青空戦記   作:烊々

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天の悪魔

 

 

『あなたは……エルロード隊長……で良いんですよね?』

《本人……ではなく、エルロードの生体データを持つAIと言った方が正しいか》

 

 電子音は、どことなくアカムの声に似ていた。ファン爺がアカムをエルロード本人と間違たぐらいだから、おそらく容姿も似ていたのかな?

 

『何故、この対空防衛システムに、あなたの生体データが入っているのですか……? この対空防衛システムを打ち上げたのは、我らの敵太平洋派閥だった筈……!』

《簡単な話だよラオフォン。太平洋側派閥を我らの敵として作り上げたのも私なら、機獣を開発させたのも私で、対空防衛システムを宇宙に打ち上げさせたのも私だからだ》

 

 エルロード本人(厳密には違うけど本人と言っても差し支えない)から衝撃の真実が語られる。

 ていうかレイは、終末戦争の原因はエルロード・シュトロイムのせいじゃないとか言ったけど、バリバリこの人黒幕じゃん。

 

『では何故そのようなことを?』

《長き平和は人類を堕落させた。死の脅威が遠まった人類は、際限なく増え続け、地球の資源資産を食い潰した。ならば、どうすればこの問題を開発できるだろうか? 答えは簡単だ。人類を減らせば良い》

『そのために終末戦争を誘発させたのですね……!』

《そうだな。実際、地球連邦政府、世界統一国家などと謳ってたいたが、勢力や派閥に分かれ、各々が蹴落とし合う醜い集団だったからな、戦争のきっかけを与えるのは簡単だった》

 

 後方から閃光が弾け、ビームが対空防衛システムに直撃する。しかし、バリアを張られていたようで、ダメージになっていない。

 

《今は会話の途中だ。戦いは後にやるからいいだろう?》

 

 今のビームはアカムのルシフルだ。

 憎き先祖だったエルロードが生きていたことに対し、怒りが抑えられなかったのだろう。

 

『黙れ!』

《その声……私に似ている……経過した年数からすると……ユーグラムの孫か》

『そうだ! 俺の名はアカム・シュトロイム! 貴様の息子ユーグラム・シュトロイムの孫! 貴様の子孫だ!』

《あの愚息の孫か……あのような弱者、直ぐに死に絶えたかと思っていたが……》

『弱者だと! 俺の爺さんは誰よりも優しい人だった! たとえ父だとしても、愚弄される筋合いなどない!』

《弱者さ。その"優しさ"などという愚かな短所を持っていたからこそ、私の後継者になれなかった。戦機の操縦技術の才能もなければ、政治家としての才能もなかったからな。まぁ良い。私も世襲というものは嫌いだったからな》

『爺さんは……貴様の所業を最後まで己のことのように悔いていた! そして、失意の中で死んでいった! 貴様が引き起こした終末戦争のせいで、俺の家族は罪人として生き続けることになったんだ!』

 

 アカムの激昂が通信越しに伝わってくる。自らの先祖の行いを自らの罪として悔い続けたアカムが、その先祖本人と会ったんだ。感情が荒ぶるのは無理もない。

 

《興味がないな。そもそも、私の所業の何を貴様たち子孫が悔いる必要がある? そんなくだらない感情が"弱さ"だ。そして、その弱さが人類を堕落させる。だから、私は子であるユーグラムを捨てたのだ》

『貴様……ッ!』

『アカム君落ち着きなよ。憎い相手なのは分かるけどさ、いつものクールな君が台無しだよ』

『ラヴォラス……?』

『エルロードが憎いなら壊せばいいのさ。そのためにボクたちは宇宙へ来たのだから。だからこそ、今は冷静なろうよ』

『……すまん』

 

 荒ぶるアカムをラヴォラスが落ち着かせる。本当にあの二人仲良くなったな。以前まで殺し合ってた仲だとは思えない。

 

「あの、エルロード。私も色々聞きたいことがあるんだけど」

《その声……久しぶりだな。あの戦闘機に乗っていた子だろう?》

「覚えてたんだ。ていうか音声そっちにも行ってたんだ」

 

 私はこのエルロードという人間に興味はないけど、レイは気になるだろうから、レイのために色々聞いておこうと思ったのだ。

 

「なんで、大統領なのに戦争で出撃して戦っていたの?」

《趣味さ。私として戦いが好きでね。引き起こした戦乱を味わってみたかったのだよ。最終的に敗北し、オリジナルの肉体は死んだが、充分楽しむことができた》

「じゃあ、こんなシステムに生体データを移して世界の支配者を気取っていた理由は?」

《人類に生存競争を促し続けるためさ。弱者は死に、強者は生きる。そんな世界が私の理想だ。しかし、旧文明では逆だった。多くの弱者が生き長らえるため、強者が社会に使役され続ける……まるで弱者に強者が奉仕するかのような関係性だ。私はそれを変えたかったのだよ。そして、一時的な変革を成しても、時が経てば再び世界は弱者のものへと戻ってしまいかねない。だからこそ、機獣による脅威を恒常化させ、人類の生存競争を促し続ける必要があるのだ。そのためのこの対空防衛システムと、都市部のマザーコンピュータだ》

