ピィのピコピコ大冒険   作:あーすの子

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9話 メンチとピィの至高のラーメン

 

 ハンター協会、ネテロの執務室前。

メンチは飛び出しそうな心臓を抑えながら、ドアをノックした。

 

「好きに入ってくれて構わん……ん? おお。ピィ、助かるの」

 

ガチャリとドアが開くと、目の前に不思議な生き物と目が合った。

 

ふわふわのピンクの髪に、大きな耳。ぷにぷにしたほっぺ。

可愛らしい白いワンピースに身を包んで、まるでネコのような妖精のような……。

 

(この子があの<会長の子>ね)

 

ハンター協会を塒にし、常にネテロかジンかパリストンの側にいる。

性別不明。そもそも人間なのかどうか。噂ではネテロの念獣とか魔獣だって話もちらほらと耳にする。

 

「こちらへどうぞ〜」

 

ピィに案内されてネテロの執務室へ足を踏み入れる。ビーンズもデスクで仕事をしているようだ。

メンチと目が合うと、にっこり笑って軽く会釈をしてくれる。

 

メンチは書類で紙飛行機を作っているネテロの前へ立つと、緊張気味に口を開いた。

 

「あの、今回はどういった理由でアタシは呼ばれたんでしょうか」

 

少しだけ声色が震えている。

そう。突然ハンター協会から連絡がかかり、しかも「ネテロ会長からの呼び出しだ」なんて言われたら心臓が胸を突き破ってしまうだろう。

実際メンチの心臓は3秒くらい止まり、冷や汗が背中を伝い恐怖で意識を無くすんじゃないかと思ったくらいだ。

 

緊張した面持ちのメンチ。静かに見守るビーンズ。

あと周りをふわふわ飛んでいるピィ。

 

ネテロはふむ、と頷くと、書類紙飛行機を飛ばす。ビーンズが器用にキャッチした。

 

「実はの〜。今回はワシの依頼でもお願いでもないんじゃがの」

 

「どういうことですか?」

 

わざわざネテロに呼び出されたというのに、ネテロが依頼人ではない?

では誰だろう? ビーンズか?

 

「ピィの希望での……」

 

「すっごい美味しいラーメンが食べたいの!!」

 

ピィが突然大声を上げた。

 

「あのね。この前ジンと一緒にジャポンに行ってラーメン食べたの。そしたらすっごくおいしくってさ〜!

でもここに帰ってきてラーメン食べてもおいしくなくて……。だから、究極のラーメン作りたんだよね」

 

「究極の、ラーメン」

 

それを作るのが、今回の依頼内容というわけか。

 

「でね、素材にもこだわりたいんだ。最高級の素材を使って、最高のラーメンを作る。もちろん報酬もあるよ」

 

「素材を獲る許可もワシが出そう。どうかの。受けてくれると嬉しいんじゃが」

 

「そんなの……」

 

メンチの体が震える。

目はキラキラと輝き、顔は熱でも上がったかのように赤くなっている。

 

興奮しているのだ。

 

素材も全てこだわった、究極の、至高のラーメン。美食ハンターとしては喉から手が出るほど嬉しい依頼だ。

 

(最高の素材で作る最高のラーメン。作ってやろうじゃないの!)

 

「やります! やらせてください!」

 

メンチは顔を上げて、依頼を受ける意思を伝えるのだった。

 

 

 

ヌメーレ湿原。又の名を、詐欺師の塒。

 

一般の人間であれば確実に死ぬこの湿原を、ピィとメンチはどんどん進んで行っている。

 

「まずは、チャーシューととんこつスープの素を探しましょう」

 

湿原に広がる森へと足を踏み入れる。

お目当ては、ヌメーレ湿原に生息するグレイトスタンプだ。

 

「これがまた美味しいのよね〜。脂身たっぷりで、スープにもチャーシューにもいけちゃう!」

 

