青空戦記   作:烊々

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二人の戦機乗り

 

 

「おかしくない? 私首席だよ? 月では最強のパイロットだったんだよ? 確かに戦闘機と戦機は違うけどさ、あんなにボコボコにされるなんてさぁ〜……」

「うん」

「てかなにあれ? なんでアカムって人あんなに強いの? 本当に人間?」

「うん」

「……聞いてる?」

「聞いてない」

 

 レイはこちらを向くこともせずに言う。

 

「敵対しているわけじゃないんだろう? だったら、本人に教わればいいじゃないか」

「戦機の操縦を?」

「ああ。ここで私に不満を吐き出すよりはよっぽど有意義だと思うが」

「……それもそうね」

 

 思い返せば、士官学校時代も模擬試験で自分のスコアを超える人がいたら、自分が納得いくまでその人にコツを聞いたり、一挙一動を観察していたりしたな。

 まぁ、そのうちそんなことはしなくなったけど。

 

「ちょっと行ってくんね」

「ほい」

 

 焦りがあった。

 レイの興味が私から、私よりも戦機の操縦技術が卓越しているアカムに向くんじゃないかと。

 レイがそんな人じゃないのはわかっている。そんなことを思ってしまう自分が浅ましくてイヤになる。

 とにかく、私は強くなりたいのだ。

 

 

 

 

「村長さーん」

「おお、ゼシルさん。どうしたのかね? お腹が空いたというのなら食事を用意しようか?」

「違います」

 

 村長に悪気はないんだろうけど、何故か私が腹ペコ大食いキャラみたいになってるのが納得いかない。

 私は地球のご飯が美味しいからたくさん食べたくなるだけで、大食らいなわけではない。

 という話は置いておき、村長に本題を訊かなくては。

 

「アカムさんってどこにいますか?」

「アカムかい? ルシフル用のコンテナにいると思うよ」

「ありがとうございまーす」

「……あ、そうだ」

 

 私が礼を言い立ち去ろうとすると、村長に呼び止められる。

 

「……あの子は頼りになる良い子だが、どこか私たちと距離を置いている気がするんだ。この村や私たちに不満があるわけでもなさそうだが……私はあの子が笑っているところを見たことがない」

「……」

「もしかするとこの村の住人でない君なら、あの子の心を開けるかもしれない……勝手な願いだが、あの子のことを頼めないだろうか……?」

 

 困った。

 村長の願いは尤もなのだが、頼る相手が悪い。私は士官学校時代に『悩みの相談してはいけない同期No.1』と呼ばれていた女であり、人間関係の構築が得意ではない自覚がある。頼まれてもどうにかできる自信が全くと言っていいほどない。

 しかしお世話になっている村長の頼みを無碍にすることもできない。

 

「……わかりました。できるだけのことはしてみます」

 

 結局断ることもできず、曖昧な返事で誤魔化してしまった。やってみたけどできなかった、みたい感じで切り抜けよう。うん。

 

「ありがとう」

 

 そんな私の内心を知らないであろう村長の笑顔が心にくる。

 というわけでルシフルのコンテナ前までやってきた私。コンテナの中からは人の気配がするし、おそらくアカムがいるだろうから大声で読んでみるとしよう。

 

「アーカームーさーん!」

「……ん? 君は……その声、あの機体のパイロットか」

 

 のそのそのとルシフルのコックピットから出てきたその声の主であるアカムの容姿は、拍子抜けするほど普通の男の人、って感じだった。

 

「ええ。名前はゼシル。ゼシル・ゼオン。よろしく!」

「……この村の戦機乗り、アカムだ」

「知ってる」

「何の用だ? さっきの件か? あれはすまなか……」

「違う違う。あれはいいんだよ。私、あなたと戦いたかったから」

 

 アカムの謝罪を遮って言う。もう謝って欲しくなかったからだ。謝れる度に私の弱さを自覚してしまう。

 

「そうか……」

「あのさ! 私、戦機に乗り始めたのもここ最近でさ、だからあなたに色々教わりたくて」

「……すまないが、そういうのはやっていないんだ」

 

 アカムはそう吐き捨てて、コンテナから立ち去る。

 

「えー! いいじゃーん! お願いだよー!」

 

 私は当然それをただ見送るわけもなく、アカムの横について歩く。

 

「しつこいな。他を当たってくれ」

「あなたしかいないんだって」

「……はぁ」

 

 すると、アカムは走って逃げ出した。

 

「ちょっ、逃げたぁ⁉︎」

 

