記念すべき第1話。
ジャングルのネタがありきたりかなと思いますが、のんびり楽しんでもらえれば。
とある砂漠の国。
国境沿いに集まったハンター達は、暫しの休息を経て行動を始めようとしていた。
その中に混ざるは、無精髭を生やしたジン・フリークス。リュックの謎の重みに、中身を漁っていた。
「……やっぱお前か」
「ぷはあっ」
リュックから飛び出したのは、ピンク色の猫耳と尻尾が生えた小さな生き物。背中には透明な羽がついているが、サイズが小さいので飛行には使えなさそうだ。飾りだとその生き物から聞いたことがある。羽が無くても飛べるんだそうだ。
不思議な生き物は、ジンと目が合うと、にっこりと笑った。
「ジンおはよ〜」
「おはようじゃねーよ。バカピィが」
ピィと呼ばれた生き物は、リュックから這い出すとクラゲのように浮かぶ。そして、目をキラキラさせながら延々と続く砂漠を眺めた。
「わあ〜久しぶりにこの国に来たよ。で、今から幻の密林を探すの?」
「お前は呼んでないけどな」
ジンは頭を掻きながらため息を吐く。
「ピィに何かあったらネテロのジジィになんて言われるか……あとチードルとビーンズにもぐちぐち言われるだろ。パリストンまで何かしら嫌味言うんだぜ」
「大丈夫だよぉ。わたし強いもん。頑丈だもん。分身だから死なないもん」
「それでも、だ!」
ビシィ、と指を指すが、当のピィは首をかしげるだけだ。
「それよりさ〜」
「それよりじゃねーよ」
「そ れ よ り さ! 早く探そうよ! 幻の密林!」
「どうなっても知らねーからな?」
早朝。一団が動き出す。まだ肌寒い砂漠を、ジンは慎重に歩き出した。肩にはピィが乗っているが雲かってくらい軽いので、一瞬忘れそうになる。
彼らは「幻の密林」を求めてここにいた。
「幻の密林ってさ、なんで幻なの?」
空が明るくなってきた。ピィは幻の密林を探しているのか、辺りを見回しながらジンに聞く。
「名前の通り幻のようなジャングルなんだよ。蜃気楼でなく、確かに存在するんだそうだ。それが本当なのか調べるのが今回の目的」
「ふう〜ん。本当にあるのかな〜」
「とあるハンターが密林に迷いこみ、生還した。それも幻覚だったって思われてるが、オレはある気がすんだよな」
「勘?」
「勘」
「カン〜」
しかし、今日一日では見つけることはできなかった。ジン率いる調査団は一旦、拠点である近くの町へ戻る。
翌日の調査でも、ジャングルへの手がかりは擦りもしなかった。
「ぜぇ〜んぜん見つかんないね〜」
ジンのベッドを独占し、ゴロゴロ転がっている。ジンはピィなどに目もくれず、何か考え事をしていた。
宙を見つめ、むっすりした顔のまま唸っている。
「何かしら条件がいるってことか? まあそうだよなー。今まで存在が認知されなかったんだ。見つけて入るには必要なものがあるってな……」
「ふーん。まあ二日目だもん。時間はたっぷりあるもんね。頑張ろう」
「……おう」
「おやすみ。ジンは床で寝てね」
「スペースあるだろが。入れろ入れろ!」
無理矢理ベッドに入りこみ、目を閉じる。
ピィはジンの顔の横に移動すると、猫のように丸まって同じように眠りについた。
三日目四日目と調査するものの、幻の密林は見つからない。五日が過ぎた。
調査団は、幻の密林に入るには何かしらの条件があるのでは? と本格的に考えるようになった。
「ハンターの人はジャングルに入れたんだよね? なら、念能力者だってのが条件かな?」
六日目。若干元気のないピィはジンの周りを浮遊しながら聞く。小さくお腹の鳴る音が聞こえて、恥ずかしいのか顔を手で覆う。
