とある科学の超電磁砲W 二人で一人の仮面ライダー 作:かなん
死神の魔の手が迫っていることを知らない御坂はショッピングを楽しんでいた。
「これもいいわね……でもゲコ太Tシャツのほうが可愛いわ」
お気に入りのキャラクター、『ゲコ太』の顔が描かれたTシャツを手に取り、ルンルン気分でレジに向かった。お金を携帯のキャッシュレスで払おうとしたとき、店内でキャー!という大きな悲鳴が響く。
ふと入り口の方を見ると、いかにも死神といった感じの見た目をした怪物が他校の生徒を鎌で斬りつけていた。その光景は悲惨なものだが倒れた生徒には斬られた跡も出血も見られなかった。
「どうなってんのよ!」
「次はお前だ。超電磁砲、御坂美琴」
死神の狙いは御坂だったようだ。他の人はついでに斬ったといった感じである。
「いいわ。かかってきなさい!」
死神は鎌を振り下ろすが、御坂はそれを軽々と回避した。店内にあった鉄パイプを磁力で操りものすごいスピードでふっ飛ばした。普通の人間なら骨折レベルの攻撃だったが、簡単に弾かれてしまった。
「くっ……!室内じゃレールガンが使えない!」
「お前の能力、貰うぞ!」
怪物は左手をかざした。その手から細い針が銃弾のように発射される。しかし、目に見えないスピードの針は御坂まであと一センチくらいのところで落ちた。
「馬鹿な!」
怪物だけでなく御坂も驚いている。針を落としたのは蜘蛛のロボットだった。
「はぁ……はぁ……見つけたぜ!死神野郎!」
翔太郎が息を切らしながらも駆けつけた。
「何なのよその蜘蛛!?」
「コイツはスパイダーショック。腕時計型のメカだ。素早い動きの針でさえも撃ち落とせる糸を吐けるのさ」
「邪魔をするな!」
翔太郎はダブルドライバーを腰にあて、ジョーカーメモリを起動した。
『ジョーカー!』
「アンタ、相棒がいなきゃ変身できないでしょ!?」
「いいや、相棒ならもうすぐ来る」
ドライバーの右スロットにサイクロンメモリが転送されてきた。
「変身!」
ジョーカーメモリを左側に装填、展開。仮面ライダーダブルへと姿を変えたのだった。
『御坂美琴。君の質問に答えよう。僕らが離れていても変身が可能だ』
「は、はぁ」
「ごちゃごちゃ言ってないでさっさといくぞ!フィリップ!」
ダブルは敵に攻撃の隙を与えない。赤い『H』のメモリをサイクロンメモリと交換する。
『ヒート!ジョーカー!』
「火葬してやるぜ」
右半身が赤になったダブルの拳は熱く燃えたぎる。
「くそっ!やられてたまるか!」
死神は店を出て空を飛ぼうとした。
「やらせるか!」
死神の足を掴んで引きずり落としたダブルは何度も殴る。もはや死神に戦意はない。逃げることしか頭にないようだ。
「やめろォォ!」
死神の眼が赤く光った。そしてダブルの拳は体をすり抜ける。
『ピンチで能力が上がったようだね』
死神の体は徐々に消えていき、ついには見えなくなってしまった。
「逃げられたか……」
『大丈夫。一度一七七支部に戻ろう』
一七七支部に集まった一同。雨子留はアンチスキルに保護されたようだ。全員がフィリップに注目している。
「検索を始めよう。最初のキーワードは、『死神』」
フィリップの意識は地球の本棚に転送された。そこは真っ白な空間で、膨大な量の情報が本として記されている。キーワードを使って求めている情報を絞り込むのだ。
「次に『超能力』」
二つ目のキーワードで半分以上絞れたが、まだキーワードが足りないようだ。
「何か他にないのか……」
「もう一度だ、フィリップ。キーワードは『死神』『超能力』そして『能力売買』」
翔太郎のキーワードによって一冊の本だけが残った。
「ヤツは奪った能力を何かしらの方法で売る。普通だったらできないしあり得ないけどな」
「検索が完了した。あのドーパントのメモリイニシャルは『G』グリムリーパードーパントだ」
「日本語で死神ね。他に情報はないのかしら」
「あの大きな鎌、もしくは手のひらから射出される針による能力強奪だ。奪われた能力はヤツを撃破すれば元に戻る」
「その力で奪った能力に値段をつけて売る……ってこと?」
「食蜂操祈の言い分が正しければ、ですが」
黒子、佐天、初春は過去に記憶操作されたことがある。結局それは御坂の友人である彼女らを巻き込まないようにするための食蜂なりの配慮だったのだが三人は良く思っていない。御坂との思い出や友人としての認識を消されたのだから。