「わーい! 楽しみ楽しみ〜!!」

 

と、早速グレイトスタンプが現れる。警戒態勢に入ったグレイトスタンプ。メンチは音もなく距離を詰めて、脳天を叩き割った。

 

「ピィ、一匹仕留めたわ! 大丈夫……!?」

 

「あ、メンチ〜。なんかいっぱい集まった」

 

グレイトスタンプの群れがピィの周りで匂いをクンクン嗅いでいる。

ピィも獣臭いのだろうか。

 

「せっかくだし全部捕獲しちゃいましょっか!」

 

合計7匹のグレイトスタンプを手に入れることができたのだった。

 

お次はククルーマウンテン。

 

お目当てはやはり、

 

「クモワシの卵よ。ラーメンの具材の煮卵に使うわ」

 

「わーい! 煮卵大好き!! 今回はわたしがとってくるね〜」

 

ピイは勢いよく崖へ飛び込む。

 

「ひゃーーーーー!!!!!」

 

無邪気に喜んでいる悲鳴がククルーマウンテンに鳴り響く。メンチは崖を見下ろした。

小さなピンク色の何かが、クモワシの巣に引っかかっている。どうやら捕まってしまったらしい。動けないようで小さくクモワシの糸が揺れる。

 

「メンチー!! 助けてー!」

 

「もう。しょうがないわね」

 

メンチも崖から飛び降りると、包丁でクモワシの糸を断ち切る。ついでに卵を巣から取り上げると、クモワシの巣に足をかけて思いっきり腰に力を入れた。

足が巣を離れると、ギュン!と音を立ててメンチは谷間を突っ切っていく。崖の小さな足場に手をかけ、軽々と崖を登りきり息を吐いた。

 

「やったー! 卵だ卵〜!」

 

いつの間にかピィがメンチの頭に乗って、クモワシの卵を大切そうに抱えていた。

 

「これでチャーシューとスープ、煮卵が揃ったわね」

 

次は麺よ、と言ってメンチは飛行船の呼び出しボタンを押した。

 

キラキ農園。

広がるのは小麦畑。黄金に輝く麦が、まるで絨毯のように広がっている。

 

「ここのキラキラ麦、一度使ってみたかったのよね〜。最近作られた品種で、とっても美味しいのよ」

 

「わあ〜! キレー」

 

ピィは麦わら帽子を被って風と太陽を浴びている。太陽は優しい暖かさで、風はちょうどいい涼しさだ。

 

「ついでにここのホップで作ったビールも美味しくて……」

 

「じゃあジンとネテロに買ってあげよーっと。……パリストンってビール飲んだっけ……?」

 

「ねえ、ピィ」

 

「ん?」と、ピィが振り返る。ふわふわのピンクの髪が風に靡く。

メンチはそんな無邪気なピィを見て、少し躊躇いながら口を開いた。

 

「アナタって……一体、何者なの? 会長とはどういう関係?」

 

思い切って聞いてみる。ピィは最初はきょとんとした様子だった。

 

「あーネテロ? ネテロはね……んー、なんだろ……わたしを助けてくれた人かな」

 

明るく元気に騒いでいたピィだったのが、いつのまにか大人びた表情に変わる。

 

「ずっと一人だったわたしを助けてくれた、親友……大切な人……なんちゃって!」

 

「えへへ!」といつもの無邪気な笑顔に戻る。

メンチはそれ以上踏み込めなかった。

ピィとネテロの絆が海よりも深いものなのだと、ピィの言葉で感じとったのだ。

 

「ねえメンチ、次は何を揃えるの?」

 

これでスープとチャーシュー、煮卵、麺が揃った。

 

「……そうね。じゃあ次は」

 

鬱蒼と茂る、黒く塗りつぶされた竹林。

黒曜竹。まるでオブシディアンのような美しい輝きが有名な竹だ。

 

「この黒曜竹の若竹を使うわ」

 

