青空戦記   作:烊々

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目覚める戦機

 

 

「う〜ん、美味しい! これがホンモノの野菜かぁ……!」

 

 月の食べ物なんて、栄養だけあって味気のない固形食料かゼリーのようなものが基本で、生鮮食品なんて軍人の高い給金でもほとんど買えないほどの高級品だった。食べたことは一度しかない。

 そして、地球で育った野菜は、その一度食べた月のものの比ではないぐらい美味しかった。

 

「ここは土地の汚染がないエリアだからね。加えて日は最低限は刺してくれるエリアだから、作物も育つのさ。家畜がいなくて畜産ができないから肉は食べられないけど、魚は用意できるよ。要るかい?」

「食べる!」

「即答かい。作りがいがあるね。待っていてくれ」

 

 魚なんて月では幻の食料だ。食べるに決まっている。

 加えて、レイの料理の腕が良く、ただでさえ美味しい食材が調理によってさらに美味しくなっている。私の中でのレイの好感度の上昇が止まらない。

 

「できたよ、焼き魚だ」

「わぁ……美味しそう……!」

「ふふっ、食材を焼いて塩を振った程度のものをそこまで喜んでくれるとはね」

「あなたの言う程度のものも、月では食べられないのよ。あと、聞きたいことが一つ」

「ん?」

 

 レイの料理に舌鼓を打ちながらも、彼女が先程言ったある言葉について聞くことにする。

 

「さっきちょろっと言ったけど、日が最低限ってどういうこと?」

「あぁ、説明が足りなかったね。今の地球の現状について」

「地球の……現状……」

「君にとっては良くない話だ。地球の青空が見たくて月から降りてきた君にはね」

 

 レイ曰く、大戦争による大気汚染と、防衛システムが撒き散らしているセンサー型ナノマシンが、地球の空を覆う雲のように展開されていて、大戦争が終結してから数十年間一度も『晴れの日』になったことはなく、先程レイが言った、野菜が育つ最低限の日が差す程度の『曇りの日』がずっと続いているとのこと。

 地球生まれのレイですら、青空を見たことはないそうだ。

 

「……じゃあ私、何のためにあんな死にそうになりながら地球に降りてきたの?」

「さぁね」

「まぁ…………いいや。月より地球の方が居心地が良いし。野菜もお魚も美味しいし」

「それは良かった。君がまた宇宙に帰ってしまうのではないかと思っていたからねぇ。やはり独りじゃないというのは良い」

 

 言い終わる前に、少しだけレイの表情が曇った。

 彼女の孤独を察したが、私は気の利いた言葉をかけてあげられるような人間ではない。

 

「……帰りたくても帰れないわ。あの戦闘機、大気圏突入はできるけど離脱はできないから。それに壊れてるだろうし」

「確かに壊れてしまっていたね、アレ」

「そうだ。私を介抱してくれた礼を言ってなかったわね。ありがとう」

「どういたしまして。君の存在が礼のようなものさ」

「……しばらく、世話になると思うわ」

「しばらくじゃなくて、ずっとでもいいんだよ?」

「それも良いかもね」

 

 冗談とかではなく、本気でそう思っている。

 何せ今の私にはもう何もない。家族を捨て、故郷を捨て、そうまでしても叶えたかった夢を叶えることは不可能だと知り、何をすればいいのかわからなくなっていた。

 この土地で、レイが許す限り長い余生を過ごすのもいいだろう。

 

「さっき壊れたとは聞いたけど、私の機体ってどこにあるの? とりあえずどんな有様かを確認しときたくてさ」

「すぐ近くにあるよ。案内しよう。私と君が運命の出会いを果たしたあの場所へ、ね」

「私寝てたけどね」

 

 レイに連れられて、私が墜落した地点に戻ると、墜落の影響で抉れた地面と動かなくなった私の戦闘機が目に入った。

 両翼は大きく削れ、エンジンも破損している。我ながらこの状態でよく生きて着陸できたものだ。

 瓦礫を足場にし、コックピット付近までよじ登る。しかし、中を見ることはできなかった。

コックピットブロックが見事に解体され、取り外されていたからだ。

 

