一番最初に書いたお話。
パリストンが敵わないキャラを作りたかったんです。
「ワシらと一緒に、行かんか?」
「行こうよ! 名前なんて言うの? ……パリストン! いい名前だね! わたしはね〜」
「ピィだよ。ね、ネテロ!」
ぺたん。パリストンが執務室で書類を確認していると、そんな奇妙な音が聞こえた。
特に警戒せず、窓を見る。よくあることだ。
ピンク色の猫耳と尻尾のついた妖精のような生き物が、窓ガラスに張り付いていた。
「ぱーりすーとーんー」
「ピィさん」
パリストンは笑みを浮かべて、窓を開けた。
「お仕事中〜?」
ピィはふよふよ浮かびながら、執務室へ入っていく。高く積み上げられた書類を一瞥して、パリストンへ聞いた。
「ええ。でももうすぐ終わりますよ。どうかお気になさらず」
「じゃあお茶淹れたげる〜ネテロじいから美味しいお茶もらったんだ〜」
「それはどうもありがとうございます! じゃ、さっさと終わらせますね!」
おわかりだろうか。あの、あの、ムカつく笑顔が神経を触るパリストンの顔が、むしろ見るのも嫌になる白い歯が落ち着き、若干棘が削られ声色も自然に聞こえる。
パリストンの持っている茶道具を使いテキパキとお茶を淹れるピィを、微笑みつつ見つめているのだ。
「あのねえ。美味しい和菓子もあるんだよ。ジンにジャポンから取り寄せてもらったんだ。わたしに借りがあるからね〜ジンなんて手足だもんね〜」
「羨ましいなあ! ジンさんをこき使えるなんてピィさんしかいませんよ! あ、いや、ボクは遠慮しますけどね。ほらボク、慎み深いので!」
「うん。パリストンは厚かましいと思うよ〜」
「そうですかねー?」
パリストンは光の速さで書類にハンコを押すと、とんとんと書類を整えてにっこり笑った。
ピィの後ろ姿におもわず笑みを溢したのだ。
彼女は不思議な存在だ。彼がネテロにちょっかいをかけるくらい懐いている(?)としたら、パリストンにとってピィは触れられない存在だ。
パリストンとネテロが初めて出会った時、ピィもそこにいた。どうもピィとネテロの間には何かあるようだ。
自身を分身と呼んでいることから、本体がどこかにいてピィを操作しているのはわかる。
それくらい十二支ん全員さえ知っている。
恐らく操作系だろう。ネテロと長い付き合いのような発言や素振りから、かなり年をとっているはずだ。
だが、それ以外は何もわからない。
一度だけ、ちょっかいをかけたことがあるのだが、その時のネテロの顔と言ったら。
いつもの、子どものイタズラのせいで見せる困ったような笑顔は消え、マジで殺意をみなぎらせていた。
パリストン自身もピィに本当に危害を加えるつもりはなかったので、身の危険も感じたことからそれ以降は手を出していない。
また、ピィについて何度もネテロから聞き出そうとしたこともあるが、口を割らない。
電脳ページには、そもそもピィのピ文字さえ存在しない。
まあそれでもパリストンは別にいいかなと思っている。
悪意が消えていく不思議な雰囲気に、つい毒気が抜かれてしまうのだ。
それ以来、ピィには普通に接するようになった。
「ふう。ピィさんが来てくれると仕事が捗りますね! 終わりましたよ」
「は〜い、お茶ができたよ〜。お茶菓子もどうぞ〜」
「わあ! 美味しそうですね! いただきます!」
ソファに移動して、ピィの淹れたお茶を飲む。
「これは玉露ですね。さすがネテロ会長の選んだお茶です」
「美味しいよね、玉露。ネテロじい、お茶のセンスはあるよね」
それ以外のセンスはないと言っているように聞こえたが、パリストンはスルーした。
「ん。このお菓子も絶品です! 玉露に合いますね!」
「琥珀糖っていう和菓子なんだって。キラキラでキレイだよね。宝石みたい!」
「見るだけの宝石より、価値があるなあ! 今度、ジンさんにお礼を言っておきましょう。美味しいお菓子をありがとうございますと」
「パリストンの為じゃないー! って言いそうだけどねえ」
二人でそう言うジンを想像して笑う。
パリストンは玉露を一口飲み、ほっと一息をついた。
ふと気づくと、ピィがパリストンを見て優しく微笑んでいた。
それがパリストンには居心地が悪かった。苛つきさえ感じる。温かい目を向けられることがパリストンは嫌いだ。自分のペースに持っていけないのも感に触る。
調子が狂うな、とパリストンの目の奥が冷たく光る。
(苦手だなぁ、ムカつくなぁ、こういうの。でも不思議なことに、嫌いになれない)
朗らかな表情を浮かべながら、パリストンは心の中で呟く。
そんなパリストンを見破るかのように、ピィはこう言った。
「パリストンももうちょっと素直だったらな〜。全然腹の中見せてくれないんだもん。もうちょっと人を信用してもいいと思うけど」
パリストンは仮面を被り、大袈裟な態度で振る舞おうとする。
「そうですか? ボク、すごく素直な人間だと思いますけどね? それに人当たりもいいし、誰とでも仲良くなれるし、ほら、ボクってすぐ打ち解けるじゃないですか。自分のパーソナルスペースがないんですかね〜ピヨンさんにもそう言われましたし。距離感を感じないのはいけないことかなーとも思うんですけどね〜!」
「言ってること意味わかんないねぇ」
と、ピィはお菓子を口に入れる。
「それならボクも、ピィさんのこと何も知りませんよ? 会長も話してくれないし、十二支んのメンバーも知らないじゃないですか? ボクのことを知りたいなら、ピィさんも教えてくれるのがフェアーだと思いますけど」
「それは、そうだよね」
パリストンはピィの横顔を見た。寂しそうな表情。まるで、世界に自分以外生きているものがいないとでも言うような。
「言えたら、いいんだけど」
「ムリしなくてもいいですよ。ボクもどうせ何言われても響きませんし」
本心がこぼれ出た。
「うん。そうだろうね」
そこはやはりそうか、とピィは呆れた顔をしていた。
(ま、ボクだってカンタンに教えてくれるなんて思っていない。あー、でもちょっかいかけるのではなく探るくらいなら会長も許してくれるかな? やっぱりムリかな?)
「何か面白いことありませんかね。会長が困るような奴とか。ピィさん、何かありません?」
パリストンは新しい話題をピィにふりかける。
「え〜? そんなこと言われてもな〜。あ、そうだ。あれなら……いやいやダメだよね」
「いいですね!! その<あれ>を教えてくれたら、スイーツハンターお墨付きのいちごタルトをプレゼントすることもできちゃうんだけどなぁー!」
「はいはいはーい! 教えまーす!」
チョロい。パリストンは一瞬だけ悪どい笑みを見せて、すぐにいつもの営業スマイルに戻した。
(おもちゃにはならなけど、まあ、いいか)
そう思えてしまうのはやはり念能力なのだろうか、とパリストンは考えるのだった。