「で、なんで採らないの?」

 

「ちょっと困ったことにね……ここの竹林の持ち主、面倒くさい奴なのよ」

 

「面倒くさい?」

 

「すごく頑固で、なかなか取り引きしてくれないの」

 

黒曜竹が貴重な竹なのはそれも理由だった。

なんとも偏屈ジジイで、どんな条件を出してもうんともすんとも言わない。

メンチも何度か取り引きしようとしたが、全て失敗に終わっている。

 

「とりあえず、一回会いに行きましょう。会わないと交渉もできないんだから」

 

黒曜竹林の主、ガンモはやはり首を縦に振らなかった。

 

「ダメじゃダメじゃ!  この竹林を汚すなどあってはならん!」

 

「2、3本いただきたいだけなんです」

 

「ダメじゃ!」

 

チラチラとピィを見ながら、腕を組んで仁王立ち。頭はツルツル、ふさふさの白髭に背は小さい。

典型的な頑固親父みたいだ。

 

「まあまああなた、ちょっとくらいならいいじゃない」

 

ガンモの妻、サツマが申し訳なさそうにメンチを見る。

少しふっくらした体型の、ガンモとは正反対の空気を纏った夫人だ。

 

「究極のラーメンに使ってくださるのよ?  素敵じゃない」

 

「ウチの竹をラーメンに使うだと!? なんと失礼な!」

 

更に顔が赤くなり、沸騰寸前だ。

ピィはそんなガンモを静かに観察していた。メンチは力ある限りガンモに食らいつき、サツマも助けを出しているのだが……話は一向にまとまる気配がない。

と、ピィとガンモの視線がぶつかる。これで十回だ。なぜこちらをチラチラ見るのだろうか。

 

ピィの頭に電流が走った。すぐに行動に移る。

 

「ピィ!?」

 

ピィがガンモの胸に飛びついたのだ。メンチは顔を青くする。そんなことをすればもう話さえできない。

 

「ねえおじさん。わたしの髪ふかふかしていーよー」

 

「ふ、ふかふかじゃと!?」

 

ガンモの表情が変わる。

 

「あらあら。そういえばこの人、大の猫好きなのよ〜」

 

サツマはうふふ、と笑みをこぼす。ピィもにっこり笑ってピンクのしっぽを振った。

 

「その代わり、黒曜竹ちょっとちょうだい〜」

 

 

 

「それで、ピィさんのお陰で黒曜竹が手に入ったわけですか!  いや〜さすがピィさん!  人間を喜ばす術を身につけてますね!」

 

「いやあ、えっへん」

 

「なんで副会長がいるわけ?」

 

ハンター協会本部の共用キッチン。メンチは露骨に嫌な顔をしてパリストンを見る。揃えた材料でラーメンを作りつつ。

 

「何を言ってるんですか。ピィさんの弱み探し……じゃない、究極のラーメンが食べれると聞けば来るにきまってますよ〜はっはっは!」

 

「ねえ今変なこと言わなかった?」

 

「え? 空耳ですよ、ピィさん」

 

「仲良さそうね……よし! できたわよ」

 

そこへネテロもやってくる。どうせ仕事をサボってふらふらしていたのだ。

匂いにつられて会長ホイホイされた訳である。

 

「できたかの?」

 

「できたよ! ネテロも食べよー!」

 

ビーンズも加わり、みんなで究極であり至高のラーメンを食べる。

口に入れた瞬間、その場の全員が目を見開きお互いを見やる。

こんなラーメン初めてだ。

そう顔に書いてあった。

 

美味しい。

ピィは麺を吸い込んで笑った。

ネテロと出会ったあの日から、知らない世界をたくさん見るようになった。

 

ジンも、パリストンも、メンチも……。

 

「世界は、まだまだ新しい出会いでいっぱいだね!」

 

数日後、ハンター協会の社員食堂に新メニューができたのであった。

 

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