青空戦記   作:烊々

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安寧と脅威

 

 

「……で? 逃げ帰ってきたの? 機体を失って?」

「ぅ……」

「困るなぁ。戦機は貴重なんだよ? それこそ、キミたちの命よりも、ね」

「す、すいませんでしたボス! 命だけは……!」

「別に、どうもしないさ。キミたちの命よりも戦機の方が貴重ってだけで、キミたちの命が貴重じゃないわけじゃない。戦機を動かせるパイロットは多くないし。ただでさえ"彼"に減らされているからね」

「……っ、ありがとうございます!」

「けど、失態の穴埋めはしてもらうよ。休んだらすぐに出撃してね。どうやら、今集落には彼がいないようだから」

「「「はい!」」」

「まぁ、ただの巡回だからってブラックハウンド程度の機体を使わせたボクにも非があるか。今度はもう少し強いのを乗っていっていいから」

「「「はい! 失礼します、ボス!」」」

 

「……まさか、彼以外の奴にあの三人がやられるとはね。それに、見たこともない機体と言っていたか。ボクの機体も調整を急がないとね」

 

 

 

 

 殺戮ロボ(レイがそう言っていたので私もそう呼ぶことにした)が徘徊していないエリアには賊がいる。だから、素性のわからない私たちのような機動兵器持ちも賊扱いされてもおかしくはないのだ。

 賊たちを撃退し、周辺をレイゼオンで歩き回り、遂に集落を見つけられたはいいが、そこに住む人々に私たちも賊扱いされてしまわないためにはどうすべきか……というのが、私とレイの懸念だった。

 しかし。

 

「それはそれは……大変だったでしょう……! 今日はゆっくり休むみなさい。戦機は、空いているコンテナがあるのでそこにしまうといい」

「は、はい……」

「ありがとうございます」

 

 集落の長らしき爺さんは超が付くほどの善人で、拍子抜けするぐらいあっさりと話が通った。

 賊ではないことを示すために、コックピットを開きつつほぼ全ての武装を地面に落としたとはいえ、こんな簡単に受け入れてもらえるとは思えなかった。

 

「休んだらすぐに出るのかい?」

「まだ考えていません。私たちからしても、こんなにすぐ人が住んでいるところを見つけられるとは思わなかったので」

「そうですか……なら、ゆっくりと考えなさい。なんなら、ここに住んでしまってもいい。人手は多い方が良い」

 

 寝泊まりする用の小屋の鍵を渡された私たちは、レイゼオンをコンテナに入れ、荷物を適当に整理した後に村を散策することにした。

 相変わらず天気は悪い。雲は厚く、淀んでいる。

 村の光景は、はっきり言って原始的だ。

 街灯ぐらいしか電子機器が使われている気配はなく、おそらく月よりも技術力が無い。本当に地球の文明が滅びてしまったことを再度実感する。

 しかし、村を行き交う人々は活気に満ちている。

 

「見たまえゼシル。あれが畜産だよ。私も実物を見るのは初めてだがね」

 

 言いながらレイが指を差す。

 畜産で育てられていた動物は牛だった。

 牛なんて初めて見た。月では幻の生き物だったから。

 

「へぇ……本当に『モ〜』って鳴くんだ……」

「そんな遠くから観察しないで、近くに見に行かなくていいのかい?」

「うん。だって、あれって食べ物でしょ? 愛着湧いちゃったら嫌だから、遠目で見るだけにしとく」

「そうかい」

 

 牛舎から離れ、ざっと村を一回りした私たちは、高台に登り、上から村全体を見下ろしていた。

 村を行く人々とたわいもない話もした。レイのように歴史詳しい人は殆どいなくて、この原始的な生活が当然のように思っている人の方が多かった。この村の人々を支え合って生きているのだろう。

 月も月で人々が支え合ってはいたが地球への憎悪という歪な一体感だったし、中心街ならともかく郊外は中々治安が悪く暴行や窃盗が横行していた。

 しかし、この村の人々は何も憎んでいないし、何も奪ったりはしない。だからとても居心地が良い。

 

「のどかだねぇ」

「のどか、ね。あんな賊がいるような地域なのに、のどかすぎると思うけど」

「つまり?」

「正直、よく滅びてないな、と思うよ」

 

 のどかな村……だからこそ、機動兵器を駆る賊たちに襲われたらひとたまりもないだろう。むしろ良く今まで襲われずにいられたな、とすら思う。

 そうだ、機動兵器で思い出した。

 

「……そういえばさ」

「ん?」

「この村の人たち、機動兵器のことを『戦機』って呼んでたね」

「戦う機体で『戦機』とね。シンプルでわかりやすい呼び方じゃないか」

「私たちもそう呼べば良くない?」

「そうだね」

 

 『戦機』……うん、『機動兵器』より呼びやすくて良い響きだ。

 

「……ん?」

「どうしたんだい?」

 

 今、私の耳が異音を感じ取った。

 風の音、風に揺れる木々の音、村の人々の生活音、本来はこれらの音しか聞こえないはずだが、森林の奥から微かに聞こえだしたこれは……

 

「戦機の駆動音……数は二……いや、三か?」

「……私には何も聞こえないが、ゼシルの身体能力って常人離れしてるよね」

「近づいてきてるから、そろそろ聞こえると思う。それより、この音が賊たちのものだとしたら……」

「あ、聞こえてきたね。確かに戦機の音だ」

 

 木々を薙ぎ倒し、戦機が姿を表した。

 数はやはり三。そして肩には、赤、青、黄のペイント。

 間違いない。私が倒したけど逃したあの三人だ。

 

