青空戦記   作:烊々

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切り開く未来

 

 レイゼオンのビット連結ビームライフルから放たれた超出力のビームは、忌々しき空を覆う闇を作り上げていた対空防衛システムを貫いた。

 

「やった……!」

 

 崩れていく要塞、機能停止していく砲台たち。犠牲は出てしまったが、一つの目標は達成できた。

 そして最後の一つ、エルロードのゲヘナを落とせば私たちの勝ちだ。

 

《……許さん。許さんぞ……! 我が理想の象徴をよくも……っ!》

『面白い……AIでも怒りはするんだな』

《黙れ……!》

 

 これもアカムがエルロードを抑えてくれていたおかげだ。

 

《まぁ良い……時間をかければ復元は可能だ。君たちを排除し……私は私の理想を再編する!》

 

 けど、継戦はできるもののアカムのルシフルも損傷が目立つ。

 だからこそ、私も戦いに加わらなければ。

 

「アカム、行こう」

『あぁ、これで全てを終わらせる!』

《アーク……何度も私の前に立ちはだかるか……!》

「アークじゃない! レイゼオンよ! いつまでも過去に縋ってんじゃない!」

 

 これが最後の戦いだ。

 数では有利、アカムと力を合わせれば勝てる。

 

《終わらせてやろう、愚者たちよ!》

 

 しかし次の瞬間、ゲヘナの放つ光が禍々しい紫色に変わり、ただでさえ高かった機体の出力が上がっていく。

 

「出力が上がった……?」

『おそらく、対空防衛システムの制御に使用していたエネルギーのリソースを全てゲヘナ一機に回しているからだろう』

「なるほど……厄介ね」

《理解しろ! 貴様らに私を超える手段などない!》

 

 コイツを倒せば、空を切り開ける。

 だから、私はレイがロックしたシステムを強制的に起動する。

 

「レイゼオン! 私はアイツを倒したい! アイツを倒して……地球に帰って……レイと青空が見たい! だから、力を貸して!」

 

 私の願いに呼応するように、レイゼオンのシステムが起動し、コックピットの光り方が変わる。

 頭に中に戦況のデータが入り込んでくる。脳への負担が大きいからか、口元に垂れる何かが鼻血だとわかった。

 

「やんちゃな子は好きよ、レイゼオン……!」

 

 頭が割れそうな痛みに減らず口を叩きながら、レイゼオンから流れる情報を咀嚼していく。

 しかし、それでも足りない。圧倒的な性能を持つゲヘナと、操縦技術を持つエルロードAIを倒す手段を、レイゼオンのシステムであっても導き出せていない。

 

「そうね……頼りっきりは良くないわよね」

 

 レイゼオンは私に勝利の可能性を探してくれる。ならば、私はその可能性を死んでも掴み取って勝つ。

 頭が割れるぐらいの情報を取捨選択し、必要なものだけを選んでいく。

 

《あのシステムに人間が適応している……だと……⁉︎》

『……なるほど、今わかった。俺の命の使い所が』

《……っ⁉︎》

 

 その時、アカムがルシフルのワイヤーを伸ばし、そして機体ごと組みついてゲヘナを拘束する。

 

《愚かな……そんな機体で我がゲヘナを抑えつけられると思うか……?》

 

 エルロードの言うとおり、ルシフルの武装では、拘束した状態のゲヘナの装甲を貫ける武器がない。時間稼ぎにしかならないだろう。

 しかしファン爺の行動から、私はアカムの意図を察した。察してしまった。

 

『俺ごとやれ! ゼシル! レイゼオンの出力でなら、この機体ごとエルロードのAIを破壊できるはずだ!』

「アカム! でも……っ!」

《貴様……そういうつもりか!》

『いいんだ! 俺は今まで自分が生きている意味がわからなかった! だが、今この瞬間のために生きていたんだと確信した! 後悔はない! 自らの一族の贖罪としてだけじゃなくて、君という未来に世界を託すんだ!』

 

 アカムごとエルロードを討つ。そんなことはしたくない。けれど、それしか手段がないことをレイゼオンのシステムも示していた。

 アカムを殺したくはないが、それ以上に、アカムの意思を無駄にしたくはない。

 

