと合流しようと思うから、此処を発つ。迎えに来る時まで、ファン老師と共に過ごす時間を大切にすると良い」

 

 そう言って、レイは私を連れファン爺とシンの元から去ろうとする。

 そういえば、私なにもしてないな。レイに話を全て任せてしまって申し訳ないが、人には向き不向きというものがある。私はラヴォラスやラティナの時みたいに戦うのは得意だが、人の心に寄り添ったりするのは得意じゃない。アカムとの関係が上手くいったのは奇跡のようなものだ。

 

「とはいえ、数奇な巡り逢いだね。シュトロイムの末裔と、キリシマの末裔、そしてシュトロイムキリシマ両者を知るファン老師、と」

「シュトロイムの……末裔……?」

 

 レイの独り言を耳にしたファン爺が、再び目を見開く。

 

「隊長の末裔と言ったか⁉︎ 生きているのか⁉︎」

「え、あ、そ、そうだよ」

 

 そしてファン爺は車椅子を自力で動かし、レイの正面に回り込む。

 

「どこにいるのだ⁉︎ 是非合わせてくれ!」

「待て待て、そのうち連れてくるから、今はシン少年と二人で過ご……」

「ならばお前もついて来いシン! 隊長の末裔となると挨拶せねばならん! 白龍を出す! お前も乗れ! 早く出発の準備をしろォ!」

 

 この爺さん超元気だけど本当に今年で死ぬの……⁉︎

 

「集落の皆に言っておけ! オレとシンは遠出するから、その間自分の身は自分で守れとな!」

 

 用心棒失格だなこの爺さん⁉︎

 

 

 

 

「全く、なぜボクが農作なんてやらなければならないんだい……」

「村の皆には好評だったぞ? ラヴォラスの耕した畑は土のほぐれ具合が良い、と」

「褒められたぐらいでやる気が出るような単純な性格じゃないよ……む?」

「どうした?」

「何か、飛んできてないかい?」

「無駄話をしてまでもサボりたいのか?」

「いや、飛んできてるんだって……アレは確か……ゼシル君の……」

「ゼシルは旅に出たんだ。こんなに早く戻ってくる筈が────」

『アーカームー!』

「────ウォオアッ⁉︎」

 

 レイゼオンで大陸を横断し、アカムの村へ戻ると、丁度アカムが村外れの畑にいたので、その数十メートルぐらい離れたところを狙って着陸しようとしたのだが、手元が狂いギリギリのところに降りてしまった。

 

「……着陸するところを考えろゼシル。もう少し位置が狂えば今頃俺もラヴォラスも擦り潰れて畑の肥料だ」

「あはは、ごめんごめん」

「……おかえり」

「ただいま!」

「早かったな」

「まぁ、ちょっとね。アカムに用があって」

「用……? それよりも……レイゼオンに捕まっている白い機体はなんだ……?」

「お客さん、かな。それについてアカムに言っとかなきゃいけないことがあるんだけど」

 

 周りに聞こえないように、アカムに耳打ちする。

 

「エルロード関係の人。末裔のアカムに会いたいからって、連れて来ちゃった。大丈夫?」

「構わないさ、君の頼みなら。とはいえ、何を話せばいいんだ?」

「私にもよくわかんないんだよね」

『さて、降りるとダメだからこのまま話させてもら……』

 

 白龍はスピーカーを鳴らし、頭部メインカメラがアカムの方へ向ける。

 

『……っ⁉︎ た、隊長……! いや、そんなはずは……!』

 

 すると、ファン爺は白龍から出て、よろよろとアカムの元へ歩き出す。

 本人は嫌がるだろうけど、エルロードとアカムって似てるんだ。

 

「ファン爺! 無茶しないで!」

 

 そして少し遅れて出てきたシンが、焦りながらファン爺を支える。

 

「いや本人のはずはないな。これは失礼を……ファン・ラオフォンと申します」

「……アカム・シュトロイムです」

「シュトロイム……あなたは隊長……エルロードの……」

「ひ孫にあたります。失礼ですが、祖父も父も、曽祖父にはあまり良い感情を持ってはいません。私も同じです。故に、曽祖父についてあなたにお話しできることはあまり……」

「いえいえ、良いのです……! 私が、あなたを一目見たかっただけなのですから……! あの方を良く思っていないあなたにこう言ってしまうのはなんですが……彼の末裔たるあなたと戦えるのならば……光栄です」

「……私は、曽祖父を忌み嫌っていました。けれど、曽祖父によって助けられたあなたが、ゼシルに手を貸してくれるというならば、今だけは……曽祖父に感謝しようと思います」

 

 お互いに頭を下げ合うアカムとファン爺。

 少しだけでも過去に向き合えたのなら、この機会をセッティングした甲斐があるというもの。

 

「アカムってあんな丁寧な対応できたんだ」

「なんてこと言うんだい君は」

「ていうかさ、ラヴォラスなんでそんなに自由なの?」

「ふふふ」

「ふふふ、じゃなくて」

 

 あの悪意の具現化みたいな男が何食わぬ顔で農作をしていたら、気になるのも仕方ない。

 私にボコボコにされてから少し考えが変わったらしいことはアカムから聞いてはいたが。

 