「……またあいつらか……!」

「ついさっきゼシルにコテンパンにされたのばかりなのに、すぐに賊行為を再開するとはねぇ。バイタリティに溢れているよ」

「感心してる場合じゃないでしょ」

 

 私はレイとともに高台から村へ駆け降りる。

 

「なぁ、また賊の奴らが出てきて、こっちに向かってきてるらしいぞ!」

「よりによって村の用心棒が不在の時に……!」

「あいつがいなきゃ、農作業用に武装解除してある戦機しかもうないよ!」

「俺が動かせるから、俺が出る!」

「無理だって! 武器なんてないんだから死んじゃうよ!」

 

 既に村の人々も賊の戦機が接近していることを確認していたようで、村の人々は少しパニックになっていた。

 どうやら一応村に用心棒がいるらしいが、今は不在とのことだ。村に用心棒がただ一人というもの危機感がないとは思うが、そんなものは本来なら要らない危機感なのだろう。賊なんてものがいなければ。

 

「ねぇ、レイ」

「ん?」

「どうして、何も奪わず、何も憎まず、助け合って生きている人たちが、踏み躙られなきゃいけないのかな?」

 

 この村に滞在した時間など、まだ半日にも満たない。

 けど、たったそれだけの時間で、この村もここに住む人々も私にとって消えてほしくないものになった。

 だから……

 

「……行ってくる」

「だと思ったよ。私も行こう」

「レイはここで待ってて」

「えぇ〜! 機動兵器戦を特等席で見たいのにぃ!」

「ぶっちゃけ狭くて邪魔なんだもん。待ってて」

「むぅ……しょうがないなぁ……」

 

 レイは私の言葉を聞き入れてくれたものの、不満そうな顔のまま、そこら辺に腰掛ける。

 譲歩してもらった感じになっているのは納得いかない。

 

「……座ってないで逃げなよ」

「君が戦うんだろう? 逃げる必要あるのかい?」

「それもそうか」

 

 レイは私が負けることを全く考えてない様子。私も私で負けるつもりは一切ないから納得してしまった。

 レイの元から、避難誘導を行っている村長の元へ走る。

 

「あっ、ゼシルさん。あなたも早くお逃げなさい。レイさんも連れて」

「……対応できる人がいないんですよね? なら、私が出ます」

「しかし……旅人たちにそんな……」

「大丈夫です。任せてください」

「あっ、ちょっと!」

 

 村長の制止を振り切り、レイゼオンを停めてあるコンテナへと向かう。

 

「あぁ……行ってしまった……ていうか、走るの速いなあの子……」

 

 コンテナに入り、機体を駆け上り、コックピットを開いて座り、レイゼオンを起動させる。

 

「……全く、どこにでもああいう奴らっているんだね」

 

 暴力を振り翳し、他者から奪う。そんな人間は月にもいた。

 だから私は、奪われないために強くなったんだ。

 そして得た強さを、誰かを守るために使えるなら……

 

「ゼシルゼオン、RAY-ZEXON……出撃する!」

 

 

 

 

『──手早く済ませるぞ。あの野郎が帰ってきてしまうからな』

『──わかってる』

『──……待て、何か来るぞ⁉︎』

『──アレは……あの時のクソガキの機体だ! 何でこんなところにいやがる……っ!』

 

 敵の三機に正面から突撃する私。

 

「……ん?」

 

 賊たちの戦機が、ついこの間戦ったものと形状が違う。

 なるほど、私が壊したから別のものに乗ってきたわけか。

 数秒後、レイゼオンの解析システムから、賊たちの戦機がこの前の機体よりも性能が高くなっていることが表示された。

 

「だとしても……レイゼオンの敵じゃないわ!」

 

 レイゼオンは防御力が高く、多少のゴリ押しが効く。敵のフォーメーションを強引に崩して、この前みたいに一機ずつ潰していけばいい。

 

「やぁあんたたち! さっきぶりね!」

『──またお前かっ!』

「今度は逃がさない!」

『──何度もそう簡単にやれると思うなっ! …………っ、おい、嘘だろ……』

「はぁ?』

『──あの野郎がもう戻って来やがった!』

 

 私に対する威勢のいい声から一変、何かに怯えて狼狽えた声が聞こえてきた。

 そして、賊たちの戦機のメインカメラが、私の方向を向いていない。

 私から見て左、賊たちから見て右の方向から飛翔してきた"それ"に、賊たちは意識を奪われていた。

 

「紅い……戦機……?」

 

 紅い機体に、黒い背部ウイング。

 まるで悪魔のようなシルエットでありながら、天使のような神聖さも感じさせるフォルム。

 もしかすると、この戦機が、村の人たちが言っていた『用心棒』なのだろうか。

 

『──……やはり、散策を早めに切り上げて正解だったようだな』

 

 レイゼオンが紅い戦機からの通信音声を拾う。

 声からすると男、私と歳はそんなに変わらなさそうだ。

 

『──「ルシフル」、アカム・シュトロイム、目標を殲滅する』

 

 言葉の後に、紅い戦機は翼を広げ、私たちの方に飛び込んで来た。

 

 





・キャラクター紹介

 村長(本名:オルグ・トラント)
 性別:男
 年齢:62
 身長:171㎝
 好きなもの:村、村のみんな
 嫌いなもの:村を脅かすもの

 村長。
 生まれた時にはもう文明が滅びた後であり、荒廃した世界の中で殺戮ロボがいない地点を見つけだし、なんとか村を作り上げた。
 超がつくほどの善人で、村の人々に心配されているほど。しかし村の人々はそんな村長を心から慕っている。

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