転生?憑依?まぁ、知らんけど起きたらフェンリルだったよ   作:マスターBT

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寝ようとしたら降ってきたネタ。
思ったより長くなったので前後編に分けました。


前編

 北欧神話のフェンリルって知っているだろうか?あの神話において、大体やらかすロキが女巨人アングルボザとの間にもうけたとされる三兄妹の長子であり、巨大な狼の怪物としてかなり有名なので知っている人も多いだろう。最高神オーディンを捕食したのも彼の名前が広く知れ渡っている要因かもしれない。

 

 なんでこんな話をするかって?朝起きたら、俺がフェンリルになってたからだよ!!びっくりしたわ、視線がなんか妙に高いし辺りは冬景色だし、なんでかなぁ?って思ったら四足歩行してるしすっごい毛むくじゃらだし、なんか知らんけど氷を生み出せるし。あ、狼だって分かったのも鏡とかないかなぁって考えてたら氷を生成して、鏡代わりに使ったからです。その日は寝て起きたら、戻ってるかなーって楽観視してもう一度眠ったんだけど、何も変わらなかった。まぁ、でもラグナロクが起きるまでは時間あるしとか悠長な事を考えていたら。

 

 スルトに喰われました!!!!!おま、よりにもよってFate/GrandOrder、通称FGOの北欧異聞帯かよ此処!!!!!

 

 こうなる前にやってたゲームの事だからよく知ってるというか、冷静になったらこうなる前の自分の名前とか全然覚えてないのに、北欧に関する事だけ記憶に残ってるのに気が付いた。あれか?フェンリルと混ざったからか?なら、全部記憶なくて良くね??なんで中途半端に記憶が残ってるわけ。あー……スルトの奴が良い声で近づいてくる時点で逃げれば良かったよ全く。

 

「んで、なんで俺の意識は残ってるんだ?スルト」

 

「知らん。確かにフェンリルは喰らい、その力を手にした。その事実だけで十分だ」

 

「いやいや……自分の中に赤の他人が間借りしてるみたいなもんだぞ?気色悪いとかないのか?」

 

「ない。そも、貴様の排除など試みた。だが、消えぬ。既に貴様の存在は俺と共にある」

 

 原初のルーンですら消せないって訳か。……オーディンが何か仕組んだのか?わざわざフェンリルに仕込むなんて回り道をあの知恵者が?うーん……まぁ、分かんない事を考えてても仕方ないか。それより考えないといけない事があるしな。

 

「んじゃまぁ、世界滅ぼしますかスルトさんや」

 

「実行するのは俺だがな」

 

 この世界がFGOの北欧異聞帯だと言うのなら、まずは神々を殺し尽くすしかない。可能なら阻止したいけど、身体の支配権とか何もないからね。スルトが本気出して俺を消そうとしない様に、作戦は考えられるって示しておかないと。

 

 まぁ、どれだけ知恵を絞ってもこの世界がどん詰まり。人類史から捨てられて、終わるという結末は変えられない。何もかもが炎に包まれていくのを俺はスルトの中で眺めた。これが、世界の終焉って奴なのだろう。起こした側が何言ってんだって話だが。

 

「クク……これが俺の行いの結果だと。運命に叛逆しておきながら何も成すことが出来ずに剪定されるのをただ待つだけ……」

 

 スルトは、心の底から絶望していた。足掻いて、足掻いて、足掻いた先の結末が自らの存在意義すら果たす事が出来ず、ただ意味もなく突如として終わりを受け入れるしかない結末に。それがスルトを持ってしても抗う事が出来ない人類史の無情な選択だった。

 

「私は、私。炎に捲られる世界で死ぬ筈だった女」

 

 そんな何もかも失ったスルトは、出会ったのだ。フェンリルに宿っていたイレギュラーである俺とは違い、本当に遥かな可能性の先から視線を向け自らを見つけてくれた運命の女性に。

 

