とある科学の超電磁砲W 二人で一人の仮面ライダー 作:かなん
能力が無くなった御坂の生活は大きく変化してしまった。たった一夜で噂が広まり常盤台の中ではその話題で持ちきり。影からこそこそと何かを言われるようになったのである。御坂と言えば常盤台の名の知れたエースで、食蜂派閥以外からは憧れの的となっていた。しかし、今は無能力者。レベル3以上の能力が在学条件の常盤台にはいてはならない存在にまで落ちぶれてしまった。
当然食蜂にもその話が届いているはずだが食蜂はその話題に触れることはなくいつもどおりのウザさで接してくる。良きライバルであり一応の友人である御坂を気遣ったのだろう。それが少しだけ嬉しい御坂であったが……
「まさかガイアメモリに木原幻生が絡んでいるとはねぇ……今は御坂さんどころじゃないわ」
御坂は大きく勘違いをしていたようだ。
影響は常盤台の中だけにとどまらない。街中ではもっと厄介なことに巻き込まれる。
「おいおい、お前が常盤台のレールガンだな!聞いたぜ。無能力者になったんだってな!俺の方が上になるなんて思わなかったが、可愛がってやるよ!」
このように調子に乗った輩が襲いかかってくる。いつもなら軽くあしらえば尻尾を巻いて逃げていくが、今はそんな能力がない。ただただ逃げるしかないのだ。
能力さえあれば……
そんな思いがどんどん積もっていく。人並みにはメンタルが強いと思っていたがそんな御坂でもレベル5からレベル0に転落した生活を送るのには一日ももたなかった。
「はぁ……」
「まだ能力のことを引きずっているんですの?」
「そりゃそうでしょ。能力のないアタシは何もできないんだな……って」
寮の自室で布団をひっかぶり黒子に弱々しい姿を見せないように全身を覆った。黒子は結っていた髪を解いて就寝の準備を整える。
「だからこそ今は無理をしないでくださいな。ワタクシだけでなく、佐天や初春も心配しているのですから」
「黒子……ありがとう。でも……」
御坂はちゃっかり布団越しに抱きついていた黒子を布団ごとふっ飛ばした。
「どさくさに紛れて抱きつくな!」
「あぁ〜ん!お姉さま!」
翌朝、黒子の携帯の着信音で二人は目を覚ました。それは翔太郎からだった。
「はい、なんですの?……え?初春と固法先輩が!?わかりましたわ、今から準備をして向かいますの」
それを聞いていた御坂はパジャマから制服に着替え黒子と共に行く準備をする。
「初春と固法先輩が何者かに襲われたらしいですの!」
「初春さんと固法先輩が!?一体誰が……とにかく病院へ急がないと!」
テレポートですぐに病院へ向かう。看護師からの話によると、二人とも全身を何か爪のようなもので引っかかれたり刺されたりしていたようで、首には噛みつかれたような跡があるそうだ。あまりに悲惨な姿なためすぐに集中治療室に運ばれ今も処置を行っているらしい。
「……許せない。初春さんたちをあんなふうに傷つけて。今すぐに探し出して痛い目に……」
「昨夜言ったばかりですわよ。無理はするなと。ここはジャッジメントであるワタクシにお任せくださいな」
「で、でも……」
「白井だけじゃ不安だな。俺たちも行くぜ」
同じく病院に来ていた翔太郎も合流した。フィリップの姿はなくまだ怪我を引きずっているらしい。
「ええ。今回の襲撃者の正体を知るためにフィリップさんのお力も借りたいのですが」
「あぁ。アイツならアパートにいるぜ。俺は聞き込みをして情報を掴む」
二人の会話に入れない御坂。能力がない自分をまるで邪魔者のように扱っているのが気に入らなかった。だがそれ以上に、能力を奪われた自責の念が御坂の心をえぐる。初春が人質となっていたので仕方なかったと言えばそうだが、ドーパントになっていない相手なら電撃でどうにかなったはず。どうしても自分を責めずにはいられなかった。
「アタシって邪魔者なのかな……」
そんな声に黒子と翔太郎が耳を傾けることはなかった。
「初春……」