「まぁそう言うな。その男には色々と協力してもらってる」

「アカム、ファン爺は?」

「寝た。お孫さんに旅人向けの宿泊小屋を案内してある。ゼシルにも伝えておこう。ここら一体の勢力を統一したんだ。俺とラヴォラス二人で二週間でな」

「二週間⁉︎ 早くない?」

「一大勢力の長だったボクと、最強の戦機乗りのアカム君が組んだとなると、もうバランスも何もあったものじゃない。皆ボクたちに従ったよ」

「人聞きの悪い言い方をするな。俺たちの力だけじゃない」

 

 言いながら、アカムもラヴォラスも私の方を見る。

 

「え、なに?」

「元々、今この世界に窮屈さを感じ鬱憤している者たちも多かったんだ。ゼシル、君の夢は、そういった者たちが手を取り合う理由になったんだ」

「ボクたちは長年こんな世界で生きてきて、主義や思想、価値観が凝り固まっていたからね。月生まれのキミだからこそ、そんな凝り固まったものを破壊するきっかけを作れたってことかもしれないね」

「なにそれ。ま、私のおかげってんなら、感謝してよね」

「傲慢……」

 

 良い気になっていたところにレイを水を差される。

 

「それに、あまり喜ぶことではないのだが、こいつが粗暴な部下を皆殺しにしたから、周辺の治安が一気に向上したんだ」

「手駒としては有用だったけど、嫌いだったからね、彼らは」

「重ねてきた悪行が逆に善行になったってことかい」

 

 そう考えると、ラヴォラスを殺さなかったのは正解だったな。

 

「そうだ。戦機乗りが揃ってるなら、ラティナも呼んでこようかな」

「ラティナ?」

「少し前に知り合った、北欧のノウェンって街の戦機乗り。色々あって協力してくれることになって」

「相変わらず謎の求心力はあるんだな君には」

「なに謎って、普通に褒めてくれればいいじゃん」

「ははっ」

「鼻で笑うなぁ! もう……!」

 

 それにしても、アカムはよく笑うようになった。会ったばかりの頃は辛気臭い顔しかしてなかったのに。

 その変化が私のもたらしたものなら、やはり良い気になってしまう。私のやっていること、やってきたことに意味はあったんだな、って。

 

「……はぁ」

「どうしたんだいレイ君? 溜息なんてついて」

「あの二人を合わせたくなかったんだよ。私を放ってイチャつくから」

「ふ〜ん。そうだレイ君、ボクの機体を見てもらえるかい? キミの整備技術は優れていると、アカム君から聞いていてね」

「構わないよ」

「……む、ズルいぞラヴォラス。先にレイに機体を見てもらうのは俺だ」

「先に言ったのボクなんだけど?」

「まとめて見るさ。片方ずつなんて勿体ない! なんなら今すぐにでもねぇ! はっはっはァッ!」

 

 レイは旧文明の遺産に繋がる要素に触れると性格が豹変したかようにテンションを上げる。そんな様子を見て、アカムもラヴォラスも目を丸くしていた。

 

「……変人同士、良いペアじゃないか」

「またぶっとばすわよあんた」

 

 

 

 

 レイが機体整備をしている間、暇だからラティナを連れて来ることにした私だったが、ラティナの私に対する好感度が無駄に高いことを忘れていた結果、過剰なスキンシップに苦しめられていた。

 

「ゼシルお姉様ぁ〜ん!」

「近い、近いんだよ。ていうかシュベリアに乗ってなさいよ」

「ちゃんと輸送用コンテナにドッキングしてありますし平気ですわ! それよりも、お姉様が操縦で疲れないようにマッサージを……!」

「要らないから! じっとしてて!」

 

 どうして普段はうるさいながらも凛としたお嬢様なのに、私と二人きりの時は手のかかる妹みたいになるかなこの娘は!

 妹……そういえば、ゼラは元気にしているだろうか。いや、私にそれを知ろうとする資格はない。私はあの子を捨てたんだ。

 

「……お姉様!」

「え、なに?」

「早くお姉様のお仲間の皆様と模擬戦がしたいですわ! おほほほほっ!」

「そうだね。私よりも強いのがいるよ」

「……お姉様より強い⁉︎ お姉様だって相当な強さでありますのに⁉︎」

「うん。超強い。バケモン」

 

 気を遣わせてしまったな。表情に出ていたのだろう。気持ちを紛らわせようと、話題を振ってくれたんだ。

 本当に、少しうるさいところを除けば完璧な人だな、ラティナは。私のことをお姉様と慕うけど、年上の人として尊敬できる。

 

「それにしても、本当にお早いですわね!」

「でしょ? でも、このモードじゃ戦えないんだけどね。エネルギーの殆どを武器じゃなくて機動に使ってるから」

「それでも便利ですわねぇ……! シュベリアにも欲しいですわ!」

「それみんなに言われる。そろそろ着くよ」

「はーい!」

 

 こうして、私たちの逢ってきた戦機乗りたちが、一堂に会することになる。

 つまり、青空を取り戻すための戦いが、始まろうとしているということだ。

 

 

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