 その時にスルトがどれだけ救われたのか俺には分からない。身体は共有しているが、感情までは共有していないのだから。だが、前世と知識とそして此処まで共に歩んだ者としてこの瞬間、スルトがオフェリアというただの人間に救われ、大きな恩を感じた事だけは分かる。

 

「……俺の内に宿る者よ」

 

「おう」

 

 視線が途切れ、暫くした後にスルトは俺を呼んだ。彼らしからぬ歯切れの悪い声で。

 

「──俺は何をしてやれる」

 

 炎でしか破壊でしかない彼がそう言った。ただ世界を超えて、視線が合っただけの相手だ。どんな性格で、どんな考えをしているのか分からない相手。けれど、間違いなくただ終わりを迎え、絶望していたスルトの救いになったのだ。終末装置である彼が、終焉以外の選択肢を欲しがったのだ。

 

「いつもの様に考えてやる」

 

 なら、共に歩んだ者としてその悩みに向き合ってやるのが俺の役目なんじゃないんだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、あれこれと考えている内に時間になった様でオフェリアはシグルドの召喚を試みて、そこにスルトが割り込んだ。大元の巨人王スルトの霊基に比べれば、大英雄シグルドと言えどサーヴァントというだけで格は落ちる。フェンリルである俺を含めれば、そんな小さい器にスルト、俺、シグルドの三名がギチギチに収まり、やがてスルトが肉体の支配権を獲得した。

 

「少しばかり借りますね。シグルドさん」

 

「……何故、当方を完全に消さない?お前たちであれば、容易な筈だ」

 

 スルトとオフェリアが話をしているのを聞きながら、俺はシグルドの魂と対話を試みる。彼の存在は俺が思い付いた作戦を実行する上で、とても大切なのだ。故に、協力体制とまではいかなくても邪魔される事だけは防ぎたいのだ。

 

「そうですね、これは此方側の事情なのですが……」

 

『オフェリア・ファムルソローネというのか、おまえ。嗚呼、佳き名だ。西暦以降の天使に似る音を戴くか。ならば、お前は俺を神として仕えるがいい』

 

「……失礼。少々、用事が出来た」

 

「あ、あぁ……」

 

 アホな物言いをした馬鹿のせいで説得を始めようとした瞬間から出鼻を挫かれた。俺は、小さな使い魔程度の大きさになる分の魔力をスルトから奪って、シグルドの姿をしているスルトの真上に現れ、その頭を勢いよく叩く。パァン!と小気味良い音が氷の城に響き渡った。

 

「おいこら、スルト!!そういう物言い辞めろって事前に言ったよな??オフェリアと契約出来て、テンション上がるのは分かるけど。馬鹿なの?」

 

「え?小さい、狼?」

 

「いきなり何をする。フェンリル」

 

「え??これがフェンリル??」

 

 狼をデフォルメしずんぐりむっくりと丸いフォルムで、短足。威厳もクソもない姿が今の俺だ。それが、フェンリルなんて呼ばれてれば困惑するわな。って、今はそんな事を考えてる暇はなかった。恋愛クソ雑魚巨人王に説教しないと。

 

「何をするじゃねぇわ。あのな、スルト。お前にとってはそういう態度は普通かもしれないが、開幕見下してくる相手に人間は良い感情を抱かないの。名前を褒めるところまでは良かったのになんで、仕えろなんて続けちゃうかな。良いか?お前はオフェリアのサーヴァント、つまり騎士だ」

 

「騎士……主君を守る盾にして矛だったな」

 

「そうだ。忘れるな、俺達の作戦に死は必要だが早過ぎても意味がないんだ。上手くやれよ。……すまない、同居人が変な事を言った。水に流してくれると嬉しい。オフェリア」

 

 スルトに背を向けてオフェリアへと頭を下げる。ぶにゅっとぬいぐるみみたいになってる気がするけど、知らん知らん。彼女は困惑した声で俺に頭を上げるように言った。

 

「……彼はスルトで貴方はフェンリルで良いのよね?」

 

