ピィのピコピコ大冒険   作:あーすの子

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お久しぶりです。


6話 ウヴォーとピィの極楽温泉

「おじさん、くさーい」

 

仰向けで寝ていたウヴォーは、聞き慣れない声に目を開けた。目の前にはピンクの猫耳のついた不思議な生き物。それがウヴォーを見下ろしている。

つぶらな瞳。小さな口。ふかふかの髪の毛。まるでおとぎ話にでも出てきそうな存在だ。

 

「あ? なんだオマエ」

 

起き上がったウヴォーは、不思議な生き物の首根っこを掴む。ピンクの生き物はバタバタと暴れ出した。

 

「はなせー」

 

「猫? 念獣? 魔獣かあ?」

 

「わたしはピィだよ〜」

 

ピィと名乗った生き物はべえ〜と舌を出す。

変な生きもんだな、とウヴォーはまじまじとピィを眺めていた。

 

「ウヴォー! 何やってるの?」

 

パクノダがやってくると、ピィはウヴォーの手から離れてパクノダのところへと飛んでいく。

 

「パクノダ、でかいおっさんがいじめる〜」

 

「ちょっとウヴォー、ピィに酷いことしないでくれる?」

 

ウヴォーは起き上がると背中を手で掻きながらパクノダとピィを見た。

 

「それオマエのかあ?」

 

「私のっていうか、友人よ」

 

自分の肩に乗ったピィを撫でながら、彼女はそう言った。

「友人」。パクノダがそんな言葉を気安くは言わない。どちからというと、交友関係は少ない方で、深く狭いのが特徴なのはウヴォーも知っていた。

そんなパクノダが流れるように「友人」と言った。アジトに入れたのも、信頼できる存在だからだろう。

 

「そうだよ。パクノダはうちのお客さんだも〜ん」

 

「つまりどっちだよ」

 

「客であり友人よ」

 

なんの「客」かは詳しく聞かないでおく。それより、とパクノダも顔をしかめて鼻をピクピク動かしていた。

 

「本当に臭いわね……。シャワー、いつかかったの?」

 

「ん? いつだっけな?」

 

「もう」

 

呆れたような顔で自分を見る。しかしウヴォーは気にしない。

 

「めんどくせーんだよ」

 

「だからってちょっと……臭いわよ。さすがに入った方がいいわ」

 

「マジ? ん〜でもこのアジトってシャワーないんだよなー」

 

どうすっかな、とウヴォーは天井を見上げた。どこぞの家の浴室でも借りるか、近くの川に飛び込むか。

いっそ雨でも降ってくれないかとぼんやり思っていた。

 

「じゃーさー、温泉行こうよ」

 

「温泉?」

 

ウヴォーとパクノダの声が重なる。聞いたことのない言葉だった。二人の視線がピィに集まる。

ピィはにっこり笑うと、パクノダの肩から飛び降りる。ふわりと空中で浮かんで、小さく手足を動かした。

 

「アジトを出て少ししたところに、温泉宿があるんだ〜。日帰り温泉もあるんだよ! スッキリするし、癒されるし、ぽっかぽかだよお」

 

ウヴォーとパクノダは、ピィの言葉にお互いを見るのであった。

 

 結局来てしまった。ウヴォーは大きく伸びをしながら、その温泉宿を見上げた。

隣には肩にピィを乗せたパクノダがいる。自分と同じように、物珍しそうな顔をしている。

 

あまりにもピィが温泉を薦めるので、つい頷いてしまったのだ。

しかし、その決断は正解だったかもしれない。見かけない様式の外観。ノブナガと同じような和服を着た従業員。珍しい、というと確かにそうだ。

 

自分にはあまり向かない品のある宿だったが、中に入ってその思いは消えた。

 

「おお! ピィちゃんいらっしゃい! お客さん連れてきてくれたかの〜」

 

「うん! 番頭のユブネさん! と、女将のヒノキさんだよ!」

 

「いらっしゃい! ゆっくりしてってね!」

 

「まあ、湯にでも入って疲れをとりなのぉ!」

 

なかなか豪快な番頭と、肝っ玉のある女将にウヴォーは好感が持てた。二人に案内されて、宿に入る。

 

スリッパを履いたウヴォーとパクノダ。受付を通り過ぎ、廊下を歩く。窓の外には異国の庭が広がっていた。まるで違う国へ旅をしているみたいだ。

 

「驚きね。こんなところにこんな宿があったなんて」

 

パクノダは、美しい庭園にため息をついて言う。

 

「いいでしょ。ヒミツの旅館なんだよ」

 

ピィはドヤ顔で胸を張っていた。

 

 廊下の先に、赤いのれんと青いのれんが見えた。見たことのない文字が大きく描かれている。

 

「男はこっちで、女はこっち! あ、この部屋は休憩所だから。仲間が上がってくるまで待っていて構わないよ」

 

左には部屋が広がっている。何かが敷き詰められており、畳と言うのだとヒノキが教えてくれた。

 

「なら、ここで待ち合わせね」

 

「おう! じゃ、またな〜」

 

ウヴォーはのれんにぶつかりながら、その先へ足を踏み入れた。

 

棚の並ぶ部屋に、ウヴォーは周りを見回す。

 

「ここで服を脱ぐんだよお」

 

「ピィ」

 

いつのまにかピィが頭に乗っかっていた。

 

「服を脱いだら温泉だよ。早くはやくぅ!」

 

頭から飛び降りると、流星のような速さで温泉へと行ってしまうのだった。

とりあえず服を脱いだウヴォーは、温泉へと足を踏み入れる。

 

戸を開けて中を見たウヴォーは目を見開いた。

 

「うおおっ!? なんだここ!??」

 

