西部最強のガンマン、エルモア・エヴァンスはなぜ保安官の道を選んだのか
そこにはある麻薬取引事件が関係しており―――
という感じのエヴァオクの二次小説です
楽しんでいただけたら幸いです
「どうしてエヴァンスさんは保安官になったんですか」
エヴァンスが助手のテッドにそう質問されたのは仕事終わりに二人でJBサルーンに寄った夜のことであった。
きっかけはテッドが読んでいた新聞だった。そこに二人が関わった麻薬取引の摘発について書かれていたのだ。
「エヴァンスさんが捕まえたリーダーは腕利きのガンマンとして地元で有名だったそうです」
「ほう」
保安官は短く答えると助手の持っている新聞を覗き見る。麻薬売買組織のリーダーの写真とともに彼の射撃大会の成績が掲載されている。そこそこ名のある大会の優勝経験もあるようだ。
「ここまでの腕を持っていながらな」
逮捕の時の様子を思い出しながら保安官は哀しそうに答える。
「ガンマンの腕を悪事に使うなんて酷いですね」
助手の言葉にエヴァンスは強く頷く。自分が捕まえた男だらけの組織のことを思い出す。いくらガンマンの腕が良くてもあんなところにいては彼女はできないだろう。
「こんな(モテない)道を選ぶ奴の気が知れないな」
彼女いない歴=年齢である自分のことは棚に上げエヴァンスはそう呟いた。
「あら、さすがは正義の保安官ね」
カウンター越しにそう返したのはオークレイだ。彼女が二人分のコーヒーを差し出す。
「エヴァンスさんほどの人が悪事に手を染めるわけありませんものね」
テッドが少し自慢げに言う。
「当然だ、テッド。そんな(女がいない)組織はこっちから願い下げだ」
モテたい一心でエヴァンスはガンマンになったのだが、その事情を隣の助手も向かいの賞金稼ぎも知らない。
「そういえば、どうしてエヴァンスさんは保安官になったんですか」
コーヒーを受け取りながらテッドがここで冒頭のセリフを放った。
「前にも言ったが、その問いには答える必要はないという考えに至っている」
『ガンマンはイケてる』という父の至言に従った結果なのだが、それをオークレイもいるこの場で話すつもりはなかった。
だが、テッドは珍しく食い下がってきた。
「でも気になります。保安官以外になろうとは思わなかったんですか?エヴァンスさんほどの腕なら例えば賞金稼ぎとか、他にも誰かの専属の護衛とかにもなれたはずです」
テッドの問いかけにオークレイまでも興味深そうに頷いてエヴァンスの方を見る。エヴァンスは助手の考えに理解を示す。
「そうだな、一口にガンマンと言っても目指す道は様々だ。俺やお前のように保安官の道を選ぶ者もいれば」
そう言った後にオークレイを示し、
「オークレイのように賞金稼ぎになる者もいる。そして」
今度は新聞記事を指さし
「こいつらのように悪の道に走る者もいる」
「では、なぜ」
再度テッドが尋ねるが、エヴァンスはそれには答えずに曖昧な笑みを浮かべた。確かに父の言うことだけなら保安官になる必然性はない。父カートがそもそも放浪のガンマンなのだ。それに従うならばエヴァンス自身もさすらいの旅に出ていてもおかしくない。だが、エヴァンスは保安官の道を選んだ。
彼は黙ったままカップの中身をすする。新聞記事に目を走らせてからカウンターの向こうに立つ女性を見る。
コーヒー、麻薬取引、そしてオークレイ。
それらが彼の脳裏に在りし日の記憶をよみがえらせた。
この物語は…
モテを追求し奮闘する保安官の喜劇ではない。少年が理想のモテのために保安官の道を選ぶまでの二次小説だ。
口の中に広がるコーヒーの苦みに思わず顔をしかめる。本当は砂糖もミルクも大量に入れたいのだが、我慢してのどに流し込む。
「に…がくない」
そう口にしたセリフは目の前の父に向けてだったろうか、それとも近くのテーブルで食事をしている他人に向けてだろうか。どちらにせよ、10代のエルモア・エヴァンスが放った精一杯の背伸びは誰の心に響くこともなく空気中に消えていく。
「息子よ。お前の射撃の腕はずいぶん上がってきた。そろそろこれから先のことを考えてもいい頃かもしれん」
父カートが重い声で語りかける。
「これからって、将来のこと?」