「……壊れた、って聞いたよね、私」

「うむ。それがどうかしたのかい?」

「きれ〜〜〜〜いにコックピットブロックが取り除かれた跡があったんだけど、どういうことか説明してもらえる?」

「必要なパーツが取り除かれて動かなくなってしまったら、それはもう壊れたと言っても過言ではないだろう?」

「あなたねぇ……」

 

 レイにはこれ以上何を言っても無駄だと諦めた。

 それに、あそこまで破損してしまえば、もう直すこともできないだろう。

 私が生きていたということは、コックピットブロックはあまり壊れていなかったことになるし、何かに使ってくれた方が良い。

 

「じゃあ、一つだけ教えてよ。コックピットブロックを外して何に使ったの?」

「おっ、いい質問だねぇ」

「そういうのいいから」

 

 その時、瓦礫を踏み潰す破壊音と、機械の駆動音が鳴り響いた。

 

「……え、なに⁉︎」

 

 振り返ると、全高十メートルを超える巨大なロボット兵器が、赤い眼のようなセンサーを光らせながら私たちを向けていた。

 

『──────ッ!』

 

 センサーから発生する音がけたたましく鳴り響く。

 もしかして、コレがレイの言っていた……

 

「……ついに見つかってしまったか」

「ねぇ、あれって……!」

「話は後だ! ついてきてくれ! 移動しながら話す! 死にたくなかったら急いで!」

「っ、わかった!」

 

 レイに連れられ、急いで地下へ行くと思われる階段を駆け降りていく。

 その数秒後に、私たちがさっきまで立っていた方から破壊音が鳴った。

 階段を降りながら、レイが語り出す。

 

「ここは、先程君に説明した無差別殺戮ロボットの徘徊エリアと重なっているのさ。端の方だったから今までは運良く見つからずに生きてこれたが、とうとうその日が来てしまったようだな」

「なんでそんな危険なとこに住んでるの?」

「ここを出たところで、他の作物が育てられる土とある程度の水が手に入る場所を見つけられる保証がなかったからね。野垂れ死ぬのと、機械に殺されるリスクを天秤にかけて後者を選んだまでさ」

「で、結局見つかったってわけね」

「そうさ。一度見つかってしまえば逃げることはできないだろう。破壊するしかない」

「破壊、って……どうにかなるものなの?」

「だからこそ今、君をある場所へと案内しているんじゃないか」

「え?」

「ついたよ」

 

 そう言ってレイが目の前の大きな鉄の扉を開けようとするが、扉のあまりにもの重さと少し錆び付いているから力一杯引っ張っているのに少しずつしか開けられていない。

 

「んー! くそぅ、毎回開けるのに苦労するんだよこれ……! んー! 開けぇえー!」

 

 見た目相応の力しかないのが少し可愛いと思ってしまったのは内緒。

 

「貸して」

 

 見かねた私は、レイをどかし、扉を一瞬でこじ開けた。

 

「……力あるね」

「軍人だからね。いや、もう元軍人か」

 

 扉を過ぎて、巨大な地下室に入った私の目に最初に映ったものは────

 

「これは……」

 

 ────全高十五メートルを超える、人型のロボットだった。

 

「私が拾った最高の宝物さ」

「あなたも持っていたってこと? さっきのロボみたいなやつ」

「いいや、違うさ。似ているけど、全く違うものなんだよ」

「どういうこと?」

「あぁ、君は宇宙出身だから知らないのか。まぁそれもそうだろう。宇宙に人型機動兵器を作れるだけのテクノロジーがあったら、あんな戦闘機で防衛システム相手に大気圏突破を試みないだろうしね」

「人型機動兵器……」

「これについての詳しいことは後で話すよ。話を戻すと、君の戦闘機のコックピットブロックを流用したというわけだ。この機体を見つけた時、コックピットブロックが破損してしまっていてね。どうしてもコックピット周りを一から作るのは不可能だったから、ちょうど良いところに君の機体が墜落してきたというわけさ」

「作った……? これを、あなたが?」

「全てじゃないさ。修理可能な程度の状態で放置されていたものを仕上げただけだよ。大戦に使われていた兵器だから、およそ七十年前の機体かな」

「……七十年も前のものが、よくこんなに綺麗に残ってたわね」

「それほどまでに、旧文明のテクノロジーは優れているということさ。そんなものが数多も世界中を飛び回り、戦火を広げていたんだ。旧文明が滅びるのも説得力があるだろう?」

