青空戦記   作:烊々

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旅人と狩人

 

 

 レイゼオンで空を翔け、いざ新天地へと出発! ……なんて急に行動を始めるわけにはいかない。

 初めての戦闘はなんとかなったとはいえ、まだ私はこの機体について知らないことが多すぎる。

 というわけで、まず私はレイから受け取った電子マニュアルを隅から隅まで読むことにしたのだ。

 

「……へぇ、この機体の武装って何種類もあって、武装使用のレバー横のボタンで切り替えができるのねぇ。あの時はバカみたいにビーム刃を振ってるだけだったけど、ビーム砲も撃てたんだ……」

「ねぇ、ゼシル」

「長距離移動用モード……? すっごい……戦闘機みたいに変形して、エネルギーを推力に回せるんだ……でもその間は武装の殆どは使えなくなるのね」

「ゼシル、ねぇってばぁ」

「この機体のことだけじゃなくて、機動兵器共通の機能についても書いてある……ふむふむ、こんなところね。後は実際にたくさん動かして覚えていくしかないか」

「ゼシルぅ!」

 

 電子マニュアルを読み込みレイゼオンの各種機能を頭に叩き込んでいたら、耳元への大声で現実に戻される。

 

「もー、うるさいわね。何よ?」

 

 顔を向けると、レイが不満そうな顔をしながら私をじっと見つめていた。

 

「『何よ』とはなんだい。君がぶち壊した私たちの居住区の代わりとなるエリアを探そうってのに」 

 

 それを言われると弱いが、『良い』と許してくれたじゃないか。

 

「……悪かったって言ってるじゃない」

「それは良い。だがその先が問題なんだ。いくら私たちが殺戮ロボを気にせず世界中を飛び回れるようになったといっても、闇雲に動き回るだけではいずれ野垂れ死ぬだけだ。だからこそそのための話し合いを……」

「わかってるわよ。ちょっと電子マニュアルを読み込んでただけなのに」

「知っているかい? 普通は四時間を『ちょっと』とは言わない」

「え、もうそんなに経ってた? ていうか、だったらもっと早く声をかけてくれればよかったのに」

「あんなに集中して読んでいたんだ。水を差すべきじゃないと思ったのさ。だから、少し待ってやっていたら……」

「待っててくれたんだ。優しいね、レイは」

「……うるさいばぁか」

 

 私が少しからかうと、レイは顔を少し赤くしてそっぽ向いてしまった。

 目が見えづらいほどに髪がボサボサに伸びているにも関わらず、表情の変化がわかりやすいレイは少し面白い。

 

「行き先はレイが決めてよ。私地球の地理とかわかんないし」

「地球帰還作戦という斥候を請け負ったくせに、知らないのかい?」

「月で学んだ地球のことなんて偏見まみれで参考にならないもの」

「言い切ったねぇ……」

 

 月では、地球人は悪魔だの、地球は悪魔の生きる大地即ち地獄だの、悪魔の地球人を滅ぼし地球という約束の大地を取り戻すだの、しょうもないことを教えられているのだ。

 私は月にいた頃からそんなクソみたいな教えに価値を見出したことはない。目の前のレイの話の方が数億倍面白くて学びになる。

 

「東西南北はわかるかい?」

「それぐらいわかるわ。月でも使われてるし」

「そうか。なら話は早い。西を目指そうと思う」

「西?」

「かつて欧州と呼ばれていたところらへん、かな」

「かつてとか言われてもわかんないけど」

「それもそうか。これを見てくれ」

 

 言いながらレイが大きな紙を広げる。

 その紙は主に二色に分けられており、水色が七割と茶色が三割。茶色の中には少しだけ緑が混ざり、至る所に名称らしき文字が書いてある。

 ……なるほど、これが地球の地図か。水色が海、茶色が陸。

 海……か。水が貴重な月では、海というどこまでも広がる水源なんて、夢のようなものだった。青空ほどではないが、私が見てみたいものでもあった。

 