「そうだ、ガンマンとしてどう生計を立てていくかということだ。賞金稼ぎになるのか、保安官になるのか、カウボーイという道もある」
「そんなのまだまだ先だよ」
そう言った十代の少年に父は強い口調で言い聞かす。
「だが、今のうちに考えておいて損はない。賞金稼ぎにも生け捕り専門もいれば殺し専門もいる。保安官も連邦保安官から群保安官まで。選択肢は多い。進む道を今から知り検討しても早すぎるということはない」
「でも、そんなたくさんの道があったら選びにくいよ。何か選ぶヒントとかないの」
「まあ、すぐに決める必要はない。だが、選ぶ指針は一つだ」
父はそう言って真剣に息子の目を覗き込む。
「誰にモテたいかで選べ。生業でモテる層が決まるからな」
「将来か……」
野暮用があると言った父と別れた後、エヴァンスは街中を歩き回っていた。うつむき腕を組みながら思考をめぐらすが、将来のことは簡単に即決などできない。試しに未来の自分の姿をいくつか思い描いてみる。
保安官はどうだろう。保安官事務所を中心に活動して、その街の人と深い交流もできそうだ。だが、保安官が会う女性というと……
「出会う相手がことごとく犯罪者になりそうだな」
図らずもエヴァンスは自分の未来を予見していたのだが、それに気づくことなく思考を先に進める。
「放浪のガンマンかな」
父曰く放浪のガンマンは幅広い人脈を持て多くの女性と付き合えるため、おすすめだそうだ。だが、転々と各地を回るのでは特定の相手と関係を深めるのは難しそうだ。そう考えて一人で苦笑いをする。そんな事は魅力的な女性と出会ってから考えればいいのに。まるで既に誰か意中の相手がいるみたいではないか。頭を左右に振っていると後ろから声をかけられた。
「エヴァンスじゃない。のんきに散歩?」
こちらを少し挑発するような女の子の声。振り向かなくても誰かすぐにわかった。
「オークレイこそ、暇なのか」
「私は射撃練習の帰りよ」
そう言いながら彼女が横に並んで歩きだす。彼女の腰についた銃が日光を受けきらりと光った。
「見ていなさい。次の大会で前の借りはきっちり返してあげるから」
オークレイはこちらを指さしながら得意げな笑みを浮かべる。そんな彼女に子供っぽく言い返したくなるのをぐっとこらえる。
「フッ、前の大会?そんな昔のことは忘れたさ」
彼女の挑発に乗らずにクールにカッコつけたはずだったが
「はぁ?先週のこと忘れるなんて、バカなの?」
痛烈な返しとなってエヴァンスの胸に刺さった。
「そ、そんなわけな、ないだろ。わ、忘れないって」
しどろもどろになりながら先ほどと矛盾した言葉を並べる。
この頃のエヴァンスは父のようなカッコつけができていなかった。むしろ、カッコつけようとする行為が空回りしてよりカッコ悪くなってしまうのだ。今まで数多の人から向けられてきた不審と軽蔑の混じった視線がオークレイから送られる。いつもよりも心が痛む。思わず顔を背けたが、追い打ちをかけるように背後から彼女が語りかけてくる。
「何よ、どうせあんたにとっては大したことない大会だったんでしょ。天才少年は違うわよね」
どうやら彼女は先ほどのエヴァンスの言葉を嫌味として受け取ったようだ。エヴェンスは周囲を見渡し何か話題を逸らせそうなものを必死に探す。
「オークレイ、あれを見ろ」
少し声を抑え道路の向かいを歩く男を指さす。太ったその男は体を揺らしながらちょうど脇道に曲がっていったところだった。
「ちょっと怪しくないか」
「はあ、何勝手に話を逸らしてんの」
文句を言うオークレイを無視してエヴァンスは男の後を追う。できることならこのままオークレイと別れ先ほどの失言をごまかしてしまいたいところだったが、彼女も気になったのか自分の後ろをついてくる。二人で脇道を覗き込むと男はカバンを大事そうに抱え込みながらさらに薄暗い路地裏に入っていくのが見える。そこは表通りの店の裏側に面しており、各店が物置として使っている場所で、普段人が通るところではない。
「エヴァンスの言う通り確かに怪しいわね」
通りの奥を覗き込みながらオークレイが呟く。たまたま指さした人が本当に不審な行動をとるという信じられない幸運にエヴァンスがしばし呆然としていると