「調査団はほとんどが念能力者だ。今まで誰一人も見かけないのはおかしいだろ」
ジンはお腹の音など特に気にならず、そう言うとへの字に口を歪ませていた。
「うーん。そっかぁ。
……そもそも、その幻の密林から生還したハンターさんは、どうやって密林を見つけたのかな?」
難しい顔をしていたジンが、口を開く。
「喉が渇いていたんだ」
「へ?」
ピィはきょとんとした顔でジンを見る。
ジンはピィの視線など気にせずに、腰につけていた水筒を開けて中身を砂漠にぶちまけた。
ピィはその光景に悲鳴を上げる。
「何やってるの!? お水がないと干からびちゃうよ!」
「腹も減っていたらしい」
「あー! それで朝ごはん食べんなって言ったの? いじわるかと思った! も〜お腹すいたよ〜!」
バタバタと暴れている。
「ホントにそれで幻の密林に行けるの〜?」
ピィはひとしきり騒いで、疲れたようだ。
耳はへたれて、弱々しくジンを見上げる。
「簡単すぎてメンバーの何人かも気づいただろうよ。すぐ行けるぜ、幻の密林に」
ジンはニヤっと笑みを浮かべて、ピィを摘むと頭に乗せた。
それから一時間もすると、ピィは喉が渇きお腹が空きジンの頭に力無く垂れる。
「ねえ、幻の密林には何があるの?」
「木と草と花。水の湧く音も聞こえたそうだ。かなり大きなジャングルだったらしい」
「面白い生き物とかいないかな?」
「そんな話は聞いてないな。不気味だったからすぐ出たそうだぞ」
ふと目をやって、ピィは自分の目を疑った。
遠くに広がる鬱蒼としたジャングル。一瞬、蜃気楼かと思い瞼を瞬かせる。
「見えるか、ピィ」
ジンにも見えるようだ。
「あれって幻の密林? わたし幻覚でも見てるのかも」
いまだ信じられないが、ジンは気にせずジャングルへと足を踏み出す。
どんどん近づいてくるジャングルは、確かに現実のものに見える。ジャングルの目の前でジンが立ち止まった。
ピィは、恐る恐るジャングルの木の幹に手をつける。しっかりとした感触に、体を震わせた。
「ちゃんと触れる……! すごいすごい! 本当に幻の密林なんだ! やったね、ジン! みんなに教えないと!」
しかし、ジンはそのまま吸い込まれるようにジャングルへ入る。
「先に調査するの? ま、いいけど」
ピィは密林の中に入ると、違和感を覚えた。
たしかにジャングルだ……木は生い茂り、草花も見かける。
だが、それ以外の生命が見当たらない。
木と草花しか感じない。その草木まで生気を感じない。
おかしい。鳥や、虫がいてもおかしくないだろう。むしろ、この密林だけの生態系ができていることもありえる。
なのになのに、このジャングルにはないのだ。
生きている者が。
「おかしいよ……ジン。何か嫌な予感がする。このジャングル、まるで死んでるみたいだよ。一旦、引き返さない? ピコピコアンテナがヤバいって言ってる」
ジンは何も言わない。
「ジン? ねえ、どうしたの?」
「水が欲しい」
ジンは苦しそうにそう絞り出す。
「も〜だから言ったじゃん。あんなことするから喉が乾くんだよ? ここって水あるのかな?」
「お腹空いた」
「当たり前だよ! 朝ごはん抜きだったんだよ! わたしだってお腹空いてんだから! 美味しい木の実とかないかな〜? ……ジン?」
ジンの顔を覗くと、鳥肌が立った。
虚な目に、呆けた口。ゾンビのように、ジャングルを彷徨っている。
いつものジンではない。
「ジン? ねえ、どうしたの? まさか……」
これはどう見ても何かしらの念能力を受けている。ピィは即座にこの密林のせいだと結論づけた。