黒子らが来る少し前、誰よりも早く病院に駆けつけたのは佐天だった。包帯に包まれた初春や固法の顔を見ることはできなかったが、きっと見たとしても安心はできなかっただろう。
許せない。
初春と固法先輩を襲った犯人に復讐してやりたい。その一心だったが、前に翔太郎に言われたことを思いだして踏みとどまる。
『友達を想う気持ちは必要だ。でも、それを復讐の心に変えるんじゃなくて友達を守りたいって勇気に変えるんだ』
『復讐』という言葉に呪われれば私が私でなくなる。それは理解している。だがもし大切な友達が危険に晒されていたら……きっと復讐に溺れモンスターとなってしまうかもしれない。
そんな恐怖が心に残り思わず足がすくむ。
(今日はちょっと回り道して帰ろうかな)
学園都市では珍しい地下歩道、あまり人通りのないマイナーな道だ。佐天にとってそういう場所が自身の探究心をくすぐる。トンネルの中は薄暗くて不気味な雰囲気を醸し出している。佐天はお構い無しで歩いていく。すると、前から帽子を被った女性が歩いて来た。顔は良く見えないが、この季節にそぐわない黒いロングコートを着ている。その女性は佐天の目の前で歩みを止めた。何か嫌な予感を感じた佐天は早足で抜けようとしたが、ふと振り向くと女性が持っていたアタッシュケースを開いてこちらに見せつけていた。その中身を見て思わず体が硬直してしまう。
「ガイアメモリ……」
俗に言うドーパントメモリが大量に並んだアタッシュケースを前に息を飲む。
「あなた、知っているのね。なら話は早いわ。治験をしてみない?」
女は一本のガイアメモリを佐天に手渡した。
「このメモリは試作品。もし気に入ったらまたここに来て。私とあなたは……運命によって再び出会うはず」
「あの!あなたは一体誰なんですか!」
「その心に眠る『復讐の炎』を燃やしなさい。怒りや憎しみ……それがあなたを強くする」
女性はまるで幽霊のようにあっという間に消えてしまった。立ち尽くす佐天の右手には『T』のメモリが握られていた。
「復讐の炎……」
佐天の心の中の悪魔が顔を覗かせる。恐怖よりも大きな何かが勝ち、ガイアメモリをバッグへしまうのだった。
「ここがフィリップさんの住むアパートですのね」
黒子はフィリップがいる205号室を探す。そして部屋を見つけチャイムを鳴らそうとしたが、何者かに口を塞がれた。テレポートですぐさま抜け出し、背後をとる。
「やっぱ一筋縄ではいかねぇな」
「何者ですの!?……あなたは!?」
その男はプレデターズのリーダー、髪矢だった。髪矢はケタケタと笑う。
「銀行強盗の……何故あなたが!?」
「いやぁ気持ちよかったぜ。泣き叫ぶ花飾りの子とそれを守るメガネちゃん。その綺麗で純粋な心をズタズタにしてさぁ」
「……あなたが初春や固法先輩を襲った凶悪犯ですか」
身構える黒子。彼女の頭の中では膨大な量の演算が行われていた。様々なパターンを予測し、相手を的確に行動不能にする方法を探る。その時間はわずか数秒だ。
「あなたがドーパントであることはわかりきったこと。だからメモリを使う前に拘束しますの!」
スカートの中に隠されていた鉄の矢が髪矢の服ごと壁に突き刺さった。髪矢は抵抗することなく壁に張り付いたまま黒子を見る。
「メモリを使う前にか。いい作戦だが誤算が一つ……」
髪矢の服に刺さっていた鉄の矢が突然壁から抜けて落ちた。超能力としか思えないそれは黒子を驚嘆させた。
「能力者!?」
「いや、なんだっけか……あ、そうそう。ハイドープってやつ。メモリを使わずとも能力に目覚めるやつなんだとさ」
矢はテレキネシスで宙に浮いたままだ。神谷が手をかざすと黒子に向かって高速で飛んでいった。間一髪さけることができた黒子だが髪矢のタックルによってアパートの通路から落ちる。高さはさほどないものの顔面から落ちれば重症を負う可能性もある。テレポートで地面と顔が激突することは免れたが髪矢が覆いかぶさるように落ちてきて黒子に馬乗りになった。
「オラオラどうした!」
何度も殴られて上手く演算ができない。テレポートもできずただサンドバッグとなるしかなかった。