「あの!」
初春が右手を挙げた。視線はフィリップから初春に移る。
「学園都市のバンクを調べたんですが、他人の能力を奪う能力を持つ人がいたんです」
初春が見せたパソコンの画面には肩くらいの黒髪でメガネをかけた地味めな女の子が映っていた。
「名前は氷崎霊佳。霧ヶ丘中学の二年。レベル4の『
ならなぜ全く同じ能力の怪物が現れたのか。様々な憶測が飛び交う。
「やっぱり幽体離脱ですよ!で、怪物が生まれたとか」
「あり得ない話ではない。かつてバイラスという精神体のみのドーパントも存在した。故意になったわけではないが、同じような状況なら納得できる」
「馬鹿馬鹿しい。そもそも施設を抜け出したかもしれないですの」
「仮にグリムリーパーのメモリ自体に能力を奪う力があったとすれば、ダブルのメモリの力を奪っていたはずだ。だがアイツはサイクロンやヒートの力を奪わなかった」
「……奪えなかったと」
学生の能力のみが対象となるとやはり犯人は氷崎霊佳なのだろう。御坂たちは確信していた。
「あの……この氷崎霊佳って人なんですけど」
初春が口にした一言でその場は凍りつくこととなる。
「二日前に……死亡しています」
あまりの衝撃に長い間沈黙が続いた。
「やっぱり佐天さんの言うとおりかも……」
「お姉様!?まぁ確かにそれとしか言いようがないですが」
『初春さん!白井さん!謎の怪物が無差別に人を襲っているわ!手が必要なの!来て!』
固法先輩の連絡を聞いた全員の目が変わった。
「さっさと正体を暴いてやろうぜ」
「ええ。同感よ」
「お姉様、佐天。二人はワタクシや初春と一緒に避難誘導をお願いしますわ」
「オッケー!行くよ初春!」
「はい!」
「グリムリーパーの正体か。ゾクゾクするね」
現場に到着するや否やグリムリーパードーパントは御坂を襲った。が、ダブルがそれを阻止する。
「待ちな、死神野郎」
「またお前か!仮面ライダー」
ダブルは『L』『M』のメモリでイエローとシルバーのルナメタルとなる。そして鋼鉄棍メタルシャフトが伸びグリムリーパーを拘束した。
「こうなったら奥の手だ!」
グリムリーパーは自らに針を打ち込み、パイロキネシスの能力を発動した。
「ならこっちも熱くいこうぜ!」
『ヒート!メタル!』
グリムリーパーを放り投げ、右半身が赤く燃え盛る。落ちてきたところをメタルシャフトで打つ。グリムリーパーは再び逃走を図ったが、スパイダーショックの糸によって身動きが取れなくなった。そのままメタルシャフトにくっつき、合体状態となる。
『これで決めよう』
『メタル!マキシマムドライブ!』
スパイダーショックから吐き出された糸が街灯に絡み付きダブルはターザンのように勢いをつける。
「『メタルスパイダーウェーブ!』」
渾身の一撃でグリムリーパーのメモリが体外へ飛び出し粉々に飛び散った。
死神の体は人の形へと変化し、少女の姿となった。見覚えのある姿、彼女の正体は五脱雨子留だったのだ。そこに、避難誘導を終えた黒子たちがやってきた。
「そんな……あなたがこの事件の真犯人だったのですね」
雨子留はニヤリと笑った。その笑みはジャッジメントに助けを求めてきたときとは似ても似つかない。
「いいえ。私はあなたたちの知っている五脱雨子留ではないわ。私の本当の名は鎌里晴よ」
本当の姿を見せた彼女は全てを語り始めた。
それは数日前に遡る。いつもどおりの日常を送る私。と言ってもそれは平穏なものではない。同級生に脅され金を奪われ、暴力を振るわれ身も心もボロボロになる。それが私にとっての日常なのだ。
私に少しでも能力があれば。抵抗できる力があればいいのに。
学園都市では能力が全て。例え勇気を出して抵抗しても能力で返り討ちに遭うだけ。こんな私を助けてくれるヒーローなんていない。
衣服を剥がされたまま路地裏でしゃがみ込んでいると、誰かが肩を優しく叩いた。
「辛いですよね。あなたは何も悪くない。この学園都市さえなければあなたは美しく輝くことができる」
顔をあげると目の前にはスーツ姿の爽やかな男が立っていた。『R』と書かれたネクタイがジャケットから覗くその男は『G』と刻まれたUSBメモリのようなモノを差し出した。
「これがあれば君の理想郷が作れる。私と一緒に来ないかい?」