「私たちが今いるところはかつて『ニホン』と呼ばれていたところさ。地図でいうとここ」

「東の端ね」

「そして私たちの目標である欧州ってのはこっち」

「ふーん、随分西に行くのね」

 

 地図をよく見ると、赤いマルで囲われたエリアと、青いバツが書かれたエリアがチラホラと見える。

 

「世界中の旧大都市にはロボットが闊歩しているが、それらの徘徊コースから外れたポイントが多く存在する。その中から資源が豊富で人が住んでいそうなエリアを私なりに考えてみたのさ。それが赤いマル。そして、青いバツが都市部、ロボットたちの巣窟さ」

「その赤いマルのうち一つが欧州ってとこ?」

「欧州の東側、だけどね。西に行けばロボがうじゃうじゃだろう。何せその先は都市が多いから。他にも赤マルはあるんだが、私的にはここが一番期待値が高い。勘だけどね」

「あなたの勘を信じるよ。じゃあこのポイントを目指そう」

「ああ。その前にこの私たちの住居の残骸の中から、出せるだけの水と食料を用意してね」

「……はい」

 

 

 

 

 住居の残骸から拾えるだけの物資を拾い集めた私たちは、早速西へ向かって飛び始めた。

 

「……速」

 

 月の戦闘機も中々のスピードだが、レイゼオンの飛行機モードはそれを凌駕している。

 更に驚くべきはその安定感。このレイゼオンの飛行時のシステムは、加速や軌道変更による身体への負担を大幅に軽減している。私の隣に座っていたレイが、私に寄り掛かりながら寝てしまうほどに安定しているのだ。

 

「すぅ……すぅ……」

 

 目的地へと飛び始めた際、最初の数十分は目を輝かせながら外を見ていたレイだが、そのうち飽きて寝てしまっていた。

 少しぐらい寝かせてあげようと思い、声をかけずにそのまま飛行を続ける。

 とはいえ、一時間もせずに目的地に着きそうだから、後三十分ぐらいしたら起こそうかな。

 

「それにしても……」

 

 私は操縦中、あくまで意識は前方に向けつつも、地球の景色を楽しんでいた。

 果てしなく広がる水源、海。

 ところどころ枯れてはいるものの、緑の木々が広がる森林。

 環境汚染の影響があるようで綺麗とは言い難いが、私にとっては新鮮なものだ。

 廃墟となった大都市の跡地は、不謹慎かもしれないが景色として見るなら風情というものがある。

 ところどころを徘徊しているロボット兵器に捕捉されないギリギリの高度を攻めながら、地球の景色を目に焼き付ける。

 どれもこれも、月では見ることができないものだらけ。

 

「……やっぱり、来て良かったな。地球」

 

 そして、私の横で眠るレイに会えたことも。

 

「んぅ……ゼシルぅ……」

「……」

 

 寝言で私の名前を呟くレイに、少しだけ気恥ずかしくなった。

 まだ出会ってから短いのに、レイにとって私はここまで気を許せる仲になっていたのかと思うと、少しだけ嬉しくなる。

 

「野菜を……食べすぎ……ないでくれ……備蓄まで……食べ……ないで……」

 

 前言撤回。なにこいつ。

 レイの中で私は大食いキャラになっているのか。確かに、野菜も魚もたくさん食べたけれども。

 もうちょっと寝かせてあげようかと思ったけど、これ以上変な寝言を聞きたくないので叩き起こすことにしよう。

 

「レイ、起きて」

「……んぅ? むぅ、寝てしまっていたか」

「うん。ぐっすり」

「ん……すまないね。君が休まずに動かしてくれているというのに」

「別に。それより、そろそろ目的地なんだけど、どうする? 機体のまま徘徊? それとも降りてから足?」

「どうしようかねぇ。私も考えてなかったよ」

「えぇ……」

「とりあえずは機体のままで、集落のようなものが見えたら降りて足にしよう」

「おっけ」

 