「何してるの?後をつけるんでしょ。言っとくけど、私も怪しいと思っていたから」
そう言ってオークレイが先に進み始める。
(すごいな、オークレイは)
彼女の最後の言葉はライバルのエヴァンスに対抗するための嘘だったのだが、エヴァンスはそれに気づくこともなく素直に感心していた。金髪を揺らしながら身軽に進む彼女を慌てて追いかけながら背中を頼もしそうに見つめる。
オークレイは天才だ。異常を察知する観察力、自信満々に突き進む行動力。それらに加え、射撃の腕は同年代ではエヴァンス以外に敵う者はいない。大半の大人にだって引けを取らないだろう。そんな彼女というライバルがいるからこそエヴァンスも頑張ってこられたところもある。まあ、そんなことは面と向かって言うのは恥ずかしくてできないのだが。
小太りの男は路地裏に積まれた荷物の間を通り抜けていく。時々何かにつまずいたり、木箱をどかしたりしながらゆっくり進むため、追跡するのは容易だった。男はある店の裏で立ち止まった。
「それで、エヴァンスはあいつをどうするつもり?」
男を物陰から観察しながらオークレイがエヴァンスに小声で尋ねる。
「このまま様子を見よう」
とくに考えていなかったエヴァンスは時間稼ぎのための提案をする。怪訝そうにこちらを見る彼女にさらに付け加える。
「あの男は路地裏を歩いていただけだ。もっと決定的な瞬間を見ないと何もしようがない」
「なるほどね」
そんな会話を交わした二人は道の脇に大量に積まれている木箱の陰に座りこみ、その間から男の様子を覗き見ることにした。
「あいつ、犯罪者なのかしら」
「さあ、でも普通じゃないのは確かだ」
もしあの男が賞金首なら、賞金稼ぎの仕事というのはこんな感じなのだろうか。エヴァンスはそう考えながらちらりと隣の少女の横顔を窺う。
「賞金稼ぎも悪くないな」
ぼそっと呟いた言葉に彼女が反応する。
「でも賞金稼ぎって相手を殺したりもするんでしょ」
「いや、人によるよ。生け捕り専門の賞金稼ぎもいるからね」
「へえ、よく知っているわね」
彼女が感心した様子でこちらを見る。エヴァンスは父の受け売りだとは言えず適当に笑ってごまかす。少しうしろめたさを感じるが、ちょうど会話を打ち切るかのように、路地の奥から野太い男の声が聞こえた。
「おい、ブツは持ってきたか」
エヴァンスとオークレイは慌てて積み重ねられた箱の隙間から向こうの様子を窺う。ガタイのいいスキンヘッドの男が奥から姿を現していた。顔や腕についたいくつかの傷が堅気でないことを雄弁に物語っている。
「おう、ちゃんと持ってきたぜ」
「よし、よこしな」
スキンヘッドは小太りの男からカバンを受け取ると中に手を入れ紙袋を一つ取り出す。袋の口を傾け中身を掌にこぼしていく。そして掌に積まれた白い粉に鼻を近づけ慎重に匂いを嗅ぐ。
「混ぜ物じゃないだろうな」
太っちょの男は快活に笑いながら首を振る。
「いつも通りの純度100パーセントの粉だよ」
「悪いな、一応の確認だ」
そう言ってスキンヘッドは笑い出し、太っちょもそれにつられて笑う。その様子をエヴァンスとオークレイは息を吸うのも忘れて物陰からじっと見ていた。どう見ても薬物の売買の現場なのだが、とっさに動くことができない。どちらも犯罪の現場に出くわすのはこれが初めてだった。どう対処したらいいのか見当もつかなかったが、それでも何か行動を起こそうと必死に頭を働かせる。先に考えがまとまったのはオークレイの方だ。小声でエヴァンスに語りかける。
「私はこの二人を見張っているから、エヴァンスは誰か大人の人を連れてきて」
「オークレイは一人で大丈夫なのか」
「大丈夫よ、いざとなってもこれがあるし」
そう言って手に握った拳銃を見せる。頼もしいその姿にエヴァンスは頷く。
「オークレイは賞金稼ぎが似合いそうだな」
「急に何の話よ」
「いや、ただオークレイはカッコいいなと思っただけだよ」
「へ、変なこと言わないでよ」
オークレイは振り向いてエヴァンスを叩こうとするが、動揺していたのか足がもつれ背後の木箱にぶつかってしまう。
ガッッシャアアアン
積み重ねられた箱が崩れ大きな音が路地裏に響いた。