「あなたは一体……?」
「僕はイアン・ウルスランド。そして財団Xの幹部で新組織のリーダーだ」
説明をされても怪しさは拭えない。でも何故か彼を信用できるような気がした。彼の瞳は今の私と同じだからかもしれない。悲しみと憎しみに満ちた、希望を感じることのない目。
この学園都市を壊したい。弱き者が救われないこの世界を変えたい。そんな思いが溢れ出す。
「私……許せない。この街が。能力者たちが!」
「ならこのガイアメモリを使うといい。今こそ報復の時だ」
そうして化け物へ姿を変えた私は言われるがままとある施設に向かった。指定された部屋を襲撃すると、そこには黒髪メガネの女の子が部屋の隅でうずくまっていた。
「あなたは……?」
「私は死神。あなたの命を奪いに来た」
目的は彼女の持つ能力。他人の能力を奪うその力を得るためだ。その方法はただ一つ。鎌を大きく振りかぶった。
「殺すの?私を」
「ええ。悪く思わないで」
「いいの。ありがとう」
思ってもいなかった返答に鎌を持つ手が震えた。
今、私は何の罪もない人を殺そうとしている。自分の為に。
本当にいいのか?私のしていることは間違ったことではないか?ただ憎悪や怒りで他人を傷つけているだけかも。色々な感情がごちゃごちゃになる。
「……あなたは死ぬのが怖くないの?」
「いいえ。怖い。でも、今生きることがとても苦しい。何もしていないのに、みんなから能力強盗だって言われて。能力なんてなければいいのに」
私と同じだ。彼女は能力者でありながら能力者を憎んでいる。でも、私とは違う。
「確かに苦しいかもしれない。だけどあなたは能力がある。私は無能力者。レベル4のあなたにはわからないでしょう。その辛さが」
「あなたにもわからないでしょ。能力を持つ苦しみが」
反抗的とも言えるその態度に私は無意識に彼女の首を掴んでいた。
「アンタは!心が傷ついただけ!こうして施設で生活できてる!でも私は助けを求めても誰も助けてくれなかった。ジャッジメントもアンチスキルも。おかげで心も体も傷つき、怪物になった!……もう後には引けないの!」
彼女の意識が無くなったことを悟ると、私の中の何かが弾けた。途端に笑いが止まらなくなったのだ。
「アハハハ!もうどーでもいいや!私は……この学園都市を破壊する!」
「上出来です」
どこからか現れたイアンは死体になった彼女に真っ白なメモリを挿した。そして生まれた謎のメモリを私にくれた。
「少々実験に付き合ってください。そのメモリは彼女の能力を真似たもの。それを使えば能力強奪のスキルが身につくはず」
そうして私は死神として数々の能力者たちを襲っては、その体を擬態として使ったりして事件そのものの存在を抹消した。
五脱雨子留を狙ったのは能力強化のため。一度取り逃がし再び見つけたときはアンチスキルに守られていたが、私からすれば護衛はいないも同然。
「つまり本物の五脱雨子留はもう……」
「殺したわ。いい表情だったわよ。ついでに彼女を護衛してたアンチスキルもね。まあ能力持ってないから無意味だったけど」
もはや彼女には人の心が残っていないことをその場にいた全員が理解した。
御坂が殴りかかろうとしたが、翔太郎と黒子が制止する。
「いけませんわお姉さま」
「気持ちはわかるがコイツも被害者だ。心の闇につけ込まれて利用されて……」
「……そうね。悪いのはこの街と、こんな子にガイアメモリを渡したヤツよ」
「あぁ。そのヤツを追って俺たちはここに来たんだ。その名は……財団X」
こうしてこの事件は幕を閉じた。
[グリムリーパードーパント]
死神の記憶を宿したメモリの怪人。手のひらから針を射出できる。その針や武器である鎌で相手の体内にウイルスを注入。注入されれば脳が異常をきたして高熱や頭痛を引き起こす。透明になることができ、相手の攻撃をすり抜けられる。氷崎霊佳から生成された謎のメモリを使用して能力強奪の力を得た。
[鎌里晴]
中学三年生。顔が隠れるくらい髪が長い。学校でイジメに遭い、友人と呼べる人物は誰もいない。グリムリーパードーパントに変身する。メモリブレイク後、アンチスキルによって逮捕され更生施設へ送られた。
『風都探偵』を見ていますか?
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