 ため息の後、ただ走り去る姿に呆気に取られる……が、残念だけど私は百メートルを七秒で走る女だ。その程度の走りで撒けると思わないでいただきたい。

 

「全く……なんなんだあの子は……っ⁉︎」

 

 振り返ったアカムは驚愕しその足を止めた。

 当然だろう。走って撒いたと思っていた女が、自分をすぐに抜き去り前方に回り込んできたのだから。

 

「追いついたよ」

「はぁ……はぁ……マジかよ……」

 

 数十秒の全力疾走により息を切らすアカムと、息一つ乱れない私。アカムがひ弱というわけではないが相手が悪すぎた。士官学校時代では私よりも速く走れる人はいなかったし、私よりも長く走り続けられる人もいなかったから。

 

「……ふぅ。しょうがない。そこまでしつこいとなると、素直に教えた方が早そうだな……」

「よっしゃ」

「君の動き自体は悪くない。機体の特性も良く活かせていた。けど……」

「けど?」

「君は目が良すぎるんだ。視野も広い。相手の行動を見てから対応できる目の良さと反応速度があるからこそ、俺が動きの端に置いておいたフェイントに引っかかる」

「フェイント……?」

「俺と戦っている時、違和感を持たなかったか?」

「う〜ん。私のありとあらゆる行動を先読みされてると思ったぐらい?」

「なるほど、無意識か。それほどまでに君の身体能力は凄まじいということだな。だが、それを操縦に活かせてはいない」

「どういうこと?」

「つまりは────」

 

 アカム曰く、私は戦場における情報のほぼ全てを無意識に拾ってしまっているらしい。一見長所に聞こえるが、その際に無駄な動きが生まれ、本当に対応しなくてはならない攻撃への対応が少し遅れてしまっているのだ。

 

「……じゃあ、どうすれば解決するの?」

「とにかく経験を積むことだな。まずはそれからだ。そうすれば自ずと動きが最適化されていく」

「経験、か」

「初めはシュミレーションモードを使うと良い。殆どの機体に搭載されているはずだ」

 

 そういえば、マニュアルの端に方にそんな説明欄があった気がする。時間に余裕がなくて試している暇がなかったが、アカムが言う程の機能であるならば今度使ってみるとしよう。

 

「そういえば、アカムのルシフルってさ、武装が多いけど、そういう機体を拾えたってこと?」

「もともと備わっていたものもあるが、後から付けたものも多い。拡張性が高いのもルシフルの強みだ。しかし、君の機体は性能は高いが、そういった拡張性は低そうだな」

「レイゼオンの武装はシンプルなものが殆どだからね……」

「レイゼオン……それが君の機体の名か」

「うん。私たちの機体、そして私たちの夢」

「夢……?」

「うん。私、青空を見るのが夢なんだ」

「青……空……っ」

 

 その時、少しだけアカムの表情が歪む。

 戦機について話していた時は、心なしか少し楽しそうにしていたのに、とても悲しそうな表情になってしまった。

 

「アカムさん?」

「……なんでもない。もういいだろう?」

「え?」

「話は終わりだ。俺は少し休む。じゃあな」

 

 そう吐き捨てて立ち去るアカム。

 聞きたいことはいくらでもあったが、これ以上は付き纏うべきでもないと思ったので、去っていくアカムの背をただ見送ることにした。

 

 

 

 

「──ってことがあってさ。切り上げられちゃった」

「成程、アカム氏の反応を見る限り、私の推測は当たっていたかもしれないな」

「推測……?」

「確か、アカム氏のフルネームは『アカム・シュトロイム』だったかな?」

「そうそう」

 

 レイの表情は、私に月のことを聞いていたときのような、レイの趣味である旧文明の歴史を知る時のような浮かれ具合だ。

 

「その名を聞いた時からもしやと思っていたのだが……彼はおそらく、旧連邦最後の大統領『エルロード・シュトロイム』の子孫だ」

 

 ……と言われても、誰?

 

 

 






・キャラクター紹介

 アカム・シュトロイム
 性別:男
 年齢:20
 身長:178㎝
 好きなもの: ルシフル 戦機について話すこと
 嫌いなもの: 曽祖父

 旧欧州の集落の用心棒を任されているパイロット。
 何者も寄せ付けぬ卓越した戦機の操縦技術を持ち、ゼシルとレイゼオンですら歯が立たないほど。
 村の皆からは慕われているが、アカム本人は村の人々とは距離を置いている。

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