「誰だ!出てきやがれ!」
男二人が叫ぶ声が聞こえる。彼らが拳銃を構えこちらに近づいてくるのが物陰から確認できた。オオークレイがエヴァンスの前に出る。
「早く行って、私が足止めするから」
彼女がエヴァンスの背中を押す。気丈にふるまっているが彼女の手も声も震えているのがエヴァンスにはわかった。少年の気持ちはすぐに固まった。
「いや、その必要はない」
そう言ってエヴァンスは彼女から銃を奪い取る。さらに辺りに響き渡る大声で叫んだ。
「動くな、保安官だ!」
素早く物陰から飛び出して拳銃を発砲した。
どうしてこんなことをしたのか。ライバルが立ち向かおうとする姿に奮起したのもある。大人二人相手でも勝てる自信があったというのもある。保安官と言って牽制し、先に仕掛けたほうが多少有利になるのではとの計算もある。だが、エヴァンスを動かした最大の理由はここがカッコつけ時だと悟ったからだった。ピンチに身を震わす女性を守るために悪漢二人に果敢に立ち向かい勝利を収める。これほどカッコいいことは他にないだろう。
だが、現実は少年の理想通りにはいかない。太っちょの持った拳銃を撃ち飛ばすことには成功するがスキンヘッドに向けて放たれた弾は虚しく空を切り裂き後ろの壁に当たる。スキンヘッドがこちらに拳銃を向ける。
「死ね、カッコつけのガキ」
男の拳銃がまっすぐにこちらを捉える。エヴァンスも三発目を撃とうとするが間に合いそうにない。悪党の指に力が入るのがスローモーションのようにはっきりと見える。
が、横から何かが飛んできて男の拳銃にぶつかった。男の放った弾は軌道が逸れ壁にめり込む音だけがエヴェンスの耳に届いた。
「今よ、エヴァンス!」
オークレイの声が耳に響く。彼女が何かを投げつけ援護してくれたのだ。頭が理解するよりも早くエヴァンスの手は狙いを定めていた。三発目は見事に相手の拳銃を吹き飛ばした。
「助かったよ、オークレイ」
二人の悪党に交互に拳銃を向けながらエヴァンスは礼を言う。
(あまりカッコよくはなかったな)
そんな思いを抱きながらも山場を越えたことにホッと安堵の息を吐いた。
その後、銃声を聞いて駆けつけてきた保安官に悪人二人を引き渡した。エヴァンスはかなり得意げになっていた。父の言いつけを思い出し感情を表に出すまいとしながらも口元が緩み、自信満々に胸を張るのを止めることはできなかった。だが、彼は期待していたような賛美を浴びることはなかった。子供二人の行動としては余りにも危険すぎたと判断されたらしい。その結果、大人たちからは褒められることはなくこっぴどく叱られることとなった。
だから、その日の夜にオークレイが所属する旅芸人一座の座長に呼ばれても大した期待はしていなかった。
「君はフィービーの恩人だ。どうもありがとう」
案内された一室でコーディと名乗った座長が頭を下げた時もエヴァンスは卑屈なほど落ち着いていた。
「まあ、運が良かっただけだよ。オークレイを危ない目に巻き込んでしまったし」
「それでも君が彼女の命を助けたのは確かだ」
「いえ、助けてもらったのはオレの方です。カッコ悪いですよね」
前髪をいじりながら自嘲気味に答えを返した時、部屋にオークレイが入ってきた。黙ったままエヴァンスとコーディの前にコーヒーを差し出す。
「ほら、遠慮なく飲んでくれ」
座長に勧められしぶしぶコーヒーを口にする。口に広がるであろう苦みを想像し口を強くかみしめるが、
「あ…あまい」
砂糖とミルクがたっぷり入っているらしく、口の中に心地よい甘味が広がっていく。
「どうだ、おいしいか」
そう聞いてくる座長に素直に頷き返す。座長は先ほどから背中を見せているオークレイの方を向く。
「良かったな、おいしいそうだぞ」
座長がそう話しかけるが彼女は頑なにこちらを振り向こうとはしない。自分が入ってきた扉のほうを向いたままだ。かと言って部屋から出ていく気配もない。
「オークレイ」
エヴァンスが名前を呼ぶと、ぴくりと肩を震わせる。そして彼女はゆっくりと自分の首に手を当てる。
「あ、あんたに借りを作りたくないだけだから。この後、私たちのショーをやるから、見ていきなさいよ。それで貸し借りはなしにしましょう」