「くっ……ワタクシは……」
顔が腫れ上がるのがわかる。意識が薄れていき視界がぼやけはじまったとき、髪矢を何かが襲った。小さな恐竜だ。
「黒子ちゃん!大丈夫かい?」
「フィリップさん……」
駆けつけたのはフィリップだ。アパートの外が騒がしいと様子を見に来たらしい。小さな恐竜、ファングメモリはフィリップの肩に飛び乗った。
「翔太郎!変身だ!」
スタッグフォンで翔太郎に連絡をとる。ファングジョーカーになる際は翔太郎に連絡しダブルドライバーを装着してもらわないと変身できないのだ。
「変身!」
『ファング!ジョーカー!』
ダブル、ファングジョーカーとなったフィリップは髪矢を睨みつけた。
『お前……強盗犯の!てめぇが初春ちゃんや固法ちゃんを!』
「髪矢
初春と固法が襲われたことを知ったフィリップは既に情報を集め検索していたのだ。
「君はかつて木原幻生という研究者の助手だった。そして共に能力に関する研究に没頭した。そこに現れたのが……財団X」
「正解!あいつらはこの街の能力に目をつけたみたいでな。能力に関する情報と引き換えにガイアメモリをくれた」
「そして木原幻生はそのガイアメモリを使ってある計画を立てた。それが『
「あぁ。だがその計画を立てた直後消息不明になった。だから俺はその跡継ぎをする。その計画の先にあるものを手に入れるためにな!」
髪矢はウルフメモリを左肩に挿した。
『ウルフ!』
ハイエナドーパントと似たような姿だが、色は銀色。口にははみ出るほどの大きな牙が二本。
ウルフは凄まじいスピードでダブルに迫り武器のクナイで斬る。ダブルもアームファングで応戦するがその速さについていけない。
『フィリップ!このままじゃらちが明かねぇぞ!』
「わかってる。せめて翔太郎の体が近くにあれば……」
ファング以外の形態になるには翔太郎が変身しなくてはいけない。だが翔太郎は聞き込み途中で変身して公園のベンチで横たわっている。黒子に頼めばすぐに体を持ってこれるが既に意識がない。
「翔太郎。一か八かだけどアレを使おう」
『……あぁ!』
ダブルはベルトのスロット部分を閉じジョーカーメモリを引き抜いた。そしてトリガーメモリを装填する。
「させるか!」
ベルトを展開する直前、ウルフは一瞬でダブルのベルトめがけパンチを繰り出した。衝撃でファングメモリに大きなヒビが入り変身が解けてしまった。
「まずいな……」
『フィリップ!今すぐそっちに行く!それまで耐えてくれ!』
ダブルドライバーを装着しているので変身してなくとも翔太郎と会話ができる。翔太郎が来るまではとにかく逃げるしかない。黒子にヘイトがいかないようウルフを誘導しつつ攻撃を避けて逃げる。
「ちょこまかと!」
だがそう長くは続かない。ウルフの攻撃があたってしまった。激痛が走り倒れてしまう。
「これで終わりだ」
ウルフがクナイを構える。しかし、フィリップは飛んできたエクストリームメモリの中に逃げ込みトドメをさされることはなかった。
「ちっ!逃げたか」
『このまま翔太郎が来るまではここにいよう』
エクストリームメモリの中は安全、そう思っていた。当然攻撃が当たることはない。あくまでフィリップは。フィリップを匿ったエクストリームメモリに鋭い刃が刺さる。
『なんだ!?』
エクストリームメモリはたちまち機能停止に追い込まれ、強制的にフィリップを外に追い出した。エクストリームメモリに刺さった刃はウルフのものではない。真っ白な刃、見覚えがあった。
「手を貸すわ、ウルフ」
ウルフと並んだのはファングドーパントだった。
「いらないことすんなよ」
「あら?このまま逃げられて最強のダブルになられたらあなたでも勝てないわよ?」
「うるさい!コイツは俺の獲物だ!」
フィリップにとって絶対絶命の状況の中、ファングドーパントは何かの気配を感じ取った。
「!?この感じ……ヤバいのが来る!?」
ファングドーパントは身震いをさせるとフィリップに近づくウルフドーパントを引き戻した。
「ウルフ!逃げるわよ!」
「はぁ!?なんでだよ」