 レイゼオンを飛行モードから通常モードへ変形換装。そして着地────

 

「……っ、レイ! 捕まって!」

 

 ────に移行しようとした直前に、地表から撃ち出されたビーム砲をスレスレで回避した。

 

「……何?」

「ロボット兵器か……? この地点は徘徊コースではないと見ていたが……」

「今飛んでると的になる! とりあえず降りるよ! 少し乱暴に着陸するから!」

「わかった」

 

 砲撃から逃れるために、加速しながらの着陸。衝撃はレイゼオンのシステムが抑えてくれる。

 

「ゼシル!」

「わかってる!」

 

 私たちが着陸したところを狙って、レーダーの敵機反応が近づいてくる。数は三つか。

 

「……こいつら」

 

 レーダーの赤い点-敵機反応の動き。そして距離が近づいて目視できるようになってからの敵機の動き。

 レイゼオンと多少形状は異なるが、同じ人型機動兵器。黒い機体に青いカメラアイのそれらが、一斉に迫り来る。

 言葉にするのは難しいけれど、ロボとは違う機械的ではない動きだ。感覚でわかる。

 

「こいつら……人間だ!」

「ほほぅ……成程! こいつらも私たちと同じく旧文明の機体を見つけだした者たち、ということか!」

「なんで楽しそうなのよ!」

「だって、旧文明の遺産だよぉ⁉︎ それも三機も! 心が躍るねぇ!」

「……とりあえず、敵対の意思がないことを伝えるべき、かな?」

 

 もしかすると、私たちのレイゼオンを虐殺用ロボット兵器だと思っているのかもしれない。

 

「……我々に敵対の意思はない。応答願う」

 

 伝える情報を最低限で済ませるのが通信の基本。ダラダラと話す必要はない。

 

『────』

 

 すると、向こうの機体からも通信が入り、音声が流れる。

 

『──機体と物資を置いていけ。そうすれば命だけは保証しよう』

「断る、と言ったら?」

『──死んでもらう』

 

 ……はい、決裂。敵対の意思に変わった。

 これ以上話すことはないから、通信を切って戦闘の準備をする。 

 

「……ダメだったかぁ」

「ダメだったね。戦うしかない」

「まぁ、それもまた良し! レイゼオンの戦闘、それも今度は対人型機動兵器戦が見れるのだからね!」

 

 全く、私がしくじれば一緒に死ぬというのに、楽しそうにしてくれちゃって。

 だから、レイに一切の恐怖を与えたくない。こんなやつらちゃちゃっと片付けてあげよう。

 

「丁度良いわ。マニュアル読み込んで、戦闘してみたかったところなのよね!」

「三対一だよ? 勝てるのかい?」

「勝つわよ。だって、あなたと私のレイゼオンは最強、でしょ?」

「ああ、そうだな」

 

 右腕でビームソード(旧ビーム刃、マニュアルではビームソードと書いてあったため私もそう呼ぶことにした)を抜き、左腕にビームランチャー(マニュアルを読み込んで搭載されていることを知った武器)を構える。

 

「来るなら来い! 相手してあげるわ!」

 

 






 二度と登場しないキャラクター紹介

 ルーシー・アジェスター
 性別:女
 年齢:享年19
 身長:161㎝
 好きなもの: 友人 達成感
 嫌いなもの: 地球人

 ゼシルと同期の兵士。地球を嫌う典型的ムーンノイド。
 ゼシルのことを友人だと思っていたが、ゼシルからは話す程度の仲の同期というだけで友人だとは思われていない。
 士官学校を三席で卒業、戦闘機操縦はゼシルに次いで二位という実力者であったが、対宇宙防衛システムに撃墜されて死亡した(ルーシーが弱いわけではなく生き残れたゼシルが異常)。
 
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