『エルロード! シュトロイムの名を持つ者として、共に滅びようか!』

《離せ……ッ! 愚か者がぁぁっ! アークのパイロット! 私を滅ぼす意味を……月の民たる君にならば分かるだろう……!》

『やれーっ! ゼシル・ゼオンッ!』

「あああああっ!」

 

 レイゼオンの最大出力のビームソードが、ゲヘナとルシフルと斬り裂いた。

 

「ありがとう……ゼシル」

《システムが……持たん……っ! おのれぇえええっ!》

 

 エルロードAIも、ゲヘナも、宇宙の藻屑となって消えていく。

 私は散っていった命を悼む前に、対空防衛システムの残骸を撃ち抜いて破壊していく。

 

「やったよ……みんな……」

 

 全てが終わり、地上で私を待つレイ、地上で戦ってくれたラティナたち、命を落としたファン爺とアカムに、思いを馳せる。

 

『終わった、か……』

「ラヴォラス……!」

『アカム君に勝ち逃げされてしまったな……』

 

 すると、ラヴォラスが私たちの乗ってきた輸送用コンテナを操縦し、私を拾いに来た。

 

『まさか、ボクが生き残るなんてね。ここが死に場所だと思っていたのにさ』

「……あんたみたいなやつでも、生きててくれて嬉しいわ」

『それはよかった。さて、生き残ったボクたちには、生き残った者としての責任がある』

「そうね……帰りましょう。私たちの地球に」

 

 

 

 

 対空防衛システムが破壊され、空を覆うナノマシンのセンサーが含まれた雲の維持が困難となり、地球各地の機獣は大幅にパワーダウンし、旧大都市のマザーコンピュータも機能低下した。

 対空防衛システムの死闘から数ヶ月後、私たちは生き残った戦機隊で旧大都市の機獣掃討戦を敢行。ほぼ無抵抗に近かった機獣を破壊し尽くし、旧大都市を奪還した。

 そして、レイの作ったレーダーを頼りに、世界各地の機獣も掃討。一年経つ頃には、地上から全ての機獣が姿を消した。

 また、その作戦と並行し、生き残っていた人々を集め、新地球連合政府を設立。復興への足掛かりとなった。その新地球連合政府の初代大統領として小規模とはいえ選挙で選ばれたのが……

 

「わ、私ですか……?」

 

 かつて、アカムの村の村長をしていた『オルグ・トラント』氏だ。

 その人柄と、村長としてのリーダーシップを買われた結果であったが、誰も反対はしなかった。

 

「で、大統領就任の挨拶の日だってのに、先の大戦の英雄が不在とはね」

「欠席というのは良くはありませんが、当然といえば当然ですわね! だって今日は……この世界に初めて陽の光が差し、青空が見えるようになった日なのですから!」

 

 ……というわけで、私は今新地球連合政府大統領就任式をバックれて、レイを載せてレイゼオンで空を飛んでいるのだ。

 

「すごい……ほんとに青い……! あははっ! 見てレイ! 空が青いよ!」

「そうだね……私たちの夢が、こうして目の前にあるんだね」

 

 青空……私が望んだ景色が、目の前にどこまでも広がっていた。

 

「ゼシル……私たちの夢が叶ったら、聞いて欲しかったことがあるんだ」

「んー? なにー?」

「あの……その……」

 

 急に言葉を吃るレイ。どうしたんだろう? お腹でも痛いのかな?

 

「わ、私の家族になってくれないか!」

「それって、結婚ってこと?」

「そ、そそそ、そうなるね。うん……!」

「そっかぁ」

「い、いや、嫌ならいいんだ! 確かに君と私は相棒だが、君が結婚とかそういうのとは違うって思っていてもそれはしょうがないしね……!」

「いいよ。しよっか、結婚。ていうかしてよ」

「えっ⁉︎」

「自分から言っておいて驚かないでよ」

「そうだね……すまない」

「ふふっ。ねぇ、レイ?」

「なんだい? あっ……」

 

 私たち少し目を合わせた後、唇を交わした。

 大好きな機体の中、大好きな人と。

 青空という、私が夢見た景色の下で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          青空戦記

 

          -終わり-

 

 

 

 

 

 





 終わりです。ありがとうございました。
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