「ジン! 目を覚まして! やな予感する! 帰ろう! 帰ろうよ! 正気になれ〜!」
頬を叩くが、ピィの小さな手ではダメージにならない。ふと、ピィは奇妙な音に気づいた。
こぽこぽと、何かが湧き出ている音。
ジンが枝をかき分けると、小さな泉が現れた。
「あ。お水だ。飲んだら元に戻るかな……」
しかし、その泉から嫌なオーラを感じとる。
「水……水だ……」
ジンが泉に駆け寄る。ピィはジンの頭から泉の水面を見つめた。ゆらゆらゆれるジンの顔。正気を失った眼光が妖しく光る。
こぽり。
「ジン!」
ピィはオーラをこめてジンを蹴り上げた。
その時間わずか0.3秒。ジンが吹っ飛ぶ。背後の木に頭をぶつけた音が響く。
ピィは泉を見た。泉の中央から何かが這い出してくる。
その「何か」を見たピィは、今世紀最大の悲鳴を上げた。
「ぎゃーっ! ガイコツがいっぱいー!!」
大量の頭蓋骨の塊が現れる。ピィはちびる寸前だ。頭蓋骨の塊は、カタカタと歯を鳴らしながらか細い骨の腕をピィへと伸ばしてくる。
「ミズ……ノド、カワイタ……ハラ、ヘッタ……ダ、ダレカ……タスケ……」
「お、お腹すいたの? 喉渇いたの? あ。そういやクッキー持ってた。はい、あげる」
「アホかお前はっ!」
頭蓋骨にクッキーをあげたピィの頭を、ジンが叩く。
「あ、復活した?」
「お前オーラ込めて蹴り上げただろ。正気戻ったわ。けど、この念能力の円の範囲にいるからな……しばらくしたらまた操作されると思う」
「えーっ! じゃあどうするの!?」
「とにかく、逃げるぞ! あのハンターも密林から出れたらしいし、脱出可能なはずだ!」
ジンはピィを抱えると、泉に背を向けて走り出した。オーラをこめているのであっという間にジャングルを出ていく。
二人は砂漠に戻った。日は上り、太陽が照りつける。
ピィは振り返りジャングルを見た。あの頭蓋骨の塊は追いかけてこない。
「ありゃ死者の念だ。しかも大量の人間の。オレらにはどうにもできねーな」
ジャングルはしばらくそこに留まっていたが、風が吹くとゆらりと揺れて、霧のように消えていった。
残るは砂だけ。ピィはジンから離れると、泉のあった場所まで飛び、その場に下りる。
何か固いものに気づいて穴を掘ると、白い頭蓋骨が一つ、顔を出した。
ピィとジンは頭蓋骨を町まで持ち帰ると、そこの墓地に墓を作り手厚く供養するのだった。
調査団は幻の密林の実体を解明したことで、現地解散となった。
ジンとピィは飛行船の停泊する街まで移動すると、飛行船に乗り窓から砂漠を見下ろす。
「砂漠で死んだ人間の、死者の念か。
死者の念は円を作り、そこに自分達が見た蜃気楼のジャングルを実体化させたんだな。自分達と同じように弱った人間をジャングルに入れ、操って取りこもうとする。
生還したハンターが操作されず何事もなかったのは、元々操作系で自分を操作している念能力だったからだな」
その念能力者がいなかったら、密林はそもそも存在さえ認知されなかっただろう。
迷い込んだ者は皆、死者の仲間になるのだから。
「わたしは分身で本体とリアルタイムで念で繋がってるから、操作できなかったのかもね」
ジンやピィと同じように、幻の密林へ潜入できたものはチラホラといた。
どうやら死者の念は、広範囲に渡るらしい。疲労した人間、というのが出現条件のようだ。
ただ、念能力の効かないピィのおかげで被害者は出ずに調査は終わったのだ。
「今回はお前がいてよかったよ。サンキューな」
「えっへん!」
「でももう着いてくんなよ」
「やーだね!」
砂漠に風が吹く。削られた砂の中から、白い頭蓋骨が顔を出した。