青空戦記   作:烊々

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宇宙(そら)

 

 

『……さて、来たな嬢ちゃんたち』

 

 会議が終わったレイを連れ、ファン爺の元に訪れた私たちは、再びファン爺を白龍に乗せ、話を聞く。

 

『オレが言いたいのは、アークの性能についてと……』

「その前に」

 

 レイがファン爺の言葉を遮って言う。

 

「昔はどうであれ、今の私たちの戦機の名はレイゼオンだ。間違えないでいただきたい」

『……む、そうだったな』

「ゼシルもゼシルだ。どうせ一度訂正しても間違われたから面倒になって訂正しなくなったんだろう?」

「何でわかったの……」

「私にとって、レイゼオンという名は大事なものなんだ。これからはあの機体のことをレイゼオンと呼んでいただきたい」

『……ふむ、わかった。すまんかったな』

「いいえ、わかっていただければありがたい。続けてください」

 

 レイって変なところで頑固なんだよなぁ。

 まぁ、そういうとこが可愛いんだけど。

 

『さっき、ゼシル嬢ちゃんと戦った時気になってな。おそらく機体の調整をしてるのはレイ嬢ちゃんの方だろう? だからアークの……』

「レ・イ・ゼ・オ・ン!」

『……レイゼオンのコックピットが当時とは違うせいで、機体の真価を発揮できてねえことを伝えたくてな』

「……ふむ」

『いや、別に責めようってんじゃない。むしろ、ア……レイゼオンのコックピット周りは他の戦機と一線を画す。他の機体のコックピットを流用しても上手く動くかわかんねー代物だ。だから、それをやってのけてるレイ嬢ちゃんの整備の腕はすげえよ』

 

 素直に褒められたレイは、照れ臭そうに目を逸らす。

 それよりも、ファン爺の話を聞いて疑問が一つ。

 

「……けど、ビットやあの変なシステムは、今のコックピットでも起動したよ?」

「あれは、機体本体のデータに残っていたものが、無理やり再現されたってことになる。だから、ビットは私の作った装置で恒常化できたが、システムの方は再現性がないのだろう」

 

 レイゼオンがピンチにならないと新しい機能が出てこないのってそういうことだったんだ……

 

『レイゼオンのコックピットの完璧な設計図なんてもうこの世には無いだろう。だから、オレが知ってる限りのレイゼオンの機能を二人に伝えておく。それを今のコックピットのシステムで再現できるかどうかは、レイ嬢ちゃんの腕次第になるがな』

「ありがとうございます。お願いします」

『まぁ、武装とかならともかく、例のシステムは再現しない方がいいとは思うけどな』

「……ですね」

 

 レイの表情が曇る。

 レイは、自分が整備したレイゼオンのせいで私が傷つくことを恐れている。気にしないように何度も言っても、レイの性分的にそれは難しいだろう。実際、あのシステムを長時間発動していたら脳みそがパンクして死ぬだろう。

 レイの祖先のキリシマって人が、ファン爺に破壊を頼んだのも頷ける。

 

 

 

 

 それから約二週間、様々な準備を経て、遂にその時が来た。

 作戦は単純、旧都市ニホンのマスドライバー付近に強襲、地上部隊が機獣を抑え、私たち四機の戦機乗りが、マスドライバーを使用し宇宙へと飛ぶ。

 

「わたくしも……わたくしも宇宙に行きたかったですわ……!」

 

 そう、四機。私とアカムとラヴォラスとファン爺。

 ラティナは宇宙強襲チームに含まれていない。

 その理由は……

 

「ゼシルは確定、俺も一番強いから確定、ラヴォラスのような危険人物を一人地上に残すわけにはいかない。となると、ラティナさんに残ってもらうしかない」

『オレは歳だし、部隊指揮の適性は無いというのは軍人時代からのお墨付きでな。パイロットしかできんのだ』

 

 ……というわけだ。

 確かに、地上隊を指揮できるのはラティナしかいない。

 むしろ、宇宙に行って対空防衛システムをぶっ壊せばいいだけの私たちと違い、地上部隊の撤退まで犠牲を出さずに行うという重要な人員だ。ラティナにしか任せられない。

 能力だけならラヴォラスでも良いんだけど人格がなぁ……

 

「仕方ありません! 地上のことはお任せください!」

 

 機体輸送用コンテナを変形したレイゼオンにドッキングし、ルシフル、グライフォード、白龍を乗せ、出撃の準備を済ませる。

 

「……ゼシル」

「レイ、色々ありがとう。行ってくる」

「今から出撃する君に、こんなこと言いたくはないが……私は本当は、君には宇宙になんて行ってほしくない。死ぬような危険を冒してほしくない」

「死ぬ? 青い空を見るまで私は死なないけど?」

「ふふっ、そうだね。それでこそゼシルだ。私が好きな……どこまでも進み続ける君だ。だから……いってらっしゃい」

 

 目に涙を滲ませながら、笑顔で私を送り出すレイ。

 何がなんでも死ねない理由が一つ増えた。

 

「じゃあ改めて、行ってくる!」

 

 とはいえ、速度が出せるレイゼオンだけが先行するわけにも行かず、地上隊と共にゆっくり東へと向かう。

 レイが厳選したルートを使い、機獣の分布を避ける。偶に遭遇するが、こちらの戦力が整っているため問題なく蹴散らす。

 そして、数日の移動を経てついに────

 