「ふーん」

 

 私には、このエルロード・シュトロイムという男とは大した因縁はない。

 この男……いやもうAIだから男でも女でもないか、いずにせよこいつの思想にも興味はない。何もかも知りたがるレイのために聞いただけ。

 

「聞きたいことはもうないよ。じゃあ……ぶっ壊してあげる。その目障りな宇宙要塞を」

《良い……その揺るがぬ意思の強さこそ、私が創る世界に必要なもの。だからこそ、その強さを持つ君たちを、倒さねばならないのは心苦しい》

 

 対空防衛システムの武装が起動し、無数の砲台が展開される。

 

《だが、私の理想を守るため、君たちをここで消そう》

 

 数多の砲台から、様々な色のビーム砲が撒き散らされる。

 色によって出力が違うのかな? そうなると、赤いのが一番やばそうだ。

 

『デカい的だ。わざわざ照準を合わせるまでもない』

 

 怒りすぎて機体の動きが挙動不審になっているアカムや、尊敬する上司が敵として出てきたため狼狽えているファン爺とは違い、的確な動きで弾幕を避け、ビーム弾で反撃するラヴォラス──グライフォード。こういう時には頼りになるね。

 

『く……ふふ、はははははッ!』

 

 すると、聞いたことのないテンションのアカムの笑い声が、通信で響き渡った。

 

『逆に、良かったかもしれないな! この手で貴様を……エルロード・シュトロイムを討てることがな!』

 

 吹っ切れて正気を取り戻したアカムが、弾幕を掻い潜り、砲台に取り付き、斬り落としていく。

 

『隊長、オレは……っ、もうオレはあなたの部下ではない……! オレは、子供達の未来のためにこの命を使います!』

 

 覚悟の宣言と共に、ファン爺が白龍で飛び回り、砲台を撃ち落としていく。

 

《私に銃を向けるか、ラオフォン》

『隊長は死んだ。ここにいるあなたはもうただの亡霊さ』

 

 初めて対空防衛システムに会った時ほど無理ゲーではない。

 私が乗っていた戦闘機では、対空防衛システムのビームは掠った程度で撃墜されるが、戦機の装甲だと、出力の低いビームから普通に耐えられる。

 

《やはり砲台のみで戦機を相手にするのは厳しいか》

 

 このまま戦闘を続けていれば対空防衛システムを破壊できる、そう思ったその時、砲台の後方のハッチが開き、何かが出てくる。

 

《エルロードⅡ、『ゲヘナ』、出撃する》

 

 通信音と共に、ハッチからエルロードのAIが搭載された戦機が出撃してきた。

 

『あれは……エデン?』

 

 エデンとは、かつてエルロードが乗っていた機体。唯一それを知っているファン爺の台詞からすると、あの機体とエデンでは見た目はほぼ同じなのだろう。

 ファン爺から聞いたエデンという機体は、性能自体は並のものと聞いていたが、あのゲヘナという機体を解析した結果、見るからにあらゆる出力が違う。

 

《……さて》

 

 ゲヘナは狙いをグライフォードに定め、スラスターを展開し、宇宙を駆ける。

 あの機動力、アカムのルシフルに匹敵……それ以上のスピードだ。

 

『ボクが一番倒しやすいってワケ?』

《その逆さ。君が一番未知数だから、先に潰しておくのだよ》

 

 ゲヘナの大型ビームソードを、グライフォードは右腕を剣に変形させて受け止める。

 しかし────

 

《出力が違うのだ》

 

 その言葉の通り、ゲヘナのビームソードが、グライフォードの右腕を剣の上から斬り裂いた。

 

『な……っ』

《その程度の装甲では、このゲヘナの剣を受けることはできんよ》

『ラヴォラス!』

 

 私もアカムもラヴォラスの元に駆けつけようとするも、それを阻止するかのように砲台から弾幕が形成され、思うように近づくことができないでいた。

 

《悪くない機体だが、悪くない程度だ。良くもない》

 

 そして、グライフォードのサブアームを展開する前に斬り砕き、蹴り出してからビームで撃ち抜く。

 一発だけでなく、合計三発の射撃で、もう片方の腕、両脚を撃ち抜き、破壊する。

 あのビームライフルも、見た目以上に高出力に違いない。

 

『……っ!』

 

 あのラヴォラスが一方的にやられるぐらいの性能と戦闘技術。これが、エルロード・シュトロイムの実力か……!