「嫌な説得力だけど、確かに納得」

 

 月とは比べ物にならないテクノロジーだ。

 地球帰還作戦なんて、旧連邦崩壊前でも成功しなかったに違いない。

 

「さて、この機体に乗って欲しい」

「私でいいの? あなたじゃなくて」

「良いさ。君が運んできてくれたコックピットのおかけで動くんだから。それに、防衛システムを突破できるような腕を持つ君の方が、パイロットには適しているさ」

「それもそうね」

「一切謙遜しないところ好きだよ」

「どうも」

 

 戦闘機の操縦なら誰にも負けない自信があるが、巨大な人型機動兵器を動かした経験なんてある筈もない。だからこそ、少しだけ心が躍る。

 それに、私を押さえつけようとするあの理不尽に抵抗できることにも。

 

「さぁさぁ、早く乗ってくれ。奴にこの地下シェルターが破壊される前に」

「わかった。けど、どうやって乗るの?」

「それは……」

 

 レイの言葉が続く前に、コックピットが自動で開いた。

 まるで私を迎え入れようとしているかのように……

 

「所有者が登録されていない場合は、自動で開くんだよそれ」

 

 ……あぁ、そういうことね。

 少しだけ私が選ばれしものなんじゃないかと思ってしまったのは秘密。

 

「コックピットに座れば、機体が勝手に生体登録をする。そうすれば、この機体は君のものだ。君以外にはもう動かせなくなる」

「へぇ。流石旧世代のオーバーテクノロジー、すごいわね。じゃあ、座るよ?」

「あぁ」

 

 私がコックピットに入り、椅子に腰掛けると、センサーのようなものが私の身体の周りを駆け始める。これが生体認証なのだろう。

 

「すごい……」

 

 私はこの機体だけでなく、戦闘機のコックピットをこの機体のシステムに合うように調整できるレイの技術力に感服していた。

 

『──パイロット登録完了』

 

 すると、コックピットのドアが自動で閉まり、モニターが展開され、文字が映し出された。

 そして、コックピットが閉まり、休眠用から戦闘用に変形されていく。ここら辺は戦闘機と同じだから馴染みのある光景だ。

 

「しまった。これがあったか」

 

 変形によりコックピットの内装が変わり、私の隣に立っていたレイが私の方へ押される。

 私に抱きつくように座られ、少しだけ気恥ずかしくなる。それに……意外と胸あるなこの子。

 

「そうだ、名前」

「名前?」

「この機体の」

「あぁ。考えてなかったよ。そうだねぇ……私の名前から取って『レイ』かな」

 

 そこで迷いなく自分の名前を付けようとするところ、嫌いじゃない。

 

「レイだけだとなんか物足りないな……となると、君の名前からも取ろう」

「えっ」

「レイゼシル……うーん、語呂が悪い気がするなぁ。そうだ、君の下の名前はゼオンだから……『レイゼオン』! うん、こっちの方が良い」

 

 私の名前まで加えられてしまった。

 それに、レイゼオン……レイの苗字が変わって、これって結こ……いや、何を考えているんだ私は。

 

「『レイゼオン』ね、わかった」

 

戦闘機を発進させるのと同じ要領で、私操縦桿のレバーを思い切り押す。

 

「ふぉぉぉぉ! ついに動くぞ! 私の……私たちの機体が!」

「くすぐったいから首元で喋らないで」

 

 起動音らしきものを聞き届け、もう一度レバーを押すと────

 

「行くわよ、レイゼオン!」

 

────レイゼオンが動き出した。

 

 

 





・キャラクター紹介

 レイ・キリシマ
 性別:女
 年齢:19
 身長:152㎝
 好きなもの:機械、歴史
 嫌いなもの:孤独

 サブ主人公。
 地球生まれ、旧国名『ニホン』育ちの少女。
 見た目とは裏腹に、孤独を嫌う人懐っこい性格。
 幼い頃両親がロボットに殺害されてから一人で生きてきた。
 レイゼオンを見つけてからそれを直すことが生き甲斐だったが、コックピットの作成がどうにもならなくて心が折れかけていた頃にゼシルと出会った。
 
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