オークレイはそこで声量を大きく落とす。
「…かったわよ」
「え?」
思わず聞き返したエヴァンスに少女は大きな声で言い直す。
「カッコよかったわよ、保安官を名乗ったあんた。今日はありがとう」
そういうと彼女は慌てて部屋から出ていく。ドアが閉まる大きな音が部屋に響いた。
「どうしても直接お礼を言いたかったそうだ。まあ、今夜は楽しんでいってくれ」
言葉足らずの彼女の行動を補足するように座長が述べる。が、それは意味のない音としてエヴァンスの耳をすり抜けていった。彼の頭の中ではオークレイの先ほどの言葉が何度も繰り返されている。
(カッコよかった…か)
それはエヴァンスのカッコつけが初めて実を結んだ瞬間であった。少年の心は多幸感であふれていく。口元が緩み頬が赤くなっていく。座長がこちらを眺めているのに気づいてエヴァンスは慌てて顔を背ける。大切な宝石を眺めるように、自分の中に芽生えている不思議な気持ちをじっと観察する。甘美でもっと味わってみたいのだが、手に取ろうとすると何とも気恥ずかしくも感じる。大声で触れ回り見せびらかしたい気持ちと、誰にも見られないところへ隠したい気持ちが混在している。少年にはその感情の名前も扱い方も、それが特定の相手とのみ生じるということすらもまだわかっていなかった。それでも一つ決まったことがあった。
(保安官になるのもいいかもな)
そう考えながらエヴァンスは甘いコーヒーをゆっくりと飲んでいった。
「…ヴァンスさん、エヴァンスさん」
「どうした?テッド」
助手に話しかけられエヴァンスの意識は過去から戻される。
「どうしたじゃないですよ、急に黙ってしまって」
「すまんな、テッド。少し昔のことを思い出していてな」
「もしかして保安官を目指すきっかけについてですか」
テッドは前のめりになって詳しい話を聞こうとするが、すぐにエヴァンスに手で制される。
「テッド、悪いがこれは簡単に他言できない案件でな」
「そうですか、出過ぎた質問をしてすみませんでした」
テッドは残念そうな表情を浮かべつつも、居住まいを正してエヴァンスに謝った。
「オークレイ、コーヒーのおかわりを頼む。次は砂糖とミルクを入れた甘いものがほしい」
エヴァンスはカウンター越しにそう注文する。
「珍しいわね、ブラックじゃないなんて」
オークレイが不思議そうにこちらをじっと見る。
「たまには、そんな気持ちになるんだよ」
エヴァンスは彼女から目を逸らしながら答える。オークレイは顎に手を当て何か考えていたが、すぐに砂糖の在庫を補充に厨房へ向かう。その間、テッドはもの問いたげにエヴァンスを見ている。それでも先ほどの質問を再度口にすることはない。このできた部下はエヴァンスが過去を話さないのには何か深刻な理由があると考えているようだ。だが実際はもっと単純な思春期の少年のような理由だ。
ガンマンはモテる。保安官なら特にオークレイにモテると思った。
そう言うのが恥ずかしいだけなのだ。
厨房で砂糖を詰め替えながらオークレイはある可能性を検討していた。
(エヴァンスが保安官を目指すきっかけってあの麻薬取引の件かしら)
だとしたら珍しく甘いコーヒーを頼んだのにも説明がつく気がする。それを考えると彼女の顔は朱に染まっていく。
なぜなら、自分が賞金稼ぎを目指そうと思ったのも、あの事件がきっかけなのだ。
『オークレイは賞金稼ぎが似合いそうだな』
エヴァンスがあの時言った言葉で自分は賞金稼ぎに興味を持ちはじめた。となると、二人は将来の道を同じ事件をきっかけに決めた可能性があるわけだ。
「まあ同じだからなんだって話だけどね」
オークレイは首に手を当てながら一人で呟く。そして、足取り軽く店内へと戻っていった。
親父が途中で野暮用で消えるのはオークレイとの面識をつくらないためです。
漫画ではオークレイは最初カートをエヴァンスの父とは認識していなかったので、過去偏で記憶に残るような活躍をさせるわけにはいかないと判断しました
一応、美人保安官に頼まれ麻薬の元締めを一緒に捕まえにいったという裏設定があり、追記として入れようとも思ったのですが、蛇足と考えカットしました(笑)