あまりの光景に、つい声が出てしまった。

広がる湯船。向こうには庭が見え、外にも風呂があるらしい。

湯気がもくもくと立ちこみ、熱気がウヴォーを包んでいる。

カポン、とどこからか音が響く。ひのきの香りをふんわりと感じていた。

 

「こりゃすげぇぜ! テンション上がるな!」

 

早く入ってみたい。だが、先に体を洗うようにとピィに言われていた。

 

「洗わなくてもいいだろ!」

 

湯船に近づくが、

 

「ダメーー!!」

 

ドスっ!と、腹に何かが突っ込んできた。

オーラでできているピィの一撃がウヴォーに効く。そのあまりの衝撃に一瞬目が霞む。

 

「って、え、……イッテェッ! 何すんだてめー!」

 

一気に殺意がみなぎるが、ピィは引かない。

 

「臭いし汚いだもん! シャワーくらい浴びてよね!!」

 

不思議と攻撃する気が起きない。ウヴォーはため息を吐く。

 

「わーったよ。ってなんだそれ?」

 

ピィがお腹に丸いものを付けている。

よく見たら水着を着ていた。ピンクのワンピースタイプの可愛い水着だが、ウヴォーは興味がないのであまり観察していない。

 

「浮き輪。言っとくけどこれはわたししか使えないトクベツなものだからね。早く体洗ってね!!」

 

仕方なくウヴォーはシャワーのあるスペースへ向かう。イスと桶がシャワーと鏡の前に置かれていた。鏡は湯煙で曇っている。ウヴォーは温泉の方を見た。ピィが浮き輪でぷかぷかと浮かんでいるのが見える。

 

「早くオレも入るか」

 

シャワーを浴びてスッキリすると、とうとう湯船へと大股で歩いていった。

 

ザパン! と勢いよく湯に入る。湯の熱さが最初に襲い、その後、心地よさが広がっていく。

 

「沁みるぜ……」

 

乾いた体に、湯が染みこんでいく。足の先はすっかり温かくなっていた。体は火照り、体温が上がっているのを感じる。

 

「ぷかぷか〜」

 

ピィが浮き輪で浮かびながら、ウヴォーの目の前を漂っている。

 

「あっちも最高だよー」

 

ピィに露天風呂を勧められ、ウヴォーは外へと出て行った。石造りの庭が、雰囲気を醸し出す。ザーッと湯の滝が流れ、空を見上げれば快晴だった。

涼しい風が頬を撫でる。少し濁った湯は薬湯というらしく、病気が治ると言われているらしい。それを目的に入りに来る人もいるそうだ。

 

「オーラを纏った湯か」

 

凝をすればすぐわかるほどに立ち込めるオーラ。病気が治ると言われるのも、このオーラのおかげだろう。

実際、ウヴォーも湯に浸かるだけで疲れが消え去った。肩も軽く、不調だった腕も調子が戻っている。ますますこの温泉が気に入ってくる。

 

「……あいつを連れてきてもいいかもな」

 

思い浮かぶは、ちょんまげ頭のサムライ。

今度はノブナガを連れて行こうとウヴォーは決めたのだった。

 

 すっかり体も温まり、温泉を楽しんだウヴォーは風呂を出てピィと一緒に休憩所に向かった。体はポカポカと熱く、血の巡りを感じる。

ウヴォーは満足していた。ここなら手間と金がかかっても行きたいと思えたくらいだ。

 

「あ! これ! ねえウヴォー。これ飲もうよお」

 

ピィが指さしたのは、自動販売機。ピンクの飲み物と、コーヒーのイラストが描かれた飲み物の二種類があるようだった。

名前を見るに「いちご牛乳」と「コーヒー牛乳」みたいだ。しかしウヴォーには問題があった。

 

「オレ金持ってねえ」

 

欲しいものなら力づくで奪うウヴォーに手持ちなどないのである。自動販売機を壊して手に入れてもいいのだが今は気分がいい。

ピィを見ていると、不思議と奪う気分にもならない。出入り禁止になるのも困る。

あとはピィに貸して貰えばいいと思っているのもあった。貸しなどどっかから奪えばいいのである。

 

「仕方ないな〜後で10倍にして返してね。それかおいしいスイーツでもいいよ」

 

ピィはいちご牛乳と、ウヴォーはコーヒー牛乳のボタンを押す。

機械が音を立てながら飲み物を移動させるのは見ていて面白い。ウヴォーは出てきたコーヒー牛乳を開けると、一気飲みする。

 

「ん! うめえ!」

 

「やっぱりお風呂上がりのいちご牛乳はサイコ〜だね〜」

 

コーヒー牛乳を堪能したウヴォーは、休憩所で畳に寝っ転がる。

 

「どうだった〜? よかったでしょ〜」

 

ピィはウヴォーのお腹に大の字になっている。ピィの言葉に、ウヴォーが頷く。

 

「おう。サイコーだったぜ」

 

「また行こうね〜」

 

「おー…」

 

ウヴォーは微睡の中に囚われ、ゆっくりと意識を手放した。

 

 女湯を上がったパクノダは、乾かした髪を触りながら戸を開ける。すっかり遅くなってしまった。あまりにも気持ちいいので長居してしまったのだ。

ピィはいいとして、ウヴォーは待っているのが苦痛だろう。どこかにビックインパクトしていなければいいが。

 

「ごめんなさい、遅れちゃって……」

 

待ち合わせにしていた休憩所を覗くと、パクノダはくすりと笑った。

いびきをかいているウヴォーと、ウヴォーのお腹で静かに眠っているピィ。

 

「たまにはこういうのもいいわよね」

 

パクノダは二人の隣に座ると、窓から差しこむ木漏れ日に目を細めるのだった。





ピィがウヴォーと一緒にお風呂に入ったのは、ウヴォーがなんかしでかしそうだったため。
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