「あぁ。その認識で間違っていない。と言っても、俺はスルトに力の大半を奪われ、肉体も一々スルトから魔力を拝借しないと現れることも出来ないほぼ幻霊みたいなもんだけど」

 

 正確に言えばフェンリルではないんだけど、言っても困惑するだけだし。嘘も方便としておこう。

 

「なんだが、頭が痛くなってきましたけどまぁ、良いわ。それで、貴方達の目的はなに?」

 

 まぁ、そう来るよな。チラリとスルトを見ると奴が一歩前に出て、オフェリアとの距離を詰めるが、彼女は一歩下がった。なんとなく、スルトの寂しそうな雰囲気を醸し出した。お前……本当にそういうところだぞ。

 

「お前の力になる為だ。お前が望むのなら、俺は約定の通り星の終わりをお前に見せよう。お前がこの異聞帯を、強く大きくすると言うのなら、その為に力を貸そう。クク、オフェリア。お前は、炎たるこの俺に何を願う?」

 

 本来のスルトなら、破壊一辺倒だったのだが、それではオフェリアはスルトに心を許さないと俺は知っていた。だから、願いを押し付けるのではなく、自分が出来る事で報いようと決めつけるのでもなく、願いを聞けとスルトを説得した。そんな事で良いのか?と返すスルトに、人間ってのは押し付けの善意を嫌うんだよって説得するの大変でした。

 

「……決まっています。私の願いは、キリシュタリア様の願いと共にあります。スルト、貴方が私の願いを叶えると言うのなら、共に空想樹を育てなさい。そして、この北欧異聞帯をギリシア異聞帯と競え合えるほどに大きくするのよ」

 

 オフェリア……それは貴女の願いではない。キリシュタリアという大きすぎる輝きに魅せられているに過ぎない。スルトが俺を見る。俺は黙って首を振り、彼の内側へと戻った。

 

『クク、まぁ今はそれで下がろう。オフェリア、終わりの向こう側から俺を見た人の女よ。俺はお前と共にある』

 

 まぁ、ちょっと重たいけど許してやるか。それよりシグルドと話をしなくてはな。

 

「すみませんでした、シグルド」

 

「いや構わん。お前と巨人王スルトがどの様な者達か決める判断材料が手に入った」

 

 抜け目ないな……流石は武勇だけではなく知恵もある英雄と言ったところか。

 

「それで少しばかり当方に疑問点がある。死ぬのが作戦と一つと言っていたが、どういう事だ?」

 

「少し長くなりますが、お話しましょう」

 

 前置きをしてから俺はシグルドに話した。この北欧異聞帯の成り立ちを、スルトが運命に逆らった事で起きた大いなる間違いを。その果てにスルトの本体はオーディンによって封じられ、この世界を照らす偽りの太陽になっている事。魂はシグルドの召喚に割り込む事で、外に出れたので封印を解くにはこの身体で一度死ぬ事が条件である事を告げた。

 

 シグルドは俺の説明を聞いて暫く考える。俺では到底理解出来ないような考えが頭の中を巡っているのだろう。暫くして理知的な目を俺に向け、口を開いた。

 

「幾ら考えてもそれをわざわざ当方に話す理由が分からない。隠しておいた方が有意意義ではなかったのか?」

 

「そうですね。では、お話しします。俺たちの目的を」

 

 俺はシグルドに自らが考えた作戦を話した。はっきり言って、汎人類史の英雄である彼がこの作戦に応じる理由は何一つとしてない。そうだと言うのに彼は、俺が話を進める毎に笑みを浮かべていったのだ。

 

「──という訳で、せめて大人しくしていて欲しいのです。勝手に身体を乗っ取り、不躾がましいとは思うのですが」

 

「一つだけ、問わせて貰う。当方に聞かせた話に嘘偽りはないな?」

 

「ない。それは断言出来ます」

 

 俺がそういうとシグルドは、ふっと笑みを浮かべた。

 

「良いだろう。当方に利がない訳でもない。時が来るまで此方は大人しくしているとも。それに、乗っ取られたのは当方の力不足。仮に提案を蹴ろうとも、肉体の支配権を取り戻せる訳でもない。どちらにしろ、待つ事以外には出来ることがないのだ」