 

『不味いねこりゃ……』

 

 ラヴォラスもラヴォラスで、ダメージを受ける角度をうまく調整し、機体の爆発を回避したものの、あの損傷具合ではもう戦線に復帰できないだろう。

 

『ごめんリーダー、ボクはリタイアだ。あとはお願い』

 

 気の抜けた声でラヴォラスが言う。でも、絶体絶命の状況だと言うのに、あの気楽さは逆に精神的に助かる。けど、あのままだと無防備なグライフォードが撃ち抜かれてラヴォラスが死ぬ。あんな奴でも仲間だ、見捨てたくはない。

 

『ラヴォラス! お前はもう下がれ!』

 

 すると、高機動のドラゴンモードで弾幕を振り切ってきた白龍が駆けつけ、半壊のグライフォードを蹴り出し、戦場から離脱させる。

 

『さぁ来い、オレが相手だぜ! 隊長!』

《……ラオフォン。その機体、白龍はこの私がかつて君専用に作らせたものだ》

 

 そして、ドラゴン形態から通常形態に変形し、ゲヘナに斬りかかる。

 

《君の操縦技術も、その機体も、私は知り尽くしている。勝負になると思うかい?》

 

 瞬く間に、ゲヘナは白龍の翼を斬り取り、両腕を断ち斬り、蹴り出して脚を撃ち抜く。

 

《約七十年……衰えるどころか実力は増しているようだが……私には及ばんよ、ラオフォン》

『ぐ……隊長……っ!』

 

 まずい、ラヴォラスに続いて、ファン爺まで戦闘不能にされた。

 そもそも一対一でエルロードの機体と戦うことが間違っているのに、砲台からの射撃が連携を取らせてくれない。

 

『ゼシル、砲台は任せる。俺はエルロードを討つ』

「でも……!」

『奴を止められるのは俺しかいない。俺が相手だ! エルロードッ‼︎』

《面白い。来るがいい、我が子孫よ》

 

 先程のラヴォラスやファン爺の敗北から、アカムはエルロードの機体の性能を理解し、正面から仕掛けるフリをし、必ず側面から回り込もうとしている。

 初めてのはずの宇宙空間での戦闘、三次元的な動きをもうモノにしているのだ。悔しいが、私ではまだアカムに及ばない。

 

《……やるじゃないか》

『機体の強さは劣っていようが、操縦技術では俺が上だ!』

 

 アカムがエルロードを抑えてくれているうちに、私は砲台をなんとかしないと。

 実を言うと秘策はある。けれど、それができる隙がない。

 

『まだ動くな……戦えはしねえが、やれることはある……!』

 

 その時、半壊して戦闘エリアを離脱したはずの白龍が、再び戻ってきた。

 

『行くぜ白龍、最後の仕事だ』

「ファン爺! 何する気⁉︎」

『花火を打ち上げるんだよ! どデカい花火をな!』

 

 そして、砲台に向かって前進を始めた。

 

『シンにすまねえって言っといてくれ』

「ファン爺!」

『ゼシル嬢ちゃん! 援護してくれよッ!』

 

 ファン爺に言われるがままに、ファン爺を狙う砲台に向かってビームを放ち妨害する。

 

『はっはっはっはっは!』

 

 白龍のエネルギーがオーバーフローを始めたのか、機体が白く光出す。

 

《ラオフォン……?》

『ファンさん!』

 

 そして、対空防衛システムに激突し、白龍は大爆発を起こした。

 残った機体のエネルギーを自爆に使ったのだ。

 

《己の身を呈するとは……ラオフォンはああいった行動をしない男であった筈……》

『人は変わる。変わらないのは貴様だけだ、エルロード!』

《変化とは退化だ。不変の存在こそ完全たる証明。ラオフォンは弱くなったのだ》

 

 ファン爺の死を悼む暇などない。

 白龍の自爆によって、対空防衛システムのバリアが破壊され、装甲の一部が破損しており、周辺の砲台は破壊されていた。

 ファン爺は身を挺して、私の攻撃の隙を作ってくれたのだ。

 

「レイゼオン……いくよ!」

 

 レイゼオンのソードビットを展開し、ライフルと合体、連結させる。

 それは、ファン爺から伝えられたレイゼオンのデータをレイが再現した機能。ビットの出力をライフルに加えて、超出力のビーム砲を放つことができるようになるというもの。

 これこそが、対空防衛システムを破壊できる切り札だ。

 

「エネルギー充填完了……!」

 

 ターゲットロック、目標…………

 

《……あれは、良くないな。阻止させてもらう》

『行かせはせん! 貴様の相手は俺だ!』

 

 …………対空防衛システム!

 

 

 

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