「とてつもない殺気を感じる……倒されても知らないわよ!」
ファングドーパントはウルフを蹴飛ばすと足早に去っていった。
「なんだ?なぜ幹部が逃げたんだ……?」
「やっと見つけた。あんたが……」
現れたのは佐天。しかし様子がおかしい。ウルフを睨むその目つきはまるで怪物のようだった。
「よくも……初春や……固法先輩や……白井さんを……許さない……」
数分前、メモリを受け取った佐天の顔は曇ったままだった。あの女性が言っていた『復讐の炎』をずっと考えていたからだ。今、手の中には能力以上の『強大な力』がある。それを使えば初春と固法を襲った奴に復讐ができる。だが、あるときの翔太郎の顔が頭から離れない。
前に一度、翔太郎に仮面ライダーになった理由を聞いたときだった。自分もガイアメモリを手に入れて襲われた黒子の復讐をしたいと言った。それを聞いた翔太郎の顔が思い浮かぶのだ。普段カッコつけてばかりいる彼が初めて自分たちに対して怒りを露わにしたのだった。優しい言葉で否定していたが内心『軽はずみにそんなこと言うんじゃねぇ』と思っていたのだろう。
(私……これを使ったら……)
怖かった。自分が自分でなくなるんじゃないかと。レベルアッパー事件のときのようになってしまうのではないかと。
(ダメだ……御坂さんたちに申し訳無いし)
これをつかったらきっと友人たちは悲しむ。あのときと同じになる。そう言い聞かせメモリをしまった。翔太郎に渡して何かの役に立てばと捨てることはしなかった。
そして翔太郎とフィリップが住むアパートにやってきたが、そこでダブルとドーパントが戦っているのを目撃した。少し離れたところで横たわっている黒子の姿もある。
「白井さん!?しっかりして!」
肩を掴んで揺するが反応はない。慌てて御坂に電話をかけた。
「もしもし御坂さん?白井さんが怪我で……とにかく来てください!」
一呼吸置いて御坂は答えた。
『ごめん……今の私じゃ誰も助けられない』
能力のことをまだ引きずっている様子だ。必死の説得を試みる。
「そんなことないです!能力とかは関係ない!友だちがピンチなんですよ!?」
『佐天さんはすごいね……私はレベル0になって実感したの。能力が無い私は何もできない。だから……みんなに会わせる顔がない』
弱々しいその声を聞いた佐天は黙り込んだ。
「……そうですか。御坂さんに頼んだ私が馬鹿でした」
電話を切るとバッグからメモリを取り出しウルフドーパントに向かって歩き始めた。
「よくも……初春や……固法先輩や……白井さんを……許さない……」
『トルネード!』
メモリを起動すると右腕に生体コネクタが浮かび上がった。
「ダメだ涙子ちゃん!」
フィリップの声は届かず佐天は青色の怪物へと姿を変えた。
晴れていたはずの空は突然雲に覆われ、突風が吹き始める。
「おいおい、なんだありゃ……」
駆けつけた翔太郎も言葉が出ない。佐天が変身したトルネードドーパントはウルフドーパントに負けない速さで攻撃を仕掛ける。
「なかなかやるじゃねぇか……だが俺には勝てない!」
「うるさい……この力でお前を倒す!」
風をまとった腕でウルフを切り裂く。切れ味の良い刃となった腕で斬られたウルフの体毛がごっそり落ちる。
「やべぇ!」
続いて喰らったキックで後方に吹き飛んだウルフはメモリが弾け飛び人間のすがたへ戻った。
「くそっ!こんなガキに!」
メモリに手を伸ばす髪矢だったが、その手をトルネードが掴んだ。そして手刀を首に近づける。
「復讐してやる……その首をふっとばす」
「やめろ涙子ちゃん!」
翔太郎が走る。だが間に合わない。
『エンジン!マキシマムドライブ!』
謎のエネルギー波がトルネードドーパントから髪矢を逃した。
「誰……?なんのつもり?邪魔しないで!コイツを初春たちと同じ目に……それ以上にしてやるんだから!」
邪魔をした赤い戦士は一言だけ呟いた。
「俺に質問するな……!」
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