「戻ってきた……」

 

 レイと私が出会った始まりの地、旧国名:ニホンへと到着した。

 

『懐かしいな、あそこの西の街はかつて俺が火の海にしたんだ』

 

 ファン爺の最悪な思い出話を聞き流し、マスドライバーがあるポイントへと向かう。

 

『あの二次関数のグラフみたいな建物がマスドライバーか』

『もっと複雑な施設かと思ったら、力技っぽいね』

 

 レイ曰くマスドライバーとは、まずは緩やかな傾斜で期待を加速させてその勢いで宇宙に放り投げる構造らしい。ラヴォラスが力技と言うのも頷ける。

 

『さ、行きますわよ皆さん! 周囲の機獣を抑えるのがわたくしたちのお仕事ですわ!』

 

 私たちがマスドライバー周辺に接近すると、それに反応した機獣たちが襲いかかって来る。

 そして、ラティナの号令と共に、シュベリアを先陣とした地上部隊が、機獣たちを迎撃する。

 

『さて、俺たちも済ませるぞ』

『おう!』

『はいはい』

 

 アカムとラヴォラスとファン爺が、戦機搬入用コンテナを展開し、それに機体ごと乗り込んでいくく。

 私はレイゼオンを変形させ、搬入用コンテナとドッキングさせる。

 そして、マスドライバーにレイゼオンをセットし、レイゼオンの大気圏離脱モードを起動する。

 

「早く早く……!」

 

 私たちの離脱が長引けば長引くほど、地上部隊が危機に陥ってしまう。

 大気圏離脱に必要なエネルギーは、ただの航空の比ではない。それを機体単体で可能であるレイゼオンの性能が凄まじいことは言うまでもないが、必要なエネルギーを充填するのに時間がかかってしまう。

 レイが何度も調整を重ねてくれて起動への時間を短縮してくれたシステムであるが、状況も相まって余計長く感じてしまうものだ。

 

「……来た!」

 

 数十分ほどで、エネルギー充填完了の表示がモニターに移り、電子音が鳴り響く。

 

「みんな、行くよ!」

 

 力強くモニターのボタンを押し、大気圏離脱システムを起動する。

 システムが起動し、レイゼオンがマスドライバーを滑り、空に向かって飛び立つ。

 

『おおっ! 起動しましたわー! さてみなさん! 周りの機獣をあらかた始末したら撤収いたしますわよー!』

 

 高度が上がり、空が灰色からだんだん黒く変わっていく。

 既に懐かしくもあった光景、宇宙。暗くて、寒くて、どこまでも広い、人間を拒絶する空間。

 

『これが、宇宙か……』

 

 そして────

 

『お出ましだ』

 

 センサーが捉えた、まるで宇宙に浮く要塞のような物体『対空防衛システム』。

 忘れもしない。私の旅の始まりであり、終わりでもある。

 

『懐かしいなアレ』

「知ってるのファン爺?」

『知ってるさ。どっかのバカどもがアレを打ち上げたのが、終わりの始まりだった。アレが打ち上がったせいで、機獣が世界中で活動できるようになっちまったんだからな』

『エルロードは阻止しなかったのですか?』

『隊長は、機獣は嫌ってたけど、機獣が人を減らすのは嫌ってなかったんじゃねえかな』

 

 コンテナからアカムたちが脱出したのを確認し、コンテナを切り離し、レイゼオンを通常形態に戻す。

 そして、対空防衛システムの索敵範囲までゆっくりと近づく。

 

『どうせ壊すんだ。慎重にならなくてもいいんじゃないかな?』

 

 すると、ラヴォラス──グライフォードが銃口を対空防衛システムへ向け、ビーム砲を放つ。

 

『いきなり撃つなお前……!』

 

 ビーム砲は対空防衛システムの表面装甲を掠める。しかし、大したダメージにはなっていない。

 

『捕捉されるだろうが……!』

『だから捕捉されてもいいだろう? どうせ破壊しようとすれば捕捉される』

『それもそうだが……!』

 

 通信越しにアカムとラヴォラスが口論を始める。本当に仲良くなったなこの二人……

 

《────ッ》

 

 その時、新たな通信が入った。

 私でも、アカムでも、ラヴォラスでも、ファン爺でもない。

 

『……っ⁉︎』

 

 通信の発生源は、目の前の対空防衛システムからだという表示に、ここにいる皆が戦慄した。

 

《……待っていた》

 

 そして、通信越しに聞こえる生の声とは違った、人の声を再現したような電子音が、私たちの機体に鳴り響く。

 

《荒廃した地球の中で、宇宙に辿り着く強き者たちを、私は待っていた》

『その声……まさか……! どうしてあなたが……!』

 

 電子音声を聞いたファン爺の動揺が、通信越しに私たちにも伝わる。

 

《その声……ラオフォンか。生きていたのだな》

 

 ファン爺と知り合い。

 そして、ファン爺があそこまで動揺する相手。

 そして、仕組みはわからないけど、この対空防衛システムから声が聞こえてもおかしくはない人物。

 そうなると、一人しか思い浮かばない。

 

《まずは自己紹介をさせていただこう。私の名はエルロード・シュトロイム》

 

 『エルロード・シュトロイム』。

 世界の崩壊を招いた悪魔が、七十年の時を超え、今私たちと邂逅した。

 

 

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