 

 そう言ってくれたシグルドにお礼を言って俺は早速動き出した。時間は多くないのだ。先ずは、サーヴァントという霊基の分析から始めよう。原初のルーン魔術……これ使えると本当に便利だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オフェリア」

 

「なに」

 

「女王に俺の真実を伝えなくて良かったのか?」

 

 氷の城にてスルトはオフェリアに問う。良好な関係を築いている北欧異聞帯の王、スカサハ=スカディにオフェリアはシグルドの真実を伝えなかった。幸いな事にスルトが大人しく騎士を演じていた為に、気付かれる事はなかったがいずれはバレるかもしれない危険な橋だ。

 

「あのねシグルド、此処の神々が誰に滅ぼされたか忘れたの?」

 

「クク、そうだったな。余計な火種になると踏んだ訳か。嬉しいぞオフェリア。お前が俺を気遣ってくれるとは」

 

「違います。全ては北欧異聞帯の為です」

 

 従者として3歩後ろを歩くスルトにはその表情は見えない。だが、確実に照れ隠しなどではない事ぐらいは理解した。しかし、その姿すらスルトには美しく見える様でククっと笑った。

 

「オフェリア」

 

「今度はなに」

 

「お前の好きな物はなんだ?」

 

 ピタッとオフェリアの足が止まり、スルトもご丁寧に3歩後ろで立ち止まった。振り返りスルトを見るオフェリアの顔は驚愕に染まっており、炎でしかないスルトの発言を理解していないようだった。ポカーンとした間抜けなオフェリアの顔を見ながらスルトは続けた。

 

「フェンリルが言っていたのだ。相手を理解したければ、好物を知ると良いと。だから今一度聞こう、オフェリア。お前の好きな物はなんだ?」

 

 巨人王であるスルトに人の心、人の機微はよく分からない。だが、理解しようとするのを放棄してはならないとフェンリルに言われたのだ。何故そうするべきかはよく分かっていないが、奴が言うのならそうなのだろうと。

 

「……そうね。ケーゼトルテが好きよ」

 

「ケーゼトルテ?」

 

 当然、スルトに人間のお菓子への知識などない。首を傾げ、その名前を復唱した。

 

「まぁ、貴方には分からないでしょうね」

 

 だから言ったのだしとオフェリアは心の中で続け、スルトを見る。やはり何か分からない様で考えているが、やがて考えるのを辞めてオフェリアを見た。その視線にビクッとするオフェリアだったが、スルトに怒りなどの感情はなく彼女を見ながら口を開いた。

 

「覚えておこう。それがお前の好物なら記憶するに値する」

 

 嫌味を向けられてもなお、スルトは純粋な好意で覚えておくと返した。その後もスルトは口を開けば、此処はお見合い会場か?と突っ込みたくなる様な質問を次々とオフェリアに投げかけた。趣味はなんなのか?運動はするのか?肉は好きか?野菜は好きか?動物は好きか?巨人は好きか?などなど。一度でも答えたのが馬鹿だったと思いながら、オフェリアも律儀に全てに答えた。

 

「クク、オフェリア。お前の事を知る事が出来たぞ」

 

「満足そうで何よりね……お願いだから質問漬けはこれっきりにしてちょうだい。疲れるわ」

 

「そうか」

 

「……定期連絡の時間よ。貴方は霊体化してて」

 

「了解した」

 

 連絡会の準備をしながらオフェリアは、静かにため息を溢す。なんともまぁ、面倒な存在を呼んでしまったと。彼女は気が付かなかったが、そこに初めてスルトを呼んでしまった時の恐怖心はなかった。間違いなく、フェンリルの存在によってスルトの態度が軟化したお陰だろう。

 

 そして、月日は流れロシア異聞帯を滅ぼしたカルデア一行が、北欧異聞帯へと訪れる。




後編は出来上がり次第投稿するのでいつかは未定。
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